異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア

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第4章

第1話 緊急招集

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 カシム達との共同で行なっていた依頼を終えて、暫くは劇的な変化や事件は起こる事なく経過していた。
 強いて言うなら、鶏冠蛇竜の異端王バジリスク・エレシを討伐した功績で、予定より早く冒険者組合から金級冒険者として認められた位だ。
 

 そんなある日。
 俺達4人は、冒険者組合に、緊急招集を受けて駆け付けた。
 多くの冒険者が集まる時間帯の光景としては、普段通り、と言えなくもない。
 だが、一部の冒険者達の雰囲気が普段よりも張り詰めている。その所為か、緊急招集――事情を知らない低級冒険者達は居心地が悪そうだ。

 最近減って来ていた溜め息を吐きながら、冒険者組合の中を眺めていると、見知った男が手を振っている事に気付く。

「漸く来たか!」

 大勢の冒険者がいても、鬼族の男――カシムの声は、はっきりと聞こえる。

「カシム」

 体格の良い冒険者達を掻き分けて、カシムが俺達の元に歩いて来る。その後ろをハイリとミルが付いて歩いていた。

「おはよ」
「おはようございますぅ」
「その顔からすると、今回呼ばれた理由は知らねぇみてぇだな」

 俺達が、招集された理由を知らない事を察して、カシムは、勿体ぶった態度をとる。

「勿体ぶってないで、教えてくれよ」

 カシムは頷くと、俺達を他の冒険者から離れた壁際まで誘導する。そして、俺達にだけ聞こえる程度の声で、事情を説明してくれた。

「忌蟲の森に、『調査村』がある事は知ってるだろ?」

 以前、『忌蟲の森の調査』という依頼を受けた際に、受付の女性から森に関する説明を聞いた。その際に、忌蟲の森を監視している村がある事を聞いた気がする。
 だが、これまでは、関わる事も無ければ、話題に上がる事もなかった。

「その調査村が、魔物の群れに襲われたんだ」

 忌蟲の森に生息する魔物は、繁殖力が強く、辺境伯が警戒して監視する程だ。そして、冒険者組合に依頼を出している事から、魔物だからと油断せず、脅威として判断している事が分かる。
 それだけの警戒を行なっていれば、調査村に待機している警備の人員も、魔物との戦闘に慣れた者達だった筈だ。

「警備は?」

 ヴィルヘルムの問いに、カシムは辛そうな表情を浮かべる。
 
「村には、村の住人以外にも領土軍やベテランの金級と白金プラチナ級の冒険者パーティーがいた筈何だが……」

 カシムの声は、言葉尻に行くに従って小さくなっていく。
 
「所で、どうしてカシムはこの事を知ってるんだ?」
「あぁ。白金プラチナ級のリーダーが、『調査村が、蟲の魔物に襲われた。助けてくれ!』って駆け込んで来た所を見た奴から聞いたんだ」
「それはいつ頃なんだ?」
「今日の早朝だな」

 忌蟲の森から辺境都市アテラまで、冒険者の足でも3時間以上はかかる。その事から考えると、調査村が魔物に襲われたのは、深夜から早朝にかけて、という事になる。
 この時間帯は、蟲系の魔物の多くが活発になり易い。それとは逆に、人は視界を暗闇に覆われ、不意を突かれ易くなる。

「組合は、ゴールド級以上の冒険者に、生存者の救出と魔物の討伐を目的にした緊急の依頼を出すつもりだ」
「それで俺達を呼んだのか?」

 わざわざ組合の職員が、家を訪ねて来たのは少し不自然に感じた。
 
「雪達だけじゃねぇよ」

 そう言って、カシムは複数の冒険者達を示す。
 
「実力がある連中は、組合の職員が直接招集をかけたみてぇだぞ」
「俺達は、昇級したばかりじゃないか?」
「それだけ組合が、雪達を評価してるって事だろ?」
「……そうなのか?」

 客観的に見て、辺境都市アテラの冒険者組合に所属する冒険者のレベルは高い。それ故に、冒険者組合と距離を置いている俺達を招集しなくても、候補は他にもいた筈だ。
 何より、これだけの数の冒険者を集めた合同任務を遂行するなら、組合が信頼する冒険者を1人でも多く招集した方が良い。その方が依頼を遂行する時のトラブルを最小限に出来る筈だ。
 だが、今回の依頼が、『俺達』という不確定要素を組み込まなければいけない程、緊急を要しているなら、話は変わって来る。
 
「取り敢えず、そういう事にしとけよ」

 豪快に笑いながら、カシムは俺の肩に手を置く。

「……」
 
 カシムの説明を聞き終えた頃に、冒険者組合の2階に繋がる階段から隻腕の虎獣人が降りて来る。その姿を見た冒険者達は、次々と口を閉じていく。

「……」

 久しぶりに見た姿は、記憶の中の彼よりも貫禄が増していた。
 10年以上前よりも艶を失った獣毛と身体に刻まれた古い傷痕の数々。そして、俺が奪った左腕を見て、この世界で過ぎてしまった時間と懐かしさを感じた。
 
 静かな組合の中で、虎獣人の息を吸い込む音だけが響く。

「朝早くに集まって貰って、感謝する!これより、緊急の依頼について、2階で説明を行う。金級以上のパーティーを組んでいる冒険者は、代表者のみが上がって来てくれ」

 それだけ言うと、虎獣人の男は階段を登って行く。

 その畏怖堂々とした姿からは、隻腕である事の弱さは感じられない。

「……」
「平気か?」

 カシム達に聞こえない声で、険しい表情のヴィルヘルムに話しかける。

「……何の事だ?」
「平気なら良い」

 短い沈黙を経て、ヴィルヘルムは口を開く。

「……知っていたのか?」
「いや、辺境都市アテラに来て、もしかしたら?とは思っていたかな」
「……」
 
 ヴィルヘルムの鋭い眼光が、虎獣人の向かった階段の先を睨み付ける。

 隻腕の虎獣人。
 嘗て、種族間戦争で戦場を荒らし回った獣人族の暴君。
 《雷獣》バルザック・アーガスト。

「虎族のアーガスト。それに、雷の魔装。幾つか、共通点があったからな」
 
 ヴィルヘルムは、溜め込んだ感情を吐き出す様に息を吐いた。

「……そうか」

 バルザックが向かった先から視線を逸らさず、ヴィルヘルムは呟く。

「話は俺が聞いて来る。だから、お前は散歩でもしてろ」

 ヴィルヘルムの存在は、冒険者組合の中で、新進気鋭の冒険者以外の意味で有名になりつつある。
 白虎の獣人は、幻獣種と呼ばれる希少な存在の1つ。
 獣人族の中では、『戦で勝利を呼び込む象徴』の様な存在として例えられていた。その為、ヴィルヘルムの姿は、否が応でも注目を集めてしまう。

「ふ」
「何だ?」

 突然ヴィルヘルムが笑った事で、訝しんだ視線を向ける。

「いや、気を遣わせたな」
「そう思うなら、気持ちを切り替えて来い」
「分かった」

 ヴィルヘルムは、バルザックが向かった方向に背を向けて外に向かう。

 騒がしくなっていた冒険者組合の中で、ヴィルヘルムが外に出て行った事に気付く者はいない。
 リツェアは気付いていたが、見て見ぬフリをしてくれた。
 ヴィルヘルムがいなくなっている事に、遅れて気付いたカシムは、何も言わない。

「おい、雪。俺達も行こうぜ」
「ああ」
 
 ヴィルヘルムに、あんな事を言ってしまった手前、断る訳にはいかない。
 リツェアとメデルに声をかけるが、2人ともバルザックの話を聞きに行くつもりはあまりなかった様だ。その為、同じ様に残されたハイリやミルと一緒に、酒場の方に向かって行く。

 

 2階に続く階段を上ると、既に大勢の冒険者達がいた。
 耳を澄まして観察してみれば、今回の事件に関する事や冒険者パーティー同士の噂話など、様々な会話が行われている。

「今回の依頼の事、何か知ってるか?」
「何だよ、知らねーのか?」
「おい、あの新人がいるぞ」
「噂の天才様か。本当に大丈夫か?」
「おいっ、変にちょっかいかけるなよ」 
「何ビビってんだよ」
「馬鹿野郎。良いからやめろっ」
「へー、アレがカシムさんのお気に入り?」
「俺達と協力なんて出来るのか?」

 冒険者同士の噂話は、どうやら俺達に関する内容が多い様だ。

「悪いな。悪い連中ばっかじゃねぇんだけどよ」
「気にしてない」

 新人。それも、明らかに自分達と同じか、それ以上に目立つ存在に対して、過剰に反応するのは、どの時代、どの場所でも同じだ。
 15年前――召喚された当初は、明日羽が勇者で才能に恵まれていた所為で、『勇者ではない』俺に、罵声や嘲笑、疑惑に嫉妬など、そんな感情に塗れた言葉は飽きる程聞いた。

「……あれだ。無理だけはすんなよ」

 カシムの言葉に、俺は素直に頷けなかった。
 苦しい、辛い、悲しい、などの感情を抱いている事は予想出来るし、理解する事も出来る。
 だが、それだけだ。他人と共感が出来ない。
 時折、自分のいる世界とは違う世界の光景を見ている様な気になってしまう。
 俺には関係のない世界。
 そんな違和感の様な感覚を、いつからか、感じていた。

「――っ」

 カシムに返答を返そうとした時、冒険者の集まる中央の大きなテーブルにバルザックが地図を持ってやって来た。
 この場に集まった冒険者達の視線が、開かれた地図に向けられる。
 離れた位置から地図を眺めるが、どうやら忌蟲の森の地図と調査村の内部が分かる地図、2種類の地図が広げられていた。

「改めて挨拶をするが、俺が辺境都市アテラ冒険者組合長のバルザック・アーガストだ」

 バルザックは、威厳たっぷりの声を響かせる。

「今回の事件を既に知っている者もいると思うが、忌蟲の森にある調査村が、魔物の群れに襲われた」

 その言葉に、冒険者達の緊張感が増す。

「脱出して来た者の話では、村を襲ったのは蟲の魔物だ」

 カシムの言っていた通りの情報だ。

「蟲の魔物か。厄介だな」
「だが、弱点が明確だから対策が出来る」
「凍らせるなら兎も角、村や周辺の森で火は扱いが難しいぞ」
「凍らせる、と簡単に言うけど、どれだけ魔力を使うと思ってるの?」

 限られた情報から敵への対応・対策の案が、次々と出て来る。そして、その案が実行可能か、どんなメリットとデメリットがあるか、等の問答が素早く行われていた。
 この光景は、様々な魔物と戦った経験のある冒険者特有の光景だろう。

「話の途中で悪いが、重要な情報がある」

 バルザックが視線を向けた方から、傷の治療を終えたばかりだと思われる人間の少年が、中央のテーブルの方に歩いて来る。

「彼は、調査村を警備していた冒険者だ」

 バルザックの側で、少年は足を止める。
 
「警備にいたのは、あいつのパーティーだったのか」

 複数の冒険者達が、カシムと同じ様な反応をしている。

「あいつは、ローディスつってな。白金プラチナ級の冒険者パーティー『蒼翼』のリーダーだ」
「随分若いな」

 辺境都市アテラの冒険者組合は、実力を主軸に、人格、組合への貢献度、冒険者全体への影響力など、様々な観点を客観的に判断して、冒険者を昇格、又は降格させる。
 クローリア・フォンティーヌという、辺境都市内で最も影響力のある人物の1人から推薦があったとしても、金級までしか飛び級は出来ない。
 金級それ以降は、自身の実力で、組合を認めさせるしかない。
 
『蒼翼』のリーダー――ローディスの年齢は、おそらく10代後半から20歳前後。そして、この場にいる殆どの冒険者達よりも歳下だ。
 疲弊している現状でも、研ぎ澄まされた魔力は、並の人間では至れない境地にある。

「若いって、おめぇが言うなよ」
「年齢の事だけじゃない」
「ん?」
「あいつ、相当強いだろ?」

 俺の言葉で納得がいったのか、カシムは頷く。

「ああ。対人戦なら、オリハルコン級の実力があるだろうな」

 現在、辺境都市アテラに最高位冒険者――アダマンタイト級の冒険者はいない。
 その為、オリハルコン級が、現状辺境都市アテラ内における最高位の冒険者という事になる。

 自分の想定以上に、評価を受けていたローディスという冒険者を再度観察する。
 幼さを残す端正な顔立ち。右目の下にある泣きほくろが、ローディスのやや中性的な容姿と合わさり、道を歩けば女性達の目を引くだろう。
 決して大柄ではない身体も、弱々しさは感じない。まるで、一本の剣の様な強さを放っている。

「知っている人も多いと思いますが、自分は冒険者パーティー『蒼翼』のローディスです」

 自己紹介を簡潔に済ませたローディスは、調査村であった事を話し始める。

 
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