61 / 65
援軍
しおりを挟む
むせ返るような熱気と罵倒に包まれた城壁に囲まれた町、王都では火の手が上がっていた。
「予言通りの光景だな……」
暴動を鎮圧するため現場で指揮をとっていたフィンは、鼻で笑いながら王都の様子を眺めていた。
「皇太子殿下、西門が破壊されました。東の兵力も二割ほど……」
一人の兵士が近寄り、跪く。
「できるだけ武力行使は必要最低限に収めたかったのだが、仕方あるまい。魔道石を使うしか……」
フィンが奥歯を噛み締めながら空を眺めていると――スパッと空を鉄の塊が薙るおとが響く。
音の正体は、兵士に支給された鉄剣であった。もちろん、振ったのは報告に来た剣士。
フィンは即座に後方へ攻撃を回避。そのまま、剣を鞘から抜き鎧で覆われていない兵士の足を狙って一振り。
「神の冒涜者めぇ!」
兵士はかなり深い傷を負ったにも関わらず、一直線にフィンへ剣先を向けた。
「まだ動けるかっ……!」
フィンは再び攻撃を避け、今度は剣士の首筋を殴って義絶させた。
「こういった荒事はウィリアムの方が得意なのだが……いや、あいつに殺さぬよう手加減させるのは無理か」
血を流しながら倒れる兵士を止血して道脇で寝かせるようフィンが部下に指示をする。
再び戦場に向き合った時であった。
「声が聞こえる……」
フィンを含めた全ての皇軍に女性の歌声が響く。優しく慈愛に溢れた。そんな声が。
兵士だけではない一般市民まで全員の耳に歌声は響いていた。
空を見上げたフィンは絶句した。
空――だけではない。屋根や見張り塔、風車の上にまで、数え切れぬほどの妖精が立っていたのだ。
男、女、虫の羽を生やした者から、蝶の羽を生やす者。頭には花飾りが乗っていたり、中には鹿の角が生えた者もいる。着ている衣装も花弁で作ったドレスや、人間の使っているものに近しい衣装まで様々である。
かつてトリスメギストスが夜の女王に勝利してから、妖精は人間の前に姿を表すことはなくなった。
初めて妖精の姿を見た民衆は息を飲み、言葉を失った。
『人間の皆様、ごきげんよう。どうか怖がらないでね、貴方たちを傷つけるつもりはないから。私たちは、ただ真実を伝えるために集まったのです』
突如脳内に響き始めた声に、困惑が隠せない民衆はざわめき始める。
「……真実?」
「妖精が俺たちになにを教えるって言うんだ!」
「というか、この頭に直接声が響くような感覚……神託のときと同じよね?」
『単刀直入に言いましょう。先ほど貴方たちに神託を授けたのはムリアという妖精です。女神の名を騙り貴方たちを利用しようとしたのです。今から、ムリアの真実についてお話します。どうか、耳を傾けて……』
突如、謎の声から告られた真実に人々は錯乱し、悲鳴を上げ、落胆した。中には声に耳を傾けるなと言う者も居たが、声がムリアの過去を明かすに連れて段々と声は静まっていった。
ムリアが偽装と洗脳を得意とする妖精であること。
計画性のない快楽主義者で、基本的に承認欲求が満たされればどのような残虐な行為にも及ぶこと。
今まで皇族、吟遊詩人、ダンサーまで数々の人間に成りすまし、その度に大きな被害をもたらしてきたこと。
「信じ難い話だけど、たしかにムリアが成りすましてきた人間の周りでは不審死が相次いでいる」
「……嘘だ。俺たちはこんな卑劣な妖精に騙されていたのか!」
「そのムリアとやらをさっさと捕まえちゃいましょうよ!」
下ろしていた武器を取り、雄叫びを上げ始める民衆。
『待ちなさい、ムリアは人に成りすますことが得意な妖精です。このままでは、貴方たちはムリアと間違えて大切な人たちを傷つけてしまいます』
謎の声により大きく状況が変わったことに、戸惑うフィン。
「……助かったのか?」
「予言通りの光景だな……」
暴動を鎮圧するため現場で指揮をとっていたフィンは、鼻で笑いながら王都の様子を眺めていた。
「皇太子殿下、西門が破壊されました。東の兵力も二割ほど……」
一人の兵士が近寄り、跪く。
「できるだけ武力行使は必要最低限に収めたかったのだが、仕方あるまい。魔道石を使うしか……」
フィンが奥歯を噛み締めながら空を眺めていると――スパッと空を鉄の塊が薙るおとが響く。
音の正体は、兵士に支給された鉄剣であった。もちろん、振ったのは報告に来た剣士。
フィンは即座に後方へ攻撃を回避。そのまま、剣を鞘から抜き鎧で覆われていない兵士の足を狙って一振り。
「神の冒涜者めぇ!」
兵士はかなり深い傷を負ったにも関わらず、一直線にフィンへ剣先を向けた。
「まだ動けるかっ……!」
フィンは再び攻撃を避け、今度は剣士の首筋を殴って義絶させた。
「こういった荒事はウィリアムの方が得意なのだが……いや、あいつに殺さぬよう手加減させるのは無理か」
血を流しながら倒れる兵士を止血して道脇で寝かせるようフィンが部下に指示をする。
再び戦場に向き合った時であった。
「声が聞こえる……」
フィンを含めた全ての皇軍に女性の歌声が響く。優しく慈愛に溢れた。そんな声が。
兵士だけではない一般市民まで全員の耳に歌声は響いていた。
空を見上げたフィンは絶句した。
空――だけではない。屋根や見張り塔、風車の上にまで、数え切れぬほどの妖精が立っていたのだ。
男、女、虫の羽を生やした者から、蝶の羽を生やす者。頭には花飾りが乗っていたり、中には鹿の角が生えた者もいる。着ている衣装も花弁で作ったドレスや、人間の使っているものに近しい衣装まで様々である。
かつてトリスメギストスが夜の女王に勝利してから、妖精は人間の前に姿を表すことはなくなった。
初めて妖精の姿を見た民衆は息を飲み、言葉を失った。
『人間の皆様、ごきげんよう。どうか怖がらないでね、貴方たちを傷つけるつもりはないから。私たちは、ただ真実を伝えるために集まったのです』
突如脳内に響き始めた声に、困惑が隠せない民衆はざわめき始める。
「……真実?」
「妖精が俺たちになにを教えるって言うんだ!」
「というか、この頭に直接声が響くような感覚……神託のときと同じよね?」
『単刀直入に言いましょう。先ほど貴方たちに神託を授けたのはムリアという妖精です。女神の名を騙り貴方たちを利用しようとしたのです。今から、ムリアの真実についてお話します。どうか、耳を傾けて……』
突如、謎の声から告られた真実に人々は錯乱し、悲鳴を上げ、落胆した。中には声に耳を傾けるなと言う者も居たが、声がムリアの過去を明かすに連れて段々と声は静まっていった。
ムリアが偽装と洗脳を得意とする妖精であること。
計画性のない快楽主義者で、基本的に承認欲求が満たされればどのような残虐な行為にも及ぶこと。
今まで皇族、吟遊詩人、ダンサーまで数々の人間に成りすまし、その度に大きな被害をもたらしてきたこと。
「信じ難い話だけど、たしかにムリアが成りすましてきた人間の周りでは不審死が相次いでいる」
「……嘘だ。俺たちはこんな卑劣な妖精に騙されていたのか!」
「そのムリアとやらをさっさと捕まえちゃいましょうよ!」
下ろしていた武器を取り、雄叫びを上げ始める民衆。
『待ちなさい、ムリアは人に成りすますことが得意な妖精です。このままでは、貴方たちはムリアと間違えて大切な人たちを傷つけてしまいます』
謎の声により大きく状況が変わったことに、戸惑うフィン。
「……助かったのか?」
21
あなたにおすすめの小説
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし
さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。
だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。
魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。
変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。
二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります
恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」
「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」
十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。
再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、
その瞬間に決意した。
「ええ、喜んで差し上げますわ」
将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。
跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、
王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。
「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」
聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する
紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。
私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。
その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。
完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる