45 / 80
第6章 体育祭
45 体育祭
しおりを挟むとうとう体育祭当日。
わたしの心臓は鼓動を速く打っていました。
「さ、冴月さん……?」
「な、なによ」
交わる視線。
絡まる腕は汗ばんでいます。
冴月さんは瞳を瞬かせています。
「二人三脚、緊張するんですけど……」
「今さらね、あんたほんとっ」
容赦ない勢いで返されます。
今現在、わたしのいる場所はグラウンドのトラック部分。
足を紐で結び、肩を組んで次のバトンを待っている状態です。
「なんていうか、練習の成果を試されるというか……結果次第でクラスメイトの方々の期待を裏切るんじゃないかと不安になってきて……」
「だとしても、なんでそんなに緊張を感じるわけ?他の競技だってそうじゃない」
「わたしが他に出るの玉入れとか綱引きなので……目立たなくていいんですよね」
「他力本願!?」
いえ……個人競技で活躍できるようなスペックを持ち合わせていなだけなんですけど……。
なので、これだけわたしの実力がモロに露呈しちゃうと言いますか……。
「遅かったら絶対わたしのせいって思われますし、きっと白い目で見られるんですよ……」
ただでさえ今現在のわたしの立ち位置は際どいです。
月森三姉妹との謎の急接近。
そして陽キャ代表と言ってもいい冴月さんとの二人三脚。
今のわたしは学園のアイドルとリア充のみを相手にするという陰キャにあるまじき謎ムーブをかましているのです。
これでクラスの足を引っ張る行為なんて晒そうものなら、非難を受けるのは目に見えています。
「それなら安心しなさいよ」
「え……?」
ですが、冴月さんは力強い言葉で言い切ります。
「練習通りのタイムを出せれば、順位を上げることはあっても落とすことはないわ。だから、あんたはいつも通りにやればいいだけ」
「冴月さん……」
そう言い切った冴月さんは、視線を反らしてどこか遠くを見ます。
ですが、その言葉にわたしはちゃんと返事をしなければなりません。
「あの……それが難しいから、緊張してるの分かってます?」
実力が出せそうにないから、こっちは不安になってるんですけど。
「励ましてんのよっ!素直に受け取りなさいよっ!」
憤怒の表情でわたしの方に視線を戻してきました。
「……いや、そもそも“体育祭”というイベントがいつも通りじゃないのに、いつも通りをやれと言われても……」
「めんどくさいわねっ!普通ここは安心してわたしの言葉に喜ぶ所でしょっ!」
ん?
それって言葉を裏返すと……?
「冴月さんはわたしのことを安心させて喜ばせようとしてたんですか?」
あのイジワルな冴月さんが?
どうして?
「い、いや……あんたが、変に緊張しすぎてミスされてもこっちが迷惑なのよっ!」
ふん、と鼻を鳴らす冴月さん。
その態度って……。
「ですよねぇ……。わたしがミスすると冴月さんにも迷惑をかけますもんねぇ……すいませぇん」
はあ……プレッシャーに押しつぶされそう。
こういう日の目を浴びたくないから普段から陰キャをしているのに。
全てを白日の下にさらす体育祭の何と忌まわしい事か。
「ああっ!ご、ごめんって!そ、そういう意味じゃなかったんだけど……!」
「……もうこうなったら転んで怪我とかした方が皆さん許してくれますかね……。あ、でも擦り傷とかじゃ許してくれなさそうです。なら、骨折?……骨折できるような転び方もわたしじゃ出来なさそうですし……痛いのやだし……」
「ちょっ!?もう来るから!次、うちのクラスの子たち来てるからっ!!」
「……はっ!?」
冴月さんの声掛けにより意識を取り戻し、わたしたちは走り出しました。
「がっ、がはっ……うぐぅっ……ぶふっ……」
「……はあ、はあ。相変わらずおかしな息切れするわよね……」
二人三脚リレーを終え、芝生の上に転がるわたしと、膝を折って息を整える冴月さん。
同じ運動をしたのに疲労度は雲泥の差です。
「でも言った通り、ちゃんと順位は上がったでしょ?」
「は……はい……」
一瞬、現実逃避で意識が飛んでいたのか功を奏したのでしょう。
意識が戻ると同時に始まった二人三脚は、頭で動くより先に体が動いていました。
結果いつも通りのパフォーマンスを発揮し、順位を三位まで引き上げることに成功しました。
「冴月さんのおかげです」
「何言ってんのよ、あんたも頑張ったからでしょ」
あっけらかんと、冴月さんは嫌味もなく当たり前のように返してきます。
「ま、まあ……最初はあんたとやるのはどうかと思ったけど。たまには足を引っ張る奴と一緒にやると、こっちがちゃんとしなきゃってマジになるから、案外面白かったわ」
ぷいっとそっぽを向きながら、つぶやく冴月さん。
「……わたしは、もうこういうのは懲り懲りです」
是非、来年の二人三脚は全員参加を撤廃し、人数制限を設けるべきと千夜さんにお願いしておきましょう。
「あんた空気読めなさすぎじゃない!?」
「……え、みんなそんなに二人三脚やりたいんですか?」
「何の話してんのよっ!!」
結果を出しても、冴月さんはわたしに吠えてくるのでした。
……ほんとに、わたしのこと好きじゃないんでしょうねぇ。
◇◇◇
「あっ、明莉ー。おつかれー」
二人三脚、終了後。
わたしは冴月さんと別れ、体育委員が待機しているテントまで移動します。
そこには手を振ってくれる華凛さんの姿がありました。
「華凛さん、約束通り来ましたよ」
「うん。でも、もう休憩大丈夫なの?」
「はい、何とか回復しました」
練習をちゃんとしていたおかげでしょう、疲労は以前よりもすぐに回復するようになりました。
「そっか。でもさっき凄かったじゃん、明莉たちの追い上げでかなり沸いてたよ?」
「いやいや……華凛さんに言われても反応に困りますよ」
わたしのクラスのアンカーは華凛さんたちで、その走りはまさに疾風。
他のクラスの方々を圧倒し、大差で一位になっていました。
「いやいや……あたしらはほら、普段から運動してるからさ」
しかもアンカーで走ってるのに、もう体育委員の仕事をこなしている華凛さんの体力ですよ。
わたしは今になってようやく回復して、ここまで来たのに……。
「それで、わたしは何をすればいいですか?」
ここに来た目的は華凛さんのお仕事のお手伝いなのです。
「あ、ごめんごめん。そうだよね、次の競技の用具を準備しなくちゃいけなくてさ。一緒に付いて来てくれる?」
「勿論です」
そうして、わたしは華凛さんと体育倉庫へと足を運ぶことになりました。
「いやあ、それにしても明莉が日和姉と千夜姉にも誘われてたなんてね」
「そうなんです、まさかのトリプルブッキングでした」
そのことを三姉妹の皆さんが話し合ってくれた結果、
『タイムスケジュールを組んで、三人それぞれの時間を作ってもらえばいいんじゃないかしら?』
という千夜さんの平和的解決案によって決着するのでした。
「明莉もモテるねぇ?」
なんて、冗談めかして華凛さんが言ってきます。
「皆さんぼっちのわたしのことを気にかけてくれる優しい方で嬉しいです」
「……うーん……それはちょっと違うと言うかぁ……」
「え?」
「あ、いや、それはぁまぁいいんだけど。でも冴月とも走るくらいだし、ぼっちとは違うんじゃない?」
「あー。アレは冴月さんに対する仕返しの意味もありましたから」
結果、お世話になる形にはなってしまいましたけど。
「そうなの?」
「はい、ちょっと色々ありまして」
「ふーん、そっか。じゃあ次こそ、あたしがペアになろっかな……なんて」
これまた軽い口調で言い掛ける華凛さんですが。
「安心して下さい。来年は千夜さんにお願いして、二人三脚にわたしが出なくてもいいようにしてもらいます」
「……それも違うんだけど……」
「そうですか?」
「いや、いいんだけどね……」
なぜか肩を落とす華凛さんの背中を見つめながら、気付けば体育倉庫に到着します
華凛さんが鍵を開けて、扉を開きます。
「そこに奥にあるコーン運んでもらっていい?補充が必要みたいでさ、そんなに重くないから大変じゃないと思うんだ」
「はいっ、分かりましたっ」
わたしはコーンが置いてある奥の方へと足を運びます。
「……」
――ガチャン
「あれ?」
なぜか扉を閉める音が聞こえてきたのでした。
1
あなたにおすすめの小説
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる