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城人編
捜査三日目(日常が誇り)
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「普通に読めばガーデニングの本です。けどある方式に沿って読めば銃の製造方法が載っています」
「暗号ですか……」
ハクエンが呟く。
「祖父が残したものです。四ヵ国条約ができて武器の製造ができなくなりました。けどどうにかして今まで培ってきたものを残しておきたかったのだと思います。武器が製造できなくなり祖父はかなりの苦境に追い詰められたそうです。血反吐を吐く思いをして今の鉄道や車の部品を作る工場に変えました。そこまでしたこの工場を潰す訳にはいかないでしょう」
「……売り手はどうやって見つけたんですか?」
「借金を背負う少し前です。賭場でよく話す男がいました。気が合う男で仕事の相談をしたりなんかもしていました。その男が私の工場が昔、武器屋だと知って銃を作れば大儲けできるルートを知っていると言いました。その時は断りましたし、冗談だと思いました。けれど、事業が失敗してその本を見つけて一年前ぐらいに私は藁にも縋る思いでその男を頼りました。そしたら仲介をしてくれると」
「その男の名前は?」
「ユオ・オーピメンという男です。私より若く、髪は黒いです。右の二の腕に十字の傷があるのを見たことがあります。それ以外は……」
沈黙の後、ロドが立ち上がった。そして部屋にあった金庫を開けると中身が重そうな木箱と出して床に置いた。
「これも部品です。一年かけて部品の取引をしました。少しずつ運ぶことで怪しまれないように。今日の夜が最後の取引でした。この部品で銃は完成します」
「では、それが相手に渡らなければ銃は完成しないと? 」
ハクエンの言葉にロドは頷いた。
「あんたら素直に喋ったな。もう少しごまかしてもよかったんじゃないか? 」
セッシサンの言う通りだった。怪しい程にこの社長はすぐに吐いた。
「どっちにしろ今日で終わりのつもりだったんだ」
カルセドニーは微笑んだ。
「銃の製造なんて国際問題になるから表沙汰にはしないだろう? 」
「それは自分が罪にならないと? 」
ハクエンは眉を顰めた。
「違います。銃を製造した会社となれば潰すしかないでしょう。けれど例えば私が会社のお金で賭場に行っていたということになればまだ工場は続けられる可能性がある。それなら従業員達は路頭に迷わずすむ」
カルセドニーは立ち上がると蹲るウェルネルの傍にきてしゃがんだ。
「すまない、ウェルネル。お前が仕事の出来るのを利用した」
ウェルネルはゆっくりと身体を起こした。
「……俺は朝六時に起きます。妻のフローラはそれより早く起きて朝ご飯を作ってくれます。焼いたパンにベーコンと目玉焼き。それにスープ。スープは毎日具が違います」
ウェルネルは唐突に朝ごはんの話を始めた。けれど誰も止めなかった。
「七時半に家を出ます。シリマも起きてきてフローラと一緒に見送ってくれます。仕事は好きです。小さい頃から細かい作業が好きだったので。周りよりは得意だと思ってます。だからかみんな俺にお願いしてくることがあります。それが正直嫌だなって思うことはありますけど、だいたい嬉しいです。難しいことはみんなで相談してなんとか出来るようにしたりもします。そして出来たときの小さな感動も好きです。失敗もしますけど。仕事を終えて家に帰るとフローラが夕ごはんを作ってくれていて、次の日仕事に着て行くシャツに綺麗にアイロンをあててくれています。お疲れ様って言ってくれます。シリマも大人になったら鉄道をつくる仕事がしたいと言ってくれることがあります」
ウェルネルは顔を上げてカルセドニーを見上げた。瞳には涙が浮かんでいた。
「俺は小さいころから頭はあんまり良くないです。どっちかというと馬鹿です。だから今奥さんもいて、子どもいて、仕事があって、こんな毎日が過ごせる自分が信じられないぐらい嬉しいって思うんです。この毎日が俺の誇りなんです」
涙は頬を流れる。ウェルネルはカルセドニーにしがみ付いた。
「唯一の誇りだったんですよ!誇りは金なんかでどうにもならない!銃作るぐらいなら仕事がなくなった方がマシだった!俺はこれからどうすればいい!銃を作った金でフローラに美味しいご飯作って貰っていたなんて。銃を作った手でシリマを抱いていただなんて、そんな、そんな」
カルセドニーはただ呆然とウェルネルにされるがままだった。震えたウェルネルの手が、カルセドニーの胸から滑り落ちる。
「あなたがしたことは工場を、俺らの人生を守る為だったのかもしれない。それで工場が守れても俺らの人生どうなるんですか。これからは人殺しの道具を作っていたことを抱えて生きていかなくちゃならないんです。そんなものを作った親になるんですよ。俺の唯一の誇りだったんです。ただ毎日俺は真面目に働いていただけなんですよ。毎日ただ働いていただけなんです。それだけなんです」
ウェルネルは嗚咽を吐きながら再び蹲った。カルセドニーは彼にかける言葉がないのだろう。両手で顔を覆った。指の間から後悔と罪悪感が溢れ出ているようだった。
「確かにあなたたちは、作ってはいけないものを作ったを作った」
隣にカラミンが立っていた。
「けどそれは完成しませんでした。未遂ですみました。今は何を言っても耳に入らないでしょうが、覚えておいてください」
ウェルネルはただ嗚咽を漏らすだけだった。
「詳しくは八局で聞きましょう」
八局室とは城外にある尋問室の別称だ。ハクエンの声にカルセドニーはゆっくり立ち上がる。カラミンはロドの所に行く。
「あなたも」
ロドはしっかりと頷いた。カルセドニーはセッシサンが、ロドはカラミンが車まで連れていく。そして蹲くまっていたウェルネルを置いて、シズ達は部屋に出た。
「暗号ですか……」
ハクエンが呟く。
「祖父が残したものです。四ヵ国条約ができて武器の製造ができなくなりました。けどどうにかして今まで培ってきたものを残しておきたかったのだと思います。武器が製造できなくなり祖父はかなりの苦境に追い詰められたそうです。血反吐を吐く思いをして今の鉄道や車の部品を作る工場に変えました。そこまでしたこの工場を潰す訳にはいかないでしょう」
「……売り手はどうやって見つけたんですか?」
「借金を背負う少し前です。賭場でよく話す男がいました。気が合う男で仕事の相談をしたりなんかもしていました。その男が私の工場が昔、武器屋だと知って銃を作れば大儲けできるルートを知っていると言いました。その時は断りましたし、冗談だと思いました。けれど、事業が失敗してその本を見つけて一年前ぐらいに私は藁にも縋る思いでその男を頼りました。そしたら仲介をしてくれると」
「その男の名前は?」
「ユオ・オーピメンという男です。私より若く、髪は黒いです。右の二の腕に十字の傷があるのを見たことがあります。それ以外は……」
沈黙の後、ロドが立ち上がった。そして部屋にあった金庫を開けると中身が重そうな木箱と出して床に置いた。
「これも部品です。一年かけて部品の取引をしました。少しずつ運ぶことで怪しまれないように。今日の夜が最後の取引でした。この部品で銃は完成します」
「では、それが相手に渡らなければ銃は完成しないと? 」
ハクエンの言葉にロドは頷いた。
「あんたら素直に喋ったな。もう少しごまかしてもよかったんじゃないか? 」
セッシサンの言う通りだった。怪しい程にこの社長はすぐに吐いた。
「どっちにしろ今日で終わりのつもりだったんだ」
カルセドニーは微笑んだ。
「銃の製造なんて国際問題になるから表沙汰にはしないだろう? 」
「それは自分が罪にならないと? 」
ハクエンは眉を顰めた。
「違います。銃を製造した会社となれば潰すしかないでしょう。けれど例えば私が会社のお金で賭場に行っていたということになればまだ工場は続けられる可能性がある。それなら従業員達は路頭に迷わずすむ」
カルセドニーは立ち上がると蹲るウェルネルの傍にきてしゃがんだ。
「すまない、ウェルネル。お前が仕事の出来るのを利用した」
ウェルネルはゆっくりと身体を起こした。
「……俺は朝六時に起きます。妻のフローラはそれより早く起きて朝ご飯を作ってくれます。焼いたパンにベーコンと目玉焼き。それにスープ。スープは毎日具が違います」
ウェルネルは唐突に朝ごはんの話を始めた。けれど誰も止めなかった。
「七時半に家を出ます。シリマも起きてきてフローラと一緒に見送ってくれます。仕事は好きです。小さい頃から細かい作業が好きだったので。周りよりは得意だと思ってます。だからかみんな俺にお願いしてくることがあります。それが正直嫌だなって思うことはありますけど、だいたい嬉しいです。難しいことはみんなで相談してなんとか出来るようにしたりもします。そして出来たときの小さな感動も好きです。失敗もしますけど。仕事を終えて家に帰るとフローラが夕ごはんを作ってくれていて、次の日仕事に着て行くシャツに綺麗にアイロンをあててくれています。お疲れ様って言ってくれます。シリマも大人になったら鉄道をつくる仕事がしたいと言ってくれることがあります」
ウェルネルは顔を上げてカルセドニーを見上げた。瞳には涙が浮かんでいた。
「俺は小さいころから頭はあんまり良くないです。どっちかというと馬鹿です。だから今奥さんもいて、子どもいて、仕事があって、こんな毎日が過ごせる自分が信じられないぐらい嬉しいって思うんです。この毎日が俺の誇りなんです」
涙は頬を流れる。ウェルネルはカルセドニーにしがみ付いた。
「唯一の誇りだったんですよ!誇りは金なんかでどうにもならない!銃作るぐらいなら仕事がなくなった方がマシだった!俺はこれからどうすればいい!銃を作った金でフローラに美味しいご飯作って貰っていたなんて。銃を作った手でシリマを抱いていただなんて、そんな、そんな」
カルセドニーはただ呆然とウェルネルにされるがままだった。震えたウェルネルの手が、カルセドニーの胸から滑り落ちる。
「あなたがしたことは工場を、俺らの人生を守る為だったのかもしれない。それで工場が守れても俺らの人生どうなるんですか。これからは人殺しの道具を作っていたことを抱えて生きていかなくちゃならないんです。そんなものを作った親になるんですよ。俺の唯一の誇りだったんです。ただ毎日俺は真面目に働いていただけなんですよ。毎日ただ働いていただけなんです。それだけなんです」
ウェルネルは嗚咽を吐きながら再び蹲った。カルセドニーは彼にかける言葉がないのだろう。両手で顔を覆った。指の間から後悔と罪悪感が溢れ出ているようだった。
「確かにあなたたちは、作ってはいけないものを作ったを作った」
隣にカラミンが立っていた。
「けどそれは完成しませんでした。未遂ですみました。今は何を言っても耳に入らないでしょうが、覚えておいてください」
ウェルネルはただ嗚咽を漏らすだけだった。
「詳しくは八局で聞きましょう」
八局室とは城外にある尋問室の別称だ。ハクエンの声にカルセドニーはゆっくり立ち上がる。カラミンはロドの所に行く。
「あなたも」
ロドはしっかりと頷いた。カルセドニーはセッシサンが、ロドはカラミンが車まで連れていく。そして蹲くまっていたウェルネルを置いて、シズ達は部屋に出た。
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