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しおりを挟む次の年、爽真は十になった。
秋の気配がし始めたころからもうクリスマスまでの日を指折り数え、母に頼んで自分だけの部屋ももらった。
今年も会えるかなぁ? と何週間も前からソワソワして、当日はサンタが迷わないよう、目印に窓辺にライトを灯し、カーテンを開け放った窓の外をじっと眺めて、今か今かとその訪れを待った。
────なのに。
「はい」
いつものように窓から入ってきたサンタは、起きて待っていた爽真に少しだけ眉を顰め、咎めるような視線を送ってきたものの、ポンと爽真の手のひらにプレセントを渡すと、すぐにまた窓枠に足を掛けたのだ。
「え?! ちょ…ちょっと待って!」
「なに?」
上着の裾を引くと、訝し気な顔でサンタが振り返る。
サラリ流れた濡羽色の髪が月明りに照らされ、キラキラ光ってとても綺麗だと爽真は思う。つるりとしたミルク色の頬も、榛色の瞳も。一年ぶりに会ったけれど、やっぱりサンタは綺麗だと、爽真は思わずその顔をぼうっと眺めた。
「どうしたの?」と再度問われて、びくりと爽真は身体を震わせた。訊かれても、明確な理由は爽真にも答えられない。ただ、これでさよならは嫌だし、どうやったらもうちょっとここにいてくれるだろう? と、小さな頭をフル回転させる。
おれのこと覚えてない? きっとサンタはたくさんの子にプレゼントを配るから忘れちゃったのかもしれない。でも…でも…。
「えっと…、あ、の…。そう! トイレ! 着いてきて欲しいんだけど!」
サンタは爽真の顔をしばらく見つめて、長いまつ毛をパタパタと忙しく動かすと、それから思わずといった風にプッと吹き出した。
────サイアクだ…。
言った手前、本当にトイレにサンタを付き合わせた爽真は、手を洗いながら深い深いため息をついた。咄嗟にそれしか思いつかなかった自分の脳みそも残念だし、おかげで四年生にもなってひとりでトイレに行けない子。とサンタに思われたのも恥ずかしくて仕方がない。
けれどいつまでもトイレに籠ってるわけにもいかなくて、いつもより何倍も重く感じるドアノブを捻って外に出ると、壁に背を凭れて腕を組んだ姿勢で、サンタが爽真を待っていた。
「あ…あのっ」
ありがとうくらい言うべきだろうと爽真が口を開くと、代わりにサンタは手を差し出してくる。そのまま手を引かれ、結局お礼も言えずに爽真は歩き出した。
子供部屋に戻るには母親の寝室の前を通る。大丈夫かな?とチラリドアに視線を向けると
「心配しなくていいよ。僕の姿は大人には見えないし、声も聞こえないから」
さらりとサンタはそう言って、スタスタと廊下を歩き子供部屋に入っていく。一拍遅れて爽真も中に入ると、サンタは何故かポンとベッドの上に腰を下ろした。
「で、なに? 用があるから僕を引き留めたんでしょ?」
ドキリとした。
爽真の幼い噓なんてサンタはとっくにお見通しだったのだと思うと、顔から火が出そうなくらい恥ずかしくて、噓つきは嫌いだと言われるんじゃないかと恐ろしくて、自然視線が下を向いてしまう。
何か言わないと! とは思うけれど、心臓の音はドキドキとうるさいほど耳に聞こえるし、頭の中は真っ白、言葉も喉の奥に詰まって出てこない。
どうしようどうしようどうしよう…!
「爽真?」
呼ばれて爽真はハッと顔を上げた。
「おれの名前、覚えてたの…?」
「まあ。さすがに去年のことくらいは、覚えてるよ」
言われて、爽真は飛び跳ねたいくらい嬉しかった。けれど次にまた疑問が湧いて、視線が自然と下にさがる。
「じゃあ…なんですぐ帰ろうとしたん?」
「なんでって……宅配便の配達の人が用もないのに居座ったらおかしくない?」
ぐっと爽真はまた返答に詰まった。
サンタが言ってることはもっともで、もっともだけど…。でも、でも…っ!
「じゃあ……そっか! 友達! 友達になろ?」
「…は?」
「友達ならすぐ帰らなくてもおかしくないよね?」
サンタは奇妙なものでも見るように爽真を見て、それから首をゆっくりと横に傾けた。
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