私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていました~

あんねーむど

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5 ご褒美、からの~

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 暴漢に襲われた翌日、王宮の雰囲気は何事もなかったかのように普段通りだった。
 クラウディオに連れていかれたあの男がどうなったのか私には判らないし知る由もない。むしろ知らない方がいいのだろう。
 私もリリアもいつも通り過ごす――、二人でそう決めて出勤して、王宮の食堂は昼時を迎えていた。

 湯気の立つ鍋、焼き上がるパンの香り、皿と皿が触れ合う軽やかな音。昼の食堂はいつも通り活気に満ちている。

 この中にいるはずなのよ。

 私は配膳台の奥、厨房から整然と並ぶテーブルに視線を走らせていた。

 昼食の時間帯になれば騎士や衛士たちのほとんどがここにやって来てランチを取る。
 ということは、あいつも来るはず。
 顔は、はっきりとは覚えていない。あのときは薄暗くて混乱の中だった。それでも断片的な印象だけは頭に焼き付いている。
 赤い髪に赤い眼、筋肉質だけど無駄のないスラッとした体つき。切れ長の目と人を見下すような視線何よりあの嫌味ったらしくて気障ったらしい態度――。

 鍋を磨くふりをしながら私は食堂を睨むように見回していた。

「こんにちは、チドリさん」

「ひゃっ!?」

 不意にかけられた声に思わず肩が跳ねる。カウンターを挟んだ目の前に穏やかな笑みを浮かべたノエルが立っていた。

「ノ、ノエルきゅん!?」

 素っ頓狂な声が出たのを自覚して慌てて口を押さえる。

「どうしたんですか? すごい怖い顔してましたよ」

「え、そ、そう? そんなことないですわよ!」

 ノエルはくすりと笑い、周囲を見渡した。

「それにしても今日はいつもに増して大盛況ですね」
「そう? 確かに日に日に人が増えている気がしないでもないけど、こんな感じじゃない?」

「いえ、チドリさんが来るまでは満席になることなんて稀だったんですよ。軽めの食事を外で取る人も多かったですし、それに騎士団の間でも評判になっていますしね」

「……え?」

 首を傾げる私にノエルは少し誇らしげに言った。

「食堂の食事のおかげで体調を崩すことが減って訓練の成果も上がってるって。各個の能力が全体的に向上してるらしいです」

「そ、そんな大げさな……」
「大げさじゃないですよ」

 ノエルは真剣な顔で続ける。

「騎士団の中ではチドリさんのこと〝食堂の聖女様〟なんて呼ぶ人もいるくらいですから」
「……は?」

 戸惑いが大きすぎて返す言葉が出て来なかった。

「え、ちょ、ちょっと待って、聖女様なんて恥ずかしいなぁ」

 よかった、あだ名が〝食堂のおばちゃん〟じゃなくて。
 ほっと胸を撫でおろす私に、「チドリさんのファンも結構いるみたいですよ」とにこにこと悪気のない追撃を受けて思わず頬が熱くなるのを感じる。

「そ、そんな……ただ料理してるだけなのに……」

 口では否定しながらも、頬はどうしても緩んでしまう。誰かの役に立っている、そう思えるのは素直に嬉しかったし、なにより美少年に手放しで褒められるなんてこんな素晴らしいご褒美はない。
 
「チドリさんのおかげです、本当に。それじゃあ僕は行きますね、また明日」
 
 そう言ってノエルは一礼すると食堂の出口へ向かった。

 彼の背中を見送りながら私はしばらく余韻に浸っていた。

 ……聖女様かぁ。
 
 自然と顔が緩んでしまう。とろけてしまう。しょうがないじゃん、だって女の子だもん。

「見事なマヌケ面だな」

 低く鼻で嗤うような声に私は我に返る。

「……っ!?」

 びくりと身体が跳ねり、赤い髪が視界の端をかすめた。
 切れ長の目が私を捉える。一気に背中がひんやりと冷たくなる。その小馬鹿にしたような視線の持ち主は親の仇! のような存在、クラウディオだった。

「昨日あんなことがあったって言うのに呑気なもんだぜ」

 大きな溜め息を吐いたクラウディオは、何事もなかったかのように食堂から歩き去っていく。

「……」

 数秒遅れて、またしても馬鹿にされたことに気付く私。緩みきっていた頬が一気に引きつり、ぎりっと奥歯が鳴る。

 命の恩人? 知るか!!
 
 胸の奥から確かな殺意がむくむくと湧き上がるのを感じながら、私はクラウディオが出て行った扉を睨みつけた。

 絶対に許すまじっ! クラウディオ!!

 その名前と顔は昨日よりもはっきりと私の中に刻み込まれたのだった。
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