朝が来てもそばにいて〜聖夜の約束〜

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雪がとけたら

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 プレゼントをすべて配り終えて戻ったサンタの国。いつものロッキングチェアにだらしなく座って、深々とため息をつきながら暖炉の火を見るともなしに眺めていると、軽いノックの音がした。

「何? その顔」

 入ってきた久遠が、凛の顔を見るなりパチパチと目を瞬かせてそう言った。

「え……?」
「いや。なんか、ものすごく疲れた顔してるから」
「そう、かな…?」

 久遠の言葉に曖昧に笑んで、視線を外す。
 さっき爽真にしたイタズラがバレているのではないかと内心冷々しながら、怠い身体を起こして立ち上がり暖炉に薪を足した。
 半日ほど人のいなかった我が家はまだ冷たい。

 寒いのは、苦手だ。
 嫌なことを思い出しそうになるから、大嫌いと言ってもいい。

 再びロッキングチェアに座り、凛は自身を抱きしめるように膝を抱えた。するとさっきまでいた子ども部屋の匂いがふわり香ってまた、ドキリとする。
 
「なんか、あった?」

 探るように訊かれて、「…別に」と凛は緩く頭を振った。自分からイタズラを報告して怒られるのも嫌だったし、話すとしても何をどう言っていいかわからなかったのだ。
 どうしてあんなことをしたのか、と、自分に問いかけてみても、上手く答えられない。もっと簡単にあしらう方法なんて、いくつでもあったはずなのに。
 たぶん、と、凛は思う。
 たぶん自分は、あの爽真の、キラキラとした瞳を少し歪ませてみたかったのだ。凛を真っ直ぐに見つめてくる、純真無垢な瞳が嫌だった。どうせすぐに、サンタなんて、凛なんて必要としなくなるくせに、『友達になろう!』なんて脳天気なことを言う。あの口を黙らせたかった。
 子供なんてみんな一緒だ。『プレゼントをくれるサンタクロース』が好きなだけ。凛自体を必要としているわけではないのだ。わかっていることなのに、あの一瞬、それがとても嫌なことに思えて、めずらしく衝動的に行動してしまった。…まあ、あの凛のくだらなくて意地の悪いイタズラでは、あの子の瞳の輝きひとつ、失わせることはできなかったけれど。
 はは…っと、小さく自重の笑みが口から零れる。

「やっぱ、なんかあったんだろ?」

久遠の問いがしんとした部屋の中に響いて、それに一拍遅れるように暖炉の薪がパチンと爆ぜた。

「昔の……生きてた頃のことを、少し、思い出しただけだよ」

 事実を一部だけ切り取って伝えると、「そう…」と、久遠の口からため息のような言葉が漏れる。それからくるりと視線を巡らせて、ソファの上に放ったままだった、プレゼントを入れている白い袋をじっと見つめた。

「あー…。おまえ、また。パッチは集めるだけじゃ駄目だって言って…」

 そう言って久遠が袋を開いた気配がする。ロッキングチェアに座ったまま、頭だけを動かしてそちらの方を見ると、袋から取り出したパッチを手に、久遠がぱたぱたと何度も瞬きを繰り返していた。

「あ、れ? これ、全部、同じ子の……?」
「……くれるって言って、聞かなかったから」

 ふうん。と言って、取り出したパッチをジロジロ眺めはじめた久遠に、やっぱり自分がやったイタズラはバレてるんだな、と、ため息が漏れる。
 あの後、凛が爽真の目の前でパッチを三つ食べて見せた後、爽真は「後で食べて!」と、凛に大量にパッチを作らせて持たせたのだ。二十個くらいあった気がする。
 バレてしまっているなら隠していることに意味はないな。と事の顛末を手短に話すと、久遠が高い声で笑った。

「あはははっ! ウケる」
「……笑いごとじゃないんだけど」
「自業自得だろ。子供の夢、壊すようなことばっかすんなよ」
「すみません……。でも、あの、これ、ひとりの子からこんなに取って大丈夫なの?」

 気になっていたことを訊ねると、久遠が袋の中を覗いて、まあ、このくらいなら。と瞳をくるりと巡らせた。それから手に持ったままだったパッチを目の高さまで上げて、くるくるとそれをまた眺める。

「綺麗だな。純度が高い、いいパッチじゃん」
「そう、なの?」

 パッチは生成した子によって、味が違う。
 基本的に甘いのだけれど、それぞれ甘さも違うし、甘さの中に酸味なんかが混じっていることもある。
 けれど凛にしてみたら、どれも同じパッチでしかなかったし、味の違いについて深く考えたことなどなかったのだけれど。

「良く言えば、素直で意思の強い子なんだろうね」
「悪く言えば?」
「馬鹿で思い込みが激しい」

 どちらも的確だな。と思える久遠の言葉に思わずぷっと吹き出すと、肩をポンと叩かれる。

「せっかく貰ったんだから、大事に食べな」
「……いいの?」
「何が?」
「お説教しに、来たんだと思ってたけど」
「別に。悪かったって自分で思ってるなら、俺が言うこと、もうないでしょ」

 そう言うと久遠は「また来るよ」と、ひらひら手を振った。パタンとドアが閉じるまでその姿を見送って、それから凛は棚から空のキャンディポットを取って、ソファに腰掛ける。ポンと蓋を外して、その中に爽真がくれたパッチを詰めた。
 爽真のパッチは薄い乳白色だけれど、その中に光の粒のようなものが少し混じっていて、角度によって光り方が変わる。確かに、綺麗だ。
 凛は最後のひとつを手に取り、目の前に翳してみた。久遠がしていたように、くるりと回したり透かしたりしてしばらくそれを眺めてから、それをそっと口の中に運ぶ。
 あっと言う間にその輪郭を失った球体が溶けて、舌の上に甘い味が広がった。とろりとした蜜のような甘さが、じんと身体を満たしていく。
 ふうと息を吐いて、凜は立ち上がった。
 キャンディポットを抱えたまま窓辺まで歩いて、外の景色に目を向ける。
 積もった雪の上を風が駆け抜けて、粉雪がふわり舞い上がった。それらが太陽の光を反射してキラキラと光り、凛の視界を真っ白に塗りつぶしていく。

 この雪が溶けたら、また、あの子に会える……?

 そんなことを考えた自分にちょっと驚きながら、凜はキャンディポットをそっと棚に戻した。ぱた、ぱたとゆっくり瞬きを繰り返す。瞼の裏に、あのキラキラと光る星みたいな瞳が映った気がした。
 
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