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第4章 千夜
18 言葉にしないと
しおりを挟む「それで……アレはあたしの勘違いだった、と」
帰宅後、部活を終えた華凛さんに事の経緯を説明すると、納得したように深く頷くのでした。
「みたいですね。ちなみに華凛さんは何を勘違いしていたのですか?」
千夜さんには“貴女が私に会いに来た経緯をちゃんと説明しておきなさい”
とだけ言われたので、それに従いましたが、結局華凛さんの勘違いが何だったのかは分からないままです。
「いや、それは……ほら……なんていうのかな……」
ごにょごにょ、と言葉を濁す華凛さん。
そんな言いづらい勘違いだったのでしょうか。
「まあまあ、華凛ちゃんもお年頃の女の子ですからね。色々と妄想が捗っちゃうんですねぇ~」
「あ、ちょっ、日和姉なに勝手なこと言って……!」
そこに合の手を入れるのは日和さんです。
ちなみにまたわたしの部屋なのですが、いつの間にか集合場所みたいになってきてますね。
「あらあら、本当のことじゃないですか?華凛ちゃんは先を越されたくなかったんですよねぇ?」
「あっ、いやっ、なんでそこまで……!」
動揺を隠せない華凛さん。
「先を越されたくない……?」
それは一体何のことかと、想像を巡らせてみます。
「ああっ!ちっ、ちがうから、明莉、あたしはそんなこと全く考えてなくて――」
「ああっ、なるほど。分かりましたよ華凛さん」
「いやあああああああっ!!」
よっぽど恥ずかしいのか、再び頭を抱える華凛さん。
「華凛さんは妹として、お姉さんの悩みを義妹より先に解決したかったのですね?」
「……」
華凛さんは以前より自分の意見を主張するようになりましたし、千夜さんのことを気に掛けているのは伝わってきますからね。
ぽっと出のわたしに譲りたくなかったのでしょう、その気持ちは想像に難くありません。
「もう照れ屋の華凛さんっ、千夜さんは取りませんから安心して下さいっ」
「……」
妹として、お姉ちゃん思いなのがバレるのが恥ずかしかったんですね?
そんなの隠す必要ないんですよ。
むしろ、わたしは姉妹の仲睦まじい姿を見せて欲しいのですから。
「ほらね、華凛ちゃん?明ちゃんはこれくらいでも察しがつきませんから大丈夫なんです」
「そう、なんだね……。なんか一人でずっと焦ってるあたしが疲れてきちゃった」
あ、あれ……。
なんかお二人に可哀想な目で見られている気が……。
それはそれで悪くありませんが、結局華凛さんの勘違いが何だったのか気になる所です。
「それで明ちゃん?千夜ちゃんの悩みは分かったのですか?」
「あ、はい。えと、『私は少しでも早く、正常な人間になりたいだけ』とは言ってましたけど」
「これはまた曖昧な表現ですねぇ。他に何か言ってませんでしたか?」
「後はそうですねぇ……『私にあの女の血が流れてると思うと、どうしても自分自身を疑ってしまうのよ』とも言ってました」
「あの女、ですか……」
その言葉を聞いて、表情に影を落とすお二人。
何か思う所があるのでしょうか。
「きっと、月森家のお母さんのことですよね?」
「ええ、恐らく……」
「やっぱり千夜姉、離婚で思うところがあったんだ……」
しかし、それだけでは具体的に何がどう影響しているのかまでは分かりません。
「あの、わたしなんかが聞く事じゃないのは承知の上で、もしよろしければ聞かせて欲しいんですけど……」
「離婚の経緯、ですか?」
「あ、はい……」
「明ちゃん、申し訳ありませんがそれには答えられません」
ふるふる、と日和さんが首を振る。
……まあ、そうですよね。
いきなり出来た義妹に、そんな繊細な問題を話せるはずもありません。
「ちがうの明莉、あたしたちも知らないんだよ」
「知らない……?」
「うん。お父さんとお母さんの空気がおかしくなっていたのは、あたし達も何となく察してたけど。その原因に関しては聞かされてないの」
そういうことでしたか。
確かに親からすると子供に余計な心配は掛けまいと、事の経緯を全て話すのは躊躇われるかもしれません。
「それでも、千夜ちゃんだけはお母様に対して特別思う所があったのでしょうね」
過去の出来事が千夜さんの根幹にあるのは間違いないようですね。
「千夜さんが何を考えているのかはちょっとずつクリアになってきましたね。後はそれをもっとオープンにしてもらうだけですっ」
全てを話す必要はないと思います。
それでも、“話せないことがある”ということ、たったそれだけを姉妹に伝えるだけでも違うと思うのです。
「……明莉って、めげるってことを知らないよね」
「ええ、絶対諦めません」
「……そんなに千夜姉が気になるのかぁ……」
何やらまたごにょごにょしてしまう華凛さん。
「いいんですよ明ちゃん、これが華凛ちゃんの可愛げなのでそっとしておきましょう」
それを分かってる包容力はさすが日和お姉さんです、尊い。
◇◇◇
ともあれ、まだ千夜さんとの距離が開けている状況には変わりません。
ここはもう少しお近づきになりたい所ですが……。
「「「「……」」」」
例の如く、シーンとした夕食です。
どうしたものでしょう、ここは一つわたしが何かアクションを起こして――
「そろそろ中間考査の時期だけれど、勉強の方は大丈夫かしら?」
みようと思ったのですが、先に千夜さんの方が口を開くのでした。
ん?中間考査?
「わたしの方は問題ないかと」
「日和の心配はしていないわ」
「あら、それでしたら誰の心配でしょう?」
ちなみに三姉妹の成績の順位としては千夜さん>日和さん>華凛さん
の順になっていると聞いたことがあります。
「……あたしは……まあまあ、みたいな?」
明らかに視線が空を彷徨う華凛さん。
分かりやすく動揺していて可愛いですね。
「去年の期末考査は赤点ギリギリだったわね?新学期早々そんな危ない橋を渡らないで欲しいのだけれど」
「だ、大丈夫だし……」
「その割には最近、勉強している姿を見ていないけど」
「……部屋でやってるからね」
「そう。それなら明日提出期限の課題は当然出来ているんでしょうね」
あれ、そんな課題ありましったけ?
完全に忘れてたなぁ……。
「……ああ~……ははっ……」
そして答えを濁しながら愛想笑いをする華凛さん。
分かりやすくて可愛いですね。
「分からない所があるのなら教えるから、すぐに聞きなさい華凛」
「……う、うん」
なるほどぉ。
確かに成績首位の千夜さんがいれば何でも聞けますもんね。
姉妹ならではの、羨ましい環境です。
……ん、あれ?
ちょっと閃いちゃいましたよ?
「はい!千夜さんっ、はいっ!」
わたしは挙手してアピールします。
「……なに」
すっごい嫌そうな顔されますが、気にしない事にします。
「わたし去年の期末赤点でした!明日の課題も終わってません!中間考査の勉強もしてませんっ!」
「……だから、何なの」
更にイラついた顔をされますが、気にしません。
「わたしに勉強を教えてください!」
これです!
ここが更に距離を縮めるチャンスですっ!
「嫌」
「え……」
なんて端的な拒絶。
「私が貴女の面倒をみる理由なんてないわ」
そうなるような気がしてましたけどっ。
一応、義妹ですがやっぱりダメですかっ。
「はいはい!でも千夜さん、以前『怠惰な人と一緒にいると怠惰が移るわ』と仰られてましたよね!?」
※06 妹は思う 朝食場面
「……言ったけど、それが何」
「ということはわたしが赤点とると、華凛さんも赤点をとることになりますよ!」
「そこであたしを巻き込むの!?」
思ったより華凛さんが驚いてますが、今は聞かないことにしましょう。
「だから、わたしに勉強を教えて下さい!」
「……そんな屁理屈」
「それとも千夜さんは自身の発言を、わたしが面倒くさいからという理由だけで撤回するような人なんですか!?」
「……」
もうすっごい睨まれていますが、思う所があるようなので口を閉ざしています。
「まあまあ、一理あるんじゃないですか?人は環境に強く影響されると言いますし」
「日和……貴女ね」
「それに最近の華凛ちゃんは、明ちゃんに影響を強く受けているのも事実ですし」
「……それはそうだけど」
「何より千夜ちゃんの言葉が彼女を動かしたのですから、責任をとってもいいかと」
「……はあ」
日和さんと話している内に千夜さんは重い息を吐くと、次にわたしを見据えます。
「いいわ、そこまで言うなら教えてあげる」
「わっ、やった……!」
こうしてまた千夜さんに近づくチャンスをゲットするのでした。
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