異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア

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第2.5章 

第6話 問答

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 早朝、突然昼に闘技場に集まるように連絡が来た。
 連絡が来たのは、生徒全員ではない事から不審に思う者もいたが、行かない、という選択肢はない。
 一応、理由を確認してみたが、連絡役の人間は詳細を知らされていなかった。
 
 まるで、ローマのコロッセオを模したような造りの闘技場まで歩いてやって来る。
 入り口の前には、澤輝が立っており、俺の接近に近付くと振り返った。
 
「早いね」

 自分より早く来ている澤輝から言われると、皮肉の様に聞こえる。それでも、指定された時間より早く到着している。

「澤輝も、早いな」
「ちょっと気になってね」

 開いたままの扉の前に立つ澤輝の目を覗き込む。そこには、隠し切れない『不安』が滲み出していた。

「……何だか、嫌な予感がするんだ」

 召喚された異世界人の中で、最も『勇者に近い』存在である澤輝が、普段はあまり見せない不安を言葉に出す。
 特別、俺と澤輝が仲が良い訳ではない。
 地球にいた頃は、殆ど会話をした事はなく、異世界に召喚された後もそれは変わらなかった

「何故そう思う?」
「……僕達は、彼等の期待に応えられてると思うかい?」

 澤輝の言いたい事が分からない。
 俺達――異世界人が、この世界に召喚されてからの成長速度は、明らかに現地の人達よりも早い。そう周囲の人間からいわれている。
 その成長速度に、聖王や貴族等が不満を抱いていたとしても、限られた異世界人を呼び出す意味が分からない。それも、闘技場にだ。

「分からない」
「僕もだ。だけど、彼等が僕達に期待している事って何なんだ?」
「?」

 それは、召喚された当日にされた話だ。
 『人間に害を為す他種族の王を倒す』。それを期待されている。

「もし、『人間に害を為す他種族の王を倒す』事を目的にしているなら、今の状況は変だと思うんだ」
「変?」
「少し考えりゃ分かんだろ?」

 近付いて来ている事には気付いていたが、話に入って来るとは思わなかった。そう考えつつ、声の方向に立つ海堂を見る。

「緩過ぎる」
「……」

 遺憾だが、海堂の意見は、俺と全く同じだった。
 黙って話の続きを促す俺と澤輝に、舌打ちをしながら海堂は話を続ける。

「訓練自体も素人の俺達が着いて行けるレベルな上に、手を抜いてもお咎めなし、だ。完全に舐めてるだろ」
「海堂の言葉に全て賛同する訳ではないけど……今のやり方だと時間がかかり過ぎる」
「……そうだな」

 焦りや不安で、異世界人全体の現状や聖王国に対して、充分に目を向けられていなかった。その間に、澤輝だけでなく、海堂までも、聖王国の矛盾に気付いている。

「……実は」

 俺は、凍夜の事を話すべきだと思った。
 今までは、余計な詮索や聖王国自体に不信感があり話せかった。
 だが、俺と同じ様に聖王国に不信感を持ち、現状を憂いている2人になら、話して良い気がした。

 おそらく、凍夜自身も隠し通せるとは思っていない。
 隠し通すつもりなら、俺は既にこの世にはいない筈だ。

「凍夜の事で、話がある」
「「?」」

 俺は、異世界に来てからの凍夜に関する事を全て話した。
 2人は、驚いていたが、特に海堂の反応は予想通りのものだった。

「あの野郎、余裕ぶってると思ったら……」

 海堂は、虐めていた対象だと思った凍夜に、良い様にあしらわれていた事を知って、今にも怒り狂いそうだ。

 だが、不思議な事もある。

「俺が嘘を吐いてるとは、思わないのか?」
「あ?嘘なのか?」
「ぇ、いや、本当だ」

 思わぬ海堂の言葉に、戸惑いながらも言葉を返す。

「ちっ!テメェに言われる前から、コッチはあの野郎が可笑しい事に気付いてんだよ!」
「一ノ瀬が、力を隠してる事に気付いてたのか?」
「全部に気付いてた訳じゃねぇ。だが、アイツが実力を隠してる事と狂ってる事には、嫌でも気付いてた」

 海堂の言葉に、俺は射殺す様な視線を向ける。
 海堂は、その視線を正面から睨み返す。

「目を見りゃ分かんだよ。殴られてる間も、異世界に召喚された直後も、あの野郎には『恐怖』がなかった」

 確信を得た海堂の言葉には、有無を言わせない説得力があった。

「そんな事、あり得るか?」
「「……」」

 俺と澤輝は、黙り込み、海堂の言葉を肯定する。

「アイツは、何かを知ってやがったんだ!!」

 海堂の言葉に、怒りの感情が混ざる。

「……知っていたか、どうかは分からない。だけど、今回の異世界召喚は、もしかしたら、一ノ瀬を召喚する事を目的に行われたんじゃないか?」
「……」
「僕は、なんだか、そんな気がして来たよ」

 澤輝の言葉にも、反論が出来ない。
『本物の聖剣』を持つという事は、凍夜は勇者だ。
 異世界召喚魔法は、『勇者を召喚する魔法』。それはつまり、俺達は凍夜に巻き込まれて召喚された事になる。
 おそらく、この事を知れば凍夜を憎む異世界人が必ず現れるだろう。

「時間通りだね」
 
 突然背後から声をかけられ、俺達は振り返る。

「「「っ?!」」」

 全く気配を感じなかった。
 黒髪黒目に、軽装を纏った少女は、底知れない笑みを浮かべている。その周囲に、濃密な殺気を纏いながら。
 俺の本能が、『危険』を知らせていた。
『決して戦うな』『直ぐに逃げろ』『逆らうな』という言葉が次々と溢れ出す。

「……誰だ」

 海堂と澤輝も、顔色を悪くしながら、武器に手を添えていた。
 
「……」

 海堂の言葉に、少女は答えない。
 俺達の脇を通り抜けて、闘技場の入り口に向かう。

「コイツッ――」
「――駄目だ、海堂」

 興奮しそうになる海堂を澤輝が止める。

「この殺気……闘技場の時と同じ?」

 俺の言葉に、少女の足が止まる。そして、初めて振り返った少女と目が合った。

「正解」

 今浮かべている笑みの意味は、俺にも分かる。
 格上が、格下の相手に見せる物だ。

「ご褒美に、私が答えられる範囲で、貴方の質問に答えて上げる」

 再び歩き出した少女を追う様に、俺達も歩き出す。
 
「君は、何者だ?」

 少女を警戒しつつ、質問を行う。
 
「私は、暁明日羽。君達と同じ異世界人、ちなみに出身は日本」

 ある程度予想していた回答だったが、自分達以外の召喚された異世界人と出会った事に心が騒つく。
 
「いつ頃召喚されたんだ?」
「この世界の時間だと、10年以上前かな」
「何……」

 明日羽の『10年以上前』という回答に、驚愕する。
 その理由は、2つだ。
 1つ、明日羽の見た目があまりにも若いこと。
 2つ、異世界に召喚されてから10年以上、故郷の世界に帰れていないこと。

「言っておくけど、私が質問に答えられる時間は無限にある訳じゃないよ。だけど、嘘はつかない。それだけは、誓うよ」

 初対面の明日羽の言葉を完全に信頼する事は出来ないが、それは後で考えれば良い事だ。
 俺は、質問を続ける。

「見た目が、俺達と変わらないが」
「女子に、見た目の事を聞くのはタブーだよ」
「……すまん」
「良いよ、冗談。まぁ、スキルの影響って思っててくれれば良いよ。召喚された時は、15歳だった」

 俺達よりも若い時に召喚された事実に、同情を感じてしまう。
 
「聖王国に召喚されたのか?」
「違うよ。ヴァルフリート王国っていう国。知ってる?」
「ああ」

 訓練の合間に行われる異世界の説明――授業で最初の方に説明されていた。

「何だ、それ?」
「聖王国に匹敵する、唯一の人間主体の大国だよ」

 澤輝の説明に、興味なさげに海堂は頷く。

「何故、召喚された?」
「『人間に害を為す他種族の王を倒す』。その為だよ」
「当時の事をもう少し詳しく教えてくれ」

 授業の中で、10年前に何十年も続いた種族間の戦争が終わった、と語られている。
 ただ、詳しい話は語られていない。それに、書庫に籠って情報を集める時間もなかった。
 
「……良いの?時間かかるけど」
「……簡潔に頼む」

 明日羽は、僅かな沈黙の後に話し出す。

「私達が召喚されたのは、15年くらい前。その当時は、次々と英雄と呼ばれていた者達が死に、新たな英雄が生まれる時代だった」
「群雄割拠……まるで、戦国時代だね」

 澤輝の独り言に、「そうね」と明日羽は同意する。

「ただ、人間っていう種族は、群雄割拠するこの世界の中で、生き残れる程の猛者は少なかった」

 言葉を重ねる明日羽の声から、徐々に熱が失せていく。

「街が燃えて、国が次々と滅んだ。大勢の人々は絶望し、身勝手にも奇跡に縋った。そして、行われたのが、『異世界召喚魔法』」

 淡々と話し続ける明日羽の表情は、前を歩く所為で分からない。
 だが、感情を感じさせない言葉に、何故か身体が震えていた。

「数多の財、膨大な魔力、命すらも捧げて、ヴァルフリート王国の王は、私達を召喚した。召喚された私達は、死と隣り合わせの鍛錬を乗り超え、召喚された1ヶ月後には初陣を迎えた」
「い、1ヶ月!?」

 澤輝が驚いて声を上げるが、海堂や俺も同じ気持ちだった。
 召喚されて1ヶ月――30日程度の自分達の事を思い出す。
 日本で育った常識が抜け切らず、戦場に立てる状態ではなかった。それに加えて、異世界に召喚された事による興奮がおさまり、現状に悲観し、精神的に追い詰められる人も少なくはなかった。
 中には、自殺を図ろうとした者もいた、と聞く。
 平然を装っているが、精神的苦痛や喪失感などは、自分が思っていた以上に酷く、俺自身も夜が不安で眠れず、人目を避けて泣いていた事もある。

「その初陣で、私は初めて人を殺した。それからは、戦いの毎日……。そして、気付いた時には、戦争は終わっていた」
 
 明日羽の話は終わった。
 だが、先程よりも明日羽の背中が遠く感じる。
 物理的に距離が離れた訳でなく、明日羽の積み重ねて来た経験が自分とは桁外れの物だった所為だ。

「その……お、貴方達は壮絶な経験をしたんだな」
「まぁね。私達は、2人しか召喚されなかったし。状況も最悪だったから、期待は凄まじかったかな」

 相変わらず、明日羽は淡々と話し続ける。

「2人……。その、2人は勇者だったのか?」
「……どういう意図があっての質問?」

 初めて明日羽が質問を返して来た。

「異世界召喚魔法は、勇者を召喚する魔法だ。だから、2人とも『勇者』だったのかと思っただけだ」
「なるほどね。ごめん、変に勘繰っちゃった」

 僅かに見せた明日羽の感情は、既に言葉の裏に隠れてしまった。

「結果的に言えば、私達は2人とも『勇者』の称号を得たよ」
「……」

 明日羽の言葉に、異世界召喚魔法=勇者を召喚する魔法、という説明に真実味がより増した。

「だけど、何か勘違いしてない?」
「?」
「異世界召喚魔法は、別に『勇者を召喚する魔法』じゃないから」
「っ!!」
「それって、どういう事ですか!?」
「……」

 明日羽は、澤輝の質問に沈黙する。
 明日羽は、ずっと俺の質問にだけ答えていた。
 間違いなく、澤輝や海堂の質問に答える気がない。

「……どういう事だ?」
「知りたい?知ったら、後悔するかもしれないよ」
「教えてくれ」

 俺の即答に、気の所為かもしれないが、明日羽が笑った気がした。

「異世界召喚魔法は、『召喚者の望みを叶える為の人間を召喚する魔法』だよ」
「……?」
「必ずしも、特定の1人を狙って召喚する魔法じゃないってこと」
「それじゃ……」

 凍夜に巻き込まれて召喚された訳ではない可能性に、俺は何故だか嬉しかった。
 もし、凍夜の所為で召喚されたと分かり、異世界人達に知れ渡って仕舞えば、凍夜の帰って来れる居場所がなくなってしまうかもしれない。

 だが、新たな疑問が生まれる。

「俺達は、何の為に呼ばれたんだ?」
「……」

 俺達は、昨日戦闘を繰り広げた闘技場の中央に到着していた。

「……」
「答えろ」

 足を止めた明日羽に、俺は問い詰める。
 間違いなく、明日羽は俺達が召喚された本当の理由を知っている。
 何故だか分からない。それでも、確信があった。

「……」

武具召喚アーマーコール』で剣を召喚し、鞘から引き抜く。そして、俺の剣の間合いまで近付いて足を止めた。

「ふ、深海!?」

 澤輝は俺が脅すつもりだと思っているだろうが、そんなつもりはない。
 否。脅す必要はない。
 明日羽は、必ず俺の質問に答える。そんな確信があった。それと同時に、明日羽に対する『恐怖心』が最大まで高まっている。
 俺の本能が、『死』を予感していた。

「君達が召喚されたのは、新たな傀儡を作る為と『苗床』の候補を探す為だよ」
「傀儡?苗床?」
「あいつ、何言ってやがる……」
「どういう意味だ?」

 不穏な雰囲気を感じ取った澤輝と海堂も武器を抜き、構えをとる。

「茶番は終わり」
 
 振り向いた明日羽は、武器を構える俺達を見ても動揺した姿を一切見せない。

「貴方達が、傀儡か苗床になれる人材か、確かめさせて貰うね」

 明日羽は、剣を抜いている俺に一歩踏み出した。

「おい!コイツ、マジでヤベェぞ!!」
「僕もそんな気がしてたよっ」

 その時、頭上から無数の槍の様な杭が、地面に突き刺さる。
 まるで、俺達の退路を塞ぐ様に突き刺さった方向に、法衣に似た服を纏った白髪の青年が立っていた。
 恐ろしく整った人形の様な顔は、本物の人形の様な無機質な表情を浮かべている。

「無駄な抵抗は辞めて下さい」

 表情と同じで、声まで無機質だ。

「良いんだよ、ウィルスレッド」
「しかし……。分かりました」

 反論しようとしたウィルスレッドは、途中で口を閉じる。

「無駄な足掻きは、人に与えられた特権。だから、精々足掻いて見せて」

 
 
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