百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。

白藍まこと

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後日談

08 悪女の波乱は続く

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「……か、体が重い」

 なぜだろう。
 朝、目を覚ますと妙な疲労感が体に残っていた。 
 これも連日の学院生活の疲れ、わたしには分不相応すぎる恋愛関係によるものなのかもしれない。
 嬉しい悲鳴である事は間違いないのだけれど、身に余る贅沢って言うのは自身を滅ぼす危険性があるなぁ、なんて思ったりもする。

「ま、でも今日は日曜日。ゆっくり休めるなぁ」

 こういう時、一人部屋というのは有難い。
 誰を気にするでもなく自由に眠り続ける事が出来るから。
 私は喉が渇いたので、リビングでグラスに注いだ水を一杯飲み干す。
 それから、時間を調べようとスマホを手にする。

「……7時半、か。平日ならこんな時間に起きたら大慌てだけど、休みなら気兼ねなく二度寝できるから嬉しいなぁ」

 ふと、日付も目にする。

「……ん?」

 なぜだろう、数字の横に(月)と表示されている。
 おかしいな。
 (月)というのは一般的には月曜日という事になる。
 いつの間に日曜日は月曜日になったのだろうか?
 と、出口が見えなさすぎる問いが始まってしまった。

「気のせいかな、廊下も騒がしいような……?」

 休日特有の緩んだ空気感と静けさがない。
 どこか張りつめていて、せわしなく廊下を歩く足音が扉越しに聞こえてくるのだ。
 状況を加味すると、これは……。

「え、月曜日ってこと?」

 あたしの日曜日は、どこに行った!?
 ぜ、全然休まらないじゃんっ。
 というか何なら調子も悪いんだけど、なにこれ、どうゆうことっ。

 ――ダンッ

「おはよう、柚稀ゆずき君っ!」

「先輩っ!?」

 扉が開いたと思ったら、羽金はがね先輩が部屋に現れたっ。
 どうして鍵は開いてるのかな!?
 昨日のあたしは一体何をしていたのかなっ。

「おや? そんな他人行儀な呼び方はやめて欲しいな。昨日のようにうららと呼んでよ」

「……はい?」

 あたしが、先輩を呼び捨て?
 な、何の事……?

「ふふ、もしかして昨日は柚稀君も精一杯の努力を振り絞ってくれてたのかな。それが今になって振り返って恥ずかしさに身悶えている、そういう事だね?」

「いえ、そんな記憶が一ミリもないだけです」

「なるほど、私は試されているようだ。この気持ちをどれだけ素直に表現出来るかを」

「いえ、全然試してません」

 な、なんだ……。
 いつもの先輩よりも更にパワーアップしている気がする。
 一日記憶が飛んでいるだけで、どうしてこんな事に……。

「と言いますか、あたしは支度しないとっ」

 こうしてパジャマ姿のままでいる場合じゃない。

「おっと、待ってよ柚稀君」

「――?」

 なのに先輩が急に近づいて、指先で顎を持ち上げられた。

「それじゃ、眠り姫の失われた記憶を私のキスで呼び覚まそうか……?」

 あ、朝から何ですかこれえええええっ。
 展開が強くて付いて行けないのですがぁっ!?

 ――ダンッ

「会長、協定を破るつもりですかっ」

 また扉が勢いよく開かれると、そこには千冬ちふゆさんの姿がっ。
 あの、助かったんだけど、当たり前のように皆部屋に入り過ぎじゃないですかねっ。

「約束は破るためにあるんだよ、涼風すずかぜ君」

「ふざけた事を会長自ら言わないで下さい」

 バチバチと視線を絡み合わせる二人。

「えっと、協定って……?」

 そもそも、二人が当たり前のように話している事が分からなかった。

「貴女と恋人関係を結んでいる私達の間での協定よ。誰か一人が貴女と接する機会が偏らないように、会う機会を均等化する事にしたの」

「な、なるほど……」

 具体的な事は分からないけど、きっとその内容を羽金はがね先輩は早々に破ったという事だろう。
 全く機能していないその協定、大丈夫なのだろうか。

「でも千冬さんの言う通りですよね、約束は守らないと」

「千冬さん……ですって?」

「え?」

 千冬さんの声音が急に低くなり、鋭い視線があたしに向けられている。
 むしろ先輩の時よりも鋭利かもしれない。
 なんで急に矛先があたしに?

「貴女は私の事を“千冬”と呼んだはずよ。今さら時計の針を巻き戻そうなんて、つまらない事をしないで」

「ええ……」

 羽金先輩に引き続き、千冬さんまで呼び捨て……?
 な、何がどうなっているんだ……?
 そして、二人ともそれに強い抵抗感を示し過ぎじゃないかな?

「いや、呼び捨てはちょっと恐れ多いと言いますか……」

 恋人になったからって、横柄になったように見られない?
 こういう関係こそ、殊勝な態度が必要なんじゃないかと思ったり……。

「貴女の方から“いつでも頼ってちょうだい、あなたの苦労なら喜んで手伝うから”と言ったはずよ。だから、そんな発言は認めないわ」

「……へ?」

 お、覚えがない……!?
 一体、先輩も千冬さんも何の事を言っているのだろうか?
 あたしを騙しているんじゃないかと疑うが……でも、今日が月曜日である事を誤魔化せるわけがないし……。

 ――ダンッ

 うん、またドアが開いたねっ。

「ユズキ、迎えに来た」

 当たり前のようにルナが現れる。

「ユズキに言われた通り、“ありのままの自分”でいる事にしたから。今すぐハグしたいな……って?」

 ルナにとって想定外だったであろう二人が部屋にいた事で、語尾に疑問符がついていた。
 そして、また身に覚えのない発言に彼女も感化されてしまっているようだ。
 ここまで来るとミステリーなんだけど。
 私は謎解きを試されているのだろうか?

「ルナ・マリーローズ……貴女まで……協定の意味が分かっていない人しか居ないのかしら」

 奇しくも三年生と二年生の首席を相手に、そんな発言をしないといけない千冬さんの気苦労が計り知れない。

「恋を縛る事は出来ないって事さ」

「本当にルールが効力を持つ世の中なら、不正なんて起こりえない」

「黙りなさい」

 自由人の二人を、千冬さんが怒っていた。
 そしてこの状況にあたしは困惑し続ける。

 ――ダンッ

 うん、だよね。
 そりゃ来るよね。
 この流れであの子が来ない流れの方が不自然だもんねっ。

「柚稀ちゃん、昨日わたしに残した“世界で一番好き”発言の真意を確かめに来ましたよっ!」

『――!?』

 どうしてそうなるのおおおお?
 覚えのない発言の中でも、明璃あかりちゃんだけエッジが効きすぎている……!
 そんな優劣をつけるような発言を、あたしがするわけないのにっ。
 おかげさまで空気感が一気に緊張状態にっ。

「……柚稀君、それは聞き捨てならないね」

「……そうね、まさか貴女の方から協定を反故にされるとは思っていなかったわ」

「……コヒナタを拒絶するのも、ありのままの自分って事になるかな」

 ま、まずいまずいまずい……!
 不穏な空気が流れ出している……!
 あたしは恋人全員と末永く幸せな生活を送っていきたいのにっ。

「ちょ、ちょっと待ってもらっていい……? まずは一旦みんな冷静になろうね……?」

 こ、困った……。
 意味が分からなさすぎるのに、恋人の皆には迫られている。
 思わず後退ろうとするも、背後にはダイニングテーブルが待ち受けていて逃げ場がない。
 反射的にテーブルに手を置くと、カサッと乾いた音が響いた。

「……メモ?」

 書いた覚えのない紙に、見覚えのない文字が綴られていた。





 
 あたしへ

 あんたがいつまで経っても奥手のままで見ていられなかったから、このあたしが全員との関係性を発展させてあげたわ。
 あたしなりの恩返しよ、感謝しなさい。
 でも案外、恋人として接してみるとみんないい子ね。
 あんたが好きになる理由も何となく分かった気がする。
 だけど結局は明璃ちゃんが一番……って、それはこれからのあんたには関係ないわね。
 達者でやりなさい。

 楪柚稀ゆずりはゆずきより






「……そうかぁ」

 謎は全て解けた。
 楪柚稀がどうやら暴走してくれちゃったみたいだねっ!
 だから記憶がないのかなっ!

「さぁ、説明責任を果たしてもらおうかな柚希君?」

「貴女との恋人関係から見直さないといけないのかしら?」

「ユズキもありのままに言ってくれないと、きっと誰も幸せにならない」

「言ってくれましたよね!? 最後はなぜか朧気でしたけど、アレはわたしに向けた言葉なんですよねっ!?」

 う、うおおおお……。
 恋人全員が迫って来る……!
 遅刻も差し迫っているのに、皆そんな事を気にする素振りはないっ。
 これを何と言えば理解してもらえるのかなっ。

「全てはもう一人のあたしがやった事で、ほらこのメモがその証拠……」

『……?』

 あ、ダメだ。
 全然信じてくれてないっ!

 事実は小説よりも奇なり、と言うけれど。
 最後まで悪女もう一人のあたしは、状況をかき乱してくれたようだ。

 それでも、あたしは恋人関係の破滅エンドを回避するために、全力を尽くしてやるのだ。






【あとがき】

 これで後日談も最終話とさせて頂きます。
 最後まで読んで頂きありがとうございました。
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感想 2

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みんなの感想(2件)

あいきか
2024.12.08 あいきか

コメント失礼します。

これで完結かぁ…、と思っていたら急に後日談が投稿されていたので、とてもびっくりすると共にやっぱり好きだなあという気持ちが溢れてきます。
後日談を投稿していただき、本当にありがとうございます!
これからも頑張ってください!

長文失礼しました。

2024.12.08 白藍まこと

読者の方からご希望がありましたので、後日談を書く事に致しました。
更新頻度としてはゆっくりではありますが、よろしければ読んで頂けると幸いです。
こちらの方こそ、ありがとうございます!

解除
あいきか
2024.12.02 あいきか

素敵な作品をありがとうございました!
ものすごく好きです!

2024.12.08 白藍まこと

こちらこそ、ありがとうございました。
楽しんで頂けて嬉しいです!

解除

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