断罪するのは天才悪女である私です〜継母に全てを奪われたので、二度目の人生は悪逆令嬢として自由に生きます

紅城えりす☆VTuber

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決戦

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 王都の城壁を超えて外に出ようとする妖精の姿があった。
 オレンジ色のドレスと髪の先は、燃えており、背中からはカラスの羽が生えている。

 魔法で身体を強化したメアリーは、屋根の上を飛び移りながら妖精を追いかけていた。

 できるだけ下は見ないでおこう……。

 こんな体験をするのは、今日が最初で最後であることを願うわ。

 やっとの思いで、オレンジ色の妖精に追いついたメアリーは口を開く。

「お義母様、いったいどこに逃げるつもりかしら?」

 オレンジ色の妖精――否、ムリアは振り返る。彼女の表情にかつて見慣れていた聖母のような輝きはない。
 目を三日月型に歪ませて、貼り付けたゆうな笑みでメアリーを見つめる。

「よく追いついたわね、メアリー。しかも、一人で」

 やけに”一人”という部分を強調するムリア。おそらく、彼女はメアリーがメギスと一緒に来なかったことを喜んでいるのだろう。

「短い間だったとはいえ、可愛がっていた娘を傷つけたくはないわ」

「まぁ、似たような台詞をフィネラの教育係ナニーメイドにもおっしゃっていましたね」

「ふぅん、やっぱり貴方は私の知らないところで随分と熱心に調べ物をしていたようね」

 ムリアは忌々しそうに鋭い視線でメアリーを睨んでから、右手を振り上げる。
 直感的に危機を感じ取ったメアリーは、横側へ素早く移動。その際、体勢を崩して屋根から滑り落ちそうになる。
 メアリーの耳についた二色の宝石が煌めいた。

 滑り止めの呪文を靴にかけておいて良かったわ。あやうく落下するところだった……。


「諦めなさい、空すら飛べない人間風情に勝ち目はないわ」

 ムリアは高笑いしながら段々と近づいてきた。足音はない。彼女の体は地面から僅かにはなれているからだ。

「夜の女王にさえ邪魔されていなければ、私は今頃、神託を受け民衆を導く巫女のフリをしていたというのに。よくも邪魔してくれたわねぇ。えぇ、でも……私に救いを求めれば見逃してあげてもいいけど?」

「あら、お優しいのね」

「ふふっ、さっきも言ったでしょ? 貴方を傷つけたくないって」

 至近距離まで近づいたムリアはメアリーに手をさしのべた。
 メアリー手で顔を覆う。

「うぅ……ごめんなさい。お義母様」

 手を離したメアリーの頬には涙が伝っていた。

「ごめんなさい、私が悪かったの。ただ私は長男のお兄様ばっかり構ってもらえるのが羨ましくて……」

「まぁ、そうだったのね。今まで寂しい思いをさせてごめんね」

 メアリーとムリアの手が触れ合った時であった――。

「はぁ、なんのつもりよ!」

 王都中にムリアの悲鳴が響き渡った。
 ムリアの手はメアリーと触れた部分から徐々に石化してゆく。

「こんな分かりやすい嘘にまで騙されて。貴方って本当になにも考えていないのねぇ!」

「わけが分からないわ。貴方一人の魔力で私に太刀打ちできるわけないでしょ!」

 ムリアは甲高い声で呪文を唱え続け、爆発の魔法や、火の雨を降らせる魔法を発動し続けたが、メアリーが手を離すことはなかった。

 ここで諦めたらダメよ。
 せっかく、この女を捕まえたもの。

「残念ね。私は一人で来たわけではないのよ」

「なんですって?」

 メアリーがニンマリと笑ったと同時に、耳飾りが光の粒へと変化し、やがて青年の姿に変わる。

「やっほー、フィネラ……じゃなくてムリア」

「メギス……姿がないと思ったけど、耳飾りに化けていただなんて……」

「うん、しっかり騙されてくれたね」

 ムリアは奥歯を噛み締めながら、顔を歪ませた。
 放たれる魔法の威力も段々と下がってきている。おそらく、魔力切れが近いのだろう。

 時折、火花が肩をかすめそうになったが、メギスが魔法で弾いてくれた。

「じゃあ、その涙はなんなのよ!」

 石化していない方の手で、メアリーを指さすフィネラ。
 
「一番簡単に涙を流す方法をご存知ないのね? あくびをすればいいのよ」

「はぁ……なによそれ……」

 首元まで石化したムリアはもう観念したらしく、呪文を唱えなかった。代わりに、駄々をこねる子供のように大声をあげ始める。

「どうして私ばっかりいつも酷い目に遭うのよぉ。なにも悪いことなんてしてないじゃない。私はただ人間で遊びたいだけなのにぃ!」

「ムリア、最後に良いことを教えてあげる。貴方にとって一番致命的な弱点は、相手の立場になって考えられないことよ」

「うるさい、醜い人間風情が私に指図するなぁ!」

 メアリーがムリアに言い返そうと口を開いたが、声が彼女に届くことはなかった。

 なぜならば屋根よりはるか下――地面の方から人々の叫び声が聞こえてきたからだ。

――ふざけるなぁ!

――醜いのはアンタの方よ!

――直接、敵に手を下す覚悟が無い上に、自分を磨くために努力すらしない女め!

――誰も貴方を美しいと思わない!

――もう誰もお前を認めない!


「なによ、今まで騙されてきたのは貴方たちの方じゃない。いまさらなにを……」

 ムリアの絶叫は最後まで響くことなく、消え果てた。彼女の全身は大理石の彫刻になり、もう動くことはない。

 メアリーはただ静かにムリアを見上げながらクスクスと笑った。

「ありがとう、ムリア。ずっと、貴方の絶望する顔が見たかったのよ」

 終わった。やっと、終わったんだ!

 メアリーは立ち上がろうとしたが、全てが終わった安堵感のせいで全身に力が入らなかった。メギスが倒れそうになったメアリーの体を受け止める。

「大丈夫かな?」

「ごめんね、メギス。もう疲れちゃったわ」

「そうか……だったら……」

 メギスはメアリーの背と膝に手を回し、そのまま体を持ち上げる。

「ひぇ……!」

 驚きのあまり小さな悲鳴をあげるメアリー。

「ねぇ、重くないの?」
「全然、むしろちゃんとご飯食べてるか心配になるぐらい軽いよ」
「私を持ったまま降りるつもり……?」
「もちろん、翼がなくたって飛ぶことはできるからね」
「それって、どういう……」

 メギスはメアリーを抱えたまま、屋根の外へと一歩踏み出す。途端に、メギスの体はフワフワと浮き始めたが、状況を理解できないメアリーは悲鳴をあげた。
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