154 / 241
過去編
百年の恋、もしくは隠された希望
しおりを挟む
百年と十数年前。アルマ・インデッセ城。
「ルリ様。ルリ様、どこにおられますか? 」
メイドのジルが赤に白、青に紫に黄色、鮮やかに揺れる花で満たされた中庭でルリを探した。ルリは詩集から顔を上げるとあずまやから顔を出す。
「ジル? 」
「ルリ様! 」
ジルは大きな声で呼ぶとあずルリに続く石畳を走り、中へ飛び込んだ。
「ルリ様、お部屋を出る時は一声おかけください。心配するではありませんか」
ジルは心配を込めて怒った。
「だってジルいなかったでしょう」
「メイド長に呼ばれ、お話をしていたのです。他のメイドの者におっしゃってくだされば」
「インデッセの人は信用できないわ」
ルリはインデッセの城での環境に飽き飽きしているのを隠すこともしなかった。ジルはベグテクタから唯一ルリに付いてきたメイドで、ルリが唯一インデッセ城で心を許している人間だった。ジルはルリの発言に冷や汗をかき、用心深く辺りを見渡す。人影はなく、花と木々があるだけだった。ルリに詰め寄るとジルは潜めた声で主を咎めた。
「ルリ様、そのようなことを口にするものではありません。王子はあなたさまに仕事のできる真面目な世話係を選んでくださっております。スピネ王子はルリ様が思うほど冷たいお人でありませんよ」
「そのルリ様っていうのもクソだわ! 私の名前は、リチのはずなのに。死んだお母様が付けてくださった大好きな名前だったのに」
ルリの口から「クソ」という王族にあるまじき言葉が出て、ジルは絶句しあまりのショックにふらついた。
「ジル大丈夫? 」
ルリが詩集を閉じて心配をした。
「危うく気絶しかけましたわ。それにしてもそんな、クソなんてお言葉、」
ジルは慣れない下品な言葉に、口が腐ってしまうのではないかと思う程の不快を感じた。
「そんなお下品な言葉をどこでお覚えになられてしまったのですか? 」
「カルサからの手紙よ。最近お忍びで街へおりているんですって。そこで庶民の言葉を覚えているのよ」
カルサとはルリのひとつ下の弟でベグテクタの第一王子である。周りには気弱な王子として将来を心配されているが、ルリは懐の深い感情を持つ弟を誇りに思っていた。ルリの父親であるオブシディよりも立派な王になると確信していた。けれど周りはそんな確信を持っている人間はほぼいなかった。
「すぐに手紙を書いて、カルサ王子のそのご趣味をやめさせるように伝えなければなりませんね」
「あら、そうかしら? 庶民の生活を肌で知ることは国の王にとってはとても大事なことだと私は思うわ」
ルリは太陽の光を滑らすほどの美しい黒髪を揺らし微笑んだ。その笑みはルリの幼さを垣間見えた。ルリにとってインデッセの城での生活は緊張の続く毎日であった。ジルもそれは分かっていた。十四歳の子に国の関係の橋渡しという重荷がある。その重荷が一生このインデッセの地で続くのであった。
ルリは十三歳でインデッセの王子であるスピネの元に嫁いだ。スピネは当時十九歳であった。インデッセは元々移住民によってできた国であった。移民の多くは貧困層で、生きていく新しい場所を求めた者ばかりだった。インデッセは冬が長く、土地の開拓もまだ不十分であり食糧難が続いた。貧困が続くインデッセに最初に食物の輸出を申し出たのはオードであった。オードは自分の国にインデッセに移住した者たちが難民としてオードに戻ってくるのを危惧したのだ。インデッセとオードは端同士で土地では離れていたが、弓なりの形をした島のお陰で海路で行けば時間を短縮できた。外交をしなければ孤立してしまうため、インデッセはこの話を受けた。だが、オードは食物を通常の三倍以上でインデッセに輸出をした。それにインデッセは反発したが、オードが安くするならこの貿易を白紙に戻すと言い付けた。その頃、インデッセの隣国のカサヌも小麦が不作、流行り病もあり他国に分け与えるほどの食料を蓄えてはいなかった。飢餓が増えれば治安が悪くなる。その時すでにその傾向が見られており、インデッセの王トテールはこの不平等を受け入れた。
不平等貿易を押し付けたオードは、隣国であるベグテクタと鉱山の権利について揉めていた。ベグテクタが先に銀の鉱山を見つけ、掘り進めていた。するとオードが国境を越えているとベグテクタに抗議した。そのため産出した銀を三分の一寄こすように言った。ベグテクタは鉱山掘る費用はすべてベグテクタ持ちであることを理由に三分の一は取り過ぎだと抗議を返した。そしてオードの国境を越えないように対策をすることを理由にこの決裂を終わらそうとしが、オードは難色を示した。オードは当時四国の中で一番力を持ち、強欲であった。オードとベグテクタは互いに睨み合うことが続いた。その現状を知ったインデッセのトテール王が、息子の嫁にベグテクタの姫をとベグテクタのオブシディ王に話を送った。この婚約の目的は同盟を結んでおこうということであった。オブシディは考えたが将来戦争になったとき、インデッセと手を結んでおけばインデッセが海から、ベグテクタが陸から攻めることができる。無下にするよりかはいいと、娘のティーをインデッセへと嫁がせた。そしてリチは十三歳という幼さでスピネと結婚し、ルリとなった。ルリとスピネは戦争に備えて結婚したのだった。
「ルリ様。ルリ様、どこにおられますか? 」
メイドのジルが赤に白、青に紫に黄色、鮮やかに揺れる花で満たされた中庭でルリを探した。ルリは詩集から顔を上げるとあずまやから顔を出す。
「ジル? 」
「ルリ様! 」
ジルは大きな声で呼ぶとあずルリに続く石畳を走り、中へ飛び込んだ。
「ルリ様、お部屋を出る時は一声おかけください。心配するではありませんか」
ジルは心配を込めて怒った。
「だってジルいなかったでしょう」
「メイド長に呼ばれ、お話をしていたのです。他のメイドの者におっしゃってくだされば」
「インデッセの人は信用できないわ」
ルリはインデッセの城での環境に飽き飽きしているのを隠すこともしなかった。ジルはベグテクタから唯一ルリに付いてきたメイドで、ルリが唯一インデッセ城で心を許している人間だった。ジルはルリの発言に冷や汗をかき、用心深く辺りを見渡す。人影はなく、花と木々があるだけだった。ルリに詰め寄るとジルは潜めた声で主を咎めた。
「ルリ様、そのようなことを口にするものではありません。王子はあなたさまに仕事のできる真面目な世話係を選んでくださっております。スピネ王子はルリ様が思うほど冷たいお人でありませんよ」
「そのルリ様っていうのもクソだわ! 私の名前は、リチのはずなのに。死んだお母様が付けてくださった大好きな名前だったのに」
ルリの口から「クソ」という王族にあるまじき言葉が出て、ジルは絶句しあまりのショックにふらついた。
「ジル大丈夫? 」
ルリが詩集を閉じて心配をした。
「危うく気絶しかけましたわ。それにしてもそんな、クソなんてお言葉、」
ジルは慣れない下品な言葉に、口が腐ってしまうのではないかと思う程の不快を感じた。
「そんなお下品な言葉をどこでお覚えになられてしまったのですか? 」
「カルサからの手紙よ。最近お忍びで街へおりているんですって。そこで庶民の言葉を覚えているのよ」
カルサとはルリのひとつ下の弟でベグテクタの第一王子である。周りには気弱な王子として将来を心配されているが、ルリは懐の深い感情を持つ弟を誇りに思っていた。ルリの父親であるオブシディよりも立派な王になると確信していた。けれど周りはそんな確信を持っている人間はほぼいなかった。
「すぐに手紙を書いて、カルサ王子のそのご趣味をやめさせるように伝えなければなりませんね」
「あら、そうかしら? 庶民の生活を肌で知ることは国の王にとってはとても大事なことだと私は思うわ」
ルリは太陽の光を滑らすほどの美しい黒髪を揺らし微笑んだ。その笑みはルリの幼さを垣間見えた。ルリにとってインデッセの城での生活は緊張の続く毎日であった。ジルもそれは分かっていた。十四歳の子に国の関係の橋渡しという重荷がある。その重荷が一生このインデッセの地で続くのであった。
ルリは十三歳でインデッセの王子であるスピネの元に嫁いだ。スピネは当時十九歳であった。インデッセは元々移住民によってできた国であった。移民の多くは貧困層で、生きていく新しい場所を求めた者ばかりだった。インデッセは冬が長く、土地の開拓もまだ不十分であり食糧難が続いた。貧困が続くインデッセに最初に食物の輸出を申し出たのはオードであった。オードは自分の国にインデッセに移住した者たちが難民としてオードに戻ってくるのを危惧したのだ。インデッセとオードは端同士で土地では離れていたが、弓なりの形をした島のお陰で海路で行けば時間を短縮できた。外交をしなければ孤立してしまうため、インデッセはこの話を受けた。だが、オードは食物を通常の三倍以上でインデッセに輸出をした。それにインデッセは反発したが、オードが安くするならこの貿易を白紙に戻すと言い付けた。その頃、インデッセの隣国のカサヌも小麦が不作、流行り病もあり他国に分け与えるほどの食料を蓄えてはいなかった。飢餓が増えれば治安が悪くなる。その時すでにその傾向が見られており、インデッセの王トテールはこの不平等を受け入れた。
不平等貿易を押し付けたオードは、隣国であるベグテクタと鉱山の権利について揉めていた。ベグテクタが先に銀の鉱山を見つけ、掘り進めていた。するとオードが国境を越えているとベグテクタに抗議した。そのため産出した銀を三分の一寄こすように言った。ベグテクタは鉱山掘る費用はすべてベグテクタ持ちであることを理由に三分の一は取り過ぎだと抗議を返した。そしてオードの国境を越えないように対策をすることを理由にこの決裂を終わらそうとしが、オードは難色を示した。オードは当時四国の中で一番力を持ち、強欲であった。オードとベグテクタは互いに睨み合うことが続いた。その現状を知ったインデッセのトテール王が、息子の嫁にベグテクタの姫をとベグテクタのオブシディ王に話を送った。この婚約の目的は同盟を結んでおこうということであった。オブシディは考えたが将来戦争になったとき、インデッセと手を結んでおけばインデッセが海から、ベグテクタが陸から攻めることができる。無下にするよりかはいいと、娘のティーをインデッセへと嫁がせた。そしてリチは十三歳という幼さでスピネと結婚し、ルリとなった。ルリとスピネは戦争に備えて結婚したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる