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布石は揃った
しおりを挟む「約束していた買い物は済ませてくれたわよね?」
豊穣祭当日は祭司にふさわしい快晴であった。メアリーは日傘で肌へのダメージを防ぎながら、執事に問いかける。
「はい、お嬢様のご指示通りに」
「よくやったわ。忙しい中、難しい仕事を頼んでしまってごめんなさいね」
「長年、お嬢様や旦那様から頂いたモノと比べれば、この程度の苦労は大したことではありませんよ」
モルガナ教会に入ると中からはきらびやかな服をまとった神官長が現れた。
「お待ちしておりました。本日は豊穣祭に参加して頂きありがとうございます」
重要な式典なだけあって派手な服ね。
服の形状そのものは、一般的な神官服だが、使われている生地は金色で、小さな宝石が縫い付けてある。
「ところで神官長。素敵な装いですが、祭司の日に着るものとしては少々派手すぎないかしら?」
「痛いところを突かれましたね。お嬢様のおっしゃりたいことは最もですが、信者や下々の神官に威厳を示すには、この服装が一番よいのです」
神官長は苦笑いをしながら答える。
「なるほど。豪華な服装で下々の者に権威を示すのは、昔からよく使われてきた方法ですものね」
神という人知が及ばない存在と意思疎通ができる神官は、時代によっては皇帝の上に立つことができるほどの存在だった。
今の時代でも権力や金をむさぼる神官は無数に存在する。
権威にすがるもの。
彼らにとって最大の恐怖は、人々の失望、疑いの目、そして、非難であろう。
「休憩用の部屋をご用意致しました。豊穣祭までは、まだ時間がありますのでお休みになるのはどうでしょうか?」
「そうさせて貰うわ。ありがとう」
神官長に導かれてたどり着いた部屋では、茶菓子の準備をしているアルとドリーが待っていた。
伯爵令嬢を迎える部屋としては、少々豪華さに欠ける気がするが、今日は皇族を含めた上位貴族が出席しているはずだ。
ここよりもっと良い部屋は、メアリーよりも上位の貴族が使っているのだろう。
「こら、お前たち。メアリーお嬢様がいらっしゃるまでには終わらせておけと言っただろう?」
「待ってちょうだい。私は茶菓子の支度が遅れたところで気にならないし、子供と話すのは好きよ。どうせだし、彼らを話し相手として残して貰えないかしら?」
「メアリーお嬢様がそうおっしゃるのなら……」
神官長はどこか釈然としないような表情で返答してから、立ち去って行った。
「みんな、おはよう」
メアリーが身をかがめて挨拶をすると、アルとドリーは「おはようございます、メアリーお嬢様」と丁寧に答えた。
背筋を伸ばして挨拶をする様子は、一生懸命大人の真似をする子供のよう。
「私のメモは読んでくれた?」
「はい、他の子にもしっかりと指示を伝えてあります」
メアリーが小さなか声で問いかけると、アルが冷静な表情で答える。
「”彼女”は来てくれたのでしょうか?」
「それなら問題ないわ。さぁ、初めましょう作戦実行よ」
***
豊穣祭の起源は千年前。人間が帝国を作り上げたばかりのごろ。皇女が月の女神に一年の豊作を祈ったことが起源らしい。
そのためもあってか、豊穣祭には皇族も参加することが、しきたりとなっていた。
だからといってもねぇ――。
「豊穣祭は民のためにある祭りだというのに、我々が神の像に近い場所に居ても良いのでしょうか?」
隣に座っているウィリアムが呟く。
どうして貴方が私の隣にいるのよー!
教会の前に立てられた女神像。
その前では神官たちが祈祷の言葉を述べている。
神官たちの後ろに設置された簡易休憩スペースでは貴族がくつろぎ、さらに遠方では祭司の様子を眺めに来た平民で溢れかえっていた。
もちろん、休憩スペースの並びにも序列があり、皇族が女神像の一番近く。伯爵家出身であるメアリーなど、平民と近い場所に居るべきであるのに――。
「皇族である貴方が民のために祈るのですから、一番、女神様の近くにいるべきだと私は考えます。どうか帝国を代表する者として、国民の平和を願う言葉を演説で述べて下さい」
「言われてみれば、その通りですね。やはり、貴方の見解は聞いていて面白いです」
どういうわけか、メアリーに用意された席はウィリアムの隣であった。
神官長によればウィリアムが、隣の席にするよう指示したらしい。
絶対、明日の社交界は私の噂で持ち切りでしょうね……。
とはいえ、計画の進行に支障はない。
さぁ、初めましょう。
ショーの始まりよ。
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