異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア

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第4章

第10話 中身

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 ホムンクルスに寄生された人を助ける事を諦めきれない冒険者達は、互いに意見を出し合う。
 だが、全て根拠のない意見ばかりな為、結論が出る事はなかった。
 
「雪さん達は、何か気付いた事はあるか?」
 
 ルドルフから質問され、俺とヴィルヘルムは、ホムンクルスとの戦闘を思い出す。

「ホムンクルス、だったな。奴の動きは、単調だ。油断さえしなければ、討伐する事は難しくない。だが、救う方法となると……直ぐには、思いつかないな」

 《禁忌の魔王》が造った魔法生物――ホムンクルスは、生物に寄生する。そして、最も力を発揮するのは、寄生後の生存力だ。
 戦闘能力は、ヴィルヘルムの言う通り低い。その上、元々の生命力が高い訳ではなく、完全に宿主を支配するまで時間が掛かる。
 ホムンクルスは、宿主という器の中で力を発揮する魔法生物の為、外に出た瞬間から身体が脆くなり、衰弱していく。それに、寄生している状態ですら、魔法に対する耐性は殆どない。

 まるで、《禁忌の魔王》が造ったホムンクルス、その物の様だ。

「……魔法に対する耐性を、殆ど感じませんでした。もしかしたら、魔法を使えば寄生されている人を救えるかもしれません」

 この方法は、既に種族間戦争中に試して成功している。
 だが、身体が完全に支配される前の状態でなければいけない。

「まさか、表面から凍らせたり、焼いたりするのか?」

 ヴィルヘルムの的外れな推測に、冒険者達が表情を引き攣らせる。

「ホムンクルスがいるのは、身体の内側だ。ホムンクルスが死ぬ前に、宿主が死んでしまうだろ」
「そ、そうだな」

 俺はため息は吐きながら、答えを教える。
 
「光属性の魔法――〝浄化パージ〟なら、宿主の身体に害を与えずに使える筈だ」
「雪さん。その話、本当なのか?」

 ルドルフの疑いと縋る様な感情の籠った言葉に、俺はどうしても断言する事は出来なかった。
 所詮は、10年前――種族間戦争中の知識。
 もしも、《禁忌の魔王》以外の誰かが研究を引き継いでいれば、既に克服されているかもしれない。

「すみません。確証は、ありません……」
「いや、可能性が生まれただけでも充分だ」

 ルドルフは、冒険者達に生存者を見つけた際の対応を周囲と相談しながら行っていく。そして、遊撃部隊で光属性魔法が使える魔導師が集められた。
 元々、光属性魔法を使える魔導師は、今回の作戦において重要な役割を担っていたが、更に重要性が増した。

 その後、俺が見つけた魔力が集まっている方向に、偵察隊を差し向けつつ、進んで行く。



 村の中心部より、やや奥に建てられた複数の建物が見えた。
 情報によれば、調査村で集会所として使われていた場所らしい。それ以外にも、緊急時には、会議や怪我人を一時的に休ませる為に使われていた。
 だが、現在は、大勢の人間が押し込められる様にして閉じ込められている。
 周囲の建物にも、大勢の魔力を感じる為、冒険者達が手分けして向かう。

 糸や岩、建物の残骸で塞がれていた建物の入り口をこじ開ける。その途端、集会所内にいた全員の視線が俺達へと注がれた。

「安心しろ。俺達は、冒険者だ!助けに来たぞ!」

 ルドルフの声を聞くと共に、安堵の声をあげ、泣き出す者もいる。

「……ルドルフさん」
「分かっている。彼等に、ホムンクルスの事は伝えない。だが、油断はしないさ」
「おそらくですが、寄生されている人はいません」

 魔力感知で可能な限り探った結果、ホムンクルスの魔力はない。その事をルドルフに報告するが、瞳の奥に懐疑的な揺らぎが見えた。
 
「雪さんを疑っている訳じゃないが。さっきの光景を見たら、彼等を完全に信用する事は――」
「――そうして下さい」
「?」
「俺も、そう思うので」

 自分が情けない。
 冒険者達に、人々を救う可能性を示しておきながら、今になって、自分の判断を疑ってしまっている。
 人々の命――責任を背負う事に、恐れを感じていた。
 本来なら、俺が背負うべき責任ではないかもしれない。
 だが、この場に立つ事を選んだ時から、何れは選択を迫られる時が来る。 
 その時、外の広場から戦闘音が聞こえた。
 俺を含めた冒険者が、外へと飛び出す。そこでは、他の建物を見に行っていた冒険者達によって、暴れていた村人が取り押さえられている。

「雪、この人達は!?」

 俺を見つけたリツェアが叫ぶ。

「寄生されているっ。そのまま動きを抑えてくれ!」

 冒険者達が押さえ付けているのにも関わらず、拘束された村人達は暴れ続ける。

「くそっ!早くしてくれ!!」
「動くんじゃねぇ!!」
「おいっ、誰か腕を抑えろ!」
「なんて力だ」
 
 骨が軋み、皮膚が裂け、血が流れ出しても、お構い無しに暴れる姿を見た周囲の村人は、困惑し恐怖に震えていた。

「クソッ。俺達も行くぞ」
「待てっ!何人かは残れ!」

 先人を切って動こうとしたカシムをルドルフは制し、周囲の冒険者に指示を出しながら、背後の村人達に視線を向ける。その動作は、助けた筈の村人達が、目の前の寄生された村人の様に、暴れ出す可能性を冒険者達に示すには充分だった。

「……俺1人で充分だ」
「っ!?」

 俺は魔法を使い、素早い動きで抑え込まれている村人の側に辿り着く。

「第五階梯魔法〝浄化パージ〟」
「ぁ、あああ、ぐぅあああああ!!?」

 限界以上の力をホムンクルスによって、強制的に引き出されている村人の男性は、悲鳴か、絶叫にも聞こえる声を上げながら暴れる。

「お、おい!大丈夫なのか!!?」
「……」
「聞いてんのか!」
「これ以上は、限界だぞっ……」
「…………もう大丈夫」

 先程まで暴れていた村人の男性は、急に咳き込んで血の様な物を吐き出した。
 咄嗟に距離を取った冒険者達は、男性が暴れない事を確認して状態を確認する。

「……俺はっ、ゲホゲホ……」
「おい、苦しそうだぞ」
「無理に話さなくて良い」
「メデル」
 
 俺が呼ぶと、メデルが駆け付ける。

「治療が必要ですね、主」

 メデルの言葉に頷く。そして、今の光景を見ていたルドルフやカシムに、視線を向け、頷く。

「「っ!?」」

 直ぐに意味を理解したルドルフとカシムは、村人全員を警戒しつつ、指示を出す。それからの冒険者達の動きは早かった。
 暴れる冒険者を捉えて、光属性の魔法が使える魔導師が〝浄化〟を使う。それを何度も繰り返す事で、ホムンクルスに寄生されていた村人の数が徐々に減っていく。

「カシム」
「どうした?」

 俺はカシムに、ホムンクルスの魔力が感じられる村人を連れて来てもらう。

「あ、あの……」

 会話して同意を得る時間が惜しい為、直ぐに〝浄化〟を発動する。
 最初は、変わった動きを見せない村人だったが、突然身体を抑えて暴れ出す。そして、人が変わった様に、俺に掴みかかって来るが、逆に抑えこむ。
 そのまま〝浄化〟続けていると、傷口や口からドロリとした血のような物を吐き出した。その姿は、小さな蛇の様にも見える。

「はぁ、ぁ、あ、俺は、どうしてっ」

 寄生していたホムンクルスが死んだ途端、村人は暴れるのを止める。そして、自分の置かれていた状況を知って、悲鳴の様な声を上げて戸惑い始める。

 だが、戸惑うの救われた村人だけではない。
 今まで普通だった人が、ホムンクルスに寄生されていた事実を知った人々は、短時間で疑心暗鬼に陥る。
 疑いが、恐怖に。恐怖が、混乱に。
 瞬く間に変化する状況に対して、俺のやる事は一つ。

「次だ」

 ホムンクルスが寄生している可能性の高い人を選び、〝浄化〟を使っていく。

 本来なら、生存者全員に〝浄化〟などの光属性の魔法を使うのが確実だ。
 だが、光属性の魔法は魔力消費が激しく、ホムンクルスを殺すのにも時間がかかる為、手当たり次第に使う訳にはいかない。
 だからこそ、神経を研ぎ澄まして、人の中に潜むホムンクルスを探す。それを例えるならば、人という個々に違う色の中に、不純物となる色が混ざっているのを見つける事に近い。

「ねぇ、貴方は分かる?」
「いや……全く」
「今まで、あいつ外したか?」
「外してませんね」
「というか、1人で何人に魔法を使ってるんだ?」

 いつの間にか、周囲の混乱はおさまっていた。
 誰もが俺の声に耳を傾け、俺が歩けば、道を開けてくれる。
 俺に選ばれた人物は、抵抗する事なく、魔法を受け入れた。

「おいおい、無理し過ぎじゃねぇか?」
「ちょっと!雪っ!!」
「リツェア、カシム。今は集中しているから、静かにしてくれ」
「雪!魔法を使えるのは、お前だけじゃねぇんだ!」
「そうよ。良い加減、他人に頼る事も覚えなさい!」

 カシムに、強い力で肩を掴まれた俺は、カシム、リツェアの順に視線を向ける。そして、メデルを中心にした光属性の魔法が使える魔導師達を見た。

「分かった」

 息を吐く。
 張り詰めていた糸を緩めない様に、ホムンクルスを見極める事にのみ意識を向けた。
 
「あそこだ」

 怪しい人物を見つけては、指示を出す。その間に、返り血に塗れたヴィルヘルム達が戻って来る。

「雪!!」

 俺の名前を叫ぶヴィルヘルムの方を見れば、何やら大柄な人間の男性を「おらぁ!」という掛け声と共に背負い投げの要領で投げ飛ばしていた。

「悪いが、応援を頼む!」
「分かった!おい、直ぐに行くぞ!ルドルフ!」
「お、おう……」

 カシムとルドルフを中心に、冒険者達が暴れる村人を押さえ込んでいく。そして、動きを拘束した村人から〝浄化〟を使い、ホムンクルスを処理する。
 

 感知出来る範囲全てのホムンクルスを処理した俺達は、一時的に体を休める事にした。
 いや、救助の要である、光属性の魔法が使える魔導師達の体力限界を迎えている。そして、救助した村人達も衰弱している為、これ以上動く事ができなかった、という言う方が正しい。

 現状では、避難も残りの生存者を探しに行くのも難しい状況だ。
 人が多ければ、それだけ部隊の動きが緩慢になる。それに、調査村の住人であっても、冒険者と比べると戦闘は素人も同然。
 敵がいる可能性の高い森を抜けて、拠点の方に避難する方法は不可能に近い。

「このまま待機して、正面から向かっている部隊に合流するのが良いだろうな」

 ルドルフの意見に、話し合いに参加していた冒険者達は頷く。
 俺も同じ意見だった。
 周囲の異変に気づくまでは。
 
「……まずいな」

 冒険者達が休息を取っている間に、周囲を偵察していた際に見つけた建物。村の裏口に設置されていた食糧庫などの蔵よりも、大きいが人の魔力は感じない。

 だが、建物に近づくにつれて、生物の気配を僅かに感じ始めた。
 人とは違う。数十種類の色を混ぜ込んだ様な魔力。それは、禁忌の錬金術――禁術から創り出される『キメラ』の特徴だ。

 俺は、破壊された状態の扉の外から中の様子を伺う。

 光を取り込む窓がない建物の中は、薄暗く、自然に冷えた空気が流れ出ている。それ程の距離まで近付いて、漸く生物の気配の正体に気付く。

 卵だ。
 二階建ての倉庫の屋根を突き破りそうな程の大きさの卵。全体に糸を纏った繭の様な姿。そして、鼓動と共に卵が動いている。
 孵化まで、時間はあまりない。

 俺以外にも、周囲の建物を調べていた冒険者達が、中から飛び出して来る。そして、大声で建物の中に、蟲型の魔物の卵があった事を報告していた。

 だが、状況は急激に動き出す。
 
 ルドルフやカシムの指示を待たずに、冒険者の1人が建物に火を放ってしまった。
 本来の対応としてなら、間違ってはいない。
 寧ろ、被害を抑えるなら、最善の場合もある。

 だが、既に孵化を間近に控えた卵は、周辺環境の変化に敏感に反応してしまう。
 つまり、火の熱に反応して魔物が孵化した。そして、その影響は周囲に伝播する。

「――っ!」

 俺は、咄嗟にその場から飛び退く。
 
 
 
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