人質王女が王妃に昇格⁉ レイラのすれ違い王妃生活

みくもっち

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17 陰謀

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 夕食時、ホールではやはりアレックス王の姿は見えない。
 以前と変わらず城の中でも人を近づけようとしない。

 ふたりきりで話すと言ったものの、いつどこでと具体的な時間と場所を指定していなかった。
 近くにいる召使い数人にアレックス王を見かけなかったと聞くが、誰も知らなかった。

 仕方なく自室へ戻る途中。
 街を見下ろせる城壁近くで背後から声をかけられた。

 アレックス王だ。わたしが近づこうとすると途中で止まれ、と命じられる。

「そこからでも話はできる。早く用件を言え」
「お渡ししたい物があるのですが」
「そこへ置いておけ。あとで持っていく」

 言われたように通路の上に医術書や薬剤の入った鞄を置く。

「使節団の医師の方から預かっていた物です。中身はあとでお確かめください」
「…………」
「陛下が医学や薬に興味があるとは意外でした」
「……いずれはダラムも海を越えて別の大陸へ攻め込む時が来る。未知の病に備えておく必要があるからな」
「ロージアンを滅ぼし、シェトランドとブリジェンドを従えてなおその野心は満たされないというのですか」
「いかなる贅沢も金銀も広大な領土も余を満足させることなど出来まいよ。戦に赴き、敵を討ち滅ぼすそのときだけは充足感を得られるがな」
「……そのために大勢の人間が死ぬことになっても意に介せぬというのですか」
「愚問だな。元より余は無駄な戦はしない。戦略上や他に方法が無い場合にだけ軍を動かす」
「タムワースに関してはこちらから仕掛けたのでは?」
「黙れ。何も知らない小娘の分際で。自分が目にし、耳に聞こえる事だけが真実だと思うなよ。そもそも貴様と議論するつもりはない」

 アレックス王の言う通り議論するつもりはなかった。
 価値観や倫理観が最初から違う。熱く語ったところで分かり合えるはずがなかった。

「話が逸れましたが、大事な事を伝えます。使節団が襲撃された件ですが」
「そうだったな。結局盗賊の仕業で犯人らは全員死亡でカタがついたのだろう」
「いえ、その後の調査で見つかった物ですが」

 わたしは離れた位置から指輪を見せる。

「ロージアンの紋章の入った指輪です。犯人の中にロージアンで地位の高かった者がいたという証拠になります」
「…………」
「ロージアンの残党がダラムとオークニーの関係悪化を狙った犯行です。王都内にはまだ仲間がいるかもしれず、巡回や警備を強化して対応しています」
「そうか」

 アレックス王の反応は淡々としたもので意外に思った。
 怒り狂って、それこそロージアンの旧領に徹底的に弾圧を加えないかと警戒していたのだが。

 この指輪の件はわたしが黙っていても必ずウィリアムからアレックス王の耳に入る。
 それならわたしから伝えて、無闇な虐殺をしないよう説得しようと思っていたからだ。
 
 残党がいるという事はアレックス王の命も狙っているはず。
 それを聞いてなお冷静でいられるのは何故だろうか。

「ロージアンか。当然よな。王族も死に絶え、領地も接収。長く仕えた者ほど余を恨んでおるだろう」
「改めてなにか対策は」
「無用だ。放っておけ。余を恨んでいる者など元々掃いて捨てるほどいる。余の目の前で堂々と牙を剥く者がいれば話は別だが」

 こそこそと暗躍する者など意に介さないというわけか。豪胆というか大胆というか。

 それすら虚勢ではないかと思えてくる。実際に女ひとり身辺に近づけようとしない用心ぶりではないか。
 
「話というのはそれだけか」
「はい。以上になります」
「ならばもう行け。用があるときはこちらから呼ぶ」
「はい」

 一礼しその場を去ろうとしたときだった。
 ふと視線を落として気づいたのだが、わたしが持ってきた医術書や薬剤の入った鞄。

 どこか違和感。留め具をしている横の部分が大きくふくらんでいる。急いで無理やり詰め込んだような。

 中身は数日前に再確認してある。わたし以外に触る人間もいない。だけど嫌な予感がした。

「どうした? なにをしている」

 アレックス王が怪訝そうに聞いてくる。
 わたしは鞄を開け、ひとつひとつ取り出して確認をはじめた。

「これは」

 見覚えの無い瓶の入れ物。他の薬剤は陶器か木箱に入っているので明らかにおかしい。
 ブラウン医師から預かった当日も、数日前に確認したときもこんな物は入ってなかった。

 瓶の中身は白い粉末。わたしはそれを握りしめながら言った。

「陛下、最初に入ってなかった物が紛れています」
「なんだと」
「誰かの仕業でしょう。これは──」
「おい! 貴様、動くなよ! 誰かあるっ!」

 アレックス王の呼びかけに複数の兵が集まってくる。

「陛下、誤解です。これはわたしが入れた物ではありません」
「誤解だと? それがなんだか分からんが、貴様が直接預かった物だろう。場合によっては貴様……」

 冷静だったアレックス王の顔が紅潮し、唇が震えている。

 あっという間に兵に押さえつけられ、鞄も押収された。
 何を言っても聞いてもらえずわたしは自室へ押し込まれ、外側から鍵をかけられてしまった。

 あれは一体……。
 何者かが混入させた物には違いない。でもなんのために?

 考えられるのはわたしへのなんらかの罪をなすりつけるためか。
 それか、あれを実際に手にとって調べようとするアレックス王を害しようとする目的か。

 その両方なのかもしれない。
 とにかくここに閉じ込められていては情報を得ることもできなかった。
 

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