可愛い悪魔の飼いならし方

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第二章

それぞれの役割-1

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 ルイーズの港は活気に溢れていた。商人たちの声や船員たちの笑い声が潮風にのって届く。荷物を積むクレーンの音や、行き交う馬車の軋む音が響く中、子どもたちの声が混じり始める。それに気づいて、ユーゴはプロムナード・デッキの手すりに手をかけ、下のデッキを見下ろした。
 下船用にと取り付けられたタラップを、紺色の制服を着た子どもたちが、ひとり、またひとりと降りていく。
 その中に、栗色の巻き毛の少女を見つけて、ユーゴは手すりを掴む手にぎゅっと力を込めた。ホッとしたようなハラハラするような微妙な気持ちだ。

「上手く馴染んどるね」
「うん…」

 隣に並んだレイの言葉に頷いて、またその姿をじっと見つめる。

 栗色の巻き毛の少女───もとい、エイミーと入れ替わったタフィーが、隣の女子生徒と何か話しながらクスクスと笑っている。前方を指さした女子生徒に肩をすくめ、それからふたりで顔を合わせて笑い出す。
 まるで、気心知れた友人みたいに見える。ほんの数時間前に入れ替わったとは思えない。
 評判どおりにリアムの暗示能力が優れていたのはもちろん、タフィーのコミュニケーション能力の高さには驚かされる。自分ではこうはいかなかっただろうな、とユーゴは息をついた。

「タフィー、さすがやね」

 思わず、と言ったふうにタフィーを賞賛したレイをチラと見ると、パチリ目が合った。そうだね、と返して目を伏せると、ポンと背中を叩かれる。

「おれ、あんな風に出来る自信ないわ」
「……僕も」
「まあ、おれらはおれらでしなきゃいけないことあるし、そっちがんばろ? まずはセオドアに挨拶しに行かんと」

 うん、と頷くと、背中から腰にまわった手が、ぐいっとユーゴを引き寄せた。船内に戻ろうとするレイの歩みに合わせて、ユーゴも足を動かす。
 チラと振り返ると、栗色の巻き毛が視界の端に映った。「どうか、無事で」と心の中で祈りながら、腰にまわされたレイの手に自分の手を重ね、ぎゅっと握った。



 メイン・デッキに降りると、その姿を探すまでもなく、セオドアとテオがタラップ近くで下船する客を見送っていた。
 すでに港に降りた客にも愛想良く手を降っている。その姿をレイとぼんやり眺めていると、ふたりの存在に気付いたらしいテオが手招きをした。

「なにボーっとしとるん? キミらで最後やで」

 言われてふたりに近寄ると、テオがレイの背をポンと叩いて港の方を指さす。

「タフィーの女装、見た? ホンマ似合っとったなぁ」
「うん。さっき上から見とったよ。めっちゃ馴染んでた」

 レイとテオの会話を聞きながら、テオの隣のセオドアに目を移すと、彼がユーゴに向かってスッと手を差し出した。

「あ、あの、お世話になりました。…ご迷惑をおかけしてすみませんが、エイミーのこと、よろしくお願いします」

 握手をしながらそう言うと、セオドアが頷いて軽く笑む。

「安心して。彼女のことは俺らが責任持って面倒みるから」

 皆で会議をした結果、「下手に家に帰したりするよりは、目が届く範囲に置いた方が何かあったときに守りやすい」とのことで、タフィーの潜入が終わるまでホワイトプリンセス号が彼女を預かることになったのだ。
 セオドアの好意に全面的に甘える形になってしまって、ユーゴ的にはちょっと心苦しいのだけれど。

 リアムの暗示で、エイミーは「ホワイトプリンセス号の乗務員体験に当選した」と思い込んでいる。今もリアムとアランに連れられて、船内を「業務体験中」の彼女はきっと、客室や機械室を見学しながら「すごい」と目を輝かせているに違いない。

「危ないことはさせないから、安心して」

 セオドアの真っ直ぐな目に見つめられて、ユーゴはようやく小さく頷いた。

「そうだ。サイラスに会ったら、たまには顔出せって、伝えといて」
「わかりました」
「おれからも言っとく!」

 会話に割り込んできたレイが肩に腕を回すと、セオドアは嫌そうにその手をピシッと叩いた。

「いいから早く行け」
「セオドア冷たい!」
「全力で乗っかってくるから重いんだよ、おまえは」
「ええっ! 本当は嬉しいくせに」
「ばーか。ありえんわ」

 笑いながらセオドアがレイの背中を押し、ユーゴに手を振る。

「またな」

 微笑みながら手を振ってくれるふたりを何度も振り返りながら、レイとタラップを降りていく。少しだけ前を歩くレイのプラチナブロンドが、陽の光を受けてキラキラと煌めいていた。
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