36 / 49
36.学園舞踏会
舞踏会当日を迎え、学園内は明るい雰囲気で満ちていた。授業の一環とはいえ皆思い思いに着飾りとても華やかで、やはり一大イベントとしてのドキドキ感がある。それに、もうすぐ冬の休暇も始まる。普段は多くの規律の中で真面目に過ごしている学生たちにとって、これほど心浮き立つ時もないだろう。
「フィオナ嬢!わぁぁ!かんわいいなぁぁ!!真紅のドレスが君の華やかさをめちゃくちゃ引き立ててるじゃないか!!最高だよ!!……お、おぉぉ……!サディー嬢……、君は……っ、天使なのかい?!まるでこのホールに舞い降りた幻想的な聖なる存在……っ!……カッ!カイラ嬢……っ、一瞬誰だか分からなかったよ!いつものクールなイメージとは真逆のその薄桃色の素敵なドレス……!君の新たな魅力を発見してすごく得した気分だよ。最高に綺麗だ!……っ!アネット嬢……っ!なっ、なんて美しいんだい!目が眩みそうだよ!」
「…………。すごいわね、アシェル・バーンズ侯爵令息様……。入り口横に陣取って入っていくご令嬢一人一人を褒め続けているわ……。何の使命感なのかしら」
「……もう尊敬に値するわ……。休むことなくずっとあのテンションを保っていられるなんて。しかも全員違う単語を使って褒めてるわ。こだわりがあるのかしら」
「……そろそろ通るわよ、グレース。頬が引き攣ってるわ。頑張って笑って」
ロージーにそう言われて、私は慌てて淑女の笑みを湛える。いかんいかん。バーンズ侯爵令息のテンションについ引いてしまっていたわ。
私は覚悟を決めてロージーの後ろに続き、ホールの中に入った。
(あぁ……、やっぱりこのドレスは止めておいた方がよかったかしら。お願いよバーンズ侯爵令息、突っ込まないでよね……)
「ロージー嬢!はぁぁぁっ!!なんて素敵なんだぁっ!どこぞの国のプリンセスのお出ましかと思ったよ……!あぁ、君の今日のその美しさが全て俺だけのためのものだったらどんなに幸せだろう……!」
「あ、あは。ありがとうございます、バーンズ侯爵令息様……」
「……っ!!グッ……グッ……、グレース嬢……っ!!」
鼻の下を伸ばしてロージーを迎え入れたバーンズ侯爵令息は、そのロージーの後ろ姿を見送ってから私に視線を移した途端に、ピキッと固まった。そしてわなわなと震えだしたかと思うと、興奮からか裏返った声で叫びはじめた。
「な……っ、なんて……なんて美しいんだ……!こっ、言葉にならないよ……目まいがする……。君こそ、美の女神の化身……!そ、それに、その、純白のドレスの裾から覗くグラデーションは、……レイモンドだね?!グレース嬢!!レイの色を身に纏って婚約者への変わらぬ愛を誓っ……!」
「ちっ!違います!違いますっ!!お願いですから騒がないでくださいバーンズ侯爵令息様!シーーッ!」
ほら来たやっぱり言われた。バーンズ侯爵令息のせいで皆がチラチラとこちらを見ている。恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
悩みに悩んで決めたこのドレス。母に頼んで馴染みの仕立て屋に作ってもらったものなのだけれど、本当に直前まで他のドレスにするべきか迷ったのだ。
ベースの色は純白だけれど、幾重にも重なったチュールスカートは内側に行くにつれ生地の色が濃くなっている。白の内側に黄金色、カナリアイエロー、そして琥珀のような色味から徐々に栗色がかった茶系の色へ……って、まんまレイの髪や瞳の色を入れている。
(だっ、だって……!レイが最初に私と踊るって言っていたんだもの……!普通でしょ?皆婚約者への心遣いで、相手の色をどこかに入れているでしょう?!べっ、別にそんな騒ぐようなことじゃないわ!私だってこんなに恥ずかしがる必要はないのに……っ)
「あぁ……もう嫌だ……。君があまりにも可愛すぎて美しすぎてもう……、俺が君の婚約者でないことが辛すぎて、泣けてくるよ……。レイが羨ましい……。あいつめ……っ。うぅ……っ」
「……そ、それはどうも、ありがとうございます、バーンズ侯爵令息様」
片手で自分の胸を押さえ、もう片方の手で顔を覆って呻きだしたバーンズ侯爵令息を持て余して、私はそそくさとその場を離れようとした。
その時。
「どけ、アシェル。邪魔だ」
ウーウー言っているバーンズ侯爵令息を押し退けて、どこからともなく現れたレイが私の目の前に立った。
(……っ!……かっ……、)
格好いい……。
頬がますます熱を帯びる。レイの装いは、紫色を基調とした、とても素敵な正装だった。背が高くて整った顔立ちで、こんなキラキラしたオーラを放っていて……、もう誰がどう見ても、このホールの主役はこの人だと言うだろう。
「……綺麗だ、グレース」
レイは真正面から私を見つめて優しい瞳でそう言った。
「……あなたも……」
嬉しさと恥ずかしさで俯いた私は、小さくそう答えるのが精一杯だった。
(あぁ、私って、いつの間にこんなにレイのことを……)
目の前に立ち、ずっと私のことだけを見つめてくれている人の温かい視線を肌で感じながら、私はいつしか自分の中に芽生えていたこの熱い想いをもう認めるしかなかった。
「フィオナ嬢!わぁぁ!かんわいいなぁぁ!!真紅のドレスが君の華やかさをめちゃくちゃ引き立ててるじゃないか!!最高だよ!!……お、おぉぉ……!サディー嬢……、君は……っ、天使なのかい?!まるでこのホールに舞い降りた幻想的な聖なる存在……っ!……カッ!カイラ嬢……っ、一瞬誰だか分からなかったよ!いつものクールなイメージとは真逆のその薄桃色の素敵なドレス……!君の新たな魅力を発見してすごく得した気分だよ。最高に綺麗だ!……っ!アネット嬢……っ!なっ、なんて美しいんだい!目が眩みそうだよ!」
「…………。すごいわね、アシェル・バーンズ侯爵令息様……。入り口横に陣取って入っていくご令嬢一人一人を褒め続けているわ……。何の使命感なのかしら」
「……もう尊敬に値するわ……。休むことなくずっとあのテンションを保っていられるなんて。しかも全員違う単語を使って褒めてるわ。こだわりがあるのかしら」
「……そろそろ通るわよ、グレース。頬が引き攣ってるわ。頑張って笑って」
ロージーにそう言われて、私は慌てて淑女の笑みを湛える。いかんいかん。バーンズ侯爵令息のテンションについ引いてしまっていたわ。
私は覚悟を決めてロージーの後ろに続き、ホールの中に入った。
(あぁ……、やっぱりこのドレスは止めておいた方がよかったかしら。お願いよバーンズ侯爵令息、突っ込まないでよね……)
「ロージー嬢!はぁぁぁっ!!なんて素敵なんだぁっ!どこぞの国のプリンセスのお出ましかと思ったよ……!あぁ、君の今日のその美しさが全て俺だけのためのものだったらどんなに幸せだろう……!」
「あ、あは。ありがとうございます、バーンズ侯爵令息様……」
「……っ!!グッ……グッ……、グレース嬢……っ!!」
鼻の下を伸ばしてロージーを迎え入れたバーンズ侯爵令息は、そのロージーの後ろ姿を見送ってから私に視線を移した途端に、ピキッと固まった。そしてわなわなと震えだしたかと思うと、興奮からか裏返った声で叫びはじめた。
「な……っ、なんて……なんて美しいんだ……!こっ、言葉にならないよ……目まいがする……。君こそ、美の女神の化身……!そ、それに、その、純白のドレスの裾から覗くグラデーションは、……レイモンドだね?!グレース嬢!!レイの色を身に纏って婚約者への変わらぬ愛を誓っ……!」
「ちっ!違います!違いますっ!!お願いですから騒がないでくださいバーンズ侯爵令息様!シーーッ!」
ほら来たやっぱり言われた。バーンズ侯爵令息のせいで皆がチラチラとこちらを見ている。恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
悩みに悩んで決めたこのドレス。母に頼んで馴染みの仕立て屋に作ってもらったものなのだけれど、本当に直前まで他のドレスにするべきか迷ったのだ。
ベースの色は純白だけれど、幾重にも重なったチュールスカートは内側に行くにつれ生地の色が濃くなっている。白の内側に黄金色、カナリアイエロー、そして琥珀のような色味から徐々に栗色がかった茶系の色へ……って、まんまレイの髪や瞳の色を入れている。
(だっ、だって……!レイが最初に私と踊るって言っていたんだもの……!普通でしょ?皆婚約者への心遣いで、相手の色をどこかに入れているでしょう?!べっ、別にそんな騒ぐようなことじゃないわ!私だってこんなに恥ずかしがる必要はないのに……っ)
「あぁ……もう嫌だ……。君があまりにも可愛すぎて美しすぎてもう……、俺が君の婚約者でないことが辛すぎて、泣けてくるよ……。レイが羨ましい……。あいつめ……っ。うぅ……っ」
「……そ、それはどうも、ありがとうございます、バーンズ侯爵令息様」
片手で自分の胸を押さえ、もう片方の手で顔を覆って呻きだしたバーンズ侯爵令息を持て余して、私はそそくさとその場を離れようとした。
その時。
「どけ、アシェル。邪魔だ」
ウーウー言っているバーンズ侯爵令息を押し退けて、どこからともなく現れたレイが私の目の前に立った。
(……っ!……かっ……、)
格好いい……。
頬がますます熱を帯びる。レイの装いは、紫色を基調とした、とても素敵な正装だった。背が高くて整った顔立ちで、こんなキラキラしたオーラを放っていて……、もう誰がどう見ても、このホールの主役はこの人だと言うだろう。
「……綺麗だ、グレース」
レイは真正面から私を見つめて優しい瞳でそう言った。
「……あなたも……」
嬉しさと恥ずかしさで俯いた私は、小さくそう答えるのが精一杯だった。
(あぁ、私って、いつの間にこんなにレイのことを……)
目の前に立ち、ずっと私のことだけを見つめてくれている人の温かい視線を肌で感じながら、私はいつしか自分の中に芽生えていたこの熱い想いをもう認めるしかなかった。
あなたにおすすめの小説
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
愛していると気づいたから、私はあなたを手放します
妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
愛しているのに、触れられない。
幼なじみの夫は、こう言った。
「もう、女性を愛することはできない」と。
それでも「君がいい」と言い続ける彼と、
子どもを望む現実の間で、私は追い詰められていく。
だから決めた。
彼のためにも、私は他の誰かを探す。
――そう思ったのに。
なぜあなたは、そんな顔で私を追いかけてくるの?
これは、間違った優しさで離れた二人が、
もう一度、互いを選び直すまでの物語。
※表紙はAI生成イラストを使用しています。
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
【完結】騙された侯爵令嬢は、政略結婚でも愛し愛されたかったのです
山葵
恋愛
政略結婚で結ばれた私達だったが、いつか愛し合う事が出来ると信じていた。
それなのに、彼には、ずっと好きな人が居たのだ。
私にはプレゼントさえ下さらなかったのに、その方には自分の瞳の宝石を贈っていたなんて…。