可愛い悪魔の飼いならし方

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第二章

守りたいもの

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 なんとなく重い空気のまま部屋に戻り、ユーゴは落ち着かない気分でリビングのソファに座った。レイもその隣に腰を下ろす。

「あの…さっきの子、なんだけど」

 どこから話せばいいだろうと迷いながら、ユーゴはゆっくりと口を開いた。とりあえず、エイミーと自分の関係を説明しなければお話しにならないし、そこから感じる違和感をわかってもらう為には、最初から全部話す必要がある。
 ほんの数日前までは、黙っていようと思っていた話だ。不思議だな、と思いながらユーゴは言葉を紡ぐ。

 コズレルにいたときの生活、町の学校で教師をしていたこと、エイミーはそのときの生徒だったこと、その時に起こった事件、そして疑われ、正体を知られ、追われたこと。

 レイは短く、うん、とか、そう、と相槌を打ちながら聞いてくれた。ときおり、その手が優しくユーゴの背を撫でたり叩いたりするので、何度か泣きそうにもなったけれど。

「───…だから、僕は神学学術院なんて行ったこともないし、推薦もしていないし、エイミーに手紙を書いた覚えもない。もっと言うと、エイミーは賢いけれど、そこまで飛び抜けて優秀ってわけでもないんだよ。誰が何のためにそんなことをしたのか…」

 ひと通り話し終えたユーゴがふうと息をつくと、レイは首を傾げた。

「変なことばっかりやね。……ねえ、その神学学術院て、そんなに年中生徒集めとるん?」
「え…?」
「だってもう11月やし。普通なら新学期に合わせるんやないの? そういうのって」
「確かに」

 ルイーズにある学校は9月始まりだ。だから近隣諸国の学校もそれに倣って9月に新学期を迎える。
 だから特待生を迎えるというなら、普通は9月だろう。言われてみれば少しおかしい気がする。

「まあ、あの、エイミーちゃんひとりだけなら、そういうこともあるんかな? って思うけど。でも、他にも男の子おったやん? あとね、ショー見てたお客さんの中にもあのくらいの歳の子、チラホラおった。普通の子なら、学校に通ってる時期なのにね」

 言われてユーゴはハッとした。
 この前、セオドアは何て言っていた?
 近々開かれるオークションで『合成した魔物』が出品されるらしい。その合成ための『部品』として『魔物か人間』がこの船で運ばれているかもしれない、と言っていた、はず。
 それは、もしかして───。

「レイくん…っ!」
「うん。そうやね。セオドアに話してみた方がいいと思う」
「エイミーはっ」
「わかっとる。けど、まだ何も確定しとらんよ。落ち着いて、ね?」

 レイが立ち上がりユーゴの前に移動すると、その膝を折ってユーゴの両の手を握った。下から顔を覗き込まれて、ユーゴはブンブンと首を横に振る。

 コズレルにいたあの頃、ユーゴは自分の教え子が危ないとわかっていて、何もしなかったし出来なかった。自分のことだけで精一杯で、言ってみれば、あの子たちを見殺しにしたのだ。
 さっきエイミーが言っていた通り、当時のユーゴは愛想が悪くて暗くて、生徒たちに好かれていたとは思えない。けれど、それでも、何かするべきだったと今なら思う。
 自分が小さい頃に感じた苦痛や恐怖。あんなものを、子供たちに与えていいわけがない。

「ゆーちゃん、大丈夫! 大丈夫やから!」
「でも…っ」
「もしそうだとしても、今度は、大丈夫! おれも皆もいる。ちゃんと、守れるよ」

 そう言ってレイは震えるユーゴの身体をぎゅうと強く抱きしめた。それから、あやすようにその背をゆっくりと撫でてくれる。

「セオドアのとこに行こう」

 言われてユーゴはくっと奥の歯を噛んだ。
 泣いている、場合じゃない。


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