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第1章 三姉妹と義妹
02 距離は遠い
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「ここが貴女の部屋よ」
というわけで。
新しく家族になる月森一家との挨拶も終えると、わたしは部屋へと案内された。
しかも、長女である千夜さん直々にわたしなんかを案内してくれている……恐れ多すぎるっ!
今日も艶やかで美しい黒髪、オフホワイトのブラウスにブラックのワイドスラックスの立ち姿はシックで清楚。
メリハリのしっかりとしたボディラインはまさに理想の女性といった感じだ。
て、ていうか、私服……!!
私服だあああああああっ!!
「ありがとうございますッ!!」
「……お、大袈裟過ぎよ、貴女」
色んな意味で感謝を述べたんだけど、そんなこと千夜さんに分かるわけもない。
ただ白い目を向けられた。
「すいません……」
頭を垂れて部屋の中へ。
部屋には何も置かれておらず、殺風景な空間にわたしの荷物を置いた。
――バタン
すると扉が閉じられる。
え、千夜さんと二人きりの密室……?
「一応、言っておくけど」
「え、あ、はい」
ゆらゆらと千夜さんが近づいて来る。
ああ、同じ空気を吸わせて頂けるだけで分不相応なのに。
今はその瞳にわたししか映っていない。
こんなご褒美あっていいのでしょうか。
「私は貴女を姉妹として認めるつもりはないから」
千夜さんはわたしを見据えて、はっきりとその意思を告げる。
それはわたしに対する明確な線引き。
戸籍上は姉妹になったとしても、血の繋がりがないわたしを認める気はない。
そういう意味だろう。
「もちろんです」
「そうね、貴女からすれば認めがたい事実かもしれな……え?」
わたしが素直に納得したことが意外だったのか、千夜さんの方が面を喰らっていた。
「わたしなんかが月森家の姉妹になれるだなんて、そんなこと夢にも思ってないので安心して下さい」
「え……貴女それでいいの?」
わたしの中では何の違和感も生じていない。
だって月森三姉妹はあの三人だから完成されているのだ。
そこにモブが乱入なんて、異物混入でしかない。
美しく完成された絵画に、素人が一筆入れてしまうような暴挙に等しい。
「全く何の問題もありません。わたしのことはどうぞただの同居人だと思って下さい」
「……えっと、重ねて一応。私達に対して邪な劣情を抱かぬように」
「そんなことは絶対にしないので安心して下さい」
「……」
劣情だなんてとんでもない。
わたしが月森三姉妹に抱く感情は崇拝であり羨望だ。
これは純粋無垢なる感情であり、いわば愛だ。
そんなわたしが月森さんたちにあらぬ感情を抱くわけがない。
「……えっと」
しかし、その答えを聞いて千夜さんが首を傾げているのはどうしてだろう。
お望み通りの回答なはずなんだけど。
「……想像していたのと違うわね」
「そうなんですか?」
聞き返すと、千夜さんはごほんと咳ばらいをした。
「ふん、まあそれならそれでいいわ。慣れ合うつもりはないから」
そう言うと、千夜さんは黒髪をなびかせて颯爽と部屋から出て行くのだった。
「……千夜さん、綺麗でかっこいいけど。冷たいなぁ」
とほほ……。
姉妹として受け入れてもらおうなんて思ってないけどさ。
ただ、ほんの少しでいいから、もうちょっと普通に接したいな。
敵意がビンビンすぎる。
殺風景な部屋に一人残されると、その寂しさはより一層増すのだった。
◇◇◇
「えっと……何がどこにあるんだろ……」
ぱたぱたと階段を下りてみるが、当然来たばかりで家の構造がまだ分からない。
居間に行けば誰かいるだろうけど、なんかまだ話しづらいしなぁ。
「あら、どうしました?」
なんて思っていると、廊下に現れたのはおっとりとした雰囲気が特徴的な二女の日和さんだった。
「あ、あの、トイレどこかなって……」
「それなら、こちらですよ」
なんとまさかの日和さん自ら案内してくれる。
栗色のゆるいウエーブの髪が揺れ、ナチュラルカラーのカーディガンに淡いピンクのロングスカート。
三姉妹の中で特に豊満な体つきも合わさって、ふわふわでお可愛わわわっ!!
「ここです」
「ありがとうございますっ!!」
「あら、元気がいいですねぇ」
日和さんは優しい笑みを浮かべながら自身の頬に手を当てる。
そんな所作が品と柔らかさがあってとても似合う。
ていうか冷静に日和さんにトイレに案内してもらってるとか凄いことだよね。
なんか背徳感すら感じる。
「まだ右も左も分からないでしょうから。遠慮なく聞いて下さい」
「わ、わざわざすみませんっ」
あー。
やっぱり日和さん優しい。
丁寧な言葉遣いにその優しい物腰の安心感がすごい。
「いえいえ、こんなすぐ近くにあるおトイレの場所も分からないような方ですものね?これからの生活もさぞ大変でしょうから、気になさらないで下さい」
「あ、はい……」
あ、あれ……。
なんか微妙にチクリと刺されたような。
“見たら誰でも分かるような場所も把握できない人だなんて可哀想”てきな。
いや、気のせいかな。
わたしがネガティブなだけかな。
うんうん、そうだよね。
そう思う事に決めた。
◇◇◇
――コンコン
「はい?」
お部屋の整理をしていると、ドアがノックされた。
「入るよ」
扉が開かれると、そこにいたのは三女の華凛さんだった。
左右に結った対照的なツインテール、グリーンのパーカーにブラックデニムのショートパンツ。
スレンダーな体つきもあってボーイッシュな印象もありますが、露わにしている細くてすらりとした生足はちゃんと肉感があって女性的な魅力ががががががっ。
「ありがとうございますっ!」
「はっ?ま、まだ何も言ってないし、何もしてないじゃん」
「あ、そ、そうでした……」
まずい、暴走しすぎた。
皆さんの私服をしっかり鑑賞できて舞い上がってしまいました。
「あ、それで、ど、どうしました?」
「あんたに用があって来たの」
ん……?
今、思うと千夜さんはわたしの部屋案内のため。
日和さんはたまたま廊下で会っただけ。
そう考えると、純粋にわたしに会いに来てくれたのは華凛さんが初めてではないでしょうか……?
あれ、嬉しいかもっ。
「ありがとうございますっ!!」
「だからまだ何もしてないって!」
そうでした。
華凛さんは何をしにここへ……?
「この家の雑用、教えるから来て」
……あー。
そっか、そうだよね。
華凛さんがわたしに興味あるわけないよね。
わかってた、分かってましたよ。
ふふ……そんな悲しさと同時に、華凛さんと話せて嬉しいと思ってしまうわたしの情緒は複雑だ。
「ここが風呂ね」
案内された先は浴室でした。
浴室はピカピカで汚れが一切なく、手入れが行き届いているのが分かります。
「基本的にはこれからここの掃除は任せたよ」
「あ、はい」
「掃除道具はここにあるから。これ使って」
「なるほど、分かりました」
コクコクと素直に頷くと、ジーっと華凛さんがわたしを見てきます。
「ちゃんと綺麗にしないと千夜姉に小言いわれるから、しっかりやった方がいいかも」
「あ、そうなんですね」
「一応、あんたは一番年下の妹なんだし。何でも率先してやったら?」
「はうっ……!」
「え?」
か、華凛さんが今わたしのことを、い、いもっ、妹と……!
なんかすごく恐れ多いのと同時に、喜んでしまう感情がっ。
そんなの期待してなかったのに、向こうから言われてしまうとサプライズが凄くて……!
「そ、そんなに嫌だった……?ご、ごめん。あたしも言い過ぎ――」
「とっても嬉しいです!!」
「――へ?」
わたしは感謝の気持ちを素直に伝えると急に白い目を向けられた。
なんで?
「えっと、あんた、喜んでるの?」
「はい、とっても!」
それに三姉妹の皆さんの住みよい環境づくりのお手伝いが出来るなら、これくらいはお安い御用だ。
「と、とにかくちゃんとやってよね!」
そう言い捨てると、華凛さんはそのままわたしから離れていくのでした。
……うーん。
華凛さんは妹と呼んでくれて嬉しかったけど、用件を済ませたみたいな感じだもんなぁ。
結局のところ、まだ皆さんとの距離を感じる。
きっとわたしが月森さんたちを恋愛感情として好きだと勘違いされたせいだ。
「まずはその誤解を解いて行けたらいいな」
新しい生活の、最初の目標が決まった瞬間だった。
というわけで。
新しく家族になる月森一家との挨拶も終えると、わたしは部屋へと案内された。
しかも、長女である千夜さん直々にわたしなんかを案内してくれている……恐れ多すぎるっ!
今日も艶やかで美しい黒髪、オフホワイトのブラウスにブラックのワイドスラックスの立ち姿はシックで清楚。
メリハリのしっかりとしたボディラインはまさに理想の女性といった感じだ。
て、ていうか、私服……!!
私服だあああああああっ!!
「ありがとうございますッ!!」
「……お、大袈裟過ぎよ、貴女」
色んな意味で感謝を述べたんだけど、そんなこと千夜さんに分かるわけもない。
ただ白い目を向けられた。
「すいません……」
頭を垂れて部屋の中へ。
部屋には何も置かれておらず、殺風景な空間にわたしの荷物を置いた。
――バタン
すると扉が閉じられる。
え、千夜さんと二人きりの密室……?
「一応、言っておくけど」
「え、あ、はい」
ゆらゆらと千夜さんが近づいて来る。
ああ、同じ空気を吸わせて頂けるだけで分不相応なのに。
今はその瞳にわたししか映っていない。
こんなご褒美あっていいのでしょうか。
「私は貴女を姉妹として認めるつもりはないから」
千夜さんはわたしを見据えて、はっきりとその意思を告げる。
それはわたしに対する明確な線引き。
戸籍上は姉妹になったとしても、血の繋がりがないわたしを認める気はない。
そういう意味だろう。
「もちろんです」
「そうね、貴女からすれば認めがたい事実かもしれな……え?」
わたしが素直に納得したことが意外だったのか、千夜さんの方が面を喰らっていた。
「わたしなんかが月森家の姉妹になれるだなんて、そんなこと夢にも思ってないので安心して下さい」
「え……貴女それでいいの?」
わたしの中では何の違和感も生じていない。
だって月森三姉妹はあの三人だから完成されているのだ。
そこにモブが乱入なんて、異物混入でしかない。
美しく完成された絵画に、素人が一筆入れてしまうような暴挙に等しい。
「全く何の問題もありません。わたしのことはどうぞただの同居人だと思って下さい」
「……えっと、重ねて一応。私達に対して邪な劣情を抱かぬように」
「そんなことは絶対にしないので安心して下さい」
「……」
劣情だなんてとんでもない。
わたしが月森三姉妹に抱く感情は崇拝であり羨望だ。
これは純粋無垢なる感情であり、いわば愛だ。
そんなわたしが月森さんたちにあらぬ感情を抱くわけがない。
「……えっと」
しかし、その答えを聞いて千夜さんが首を傾げているのはどうしてだろう。
お望み通りの回答なはずなんだけど。
「……想像していたのと違うわね」
「そうなんですか?」
聞き返すと、千夜さんはごほんと咳ばらいをした。
「ふん、まあそれならそれでいいわ。慣れ合うつもりはないから」
そう言うと、千夜さんは黒髪をなびかせて颯爽と部屋から出て行くのだった。
「……千夜さん、綺麗でかっこいいけど。冷たいなぁ」
とほほ……。
姉妹として受け入れてもらおうなんて思ってないけどさ。
ただ、ほんの少しでいいから、もうちょっと普通に接したいな。
敵意がビンビンすぎる。
殺風景な部屋に一人残されると、その寂しさはより一層増すのだった。
◇◇◇
「えっと……何がどこにあるんだろ……」
ぱたぱたと階段を下りてみるが、当然来たばかりで家の構造がまだ分からない。
居間に行けば誰かいるだろうけど、なんかまだ話しづらいしなぁ。
「あら、どうしました?」
なんて思っていると、廊下に現れたのはおっとりとした雰囲気が特徴的な二女の日和さんだった。
「あ、あの、トイレどこかなって……」
「それなら、こちらですよ」
なんとまさかの日和さん自ら案内してくれる。
栗色のゆるいウエーブの髪が揺れ、ナチュラルカラーのカーディガンに淡いピンクのロングスカート。
三姉妹の中で特に豊満な体つきも合わさって、ふわふわでお可愛わわわっ!!
「ここです」
「ありがとうございますっ!!」
「あら、元気がいいですねぇ」
日和さんは優しい笑みを浮かべながら自身の頬に手を当てる。
そんな所作が品と柔らかさがあってとても似合う。
ていうか冷静に日和さんにトイレに案内してもらってるとか凄いことだよね。
なんか背徳感すら感じる。
「まだ右も左も分からないでしょうから。遠慮なく聞いて下さい」
「わ、わざわざすみませんっ」
あー。
やっぱり日和さん優しい。
丁寧な言葉遣いにその優しい物腰の安心感がすごい。
「いえいえ、こんなすぐ近くにあるおトイレの場所も分からないような方ですものね?これからの生活もさぞ大変でしょうから、気になさらないで下さい」
「あ、はい……」
あ、あれ……。
なんか微妙にチクリと刺されたような。
“見たら誰でも分かるような場所も把握できない人だなんて可哀想”てきな。
いや、気のせいかな。
わたしがネガティブなだけかな。
うんうん、そうだよね。
そう思う事に決めた。
◇◇◇
――コンコン
「はい?」
お部屋の整理をしていると、ドアがノックされた。
「入るよ」
扉が開かれると、そこにいたのは三女の華凛さんだった。
左右に結った対照的なツインテール、グリーンのパーカーにブラックデニムのショートパンツ。
スレンダーな体つきもあってボーイッシュな印象もありますが、露わにしている細くてすらりとした生足はちゃんと肉感があって女性的な魅力ががががががっ。
「ありがとうございますっ!」
「はっ?ま、まだ何も言ってないし、何もしてないじゃん」
「あ、そ、そうでした……」
まずい、暴走しすぎた。
皆さんの私服をしっかり鑑賞できて舞い上がってしまいました。
「あ、それで、ど、どうしました?」
「あんたに用があって来たの」
ん……?
今、思うと千夜さんはわたしの部屋案内のため。
日和さんはたまたま廊下で会っただけ。
そう考えると、純粋にわたしに会いに来てくれたのは華凛さんが初めてではないでしょうか……?
あれ、嬉しいかもっ。
「ありがとうございますっ!!」
「だからまだ何もしてないって!」
そうでした。
華凛さんは何をしにここへ……?
「この家の雑用、教えるから来て」
……あー。
そっか、そうだよね。
華凛さんがわたしに興味あるわけないよね。
わかってた、分かってましたよ。
ふふ……そんな悲しさと同時に、華凛さんと話せて嬉しいと思ってしまうわたしの情緒は複雑だ。
「ここが風呂ね」
案内された先は浴室でした。
浴室はピカピカで汚れが一切なく、手入れが行き届いているのが分かります。
「基本的にはこれからここの掃除は任せたよ」
「あ、はい」
「掃除道具はここにあるから。これ使って」
「なるほど、分かりました」
コクコクと素直に頷くと、ジーっと華凛さんがわたしを見てきます。
「ちゃんと綺麗にしないと千夜姉に小言いわれるから、しっかりやった方がいいかも」
「あ、そうなんですね」
「一応、あんたは一番年下の妹なんだし。何でも率先してやったら?」
「はうっ……!」
「え?」
か、華凛さんが今わたしのことを、い、いもっ、妹と……!
なんかすごく恐れ多いのと同時に、喜んでしまう感情がっ。
そんなの期待してなかったのに、向こうから言われてしまうとサプライズが凄くて……!
「そ、そんなに嫌だった……?ご、ごめん。あたしも言い過ぎ――」
「とっても嬉しいです!!」
「――へ?」
わたしは感謝の気持ちを素直に伝えると急に白い目を向けられた。
なんで?
「えっと、あんた、喜んでるの?」
「はい、とっても!」
それに三姉妹の皆さんの住みよい環境づくりのお手伝いが出来るなら、これくらいはお安い御用だ。
「と、とにかくちゃんとやってよね!」
そう言い捨てると、華凛さんはそのままわたしから離れていくのでした。
……うーん。
華凛さんは妹と呼んでくれて嬉しかったけど、用件を済ませたみたいな感じだもんなぁ。
結局のところ、まだ皆さんとの距離を感じる。
きっとわたしが月森さんたちを恋愛感情として好きだと勘違いされたせいだ。
「まずはその誤解を解いて行けたらいいな」
新しい生活の、最初の目標が決まった瞬間だった。
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