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第4章
第6話 遊撃部隊
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大規模な戦術の基本は、『数』だ。それは、人、魔物、誰を相手にしようと変わらない。
人数で敵を上回り、手数で敵を上回る事が出来れば、戦場で勝利を得られる確率は大幅に上がる。
逆に考えれば、数で遥かに上回る敵を倒す事は難しい。
能力的に差がなければ、絶望的な状況、と言えるだろう。
先程から短い間を開けつつ、魔物達が遊撃部隊に襲い掛かっていた。
木の幹や枝葉、腰程の大きさの岩――森の死覚を利用し襲い掛かって来る魔物に、冒険者達は思う様に反撃が行えず、前に進む事も出来ずに足を止める。
陣形を組み、反撃を行おうとするも、一定の距離から攻めて来ない魔物達に、冒険者達は苛立ちを募らせていた。
「糞っ、あの蟲野郎」
「こっちから攻め込みます?」
「辞めとけっ」
魔物と睨み合っている事に、耐えられなくなった若い冒険者をベテラン冒険者が止める。そして、視線を先程部隊から離れて、魔物に襲われた冒険者達を指で示す。
一定の距離を取られ、攻撃が当たらず、遠距離攻撃や素早い魔物からの攻撃を受け続けた若い冒険者のパーティー。
状況を打開するより前に、逃げる様に部隊に戻って来た冒険者達を見て、若い冒険者は自分の軽率な判断に表情を曇らせる。
「でも、このままじゃ……」
若い冒険者の話を近くで聞いていた冒険者――カシムは、若い冒険者が最後まで言えなかった言葉を紡ぐ。
「ジリ貧だな」
当初の作戦では、正面から部隊が攻め込んでいる間に、遊撃部隊が村の裏口から侵入する。そして、生存者を捜索・救出しつつ、敵を撹乱する事が目的だった。
だが、現在、調査村の裏口まで、後少しの距離で足止めを受けている。
「どうする?」
「……」
ミルの問いに、カシムは様々な可能性を考える。
「一か八か。一点突破でもする?」
「それは、駄目だ」
「理由は?」
「俺達の目的は、敵の撹乱と生存者の捜索・救助だ。ミルの言った方法じゃ、村に辿り着けても被害が多過ぎる」
「納得」
剣や槍の届かない絶妙な距離から、冒険者達を観察する蟲の魔物達は徐々に数を増やしつつある。
途切れる事なく鳴る威嚇音が、魔物の数が増す程に大きくなっていた。その音によって、緊張状態の冒険者達の精神を徐々に消耗させる。
今の所、被害は少ない。それでも、カシムは常に嫌な予感がしていた。
「敵を突破するぞ!」
遊撃部隊を率いる冒険者の声に、冒険者達の大半が同意の雄叫びを上げる。
遊撃部隊を率いる程の冒険者だ。先程カシムが考えたリスクを考えていない訳がない。
だが、このまま魔物と睨み合いをしていては、作戦自体が破綻する可能性があると判断したのだろう。
「行くぞ」
撤退や迂回ではなく、正面突破を選択した冒険者達は、魔物達に向けて駆け出す。その様子は、訓練をした訳でもないのに、互いの隙を補う様に前衛が動き、中~後衛は強力な一撃と前衛を支援する準備を整える。
カシムも嫌な予感を振り払う様に、叫び敵へと攻め込む。
だが、突然ミルを含めた目の良い冒険者達数名が「止まれ!!」と叫んだ。
「「「「?!」」」」
突然言われて、反応出来る冒険者は少ない。
だが、自分の身体に起きた異変に、数名の冒険者の足が自然と止まる。
「これは……」
「何だ、透明な糸?」
「蜘蛛の糸っ!」
「しまった、罠だ!!」
正面と木の上に待ち構える魔物に辿り着く途中の地面には、注意しなければ気づかない程に、細く透明な蜘蛛の糸が張り巡らされていた。
1本1本は弱く、冒険者の動きを抑制する程の物ではないが、幾重にも重なれば、動きを制限する程度の効果がある。
自分達に有利な状況を作り出しただけでなく、遊撃部隊という速度が重要な部隊の速度を殺したのは、蜘蛛の魔物が得意とする凡庸な一手。それでも、冒険者、特に若い冒険者達に与える影響としては充分だった。
「クソッ、足に色んな物が絡み付いて動き難い」
「危ねぇぞ!」
「わ、悪い……」
動き難さに意識を取られた冒険者が、各個に狙われる。そこを庇う為に、他の冒険者が動く。
当初組んでいた陣形は、既に崩れていた。そして、それぞれが、魔物を相手に武器を振るっている。
だが、その所為で、敵味方が入り乱れ、後衛が広範囲の攻撃を放てない。
支援を行おうとしても、敵味方が入り乱れ過ぎて、狙いがつけ難くなってしまっていた。
カシムが、現状を見て、部隊が『全滅』する可能性もある事に気付く。その為、大声で周囲に撤退する様に叫ぶ。
「ここで撤退したら、作戦が失敗する!!」
部隊を任されていた冒険者が、カシムの判断に怒りを抑えずに叫ぶ。
だが、カシムはそれ以上の剣幕で怒鳴る。
「馬鹿野郎っ!!もうとっくに、失敗してんだろ!!」
「だが――」
「――うるせぇ!!ここで死んだら、無駄死にだろうがっ!」
カシムの剣幕に、リーダーの冒険者は反論の言葉を飲み込む。
「ハイリ!ミル!」
「ん」
「分かりました」
カシムの声に2人は、動き出す。
「精霊魔法〝癒しの光粒〟」
人を対象にして癒す精霊魔法――〝癒しの光粒〟をサティアは、前衛の冒険者に向けて放つ。
徐々に傷が癒え始めた冒険者達に、冷静さが戻り始める。
「おいっ、敵から距離を取れ。後退しつつ、陣形を整えるぞ!」
カシムの声に従って、敵の追撃を警戒しつつ、冒険者達は後退を始める。
「組合長に、緊急事態が起きたと連絡しろ」
冒険者の指示に、連絡役の冒険者が動く。
だが、木々の枝葉を多い尽くす程の数の敵を見て、連絡役の冒険者は悲鳴を上げた。
いつの間にか、魔物の数が目視で倍以上増えている事に対する恐怖を噛み殺して、カシムは叫ぶ。
「早くしろ!」
カシムは、目の前に現れた魔物の群れに剣を構える。
「何て数がいやがるんだ」
冒険者達は、再び陣形を組み直す。
周囲で逃げ出す冒険者はいない。
1人で逃げた所で、逃げられない事を経験から知っているからだ。
森の中で、蟲の魔物達は人の何倍も早く動ける個体が多い。その上、先程の様な罠がはられていては、逃げ切る事は難しい。
「撃てっ!」
冒険者の声を合図に、魔導師が風と火属性の魔法を放つ。それによって、火が激しく燃え上がり、周囲の木々諸共魔物を焼き払う。風が対流している事で火の勢いは収まらず周囲を焼き尽くす。
更に、畳み掛けるように遠距離スキルや魔法を放つ。
火が広がり森を焼いてしまうが、命には変えられない。それに、遊撃部隊には生存者を救助する為に、治癒のスキル・魔法が使える魔導師や水属性の魔法が使える魔導師が多めにいる。
多少不安はあるが、消火の問題はない。
「……」
蟲の魔物は、本能的に火を避ける。
敵の姿が遠ざかったのを確認して、水属性魔法が使用出来る魔導師に、退路が塞がらない程度に消火の指示が出された。
「……来ないな」
「あ、ああ」
敵の追撃を警戒していた若い冒険者が呟く。それに対し、周囲の一部の冒険者達も頷く。
極限の緊張状態の中で、敵が遠ざかった事で、僅かにだが安堵の息を吐く。そして、ほんの僅かな時間、冒険者数名は緊張を緩めてしまった。
「下から敵!」
ミルが、周囲の冒険者に警戒を促すも遅かった。
地面から現れた、大口を持つミミズのような魔物に、反応が遅れた冒険者達が次々と襲われる。
ある者は、蛇の様に巻き付かれた。
ある者は、突然空いた穴に体を引き込まれた。
ある者は、急所を噛まれ、血飛沫を上げる。
現れたのは、地中を移動し敵を捕食する魔物――サンド・ワームだった。
「ひぃ」
「よくも!」
「うぉぉぁあ!」
突然の奇襲を受け、冒険者達は浮き足立つ。
「まだいる!!そこを離れて!」
ミルが周囲の冒険者に警告するが、仲間を殺された怒りと動揺から殆どの冒険者が、その警告が聞こえていない。
いや、聴こえていても、特に若い冒険者達は頭と体が思考について来ていなかった。
「糞糞糞っ!かかって来い!!」
「何処だ!?」
「下か?後ろか!?」
本来、サンド・ワームは砂漠地帯や岩肌の目立つ山岳地帯などの限られた地域に生息する事が多い。その為、忌蟲の森にサンド・ワームは生息していなかった。
何らかの影響で、生息地を変えた可能性もある。
だが、今はそんな事よりも、問題は別にあった。
若い冒険者の中に、サンド・ワームが音に反応する事を知らない冒険者がいた事だ。
「あいつらっ!」
サンド・ワームとの戦い方の基本は、守りの硬い前衛が音と振動で敵を引き付け、周囲で待機している仲間がとどめをさす事だ。
単独での討伐の場合でも、基本は変わらない。
サンド・ワームの習性を知っている冒険者達が、威嚇する様に吠える冒険者達を止めようとするが、敵は冒険者達の一瞬の隙を逃す事は無かった。
音に反応し、地中からサンド・ワーム達が遅いかかって来る。そして、火の勢いが衰えた所からは、一時的に離れた魔物の群れが波の様に押し寄せて来ていた。
カシムやベテランの冒険者達が、間髪入れずに指示を出す。
だが、数名のパーティー戦に慣れた冒険者は、集団戦の経験が少ない。その為、周囲に出す指示の速度や部隊全体の観察・士気の維持など、徐々にだが、粗が目立ち始めていた。
それでも、冒険者の個々人の実力が低下する訳ではない。
「退け!!」
カシムは、サンド・ワームに襲われていた冒険者の前に立つ。そして、剣を構えて振り抜く。
「〝羅刹炎武〟」
全身から吹き出した炎が、前方のサンド・ワームに襲いかかる。
カシムの放った炎は、消える事はなく、眼前の敵を焼き尽くす。更に、近くにいた別のサンド・ワームに向けて、剣を横薙ぎにすれば、再び炎が敵に襲いかかる。
「おい」
ドスの利いた声を浴びた冒険者は、一瞬で頭が冷える。
自分が行った行動の所為で、部隊全体に被害を出してしまった、と自覚した。
「まだ戦えるか?」
だが、カシムから放たれた言葉は、若い冒険者を責める物ではなかった。
若い冒険者は、咄嗟に『はいっ』と返事をする。
「良し。まずは、1人で戦おうとすんじゃねぇぞ」
「はいっ」
「それと、周りで孤立してそうな奴を助けて、一緒に動け」
「分かりましたっ!」
カシムは、素早く行動を開始した若い冒険者に、仄かな笑みを浮かべる。
だが、気を抜く暇はない。
人数で敵を上回り、手数で敵を上回る事が出来れば、戦場で勝利を得られる確率は大幅に上がる。
逆に考えれば、数で遥かに上回る敵を倒す事は難しい。
能力的に差がなければ、絶望的な状況、と言えるだろう。
先程から短い間を開けつつ、魔物達が遊撃部隊に襲い掛かっていた。
木の幹や枝葉、腰程の大きさの岩――森の死覚を利用し襲い掛かって来る魔物に、冒険者達は思う様に反撃が行えず、前に進む事も出来ずに足を止める。
陣形を組み、反撃を行おうとするも、一定の距離から攻めて来ない魔物達に、冒険者達は苛立ちを募らせていた。
「糞っ、あの蟲野郎」
「こっちから攻め込みます?」
「辞めとけっ」
魔物と睨み合っている事に、耐えられなくなった若い冒険者をベテラン冒険者が止める。そして、視線を先程部隊から離れて、魔物に襲われた冒険者達を指で示す。
一定の距離を取られ、攻撃が当たらず、遠距離攻撃や素早い魔物からの攻撃を受け続けた若い冒険者のパーティー。
状況を打開するより前に、逃げる様に部隊に戻って来た冒険者達を見て、若い冒険者は自分の軽率な判断に表情を曇らせる。
「でも、このままじゃ……」
若い冒険者の話を近くで聞いていた冒険者――カシムは、若い冒険者が最後まで言えなかった言葉を紡ぐ。
「ジリ貧だな」
当初の作戦では、正面から部隊が攻め込んでいる間に、遊撃部隊が村の裏口から侵入する。そして、生存者を捜索・救出しつつ、敵を撹乱する事が目的だった。
だが、現在、調査村の裏口まで、後少しの距離で足止めを受けている。
「どうする?」
「……」
ミルの問いに、カシムは様々な可能性を考える。
「一か八か。一点突破でもする?」
「それは、駄目だ」
「理由は?」
「俺達の目的は、敵の撹乱と生存者の捜索・救助だ。ミルの言った方法じゃ、村に辿り着けても被害が多過ぎる」
「納得」
剣や槍の届かない絶妙な距離から、冒険者達を観察する蟲の魔物達は徐々に数を増やしつつある。
途切れる事なく鳴る威嚇音が、魔物の数が増す程に大きくなっていた。その音によって、緊張状態の冒険者達の精神を徐々に消耗させる。
今の所、被害は少ない。それでも、カシムは常に嫌な予感がしていた。
「敵を突破するぞ!」
遊撃部隊を率いる冒険者の声に、冒険者達の大半が同意の雄叫びを上げる。
遊撃部隊を率いる程の冒険者だ。先程カシムが考えたリスクを考えていない訳がない。
だが、このまま魔物と睨み合いをしていては、作戦自体が破綻する可能性があると判断したのだろう。
「行くぞ」
撤退や迂回ではなく、正面突破を選択した冒険者達は、魔物達に向けて駆け出す。その様子は、訓練をした訳でもないのに、互いの隙を補う様に前衛が動き、中~後衛は強力な一撃と前衛を支援する準備を整える。
カシムも嫌な予感を振り払う様に、叫び敵へと攻め込む。
だが、突然ミルを含めた目の良い冒険者達数名が「止まれ!!」と叫んだ。
「「「「?!」」」」
突然言われて、反応出来る冒険者は少ない。
だが、自分の身体に起きた異変に、数名の冒険者の足が自然と止まる。
「これは……」
「何だ、透明な糸?」
「蜘蛛の糸っ!」
「しまった、罠だ!!」
正面と木の上に待ち構える魔物に辿り着く途中の地面には、注意しなければ気づかない程に、細く透明な蜘蛛の糸が張り巡らされていた。
1本1本は弱く、冒険者の動きを抑制する程の物ではないが、幾重にも重なれば、動きを制限する程度の効果がある。
自分達に有利な状況を作り出しただけでなく、遊撃部隊という速度が重要な部隊の速度を殺したのは、蜘蛛の魔物が得意とする凡庸な一手。それでも、冒険者、特に若い冒険者達に与える影響としては充分だった。
「クソッ、足に色んな物が絡み付いて動き難い」
「危ねぇぞ!」
「わ、悪い……」
動き難さに意識を取られた冒険者が、各個に狙われる。そこを庇う為に、他の冒険者が動く。
当初組んでいた陣形は、既に崩れていた。そして、それぞれが、魔物を相手に武器を振るっている。
だが、その所為で、敵味方が入り乱れ、後衛が広範囲の攻撃を放てない。
支援を行おうとしても、敵味方が入り乱れ過ぎて、狙いがつけ難くなってしまっていた。
カシムが、現状を見て、部隊が『全滅』する可能性もある事に気付く。その為、大声で周囲に撤退する様に叫ぶ。
「ここで撤退したら、作戦が失敗する!!」
部隊を任されていた冒険者が、カシムの判断に怒りを抑えずに叫ぶ。
だが、カシムはそれ以上の剣幕で怒鳴る。
「馬鹿野郎っ!!もうとっくに、失敗してんだろ!!」
「だが――」
「――うるせぇ!!ここで死んだら、無駄死にだろうがっ!」
カシムの剣幕に、リーダーの冒険者は反論の言葉を飲み込む。
「ハイリ!ミル!」
「ん」
「分かりました」
カシムの声に2人は、動き出す。
「精霊魔法〝癒しの光粒〟」
人を対象にして癒す精霊魔法――〝癒しの光粒〟をサティアは、前衛の冒険者に向けて放つ。
徐々に傷が癒え始めた冒険者達に、冷静さが戻り始める。
「おいっ、敵から距離を取れ。後退しつつ、陣形を整えるぞ!」
カシムの声に従って、敵の追撃を警戒しつつ、冒険者達は後退を始める。
「組合長に、緊急事態が起きたと連絡しろ」
冒険者の指示に、連絡役の冒険者が動く。
だが、木々の枝葉を多い尽くす程の数の敵を見て、連絡役の冒険者は悲鳴を上げた。
いつの間にか、魔物の数が目視で倍以上増えている事に対する恐怖を噛み殺して、カシムは叫ぶ。
「早くしろ!」
カシムは、目の前に現れた魔物の群れに剣を構える。
「何て数がいやがるんだ」
冒険者達は、再び陣形を組み直す。
周囲で逃げ出す冒険者はいない。
1人で逃げた所で、逃げられない事を経験から知っているからだ。
森の中で、蟲の魔物達は人の何倍も早く動ける個体が多い。その上、先程の様な罠がはられていては、逃げ切る事は難しい。
「撃てっ!」
冒険者の声を合図に、魔導師が風と火属性の魔法を放つ。それによって、火が激しく燃え上がり、周囲の木々諸共魔物を焼き払う。風が対流している事で火の勢いは収まらず周囲を焼き尽くす。
更に、畳み掛けるように遠距離スキルや魔法を放つ。
火が広がり森を焼いてしまうが、命には変えられない。それに、遊撃部隊には生存者を救助する為に、治癒のスキル・魔法が使える魔導師や水属性の魔法が使える魔導師が多めにいる。
多少不安はあるが、消火の問題はない。
「……」
蟲の魔物は、本能的に火を避ける。
敵の姿が遠ざかったのを確認して、水属性魔法が使用出来る魔導師に、退路が塞がらない程度に消火の指示が出された。
「……来ないな」
「あ、ああ」
敵の追撃を警戒していた若い冒険者が呟く。それに対し、周囲の一部の冒険者達も頷く。
極限の緊張状態の中で、敵が遠ざかった事で、僅かにだが安堵の息を吐く。そして、ほんの僅かな時間、冒険者数名は緊張を緩めてしまった。
「下から敵!」
ミルが、周囲の冒険者に警戒を促すも遅かった。
地面から現れた、大口を持つミミズのような魔物に、反応が遅れた冒険者達が次々と襲われる。
ある者は、蛇の様に巻き付かれた。
ある者は、突然空いた穴に体を引き込まれた。
ある者は、急所を噛まれ、血飛沫を上げる。
現れたのは、地中を移動し敵を捕食する魔物――サンド・ワームだった。
「ひぃ」
「よくも!」
「うぉぉぁあ!」
突然の奇襲を受け、冒険者達は浮き足立つ。
「まだいる!!そこを離れて!」
ミルが周囲の冒険者に警告するが、仲間を殺された怒りと動揺から殆どの冒険者が、その警告が聞こえていない。
いや、聴こえていても、特に若い冒険者達は頭と体が思考について来ていなかった。
「糞糞糞っ!かかって来い!!」
「何処だ!?」
「下か?後ろか!?」
本来、サンド・ワームは砂漠地帯や岩肌の目立つ山岳地帯などの限られた地域に生息する事が多い。その為、忌蟲の森にサンド・ワームは生息していなかった。
何らかの影響で、生息地を変えた可能性もある。
だが、今はそんな事よりも、問題は別にあった。
若い冒険者の中に、サンド・ワームが音に反応する事を知らない冒険者がいた事だ。
「あいつらっ!」
サンド・ワームとの戦い方の基本は、守りの硬い前衛が音と振動で敵を引き付け、周囲で待機している仲間がとどめをさす事だ。
単独での討伐の場合でも、基本は変わらない。
サンド・ワームの習性を知っている冒険者達が、威嚇する様に吠える冒険者達を止めようとするが、敵は冒険者達の一瞬の隙を逃す事は無かった。
音に反応し、地中からサンド・ワーム達が遅いかかって来る。そして、火の勢いが衰えた所からは、一時的に離れた魔物の群れが波の様に押し寄せて来ていた。
カシムやベテランの冒険者達が、間髪入れずに指示を出す。
だが、数名のパーティー戦に慣れた冒険者は、集団戦の経験が少ない。その為、周囲に出す指示の速度や部隊全体の観察・士気の維持など、徐々にだが、粗が目立ち始めていた。
それでも、冒険者の個々人の実力が低下する訳ではない。
「退け!!」
カシムは、サンド・ワームに襲われていた冒険者の前に立つ。そして、剣を構えて振り抜く。
「〝羅刹炎武〟」
全身から吹き出した炎が、前方のサンド・ワームに襲いかかる。
カシムの放った炎は、消える事はなく、眼前の敵を焼き尽くす。更に、近くにいた別のサンド・ワームに向けて、剣を横薙ぎにすれば、再び炎が敵に襲いかかる。
「おい」
ドスの利いた声を浴びた冒険者は、一瞬で頭が冷える。
自分が行った行動の所為で、部隊全体に被害を出してしまった、と自覚した。
「まだ戦えるか?」
だが、カシムから放たれた言葉は、若い冒険者を責める物ではなかった。
若い冒険者は、咄嗟に『はいっ』と返事をする。
「良し。まずは、1人で戦おうとすんじゃねぇぞ」
「はいっ」
「それと、周りで孤立してそうな奴を助けて、一緒に動け」
「分かりましたっ!」
カシムは、素早く行動を開始した若い冒険者に、仄かな笑みを浮かべる。
だが、気を抜く暇はない。
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2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
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