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14 捜査
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城に戻ったあとは正式に捜査隊を組織。
刺客たちが何者で、なんの目的で誰の指示によるものかを調べなければならない。
あの手慣れた動きから、素人ではないのは明らか。
しかし、使節団のほうには金品目当ての盗賊だと説明。
単にそんなものではないと感づかれているかもしれないが、政治的な陰謀によるものだと思われたくない。
午後の会食は中止となり、食事は部屋へ運ぶことになった。
「申し訳ありません。王都内であのような事が起きたのはこちらの不手際です」
エドワーズ提督に謝罪。彼はすでに冷静さを取り戻しており、いやいやと手を振った。
「大きい街なら、いくら治安が良くてもあのようなことは起きます。それより怪我人も出なかったのですから」
「使節団滞在中には犯人を探し出して罰するつもりです。王都内の治安対策もさらに強化します」
そのための捜査隊だ。
両国の関係悪化もそうだが、この件が解決しなければ帰ってきたアレックス王に何を言われるかわからない。
わたしは休まずに騎士や兵たちに指示を出す。
王都の出入りを一時的に封鎖。住民への聞き込み。見回りの強化。
現場の総指揮はウィリアムに任せた。
使節団が滞在するのは今日を入れてあと三日。その間に探し出さないといけない。
わたし自身は評議室で捜査の進捗を聞きながらさらなる指示を出す。
ゆっくり午後からハリエットと話すという約束は無理になったので、その件はジェシカから伝えてもらう。
夕方までに続々と報告が入ってきた。
襲撃された付近を中心に不審者の目撃情報。
反して関所などの王都の出入り口からはそういった情報は入ってこない。
犯人はまだ王都内から出ていない。
どこかに潜んでいる。警戒が緩んだ隙に王都から脱出しようとするはずだ。
大きな動きがあったのは深夜近くになってからだった。
街のとある廃屋に複数の不審者の情報。
急行、包囲した捜査隊と戦闘になったらしい。
応援を送り、その結果を待つ。
しばらくして評議室に直接報告に来たのはウィリアムだった。
ウィリアムの甲冑には返り血が付いていた。
激しい戦いがあったのだろう。
ウィリアムはまず頭を下げてわたしに侘びた。
「申し訳ありません。犯人を生け捕りにする予定でしたが抵抗が激しく、全員死亡しました」
「……そうでしたか。捜査隊の被害は?」
「負傷者が数人出ましたが、命に別状はありません」
「良かった……。犯人についてはなにか分かりましたか?」
「風体や特徴から、使節団を襲ったヤツらと同じなのは間違いありません。しかし、勝ち目が無いと分かっていながら投降すらせず、数人は自害しています。あれほどの覚悟を持つ敵というのは」
「どうしても素性が割れるわけにはいかなかったのですね。やはりダラムとオークニーの関係悪化を狙った計画だったのでしょう」
「潜んでいた廃屋周辺はまた引き続き調査します。まだ仲間がいるかもしれないので」
「頼みます」
あとのことはウィリアムに任せておけば間違いないだろう。
気になることはいくつかある。
あの襲撃のタイミング。待ち伏せしていたのだろうが、当日の使節団のスケジュールを知っていた者は限られている。
どこからか情報が漏れていたとしても、市場から職人街、そこから住宅街を通って帰るまでの詳しい経路を知っているとなると。
わたしに対する嫌がらせの一貫にしては、やることが大きすぎる。計画書を隠すなんてものの比ではない。
となるとモーガン外務卿の仕業ではない。
使節団の歓待が失敗すれば、外務卿も責任を問われるはずだ。
そう考えると計画書の紛失も別の者の仕業?
何人かの顔が頭に浮かぶが、動機が不明だ。
「簡単には尻尾を見せないでしょうね」
わたしはそう言い、評議室をあとにした。
使節団は明後日の早朝にはここを発つ。
明日は城でゆっくり過ごしてもらい、夕方から送別のパーティーが開かれる。
この残り二日の間、使節団を全力で守り切るだけだとわたしは心に誓った。
✳ ✳ ✳
夕方からのパーティーが盛大に開かれ、それも問題なく進行。
会場の警備は万全。
ウィリアムから新たな情報も入ってこない。
とりあえずあの襲撃事件は盗賊によるものだったと決定づける方向になった。
パーティーの席で改めてエドワーズ提督に謝罪。
犯人らは全員死亡したことを告げた。
「いや、早急な事件の解決、さすがです。これでわだかまりなくここを発つことができます」
「こちらとしても治安維持のために凶悪な集団を掃討できて安心しています。ですが、明日の出発の際にはさらに警備を増強しておきます」
「最後まで細やかなお心遣い、ありがとうございます。今回の視察ではおおいに得るものがありました。これを機に両国のさらなる友好と発展を」
そう言ってエドワーズ提督は杯を掲げた。
本心はどう思っているか分からないが、表向きは使節団の対応は成功といっていい。
あとはアレックス王の反応だ。
戦から帰還した後、この結果を聞いてどう思うか。
アレックス王の性格上、よくやったとは言わないだろう。小賢しい、忌々しいヤツ、などと罵倒されそうだ。
そしてまた嫌がらせのために新たな難題を用意してくるかもしれない。
パーティーの華やかさと賑やかさとは反対に、わたしは浮かれた気分になれなかった。
刺客たちが何者で、なんの目的で誰の指示によるものかを調べなければならない。
あの手慣れた動きから、素人ではないのは明らか。
しかし、使節団のほうには金品目当ての盗賊だと説明。
単にそんなものではないと感づかれているかもしれないが、政治的な陰謀によるものだと思われたくない。
午後の会食は中止となり、食事は部屋へ運ぶことになった。
「申し訳ありません。王都内であのような事が起きたのはこちらの不手際です」
エドワーズ提督に謝罪。彼はすでに冷静さを取り戻しており、いやいやと手を振った。
「大きい街なら、いくら治安が良くてもあのようなことは起きます。それより怪我人も出なかったのですから」
「使節団滞在中には犯人を探し出して罰するつもりです。王都内の治安対策もさらに強化します」
そのための捜査隊だ。
両国の関係悪化もそうだが、この件が解決しなければ帰ってきたアレックス王に何を言われるかわからない。
わたしは休まずに騎士や兵たちに指示を出す。
王都の出入りを一時的に封鎖。住民への聞き込み。見回りの強化。
現場の総指揮はウィリアムに任せた。
使節団が滞在するのは今日を入れてあと三日。その間に探し出さないといけない。
わたし自身は評議室で捜査の進捗を聞きながらさらなる指示を出す。
ゆっくり午後からハリエットと話すという約束は無理になったので、その件はジェシカから伝えてもらう。
夕方までに続々と報告が入ってきた。
襲撃された付近を中心に不審者の目撃情報。
反して関所などの王都の出入り口からはそういった情報は入ってこない。
犯人はまだ王都内から出ていない。
どこかに潜んでいる。警戒が緩んだ隙に王都から脱出しようとするはずだ。
大きな動きがあったのは深夜近くになってからだった。
街のとある廃屋に複数の不審者の情報。
急行、包囲した捜査隊と戦闘になったらしい。
応援を送り、その結果を待つ。
しばらくして評議室に直接報告に来たのはウィリアムだった。
ウィリアムの甲冑には返り血が付いていた。
激しい戦いがあったのだろう。
ウィリアムはまず頭を下げてわたしに侘びた。
「申し訳ありません。犯人を生け捕りにする予定でしたが抵抗が激しく、全員死亡しました」
「……そうでしたか。捜査隊の被害は?」
「負傷者が数人出ましたが、命に別状はありません」
「良かった……。犯人についてはなにか分かりましたか?」
「風体や特徴から、使節団を襲ったヤツらと同じなのは間違いありません。しかし、勝ち目が無いと分かっていながら投降すらせず、数人は自害しています。あれほどの覚悟を持つ敵というのは」
「どうしても素性が割れるわけにはいかなかったのですね。やはりダラムとオークニーの関係悪化を狙った計画だったのでしょう」
「潜んでいた廃屋周辺はまた引き続き調査します。まだ仲間がいるかもしれないので」
「頼みます」
あとのことはウィリアムに任せておけば間違いないだろう。
気になることはいくつかある。
あの襲撃のタイミング。待ち伏せしていたのだろうが、当日の使節団のスケジュールを知っていた者は限られている。
どこからか情報が漏れていたとしても、市場から職人街、そこから住宅街を通って帰るまでの詳しい経路を知っているとなると。
わたしに対する嫌がらせの一貫にしては、やることが大きすぎる。計画書を隠すなんてものの比ではない。
となるとモーガン外務卿の仕業ではない。
使節団の歓待が失敗すれば、外務卿も責任を問われるはずだ。
そう考えると計画書の紛失も別の者の仕業?
何人かの顔が頭に浮かぶが、動機が不明だ。
「簡単には尻尾を見せないでしょうね」
わたしはそう言い、評議室をあとにした。
使節団は明後日の早朝にはここを発つ。
明日は城でゆっくり過ごしてもらい、夕方から送別のパーティーが開かれる。
この残り二日の間、使節団を全力で守り切るだけだとわたしは心に誓った。
✳ ✳ ✳
夕方からのパーティーが盛大に開かれ、それも問題なく進行。
会場の警備は万全。
ウィリアムから新たな情報も入ってこない。
とりあえずあの襲撃事件は盗賊によるものだったと決定づける方向になった。
パーティーの席で改めてエドワーズ提督に謝罪。
犯人らは全員死亡したことを告げた。
「いや、早急な事件の解決、さすがです。これでわだかまりなくここを発つことができます」
「こちらとしても治安維持のために凶悪な集団を掃討できて安心しています。ですが、明日の出発の際にはさらに警備を増強しておきます」
「最後まで細やかなお心遣い、ありがとうございます。今回の視察ではおおいに得るものがありました。これを機に両国のさらなる友好と発展を」
そう言ってエドワーズ提督は杯を掲げた。
本心はどう思っているか分からないが、表向きは使節団の対応は成功といっていい。
あとはアレックス王の反応だ。
戦から帰還した後、この結果を聞いてどう思うか。
アレックス王の性格上、よくやったとは言わないだろう。小賢しい、忌々しいヤツ、などと罵倒されそうだ。
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パーティーの華やかさと賑やかさとは反対に、わたしは浮かれた気分になれなかった。
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