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最終章 決断
73 曇りなき眼
しおりを挟む「あ、あの皆さん……落ち着きましょ?」
わたしは今、床に正座を強いられていました。
その周りを三姉妹の皆さんが取り囲んでいます。
ど、どうしてわたしだけこんな恰好を……。
「貴女に発言を許した覚えはないわ、こちらの質問にだけ答えなさい」
「はい……」
千夜さんの空気が本気だったので、お口にチャックします。
「どうしてこんな時間に帰ってきたのかしら?」
「……」
相手は月森千夜さんです。
生徒会長で校則順守のお手本学生。
そんな人を前に
『放課後なので遊んじゃいました。これでわたしもリア充陽キャの仲間入りですね、えへへ』
なんて言おうものなら、どうなるのでしょう。
……絶対に怒られます。
「答えられないの?」
「……ちょっと道草を食っておりまして」
嘘は言えないので、オブラートに包んでみます。
「そんな、わたしの晩御飯なんてもうどうでもいいという事なんですねっ……しくしく」
ハンカチで目元を何度も拭う日和さん。
先程から涙が一粒も出る気配はないのですが、それを言えるような空気ではないので追求はしません。
「ほら、明莉っ。日和姉が泣いてんじゃん、これでも何とも思わないのっ!?」
その様子に声を荒げる華凛さん……。
悪い事をしたのはわたしですからね。
それをツッコめる立場ではありません。
「す、すいません……あらかじめ連絡しておくべきでした。日和さんのご飯はいつでも食べたいのですが、今日は突然のお誘いだったので気が回りませんでした」
初めてのお誘いに浮足立ち、わたしの意識はそっちばかりに向いてしまったのです。
「それで、どこで何をしていたのかしら?」
三姉妹の皆さんに見下ろされ、視線を一身に注がれています。
「え、ええとですねぇ……」
い、いいのでしょうか。
素直に答えても大丈夫でしょうか。
何だか、火種を生むような気がしているのですが……。
「くんくん……」
日和さんが膝を折って、わたしの首筋に鼻を近づけていました。
「ひ、日和さん!?」
この至近距離ですと、わたしの方にも日和さんの花のような甘い香りが漂ってきます。
「匂いますねぇ……?」
「うええっ」
しかし、それは日和さんも同様です。
く、臭かったでしょうか……?
「他のメスの匂いがします」
――すん
と、急に真顔で瞳のハイライトが消える日和さん。
め、メスって……そんな……。
「えっ!? 日和姉ほんとっ!?」
華凛さん……。
その前に、すっかり涙が引っ込んでいる日和さんに気になる点はないのですか?
「ええ、どこぞの馬の骨の匂いですね」
しかも、辛辣すぎます……。
と言いますか、その嗅覚が鋭すぎて怖いのですが……。
「あ、あたしもっ!!」
「ええっ!?」
そう言って、華凛さんも鼻を近づけてきます。
あ……華凛さんは柑橘系の香りなんですね。
って、そうじゃないですねっ。
「すんすん……うーん……」
「あの、華凛さん?」
「わっかんないなぁ……すんすん……」
そう言っていつまでも鼻を近づけ続ける華凛さん。
あの……分からなくて当然だと思うので、すぐやめたらいいのではないのでしょうか?
「華凛、目的をはき違えていないわよね?」
「え、あ……ええ! も、もちろんっ」
千夜さんに言われて、引き上げる華凛さん。
何がしたかったのでしょう……。
「それで日和、誰の匂いだったの?」
まさか当たるわけ――
「冴月さん、ですねぇ?」
――あるんですねっ!?
怖いですっ!!
背中から大量の汗が出始めました。
「と、ハッタリをかけようと思っていたのですが。この反応を見るにビンゴみたいですねぇ?」
ハッタリでした!!
わたしが馬鹿正直すぎましたっ!!
「え、あ……ハッタリだったのね……」
華凛さんはその意図に気付かなかったようです。
「匂いで分かるわけないじゃないですかぁ? 華凛ちゃんはずっと何がしたかったんですか?」
「え、や……き、聞かないでっ」
なぜか二次被害が……。
しかし、わたしはそんな心配をしている場合ではありません。
「それで、どうして私達に黙って冴月理子と会っていたのかしら……?」
千夜さんから放たれる重たい空気です……。
返答次第では、わたしはどんな目に遭ってしまうのでしょう。
千夜さんの目はずっと笑っていないのです。
「冴月さんに遊びに誘って頂いたので、ご一緒させてもらったんです……」
「へえ、こんな時間になるまでどこにいたの?」
「冴月さんのお家に……」
――ピキピキィッ
嗚呼ッ! 空気に亀裂が走っている音がっ!?
「汚らわしいです!!」
……日和さんが急に大声を上げ始めます。
「汚れてしまいました……わたしたちの明ちゃんは汚されてしまいましたっ!!」
袖口で顔を覆い、床に倒れ込む日和さん。
……すごいオーバーな演技に見えるのは気のせい、ですよね。
「かくなる上は」
すると、その体勢からわたしの方へと跳ね起きます。
「ええっ!?」
そのまま日和さんに押し倒されてしまいます。
上になった日和さんはわたしを見下ろしているので、その表情はわたしにしか見えません。
「うふふ……」
にやりと笑ってました。
やっぱり今までの全部演技だったんですね。
「わたしが浄化してあげないといけませんねぇ?」
しかも、瞳を閉じて唇を近づけてきてるんですか……!?
「なにやってんの日和姉!!」
「あら」
割り込む華凛さん。
おかげさまで助かりました。
「汚れたってなに!? 明莉は大丈夫じゃない!」
「……華凛ちゃん、明ちゃんをよく見て下さい」
「え?」
わたしをまじまじと見つめる華凛さん。
段々と頬が赤くなってるように見えるのは気のせいでしょうか。
「どうですか? 今の明ちゃん」
「……かわいい、けど」
え、なんですかこの時間。
恥ずかしくて爆発しそうなんですが。
「それは大人の階段を昇ってしまったからですよぉ?」
「明莉、昇ったの!?」
「昇ってませんよ!?」
どういう会話なんですか、これっ!!
「……真面目にやりなさい、日和、華凛」
静まり返る空気。
千夜さんの発言は空気を変えます。
「それで、どうなのかしら」
「ど、どうとは……?」
その眼光は鋭さを増すばかりで、わたしは身を縮めるばかりです。
「不純異性交遊、したの?」
「してませんよっ!!」
千夜さんもそこなんですかっ!?
「……信じられないわね」
「なんでですかっ」
「こんな夜遅くに帰ってきて、疑わない方が不自然でしょう?」
え、そ、そうなんですか……?
わたしがおかしいんですかね……。
「そんなことしてませんっ、ジュースとお菓子を食べてお話ししてただけですっ」
「証明できる?」
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こういう時は……ハートに訴えかけるしかありませんっ。
「千夜さんっ、わたしを見て下さいっ!」
「……どういうこと?」
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嘘偽りはないと声を大にして言えますから。
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その想いは必ず千夜さんに伝わるはずですっ。
わたしの身の潔白を証明すべく、じーっと見つめ合います。
「……やめてちょうだい」
ぷいっとそっぽを向く千夜さん。
「え、千夜さんっ!?」
「そんな瞳で、私を誘惑しないで」
してませんけどっ!?
「見て下さい華凛ちゃん、あれが大人になった証拠です。千夜ちゃんですら吸い込まれてしまうほど女の色香を纏っているんですよ」
「明莉が魔性の女に……」
わたしの誤解が解けるまで、もうしばらく正座を続けるのでした。
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