【完結済】王女様の教育係 〜 虐げられ続けた元伯爵妻は今、王太子殿下から溺愛されています 〜

鳴宮野々花

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37. 婚約者候補その1・ダイアナ・ウィリス(※sideダイアナ)

(……出た。この女。下級貴族出身の、厚かましい貧相な女が)

 王宮内のセレオン殿下のお部屋に向かう途中、向かいからあの庶子王女の教育係とやらに任命された目障りな女が歩いてくるのが見え、不快な思いが再燃する。……見目だけは整っているけれど、所詮は下位貴族。それなのに、何なの?この女。ただの王宮勤めならまだしも、セレオン殿下に気に入られた挙げ句、庶子王女の教育係なんかに任命されて……。

「ごきげんよう、ウィリス侯爵令嬢」

 向こうはまるで何も気に留めていないとでも言わんばかりに、私の前で歩みを止めると極めて優雅に挨拶をしてくる。……ふん、馬鹿にして。私の名前を気安く呼ぶんじゃないわよ、貧乏下位貴族の娘が。

 私はもちろん返事なんかせずに、ただこの小娘を思い切り睨みつけた。……この憎悪で、この小娘をどこか遠くにふっ飛ばせたらいいのに。消えろ、目障りな女め。

(調子に乗るんじゃないわよ)

 口には出さずとも、目線でそう訴えてから、私は女の前を通り過ぎた。……ああ、腹が立って仕方がない。一発思い切り引っ叩いてやれたら、どんなに胸がスッとするかしら。



 王太子殿下の婚約者だった筆頭公爵家の令嬢が重い病のため明日をも知れぬ状態となり、ついには婚約者の座を退くこととなった時、我がウィリス侯爵家に白羽の矢が立った。
 王太子殿下の婚約者候補として名が上がっていると知った時には、はしたなくも自室で叫んだものだ。来たわ、人生最大のチャンスが!
 あのセレオン殿下の婚約者に、王太子妃になれるかもしれないなんて……!誰よりも見目麗しい、この王国の王子様。貴族令嬢ならば誰もが憧れているし、私もひそかにあのお方にときめいていた。

(頑張ってきた甲斐があったわ……!王太子殿下がご結婚されるまで絶対に婚約者は決めないという固い決意を貫いてきた甲斐もあった……!)

 この時のために、勉強も、美貌に磨きをかけることも怠らなかった。私なら王太子妃教育もすぐに修得できる……。セレオン殿下の隣に並ぶに相応しい王太子妃になれるわ……!

 ところが。やはりあの女が邪魔をしてきた。
 ジュディ・オルブライト公爵令嬢。あちらもやはり殿下の婚約者候補に挙がっているらしい。……まぁ、当然そうなるわよね。あちらは殿下の元ご婚約者に次ぐ家柄の令嬢。建国以来の歴史を誇る、由緒正しい公爵家の人だもの。未婚で出来がいいとあらば、名が挙がらぬはずがない。

(だけど、絶対に蹴落としてみせる……!セレオン殿下のお心を射止めるのは、この私よ!)

 あちらだって公爵は王宮内の重役だけど、それはうちの父も変わらない。家柄だって決して悪くない。あとは私とジュディ様のどちらが殿下に気に入られるか。どちらも優秀な高位貴族の令嬢なんだから、最後はセレオン殿下のお心を掴んだ者の勝ちだわ。

 両親からもこれ以上ないほどに発破をかけられているけれど、私だって絶対に王太子妃の座を掴んでみせるという断固とした決意を持っていた。蹴落としてみせる。



「────突然こんなことになって、君たちも戸惑ったことだろう。だが、前向きに検討してくれているようで安心している。王太子妃という、重責を担う立場の者を安易に決めてしまうことはできないから、これから時間をかけて君たちとゆっくり話し合えたらと思っているよ。いろいろと、思うところがあれば聞かせてほしい」

 セレオン殿下との茶会に招かれ、ジュディ・オルブライト公爵令嬢と三人で顔を合わせることとなった時、私は殿下のこの言葉に真っ先に反応した。とにかく、先手を取らなくてはと思ったのだ。

「このたびは私を殿下の婚約者候補の一人としてお選びいただけたこと、心より光栄に思っております。お話をいただいた時、胸がいっぱいになりましたわ。私は幼少の頃から人一倍勉学に勤しんでまいりました。恐れながら、教養やマナーの面に関しましてはこのレミーアレン王国の他のどのご令嬢にも劣らないと自負しております。……どうぞご安心いただき、大役をお任せいただければと存じますわ」

 ジュディ様に口を挟まれる前にと、私はめいっぱい自分をアピールした、つもりだった。ところが私が話し終えると、ジュディ様は悲しげに目を伏せ、扇で口元をそっと隠しながら静かに口を開いた。

「……まぁ……、ダイアナ嬢はとてもお心が強くていらっしゃいますこと。本当に、いつもご自分の確固たる意志を誰よりも先んじて発言されますものね。私など……、もちろん敬愛するセレオン殿下の婚約者候補にとのお話をいただいた時、畏れ多く、また大変光栄なこととは思いましたが……。何よりも真っ先に考えたのは、セレオン殿下と、そして幼い頃から殿下のご婚約者であらせられたバーバラ様のお気持ちでしたわ。いつも仲睦まじく、王国の未来のためにと共に研鑽されてきたお二人ですもの。このようなことになってしまい、どれほどバーバラ様が、そして殿下がお心を痛めていらっしゃるかと思うと……。バーバラ様があまりに不憫で、ここ数日は食事も喉を通らないほどでしたわ。殿下、力不足ではございますが、お支えしてまいります」
「……ありがとう、ジュディ嬢」

(っ!!こ……っ、この女……っ!!)

 悲しげに目を伏せ、労るような視線をセレオン殿下に向けながらしおらしくそう言うジュディ様に、殿下は静かに微笑みかけた。私は焦って口を挟む。

「もっ、もちろん、私もその気持ちは大前提としてございましたわ。バーバラ様の病状が心配ですし、一日でもお早く回復されればと……」
「あら、あなたが他人を気遣っていらっしゃる言葉を初めて聞きましたわ。ふふ。……学生の頃に比べたら、随分成長されましたわね、ダイアナ嬢」
「……っ!!」

 まるで出来の悪い子どもの成長を褒めてやっていると言わんばかりのジュディ様の態度に、一瞬にして頭が沸騰した。この女……!殿下の前でこの私を貶めようとするなんて……!

 この時から、私とオルブライト公爵令嬢との戦いが始まったのだった。




 

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