学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと

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第2章 華凛

10 思い通りに行かない

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 何はともあれ華凛かりんさんの姉妹関係における心の壁は少し取り払えたように思う。

 そして、これから月森三姉妹の仲がどう変化していくのか。

 それが重要だ。

 この朝食の時間も、その真価が問われる瞬間だ。

 ふふっ……楽しみだなぁ。

明莉あかり。ほっぺたに米粒ついてるぞ」

「あ、すいません」

 とか思っていたのに、わたしがだらしないせいで華凛かりんさんの注意がわたしに向いてしまう。

 いけない、いけない。

 わたしはそんなことをしたかったわけでは……。

「ほら、取れたよ」

「ありがとうございます」

 その指先にはわたしの頬についていた米粒一つ。

 華凛さんはその指先の行先が定まらず、空を彷徨っているようだった。

「どうしよ」

「えと、捨てれば――」

「捨てるのは勿体ないよね」

 食い気味に言われてしまった。

「あ、まあ……ご飯を捨てる行為自体はよくはないとは思いますけど」

 あ、じゃあわたしが食べますか?

 華凛さんの指先に触れたお米を。

 え、いいですか?

「じゃあ、あたしが食べるよ」

「あ」

 が、しかし。

 その提案をする間もなく、パクッとその指先を華凛さんが口に含む。

 わたしの頬に触れたお米が、華凛さんの体内に……?

「わわっ、ダメですよっ華凛さんっ」

「え、なに、いきなり」

「わたしなんかに触れた物を食べたらダメです、お腹壊しますよっ」

「明莉は、自分のことを菌か何かだと思ってるの?」

「いえ、華凛さんが綺麗すぎるのでわたしに汚されないか心配してるだけです」

「ちょっ、言い方……てか、同じ空間に住んでてそれはないでしょっ」

 兎にも角にも頂けない。

 お美しい華凛さんの体内をわたしのようなモブの存在を取り込んでいいはずがないのに。

 なんで食べちゃうのかな、もー。

「……朝から何をしているの、貴方たち」

 そこに非難めいた声を出すのは長女の千夜ちやさんだ。

 やはり千夜さんも月森つきもりの遺伝子に、花野はなのを取り込まれるのを避けたいと思うのだろう。

 わたしですらそう思う。

「いや、明莉のほっぺに米粒ついてたから」

「それは分かってるわ……本人に言って取らせればいいじゃない」

「あたしが取った方が早いじゃん」

「……そう」

 千夜さんは若干まだ言い足りないことがありそうだったが、言葉を押し殺す。

 華凛さんは正直に自分の気持ちを打ち明けるようになったけど、まだ千夜さんの方が距離があるのかもしれない。

「それでも食べてあげるなんて、華凛ちゃんは優しいですね」

 今度は日和ひよりさんがそれに反応する。

「日和ねえが作ってくれたご飯残すとか勿体ないじゃん」

「あらあら、可愛いこと言いますね」

「可愛いって……そういうキャラじゃないから」

「なら、熱血キャラですか?」

「振り幅っ」

 うんうん、日和さんは相変わらずほんわかしてるけど、たまに謎だなぁ。

 華凛さんは砕けてきたように見えるけど、二人のお姉さま方の関係性がもう少し円滑にいければなという気もする。






「はい、どうぞ」

 学校に行く前に、日和さんがわたしに声を掛けてくる。

 それだけでもビックリなのに、さらに衝撃なのはその手にある物だ。

「……日和さん、これは?」

「お弁当ですよ?」

 まさかの事態だ。

 日和さんの繊細な手の平の上には巾着袋があり、その中身は明らかにお弁当箱が入っている。

 一体、なにがどうしたと言うのだろう?

「あの、どうしてそれを?」

「いつも姉妹のお弁当はわたしが作っていますのに、昨日はすっかり花野はなのさんの分を忘れちゃってて……ごめんなさいね?」

 ひ、日和さんが作ってくれたお弁当……?

 それをわたしに……?

 な、なんだ、これ。

 壮大なドッキリか、何かかな?

「お口に合わなかったら残してもらって構いませんから」

「そんなのあり得ませんっ!」

「いえ、でもまだ花野さんの好みを把握してませんし」

「大丈夫です、全部好きです」

 日和さんが作ってくれた物なら、嫌いな食べ物でも好きになる自信があります。

「あらあら、それなら安心ですね」

 朗らかに微笑む日和さん。

 うーん、癒し。


        ◇◇◇


 学校にて、わたしは席につき考える。

 どうしてあんな家庭的で柔和な日和さんがいるのに、三姉妹の関係性は円滑にいかないのか。

 あんな人が三姉妹の真ん中にいたら、仲良しになるしかない気がするのに。

「ふっ……そんな人様の人間関係をぼっちが何を上から偉そうに」

 我ながら失笑ものだ。

 自分の人間関係すら構築できていないのに、人様のことを考えるなんて誰かに聞かれたらバカにされる気しかしない。

「なに一人でブツブツ言ってんの」

「わ、華凛さんっ!?」

「明莉はいちいち驚くよね」

「いえ、だって場所が場所じゃないですかっ」

「……え、なんか変?」

「学校ですよ、ここっ!?」

 華凛さんは何のこっちゃと首を傾げる。

「普通でしょ」

「華凛さんみたいな人がわたしみたいなモブと話してたらダメですよ。ブランディングが落ちますよっ」

「……明莉は卑屈だなぁ」

「え?」

「誰もそんなこと思ってないって」

 そんなことはないっ。

 ほら見て下さいよ、周りの人ジロジロ見てるじゃないですか。

「いやいや、絶対思ってますって」

「気にしすぎ」

「分かりました。“ハイブランド(華凛さん)とファストファッション(わたし)を掛け合わせてオシャレ!”みたいな感覚ですね?」

「いよいよ何言ってるのかマジで分かんないんだけど……」

 華凛さんは眉間に皺を寄せながら、こめかみを自分で揉みほぐしていた。

「仮にそうだとしてもさ。あたしは明莉と話したくてここに来てんの、だから周りのことは関係ないの」

「華凛さん……」

「分かってくれた?」

 そんなこと面と向かって言われたら、わたしは――

「ちょっと離れてもらっていいですか?」

「なんでそうなるわけ!?」

 いえ、尊すぎて逆にムリなんです。

 キュンキュンしちゃって鼓動が収まらなくなるので落ち着かせて頂きたい。

「いーから、何考えてたのさ」

「おおうっ」

 華凛さんはあろうことか空いてる席の椅子を持ってきて、わたしの前に座りだしてしまった。

 ど、どうしたものか……。

「言わないとずっとここにいるからね」

 嬉しいけど、それはよろしくない。

 もう話すしかないのかなぁ。

「いえ、日和さんと仲良くなるためにはどうしたらいいのかなぁと」

 次は日和さんとの距離を縮め、三姉妹との仲を取り戻してもらいたい。

 そのために何をわたしはすべきだろうか。

「……」

「あれ、華凛さん?」

 聞いてきたから答えたのに、華凛さんがだんまりだ。

「日和ねえとそんなに仲良くなりたいの?」

「あ、はい。そうですけど」

「……ふーん」

「えっと、華凛さん?」

「あたし、知らなーい」

「え?」

「なに?」

 え、何と言いますと……。

 てっきり何かしらアドバイスなり、感想なりを頂けるものかと思ったんですけど……。

「いいんじゃない頑張ったら?」

「あ……そうですね」

 そっ、そっか。

 ただ聞きたかっただけか。

 うんうん、大丈夫。

 わたし一人で頑張って見せますよ。

「とりあえず。あたしはずっと明莉の隣にいるかな」

「なんでそうなるんですかっ!?」

 前後の話と繋がりなさすぎてわけ分からないですよ!?

「さあ、自分で考えたら?」

「え、どういうことですか……」

 華凛さんがよく分からない子になってしまいました。

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