百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。

白藍まこと

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後日談

07 楪柚稀 ②

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「うん、順調に関係性の改善に繋がっているわね」

 あたしは自分の動きに納得しつつ、学院を後にする事にしあ。
 寄宿舎へ戻ろうと外を歩いていると、白銀の髪を風に揺らす少女が現れた。

「ごきげんようユズキ」

 ルナ・マリーローズが、あたしを見つけるなり手を振っていた。

「おはようルナ」

「今日はいい天気」

「……そうね」

 その反応は以前からのあたしに向けるものと変わりない。 
 ……って、そうか。
 アイツは”ルナ”と呼んでいたから、この呼び方は日常なのか。
 何か別の手段で距離を近づける必要があるな。

「休日に一人で外を歩いてどうしたのよ」

「それはユズキも一緒」

 妙にのらりくらりと躱してくるのよね、この子。

「あたしは学院に用事があってその帰りよ、ルナは?」

「ちょっと部屋に居づらいから……」

「居づらい?」

 この子、芯は図太い気がしていたけど。
 そういう感性もあるのか。

「コヒナタがずっとルナに気を遣ってるから、疲れる……」

「……ああ」

 複数人の恋人関係のせいで、恋人同士で気を遣う場面が増えているとアイツも言っていたな。
 千冬ちふゆうららは比較的ドライで理性的だが、ルナと明璃ちゃんは人間関係が上手じゃないから余計にそうなるのだろう。
 まあ、人間関係の構築が一番下手なあたしが何言ってんだって話だけど。

「ルナ、ありのままでいなさい」

「……ありのまま?」

「ええ、相手の事を気にするから余計な配慮が生まれて摩耗するのよ。どうせ他人同士、上手くいく可能性の方が低いのだから、最初に言うべき事を言ってお互いの腹の中を晒すのよ」

「それで上手く行かないなら?」

「上手く行かない人間だと分かって過ごす分にはどうにかなるでしょ。全てが不明瞭な状態で付き合うから余計に疲れるんじゃない」

「……なるほど、一理ある」

 まぁ、あたしはそれが極端すぎて人から嫌われてしまったのだけど。
 ルナなら、そうは言いつつも他人を傷つける事はないだろうし。
 ちょうどいい範囲に収まるのだろう。

「それじゃ、ルナもユズキにありのままを言った方がいい?」

「? ええ、そうね」

 なんだろう。
 この子はいつもアイツにやりたい事を言っていたイメージだけど。
 まだあるのだろうか。

「それじゃ……」

 ルナは両手を開き、あたしの前に立つ。

「……ハグ、したい」

 なるほど。
 そういうコミュニケーションか。

「分かったわ」

 あたしはルナの胸の中に飛び込む。
 あたしの方が小柄なので、彼女にすっぽりと埋まる形になるが、ルナは案外力強くあたしを受け入れてくれた。

「すごい……あっさり、してくれるんだね」

「恋人なら当然でしょ」

「……!!」

 まぁ、これくらい何も言わずともしたらいいのだ。
 せっかくの恋人同士。
 遠慮ばかりしては勿体ないだろう。
 
 少しの間を持って離れると、ルナの頬は紅潮していた。

「あたし相手に遠慮はいらないわ」

「う、うん……そうだよね」

 よし、これでルナとの距離も縮まった事だろう。
 あたしは満足しながら、ルナと別れる事にした。



        ◇◇◇



 さて、寄宿舎へと戻って来た。
 残るは一人なんだけど……。

「とほほ……」

 すると、廊下を肩を落として歩く黒髪ボブの少女がいた。

「ど、どど、どうしたのっ、あ、明璃ちゃんっ」

 あたしは極めて冷静に声を掛ける。
 至っていつも通りだ。

「あ、柚稀ゆずきちゃーん、聞いて下さいよぉー」

 あたしを見るなり泣き顔で抱きつこうとしてくる。

「あわわわっ!!」

「えっ、なんで避けるんですかっ!?」

「あ、ごめん、ついっ」

「ついで恋人を避けないで下さいよぉ~」

 更に泣き顔を歪ませてしまう。
 ち、ちがうのに……。
 そんなつもりはなかったんだけど……。

「それで、何があったの?」

「それがですねぇ、この前の中間考査が赤点だらけでしてぇ。来週追試なんですがぁ、ちんぷんかんぷんでしてぇ……」

「そ、そうなの?」

「はいぃ……なんせ転入したばかりで、元いた学校との範囲の違いをちゃんと追えてなかったんですよぉ……まぁ、責任はわたしにあるのは重々承知しているんですがぁ……」

「大変だったんだね……」

「はいぃ、でも一人だと全然勉強が進まなくてぇ……現実逃避で廊下を歩いてみましたぁ……」

 どうやらかなり困った状況のようだ。
 恐らくリアンであるルナには頼みづらかったのだろう。
 けれど、今ならルナも快く受けいれてくれるかもしれないが……。

「ちなみに、柚稀ちゃんのテストの方は?」

「あたしは大丈夫だったわ」

「さすがです……あたしとは頭の出来が違うんですねぇ……」

 しかし、ここまで落ち込んで困っている明璃ちゃんを無視出来していいのだろうか?
 答えは勿論、否である。

「あ、あたしが分かる範囲なら教えよっか……?」

「ええっ! いいんですかっ!?」

 ぱぁと明璃ちゃんの顔が笑顔でほころんだ。
 天使の降臨である。

「も、もちろんよ」

「わぁ、ありがとうございますっ!」

 明璃ちゃんが喜びでぎゅっと手を握ろうとしてくる。 
 が、あたしは距離をとってそれを避ける。

「なんでまた避けるんですかっ!?」

「えっと……恐れ多いから」

「あたしそんな怖くないですよっ!」

 いや、そういう意味じゃないんだけど……。





 や、やばい……。
 あ、ああ、ああああ、明璃ちゃんがあたしの部屋で二人きり……。

「こ、ここ、紅茶でいいかしら?」

「あ、ありがとうございます。わざわざすいません」

「いいのよ」

 あたしはティーセットをトレイに乗せて運ぶ。

 ――カ、カチャカチャカチャカチャ……!!

「柚稀ちゃんっ!? すっごいティーセット揺れてますよっ!?」

「ご、ごめんっ、手元が狂ってっ……!」

 ま、まずい、緊張がダイレクトに手に伝わってしまっている。
 何とか零さずにテーブルには置けたが、また格好悪い所を見せてしまった……。
 明璃ちゃんもほっと胸を撫でおろして、あたしがいつも使っているダイニングテーブルの椅子に座っている。

 ……ん、あたしの、椅子にっ?

「ごめん、その椅子を除菌するわ」

 あたしは除菌シートを持参する。

「わたしの事をばい菌扱いですかっ!?」

「逆よ、わたしがばい菌なのよ」

「それはそれで意味が分からないですよっ!」

 あたしが明璃ちゃんを汚してしまう。
 こんな事ならハウスクリーニングを入れておくべきだった。

「空気も喚起しないと、窓を全部開けるわね」

「わたしの事ウィルスか何かだと思ってます!?」

「逆よ、わたしがウィルスなのよ」

「やっぱり意味が分かりませんっ!」

 あたしの毒素が明璃ちゃんを傷つけてしまうかもしれない。
 新鮮な空気が必要だと思ったが、どれも明璃ちゃんは必要ないから早く勉強を教えて欲しいとの事だった……明璃ちゃんがそう言うのだから聞くしかない。



「……あの柚稀ちゃん?」

「な、なに? 分からない事あった?」

「いえ、すごい分かりやすいですし、教えてもらっているのにこれ以上注文をするののは非常に気が引けるのですが……」

 ちらりとこちらを覗いてくる。
 純粋で曇り一つない可愛い瞳だ。

「対面同士だと教えづらくないですか?」

「……え」

 いや、それは確かに感じていた。
 対面だと当然だが文字が反転するので、単純に読みづらいのだ。

「でも、他に解決策がないわ」

「隣同士に座ったらいいと思いますよ?」

 そ、それが出来れば苦労はしないのよ……!

「いえ、集中力がなくなるわ」

「あ、心外ですっ。わたしだって公私混同はしっかり分けますよっ」

「違うわ、あたしが集中できないのよ」

「柚稀ちゃんの方なんですかっ!?」

 驚かれるのも無理はないが、これが事実なんだから仕方がない。
 自分でも気づいていなかった明璃ちゃんに対する想い。
 それが叶って尚、こんな機会までもらってはあたしは自分の気持ちをコントロール出来そうにない。

「そ、それって、もしかしてわたしの隣が緊張するからって解釈でいいですか……?」

「……まぁ、そうなるわね」

 認めるしかない。
 あたしは彼女に恋をしている。
 だからこそ、そんなに距離を縮められては勉強どころではなくなってしまう。

「ふふ、それは嬉しいですね」

 だけど、明璃ちゃんは目を細めて嬉しそうに笑う。
 その表情だけで、あたしの心の奥は熱く絆されていく。

「恋人としてドキドキする事もありましたけど、こうやって二人で一緒に何かをするのも好きです」

「そうね、あたしもそう思う」

 だから、やっぱりあたしはアイツに感謝しないといけない。
 こんな関係性を築いてくれて、こんなチャンスをあたしにくれた事に。

「でも~?」

「え、あ、わわ」

 だけど結局、明璃ちゃんの方から隣に座って来る。
 肩が当たってしまいそうな距離に、胸が高鳴る。

「やっぱり恋人としての距離感も大事ですよねっ」

「……大事かもしれないけど、勉強を教える雰囲気にならないわ」

「それだけ、わたしの事を思ってくれてるって事ですよね?」

 全部、言い当てられてしまう。
 自分の行動の裏にある心が筒抜けで、恥ずかしさが勝る。
 でも、だからこそ……。

「そうね。この気持ちを教えてくれた明璃ちゃんに感謝してる。恋人になってくれてありがとう」

「それはわたしの方こそですよ」

 お互いの視線が絡み合って、時計の針だけが時を刻む。
 何もない時間のはずなのに、二人でいるだけで何かが生まれるような時間がある事を知った。
 たったそれだけの事が、こんなにも心を満たしてくれるなんて。

「好きだよ、明璃ちゃん」

「わたしも好きですよ、柚稀ちゃん」

 うん、満足だ。
 得られるはずのなかった答えを知れた。
 あたしは幸せだった。

「世界で一番好き……だからアイツにも感謝しないとね……」

 最愛の人を想い、重なる自分の感謝を胸に、あたしの意識は遠く薄らいでいった。
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