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8 オークニー使節団到着
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猪や鹿、兎、野鳥など様々な獲物。
歓待に使う肉としては十分すぎる量だった。
「狩りを手伝ってくれた猟師や兵士の皆さんにも分けてあげましょう。それと第五区荘園の農夫の方々にも」
余剰分をみんなに平等に分けると、荘園監督官のフィンが満面の笑みで礼を言ってきた。
「王妃殿下、ありがとうございます。みんな大喜びですよ。猟師も許可が出たときでも大きな獲物は捕れませんからね」
「こんな事で喜んでもらえるのなら。こちらも助かりました。これで歓待に使う肉料理の件は安心です」
だがフィンとは対照的に騎士ウィリアムの表情は暗かった。
「猟の許可までは陛下もそこまで咎めないでしょう。しかし、獲物を兵や農奴にまで分けてしまわれるのは」
「いけませんか?」
「あまり好ましいことではないと存じます。陛下のお怒りに触れてしまわないかと」
「この件であなた方に迷惑をかけてしまうつもりはなかったのですが。もしそんなことになったらお詫びのしようもありません」
こちらからの提案とはいえ、協力してくれたウィリアムやフィンが責められてしまうのは申し訳ない。
わたしがうなだれると、ウィリアムは違います、とすぐに否定した。
「わたしのことは気になさらずとも良いのです。わたしが言っているのは、ただでさえ立場の危うい王妃殿下の身を案じてのことで」
これは少し意外だった。
初対面ではアレックス王の命令でわたしの首に剣を突きつけた男が。
多少はわたしの境遇に同情しているかもしれないが、心配してくれているようなことを言ってくれるとは思わなかった。
「ありがとう。そう言ってくれる方がいてくれるだけでも心強いです」
「……いえ、俺は、わたしは別に……」
ウィリアムは赤くなって口ごもる。
わたしは帰りましょう、と微笑んで馬を進めた。
✳ ✳ ✳
そしてついに訪れたオークニー使節団の訪問の日。
西の港へ無事に到着した使節団は、ダラムの護衛兵に守られながら王都へ入る。
王城へ向かう途中の歓迎パレードも問題なく進行。
王城前でわたしと廷臣らが出迎える。
使節団の人数は全員で十名。いずれもオークニーの重臣かそれに次ぐ地位の者だ。
王城へ入るとすぐに歓待のパーティーへ。
会場の準備も万全。なんの問題もなく、使節団を招き入れる。
王妃のわたしが使節団を歓迎する挨拶。
使節団の代表も挨拶を返した。
「かような豪勢な歓待ぶり、一同感激しております。それに驚きましたぞ。ダラム国王陛下にこのような美しいお妃がおられるとは」
使節団代表のエドワーズ提督が杯を掲げながら上機嫌にそう言った。
「ええ、急に決まった婚礼でしたので。そちらへの通達が遅れたのはお詫びします。この場に不在の陛下の件も兼ねて」
「いえ、此度の戦も急なことだったのでしょう。お会いできぬのは残念でしたが、代わりによい土産話ができた」
立派な髭をたくわえたエドワーズ提督は他の使節団のメンバーと顔を見合わせながら笑う。
料理の内容にも十分に満足したようだった。
「いや、この猪の丸焼きは絶品ですな。よく肥えて肉付きがいい。こちらの鹿は腹に香草が詰まっている。この風味もたまらない」
「こっちの野鳥の串焼きも美味ですぞ。おお、こちらのソースに付ければよろしいのかな?」
「はい。胡椒にクローブ、ヴェルジュ風味のものを揃えていますのでお好みに合うように」
「むむ、この小麦と卵黄の粥も鹿肉の付け合わせにはよく合いますなあ。さすがはダラムの豊かな風土から採れる食材は違う」
「使節団の皆様のために新鮮なものを取り揃えておきましたので。料理人も今日のために万全な準備をしてまいりました」
食事の合間には演奏や劇、余興の出し物。
これにも使節団のメンバーは手を打って喜んでいた。
落ち着いたところで召使いたちに寝室へと案内させる。
今日は来たばかりの初日なので早めに休んでもらうつもりだ。
「いや、今日は十分に楽しませて頂きました。明日からは視察やら会談で忙しくなりますが、よろしくお願いします」
会場を去り際にエドワーズ提督が代表で礼を言ってきた。
わたしも会釈してそれに応える。
「こちらこそよろしくお願いします。現地では信頼のおける部下が詳しく説明してくれるでしょうから、なんでもお聞きください」
「はい。一同、楽しみにしております」
初日の対応はこれで終了。
計画書通りに進行できたし、使節団の方々も喜んでいた。成功したといっていい。
自室に戻って、明日からの日程を確認する。
「あなたも早めに休んだら? ただでさえ気を遣って疲れたでしょう」
ジェシカが心配そうに声をかけてくる。
今日は召使いのハリエットもいる。
毎日ある使節団の会食の準備や片付けにクタクタになっているはずだが、本人はジェシカと同じくわたしのほうを気遣っている。
「そうですよ、王妃殿下。仕事の合間にこっそり王妃殿下を見に行くんですが、とても忙しそうで心配です」
わたしはありがとう、と礼を言いながらも計画書から目を離さない。
ジェシカとハリエットは呆れたようにため息をつく。
「勉強も狩りも出来て、しかも美人。それで努力家なんてどこまで完璧なのよ。あなたを見てると、自分の存在がとてもちっぽけなモノに感じるわ」
「わたしは……完璧なんかじゃありませんよ。各分野ではウィリアムやフィンの助けが必要ですし、あなたのように誰からも好かれる朗らかさもありません」
「むぅ~、しかも謙虚で性格がいいなんて。やっぱり完璧じゃん!」
冗談めかして笑うジェシカとハリエット。わたしもつられて笑う。
「もう少しで終わりますから、ふたりとも先に休んでてください。明日は早いのでしょう?」
「うん。悪いけど、そうさせてもらう。レイラもあんまり無理しないでね」
「おやすなさい、王妃殿下」
そう言ってふたりはわたしの部屋から退出する。
彼女自身はああ言っているが、本当にわたしだけではどうにもならなかったことが多い。
ウィリアムやフィン、狩りを手伝ってくれた兵や猟師たち。
情報を集めてくれたジェシカとハリエット。何よりわたしの身近に味方がいてくれるというのが、どれほど心強いか。
本当に感謝している。わたしの表情や言葉だけではみんなにちゃんと伝わらないのがもどかしいけれど。
明日は午前中から兵の調練を視察する予定だった。
みんなの協力を無駄にしないためにも、わたしはまた計画書に目を通した。
歓待に使う肉としては十分すぎる量だった。
「狩りを手伝ってくれた猟師や兵士の皆さんにも分けてあげましょう。それと第五区荘園の農夫の方々にも」
余剰分をみんなに平等に分けると、荘園監督官のフィンが満面の笑みで礼を言ってきた。
「王妃殿下、ありがとうございます。みんな大喜びですよ。猟師も許可が出たときでも大きな獲物は捕れませんからね」
「こんな事で喜んでもらえるのなら。こちらも助かりました。これで歓待に使う肉料理の件は安心です」
だがフィンとは対照的に騎士ウィリアムの表情は暗かった。
「猟の許可までは陛下もそこまで咎めないでしょう。しかし、獲物を兵や農奴にまで分けてしまわれるのは」
「いけませんか?」
「あまり好ましいことではないと存じます。陛下のお怒りに触れてしまわないかと」
「この件であなた方に迷惑をかけてしまうつもりはなかったのですが。もしそんなことになったらお詫びのしようもありません」
こちらからの提案とはいえ、協力してくれたウィリアムやフィンが責められてしまうのは申し訳ない。
わたしがうなだれると、ウィリアムは違います、とすぐに否定した。
「わたしのことは気になさらずとも良いのです。わたしが言っているのは、ただでさえ立場の危うい王妃殿下の身を案じてのことで」
これは少し意外だった。
初対面ではアレックス王の命令でわたしの首に剣を突きつけた男が。
多少はわたしの境遇に同情しているかもしれないが、心配してくれているようなことを言ってくれるとは思わなかった。
「ありがとう。そう言ってくれる方がいてくれるだけでも心強いです」
「……いえ、俺は、わたしは別に……」
ウィリアムは赤くなって口ごもる。
わたしは帰りましょう、と微笑んで馬を進めた。
✳ ✳ ✳
そしてついに訪れたオークニー使節団の訪問の日。
西の港へ無事に到着した使節団は、ダラムの護衛兵に守られながら王都へ入る。
王城へ向かう途中の歓迎パレードも問題なく進行。
王城前でわたしと廷臣らが出迎える。
使節団の人数は全員で十名。いずれもオークニーの重臣かそれに次ぐ地位の者だ。
王城へ入るとすぐに歓待のパーティーへ。
会場の準備も万全。なんの問題もなく、使節団を招き入れる。
王妃のわたしが使節団を歓迎する挨拶。
使節団の代表も挨拶を返した。
「かような豪勢な歓待ぶり、一同感激しております。それに驚きましたぞ。ダラム国王陛下にこのような美しいお妃がおられるとは」
使節団代表のエドワーズ提督が杯を掲げながら上機嫌にそう言った。
「ええ、急に決まった婚礼でしたので。そちらへの通達が遅れたのはお詫びします。この場に不在の陛下の件も兼ねて」
「いえ、此度の戦も急なことだったのでしょう。お会いできぬのは残念でしたが、代わりによい土産話ができた」
立派な髭をたくわえたエドワーズ提督は他の使節団のメンバーと顔を見合わせながら笑う。
料理の内容にも十分に満足したようだった。
「いや、この猪の丸焼きは絶品ですな。よく肥えて肉付きがいい。こちらの鹿は腹に香草が詰まっている。この風味もたまらない」
「こっちの野鳥の串焼きも美味ですぞ。おお、こちらのソースに付ければよろしいのかな?」
「はい。胡椒にクローブ、ヴェルジュ風味のものを揃えていますのでお好みに合うように」
「むむ、この小麦と卵黄の粥も鹿肉の付け合わせにはよく合いますなあ。さすがはダラムの豊かな風土から採れる食材は違う」
「使節団の皆様のために新鮮なものを取り揃えておきましたので。料理人も今日のために万全な準備をしてまいりました」
食事の合間には演奏や劇、余興の出し物。
これにも使節団のメンバーは手を打って喜んでいた。
落ち着いたところで召使いたちに寝室へと案内させる。
今日は来たばかりの初日なので早めに休んでもらうつもりだ。
「いや、今日は十分に楽しませて頂きました。明日からは視察やら会談で忙しくなりますが、よろしくお願いします」
会場を去り際にエドワーズ提督が代表で礼を言ってきた。
わたしも会釈してそれに応える。
「こちらこそよろしくお願いします。現地では信頼のおける部下が詳しく説明してくれるでしょうから、なんでもお聞きください」
「はい。一同、楽しみにしております」
初日の対応はこれで終了。
計画書通りに進行できたし、使節団の方々も喜んでいた。成功したといっていい。
自室に戻って、明日からの日程を確認する。
「あなたも早めに休んだら? ただでさえ気を遣って疲れたでしょう」
ジェシカが心配そうに声をかけてくる。
今日は召使いのハリエットもいる。
毎日ある使節団の会食の準備や片付けにクタクタになっているはずだが、本人はジェシカと同じくわたしのほうを気遣っている。
「そうですよ、王妃殿下。仕事の合間にこっそり王妃殿下を見に行くんですが、とても忙しそうで心配です」
わたしはありがとう、と礼を言いながらも計画書から目を離さない。
ジェシカとハリエットは呆れたようにため息をつく。
「勉強も狩りも出来て、しかも美人。それで努力家なんてどこまで完璧なのよ。あなたを見てると、自分の存在がとてもちっぽけなモノに感じるわ」
「わたしは……完璧なんかじゃありませんよ。各分野ではウィリアムやフィンの助けが必要ですし、あなたのように誰からも好かれる朗らかさもありません」
「むぅ~、しかも謙虚で性格がいいなんて。やっぱり完璧じゃん!」
冗談めかして笑うジェシカとハリエット。わたしもつられて笑う。
「もう少しで終わりますから、ふたりとも先に休んでてください。明日は早いのでしょう?」
「うん。悪いけど、そうさせてもらう。レイラもあんまり無理しないでね」
「おやすなさい、王妃殿下」
そう言ってふたりはわたしの部屋から退出する。
彼女自身はああ言っているが、本当にわたしだけではどうにもならなかったことが多い。
ウィリアムやフィン、狩りを手伝ってくれた兵や猟師たち。
情報を集めてくれたジェシカとハリエット。何よりわたしの身近に味方がいてくれるというのが、どれほど心強いか。
本当に感謝している。わたしの表情や言葉だけではみんなにちゃんと伝わらないのがもどかしいけれど。
明日は午前中から兵の調練を視察する予定だった。
みんなの協力を無駄にしないためにも、わたしはまた計画書に目を通した。
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