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第7章 明莉
61 姉妹会議②
しおりを挟む「あ、ああっ、あいって、あの愛……?」
ぱくぱく、と華凛は口を何度も開閉させながら日和を指差す。
姉のストレートすぎる告白に、動揺を隠せなかった。
「はい、LOVEってやつですねぇ?」
体育祭でも似たような発言をしましたね、と日和は関係ないことを思い出しつつ肯定する。
どうせ明莉に言うつもりだったのだから、今さら隠す必要もない。
「それをあの子に伝えて、日和はどうしたいの」
重々しく千夜が問う。
その告白の果てに、日和は何を望むのか。
「もし明ちゃんと両想いなら、お付き合いさせて頂けたらと願っています」
その想いを押しとどめるように、日和は胸に両手を添えた。
「あの子が私達に向けている感情はそういうものではないと思うのだけれど」
しかし千夜は、明莉の月森三姉妹に対する特異な姿勢について言及する。
こうして一緒に住み、時間を積み上げたことで、千夜も明莉に特別な感情を抱いている。
けれど、その熱に浮かされれば浮かされるほど、双方の熱の違いに気付いてしまう。
告白はされた、されたけれど。
何か決定的に違うものを千夜は感じていた。
「た、確かに……。なんか好きは好きなんだろうけど、あたしの方が肩透かしをくらう感覚っていうか……」
そして同様な感覚を華凛も感じ取っていた。
彼女も真剣であればあろうとするほど、その想いが一方通行であることに違和感を覚えていた。
「お二人とも、そうやっていつまでも憶測で話していて楽しいですか?」
けれど、日和はそれを一蹴する。
「……えっ」
「何が言いたいのかしら」
言葉を失う華凛と、聞き返すことしか出来ない千夜。
二人とも反応はほとんど似たようなものだった。
「告白はされたけど違和感が残る、明ちゃんの気持ちは本当の好きではないのかもしれない。……そんなことを恐れて何の意味があるのでしょうか?」
日和は二人の口にしていることが、無意味であるかのように問い返す。
「お、恐れてるとか、そういう意味じゃ……」
「そうよ。双方の意思に食い違いがあるのなら告白する意味などないでしょう」
心の底に潜む正体不明のモヤモヤとした感情。
そこを素手で触れられたようで、千夜と華凛は冷や汗が流れそうだった。
「口しなければ、言葉にしなければ届きませんよ」
日和の口調はどこまで行っても、その平穏さを保ち続ける。
「好きや愛というものは、目に見えるものではないのですから」
「そ、そんなのあたしだって知ってるし」
「当たり前のことを言わないでちょうだい」
当然の反論のように聞こえるが、日和はそうとは思えない。
「でしたらお二人はさっきから何を仰っているのでしょう。“明ちゃんの好きは違う”などと、見えやしないものをさも理解したかのように」
「……それは……えっと……」
「見えなくて不明瞭だからこそ、推察するのではなくて?」
ふるふる、と日和は首を振る。
「違います、お二人は明ちゃんの気持ちを察しているのではなく、“分からない”という自分の形に収めてるだけに過ぎません。確かめる事をやめているのです」
「「……」」
いよいよ二人は言葉を失う。
ただ、核心を突かれているという感覚だけがあった。
「曖昧で分からないものだからこそ、こちらの気持ちを届けるのでしょう?」
形がないものだからこそ、その想いを重なり合わせることでしか、その気持ちは図れない。
だからこそ、人は想いを告白する。
日和は、恋という感情をそういうものだと捉えていた。
それは花野明莉という存在に触れたことで知り得た結論でもある。
「わたしはいつ打ち明けても良かったのですけれど……やはり性分なんでしょうね。千夜ちゃんと華凛ちゃんの様子を見ていたら中々言い出せず……」
とは言え、日和も三姉妹の関係性を大事なものだと思っている。
だからこそ、こうして動き出さずに待ち続けていたのである。
自分だけ前に出るようなことはしない、喜びは三人で分かち合う。
ずっとそう在ることが日和の幸せでもあった。
けれど、それも終わりにしよう。
そうさせたのは、やはり花野明莉その人だった。
「ですから、わたしはわたしのやりたいようにやりますね?玉砕したらどうぞ笑って下さい」
それでも、後悔することだけはないだろう。
そう思い日和は踵を返し、部屋を出るための一歩を踏み出す。
この部屋を出れば、明莉はすぐそこにいる。
後は、さきほどの時間を再開するだけだった。
「ま、待って……!」
その背中を呼び止めるのは華凛だった。
「あ、あたしも明莉のこと好きだから……!あ、ああっ、愛しちゃってるんだから……!だから、日和姉にだけ抜け駆けとかさせないから……!」
覚悟を決めたように華凛はその想いを口にする。
口にした途端、手の平からは大量の汗が噴き出るが、放った言葉は返っては来ない。
もう後には引けない、引くつもりはない。
華凛もまた花野明莉に恋する乙女だった。
「そうですか、それでしたらどうします?」
あらあら、と日和はいつものように人差し指を頬に当て、首を傾げる。
「あたしも言う!告白する!確かに、分かんないものをそのままにするとか、性に合わないし!」
自分で言っていて華凛は恥ずかしさに頭がおかしくなりそうだったが、それでも魂がそうするべきと叫んでいた。
「あら、でしたら同時に告白することになりますね?」
「いいでしょ別にっ。二人で言っても、結局どっちか選ばれるかもしれないし、どっちも選ばれないかもしれないんだしっ」
至極当然のことだが、華凛は自分の言葉に納得する。
退路はもうない。
「とのことなので、わたしたちは行きますね?」
「……ああ、でもあたし嫌われたばっかじゃん……やっぱり後にすべき……?」
問いかける日和と、もう次のことで頭をいっぱいにしている華凛。
その妹達を見て、千夜も心の奥から込み上げてくるものがあった。
「ま、待ちなさい!」
千夜の叫びに、二人は足を止める。
「……その私は、私だって……」
嗚呼、妹を前に私は何を言おうとしているのか。
つい先日まで、自分のことなど何も表現しなかったというのに。
まさか、こんなに繊細で重々しい感情を吐露するのか。
その目まぐるしい変化に千夜自身が振り回されそうになっていた。
けれど、今言わなければならないと、そう騒ぎ立てるものがあった。
「私自身、まだよく分かっていないけれど。でもあの子の事を好ましく想っているのは間違いないわ。義妹としてでも友人でもなく特別な何か。それをあの子に感じているの……」
だから、それを確かめたい。
二人に比べ遠回りではあるけれど、恐らくそれが恋であることを千夜も薄々感じている。
そして、妹達を見て確信に変わりつつあろうともしていた。
「では、それも言って確かめるしかありませんね?」
日和はやはり、笑顔で肯定する。
「独占欲ってやつかぁ。千夜姉らしいなぁ」
うんうん、と華凛も頷く。
姉妹だからこそ、その曖昧さも理解し合える。
「えっと、そうなるのかしらね……」
長女としてリーダーとして、その立場を確固たるものとしていた千夜。
しかし、今この場においては関係ない。
「やはり三姉妹、好きなものって似通るんですかねぇ?」
「どうなんだろ、趣味とか結構バラバラだけど」
「……あまり似過ぎるのも考えものね」
恋敵であるはずの三人だが、好きを共有しあえる三姉妹でもある。
その不思議な一体感が、三人の心を繋ぎ合わせる。
三姉妹は、一緒に居間へと下りる。
三者三様に、その想いを秘めながら。
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