異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア

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第4章

第2話 組合の依頼

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 静か過ぎる夜。
 突然、音が森中に響き渡った。
 まるで、強風でも吹き抜けている様に、『ガサガサ』『ゴゴゴゴ』という音が響き、警備にあたっていた人々が武器を構えた。そして、高台から見張りを行っていた領土軍の兵士の悲鳴が響き辺り、暗闇から次々と魔物が姿を現す。その数は、壁に囲まれた調査村を取り囲んでも、益々増えていく。
 どの魔物も見た事がある敵ばかりだったが、暗闇から次々と姿を現す大量の魔物に、人々は悲鳴をあげた。

「魔法耐性、斬撃耐性、火耐性などのスキルも持つ大量の魔物……。そんな敵に、僕達は懸命に戦いました」

 ローディスの言葉に、冒険者達は黙って耳を傾ける。

「しかし――」

 幾ら魔物討伐に慣れた冒険者であっても、体力が無限にある訳ではない。
 倒しても、倒しても、湧いて来る敵に、徐々に疲弊し、追い詰められて行く。

 そこで、冒険者達は、調査村で起こった事態を報告させる為に、協力してローディスを調査村から逃がした。

 ローディスの話を聞き終えた冒険者達は、次々と口を開く。
 
「耐性スキルか。厄介だ」
「数と耐性スキル……僕達、人が不利だな」
「不利かどうかじゃないだろ!やるしかないんだ!」
「熱くなるなよ」
「ですが、それだけの数の魔物は一体何処から?」
「他にも、その群れを統率する個体はいなかったのか?」

 どの冒険者が放った質問かは分からないが、ローディスははっきりと「いました」と答える。

「ローディス、統率する個体を見たのか?」

 バルザックの言葉に、ローディスは拳を握り締めて、身体を震わせる。
 
「はい。……ですが、僕達では倒せませんでした」

 辺境都市アテラ内で、上位の実力を持つ『蒼翼』が討伐出来なかった個体がいた事に、冒険者達は驚く。そして、ローディスが語る言葉を静かに待つ。

「名前は、分かりません。姿も、色々な虫の身体の一部が付け足された様な姿で……僕は、初めて見ました」

 ローディスの言葉に、混合獣キメラという禁じられた錬金術――禁忌の術により造り出される魔法生物が思い浮かぶ。
 他の冒険者の中にも、同じ様に考える人がいる様だ。

「しかし、恐ろしい程の再生能力と僕達に怯む事のない凶暴性。そして、周囲の魔物を強化する力まで持ってました」

 ローディスの情報を聞いて、冒険者達は敵の候補となりそうな魔物を考え始める。

「やっぱり、混合獣キメラじゃないのか?」

 1人の冒険者の言葉を魔導師と思われる冒険者が、否定する。

「禁じられた錬金術で、混合獣キメラを造る為に使われるのは、生物の屍体です。それ故に、混合獣キメラの身体も屍体のままで、再生能力はない筈です」

 魔導師の言葉に、幾人かの冒険者が『確かに』と同調する。

 10年以上前に繰り返されていた戦争――種族間戦争中に、生きている生物を用いて、混合獣を造ろうとした組織がいた。
 だが、実験は失敗し続け、ヴァルフリード王国軍の手によって、その組織は1人残らず処刑された。そして、その研究結果は、歴史の闇に葬られた。

「聞いた事があるな。戦争中に生きた身体を使って、混合獣キメラを造ろうとした組織がいたが、成功はしなかったんだろ?」
「ああ。それで、その組織は王国軍によって壊滅させられた筈だ」

 その冒険者達の言葉に、やはり何人かの冒険者は頷く。
 
 だが、長い時間が経過した戦時中の情報の為、知らない冒険者もいる様だ。

「……」

 俺は、視線をバルザックに向ける。
 バルザックは、何も言葉を発さずに冒険者達を見つめていた。

 どうやら、真実・・を話すつもりは無さそうだ。

 
 
「今回の依頼内容は、調査村の生存者の救出及び魔物の討伐だ。参加報酬は、最低でも1人に金貨3枚は約束しよう。追加報酬は、依頼達成時に決定する」

 再度、場が騒つく。
 無理もない。この依頼を受けるだけで金貨3枚、が約束されるのだ。
 因みに、依頼の難易度などによって依頼料に差はあるが、金級冒険者を雇う基本報酬が約大銀貨5~10枚となる。
 
 辺境都市アテラの物の価値の相場は、
 食材類:銅貨数枚~銀貨1枚程度
 外食:銀貨数枚~大銀貨1枚
 一般的な宿(一泊二日):大銀貨1~3枚程度
 になるが、条件やその時の状況によって、値段は適宜変動する。
 一般的に、金貨を使う機会は少ない。

 それだけ冒険者ギルドが、今回の依頼を重要視している事になる。
 ここで金に目が眩んで、依頼を受ける奴がいれば無駄に死人は増えてしまう。

「ただし、この依頼はそれだけ危険だ。相手の魔物は、未知の強敵。必ず勝てる、という確証はない」

 バルザックは、冒険者全体を見渡す。その時、1人の冒険者がポツリ、と呟く。

「あれ?辺境伯様の兵は?」
「……そういえば、俺達だけか?」

 冒険者達の視線が、バルザックに集まる。

「そうだ」

 バルザックは、悔しそうに口を開く。

「早朝、辺境伯の元を訪ねて、応援を依頼した。だが、辺境都市の防衛に兵力を集める為、協力は出来ないそうだ」

 バルザックの言葉を聞いた瞬間、この場に集まった冒険者達は怒りを露わにする。

「またかっ、あいつらは!!」
「元々、調査村は辺境伯の管理地だろ!?」
「チクショウ……状況が分からねぇのか?」
「辺境伯様は、私達に怨みでもあるの?!」

 急な冒険者達の反応に、俺は然程驚かない。

 辺境都市アテラは、辺境伯、冒険者組合、商会ギルド、治療院の4つの力関係によって成り立っている。その中でも、辺境伯の影響力は大きい。

 冒険者組合に限定しても、依頼に関係する補助金、辺境都市の出入りにかかる通行料の免除など、特に金銭面に対する援助が常に行われていた。
 冒険者にとって、依頼達成で得られる報酬は、文字通り『生きる糧』だ。

 まず前提として、辺境都市アテラの物価は上がり易い。
 何故なら、周囲が危険地帯に囲まれている所為で、領地の開拓が難しく、商人の行き来も多くはない。その所為で、生活必需品と呼ばれる物が枯渇し易く、希少になってしまう。

 冒険者という仕事は、常に金を消費する。
 食料、宿泊、装備、薬、怪我の治療。
 どれも冒険者活動とは、切っても切れない関係だ。

 だが、そんな冒険者活動が滞れば、領地其の物の経済も衰退し、仕舞いには、領地に生きる人々の命まで危険に晒されてしまう。だからこそ、辺境伯は、冒険者組合で張り出される依頼に補助金をかけて、冒険者達の活動を長年援助して来た。

「くそっ。補助金を渋る次は、自分の兵まで渋り出したのかよっ」

 最近、辺境伯は、冒険者組合、商会ギルド、治療院に行っていた援助を減らし始めた。
 冒険者組合に対しては、報酬にかけられていた補助金の減額だ。
 既に、以前までの補助金の額と比べれば半分以下となっており、割に合わない、と感じた冒険者達は、王都や他国に出て行ってしまっている。

 俺の知る、アーク辺境伯、という男は、それ程までに愚かな人物ではない。
 嘗て起こった悲劇の後の事を調べたが、悲劇を乗り越えて、領地を管理していた傑物だった筈だ。


「……だからこそ、俺達がやる」

 バルザックの覇気の籠った声に、数名の冒険者達が息を呑む。
  
「出発は1時間後。依頼を受ける覚悟がある者は、西門に集合してくれ」

 話し合いはここで終了となり、冒険者達は1階へと続く階段に向かって歩き始める。
 俺とカシムもその流れに合わせようとした所、カシムはバルザックから話があると、呼び止められた。

 
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