人質王女が王妃に昇格⁉ レイラのすれ違い王妃生活

みくもっち

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15 王の帰還

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 翌朝。使節団がオークニーへと帰国する日。

 城では盛大なセレモニーが開かれ、さながらアレックス王の出陣式にもひけを取らないほどの規模で使節団を送り出す。

 オークニー王への贈答品を満載した荷車とともに使節団は港へ出発した。

 わたしが見送るのは城門前まで。
 あとは護衛の騎士と兵が随伴していく。この部隊を指揮しているのもウィリアム。

 わたしは自室へ戻り、あとは無事に出港したかどうかの報告を聞くだけだった。
 
「やっと終わったわね。これで少しはゆっくりできるんじゃない?」

 ハーブティーを淹れてきたジェシカがそう聞いてきた。
 わたしはカップを受け取りながら、ええ、と答える。

「どうしたの? 一段落ついたっていうのに浮かない顔」
「少し気になることが」
「気になることって、この前の襲撃のこと?」
「ええ。結果として盗賊の事件と片付けられましたが、不可解な部分が多くて」
「実行犯はみんな死んじゃったから、真相は謎のままなんだよね」
「はい。あの待ち伏せのタイミングといい、事前に計画書の内容を知っていたとしか思えないのです」
「えっ、ってことはモーガン外務卿の仕業?」
「最初はわたしもそう思いましたが、使節団に何かあれば外務卿の立場自体が危うくなるでしょう。それを考えたら、元の計画書を盗んだのも別の人間ではないかと」
「そうなのかな……。アレックス王の指示で嫌がらせしてるのかと思った」
「はい。使節団の滞在中に彼の行動を見てましたが、こちらの妨害をするようなことはしませんでした。彼なりに職務を全うしていましたし」
「じゃ、じゃあ、計画書を盗んだり襲撃の指示を出した犯人が別にいるってこと?」
「そうです。そしてそれはアレックス王の意思とは別の思惑で動いていると」
「アレックス王の他に、レイラを困らせようってヤツが?」
「いえ、わたしに、というよりアレックス王自身に不利益をもたらそうとしているかに見えます」

 ここまで話したときにドアの向こうから声。
 ウイリアムのものだ。

「使節団の護衛から帰還致しました。使節団の方々は無事に出港されました」
「ご苦労さまです。あなたも使節団滞在中は忙しかったのですから、今日ぐらいはゆっくり休んでいてください」
「はっ……ありがとうございます。その前に、例の件についてご報告が」
「報告? あの襲撃事件のことですか」
「はい」
「どうぞ、中へ」
「失礼します」

 神妙な顔をして入ってきたウイリアム。
 前置きもなしに、自身が手に握っているものを見せてきた。

「これは……?」
「先日、賊の潜んでいた廃屋を探査していた時に見つけたものです。床の間に挟まっていて誰も気づかなかったようです」
「指輪ですね。それにこの刻まれている紋章は」
「はい。ロージアンのものです。あの襲撃にはロージアンの残党が関わっていたようです」
「ロージアンが……」

 ダラムによって滅ぼされた国。王族も処刑されたと聞いていたが。

「復讐のために使節団を狙った、というわけですね。たしかに使節団に死傷者が出れば、ダラムとオークニーの関係は悪化する」
「ロージアンの残党はまだどこかに潜んでいるかもしれません。王都のみならず、旧ロージアンの領内も徹底的に捜索して残党を壊滅すべきです」

 ウイリアムはそう進言するが、わたしは待ってください、とそれを止める。

「残党といっても規模がどれくらいかわからないし、ロージアンの旧臣や民を刺激するようなことはしたくありません。下手をするとタムワースのように内戦になるかも」
「しかし、放置はしておけません」
「明らかな叛意を持っているのはごく一部の者だと思います。大がかりな弾圧は逆効果です。現場の巡回や警戒を強化するだけで留めておきましょう」
「……王妃殿下がそうおっしゃるならば」
「この指輪のことを知っているのは?」
「まだわたしだけです」
「このことはまだ内密にしておきましょう。陛下が戻ってきた時に、わたしから正式に伝えておきます」
「わかりました。ならば、あとのことはお任せします」

 少し納得していないふうではあったが、ウィリアムはそう言って自室をあとにした。
 
「まさかロージアンの残党の仕業だったとはね。あれ、だったら計画書を盗んだのはまた違う人ってこと?」

 ジェシカの推測ももっともだった。
 襲撃に関しては外部の者の犯行だが、計画書を盗むのは城の中にいる者でないと不可能。
 
 ダラムの城の中でロージアンに深く関係する者など存在しないように思えた。

「そのことですが、少しわたしに心当たりが。指輪のことは誰にも話さないでおいてください」
「う、うん。わかってる」

 わたしの表情を見てジェシカもそれ以上深くは聞いてこなかった。


 ✳ ✳ ✳


 しばらくはなんの異変もなく三週間が過ぎる。
 
 簡単な政務をこなしたり、報告を聞いたり。
 執務外ではジェシカやハリエットとお茶会を開いてのんびり過ごしていた。

 城にはアレックス王がタムワースに勝利し、もうじき帰還するとの報告が入ってきた。

 戦勝のパレードや宴で忙しくなるだろう、とぼんやりと考える。
 わたしはそんなものに喜んで参加する気にはならなかった。

 詳しい事情は不明だが、兵を差し向けてタムワースを追い詰めたのはダラム側だ。
 長らく敵対していたロージアンとは違う。
 
 なにをそこまでして戦をする必要があったのか。
 アレックス王。野蛮で好戦的だという噂は本当なのか。
 気難しく傲慢ではあるが、どこか虚勢を張っているような面もある。
 色白で線の細い貴公子といった印象を払拭しようとしているのか。



 そしてアレックス王の凱旋の日。
 市街でも城でも戦勝祝いでかなりの賑やかさだった。

 わたしはそんなパーティーや行事には参加しなかった。
 幸いアレックス王からの呼び出しもない。
 周りの喧騒から逃れるように自室にこもる日が続いた。

 そして数日後、ようやくアレックス王から呼び出しがかかる。

 謁見の間。本来なら王の玉座の横に席が用意されているものだが、わたしにそれは許されなかった。

 この城にはじめて来たときと同じく、階下でひざまずいている。
 王妃としてはこの上ない屈辱なのだろうが、わたしはなんとも思わない。

 あの時と同じように顔を上げ、アレックス王の蔑むような視線から目を逸らさなかった。
 
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