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37.素直な想いを
「グレース、こっちにおいで」
「……えっ」
レイは私の手を優しく取ると、そのままどこかへ歩き出した。
「あぁぁっ!レイが連れてっちゃったよー!もっと目の前で見ていたかったなぁぁグレース嬢の美しさを……っ、……あ、ロージー嬢!待って!ねぇ、俺と踊らない?!最初に俺と踊らないっ?!」
後ろで騒いでいるバーンズ侯爵令息のことは気にも留めずに、私をホールの隅っこに連れてくると、レイは振り返り私に小さな何かを差し出した。
「……渡すのが随分遅れてしまった。受け取ってくれ、グレース。今日は俺と一緒に、これを着けていて欲しい」
「……?え?……これ、何…?」
まさか、プ、プレゼント……?
予想外のことに驚いた私の心臓が、大きく跳ねる。震える手でその小さな包みをそっと受け取ると、私はおずおずと開いて中身を取り出した。
「……っ!こ、これって……」
「本当はあの夜に渡すつもりだったんだが……、お前が喜んでくれるかどうか分からずに、勇気が出なくて躊躇ってしまった。ごめん。……受け取って欲しいんだ、グレース」
「……レイ……」
胸がいっぱいで言葉が出ない。じわりと涙が浮かぶ。
それはあの夏の夜、音楽祭で私が目を留めたペアのサファイアのアクセサリーだった。
(……買ってくれてたなんて……。全然気付かなかった)
ぼんやりとあの日のことを思い返す。レイは私をベンチに残して、一人で飲み物を買いに行ってくれた。離れたのは、あの時だけ。きっとあの時、このサファイアも買いに行ってくれていたんだろう。
その心遣いに気付き、ますますこみ上げてくるものが抑えられない。
「……着けてもいいか?」
「……っ、」
言葉が出ずにコクコク頷くと、瞳に溜まっていた涙がポロリと頬を伝った。
「……ふ、……可愛い」
レイは小さくそう呟いて私の頬を優しく拭うと、取り出したネックレスをそっと私の首に着けてくれた。
小さなそのサファイアは、私が今日着けてきた控えめなネックレスと重ねて着けても違和感がなく、しっとりと馴染んだ。……はずだ。
それを確かめるべく、私はレイの顔をチラリと見上げた。
「よく似合っている。綺麗だよ」
「……。……あなたにも……」
嬉しさと恥ずかしさでモジモジしながら、私は小箱に収まっていたもう一つのサファイアのピンブローチを取り出す。
(……き、……緊張するんですけど……)
こんなにレイのすぐそばに立つのって、は、初めてじゃないかしら……。
指先が震えているのをレイに見られているのだろうと思うと、ますます頬が火照る。緊張しながら、どうにかレイの胸元にピンブローチを着けた。
「……大事にするわ。……ありがとう、レイ……」
「……喜んでもらえてよかった」
感極まった私が掠れる声でお礼を言うと、レイは心底嬉しそうに微笑み、その顔がまた私の心を甘く絡めとったのだった。
レイの流れるような自然な動きにただ身を任せ、私はまるで雲の上にいるような気分だった。
私の腰を支える大きな手、私の指先を優しく握る手、揺らぐことなく、ただずっと私のことだけを見つめている、その金色の艶めかしい瞳。爽やかで、甘い香り。
夢見心地な私もまた、レイのことだけをずっと見つめていた。ホールに響く美しい音楽と、高鳴る自分の鼓動を聞きながら。
「……さすがにダンスが上手いな」
「……あなたが上手だからよ」
そう小さく答えると、レイはますます優しく微笑む。
「……。」
「……。」
「……何を考えているの?」
私の顔を見ながら微笑んだまま黙っているのが気になって、何となくそう尋ねた。
「……あの時のことだ」
「……あの時?」
「エイヴリー侯爵が部屋に入ってこなかったら、お前はどこまで許してくれていたのかと」
「……。……っ?!なっ、何を言ってるのよ!!」
ほんの少し考えた後、あの日のことだと思い至った私は急に恥ずかしくなって、思わず大きな声を出した。レイは楽しそうにクスクス笑っている。
「集中しないと、点数を引かれるぞ」
「あっ!あなたが急に変なこと言い出すからでしょう!何考えてるのよ!」
「男なんて皆そんなものだ」
「~~~~っ!……軽いんだから、ほんとに」
私にとっては、とても特別な夜だったのに。
わざわざ学園からうちの屋敷まですぐさま飛んできてくれて、私を安心させてくれた。
少しは大事に思ってくれているんだと、嬉しかったのに。
何だかあの日のことを茶化されたようで少し傷付いていると、レイは急に真顔になった。
「誤解するな。……お前だからだ。お前だから心配で飛んでいったんだし、お前だから、嫌われたくない」
「……っ、」
き、急に、何?
真剣な表情で突然、まるで……、想いを打ち明けるかのようなことを言われて、私の胸はまた激しく暴れ出す。
「……あの続きが気になるのも、相手がお前だからだよ、グレース。誰にでもじゃない。……覚えておいてくれ」
「……レ……、レイ……」
どっ、どういう意味……?どうしてそんなに真剣なのよ。
それって、まるで……。
「……本当に綺麗だよ、グレース」
私の疑問にヒントを与えてくるかのように、甘い言葉をくれるレイ。
その想いに応えるように私はレイの手を強く握り、ほんの少し、素直になった。
「……嬉しい」
一曲踊り終わってレイと繋いだ手をゆっくり離すと、私はほうっと一息ついて初めて周りを見回した。
すると、何組もの男女のカップルがいるそのホールの中央に。
「……っ?!!」
思わず目を疑うような、真っ黒い大きな塊があった。あまりの驚きに心臓が痛いほど跳ねる。え?何?妖怪?カラスのお化け?!ギラギラ光ってる……。
(……いや、あれって、もしかして……)
よくよく見ると、それはミランダ嬢だったのだ。ミランダ嬢が、この上なくド派手な漆黒のドレスを着て立っていた。床に大きく広がったドレスは迫力満点だ。カラスの羽のような飾りが何百枚とびっしりくっついている。様々な色のたくさんの宝石も。とにかく大金がかかっていることだけは分かる。
「おーっほっほほほほ!やっぱり私の読み通りねっ!絶対に皆明るくてカラフルなドレスばかり選んでくると踏んだのよ。だから私は、あえて黒を選んだの。ほぉら、結果私が抜きん出て目立っているわ!」
……ええ、間違いなく。
「よかったわね、コープランド伯爵令息!この私のファーストダンスの相手ができて。光栄だったでしょう?……さ、次は誰?!疲れちゃうからそんなに何曲も続けては無理よ!早い者勝ちだわ!」
「…………。」
得意気なミランダ嬢の横から、げっそりとしたコープランド伯爵令息がヨレヨレと離れていった。他の令息方は皆目配せをしあい、お前が行け、いやお前が行けよと、目線で押し付けあっている。
(……うーん……。しばらく大人しかったのになぁ……)
本領発揮し出した彼女に、何だか嫌ぁ~な予感がしたのだった。
「……えっ」
レイは私の手を優しく取ると、そのままどこかへ歩き出した。
「あぁぁっ!レイが連れてっちゃったよー!もっと目の前で見ていたかったなぁぁグレース嬢の美しさを……っ、……あ、ロージー嬢!待って!ねぇ、俺と踊らない?!最初に俺と踊らないっ?!」
後ろで騒いでいるバーンズ侯爵令息のことは気にも留めずに、私をホールの隅っこに連れてくると、レイは振り返り私に小さな何かを差し出した。
「……渡すのが随分遅れてしまった。受け取ってくれ、グレース。今日は俺と一緒に、これを着けていて欲しい」
「……?え?……これ、何…?」
まさか、プ、プレゼント……?
予想外のことに驚いた私の心臓が、大きく跳ねる。震える手でその小さな包みをそっと受け取ると、私はおずおずと開いて中身を取り出した。
「……っ!こ、これって……」
「本当はあの夜に渡すつもりだったんだが……、お前が喜んでくれるかどうか分からずに、勇気が出なくて躊躇ってしまった。ごめん。……受け取って欲しいんだ、グレース」
「……レイ……」
胸がいっぱいで言葉が出ない。じわりと涙が浮かぶ。
それはあの夏の夜、音楽祭で私が目を留めたペアのサファイアのアクセサリーだった。
(……買ってくれてたなんて……。全然気付かなかった)
ぼんやりとあの日のことを思い返す。レイは私をベンチに残して、一人で飲み物を買いに行ってくれた。離れたのは、あの時だけ。きっとあの時、このサファイアも買いに行ってくれていたんだろう。
その心遣いに気付き、ますますこみ上げてくるものが抑えられない。
「……着けてもいいか?」
「……っ、」
言葉が出ずにコクコク頷くと、瞳に溜まっていた涙がポロリと頬を伝った。
「……ふ、……可愛い」
レイは小さくそう呟いて私の頬を優しく拭うと、取り出したネックレスをそっと私の首に着けてくれた。
小さなそのサファイアは、私が今日着けてきた控えめなネックレスと重ねて着けても違和感がなく、しっとりと馴染んだ。……はずだ。
それを確かめるべく、私はレイの顔をチラリと見上げた。
「よく似合っている。綺麗だよ」
「……。……あなたにも……」
嬉しさと恥ずかしさでモジモジしながら、私は小箱に収まっていたもう一つのサファイアのピンブローチを取り出す。
(……き、……緊張するんですけど……)
こんなにレイのすぐそばに立つのって、は、初めてじゃないかしら……。
指先が震えているのをレイに見られているのだろうと思うと、ますます頬が火照る。緊張しながら、どうにかレイの胸元にピンブローチを着けた。
「……大事にするわ。……ありがとう、レイ……」
「……喜んでもらえてよかった」
感極まった私が掠れる声でお礼を言うと、レイは心底嬉しそうに微笑み、その顔がまた私の心を甘く絡めとったのだった。
レイの流れるような自然な動きにただ身を任せ、私はまるで雲の上にいるような気分だった。
私の腰を支える大きな手、私の指先を優しく握る手、揺らぐことなく、ただずっと私のことだけを見つめている、その金色の艶めかしい瞳。爽やかで、甘い香り。
夢見心地な私もまた、レイのことだけをずっと見つめていた。ホールに響く美しい音楽と、高鳴る自分の鼓動を聞きながら。
「……さすがにダンスが上手いな」
「……あなたが上手だからよ」
そう小さく答えると、レイはますます優しく微笑む。
「……。」
「……。」
「……何を考えているの?」
私の顔を見ながら微笑んだまま黙っているのが気になって、何となくそう尋ねた。
「……あの時のことだ」
「……あの時?」
「エイヴリー侯爵が部屋に入ってこなかったら、お前はどこまで許してくれていたのかと」
「……。……っ?!なっ、何を言ってるのよ!!」
ほんの少し考えた後、あの日のことだと思い至った私は急に恥ずかしくなって、思わず大きな声を出した。レイは楽しそうにクスクス笑っている。
「集中しないと、点数を引かれるぞ」
「あっ!あなたが急に変なこと言い出すからでしょう!何考えてるのよ!」
「男なんて皆そんなものだ」
「~~~~っ!……軽いんだから、ほんとに」
私にとっては、とても特別な夜だったのに。
わざわざ学園からうちの屋敷まですぐさま飛んできてくれて、私を安心させてくれた。
少しは大事に思ってくれているんだと、嬉しかったのに。
何だかあの日のことを茶化されたようで少し傷付いていると、レイは急に真顔になった。
「誤解するな。……お前だからだ。お前だから心配で飛んでいったんだし、お前だから、嫌われたくない」
「……っ、」
き、急に、何?
真剣な表情で突然、まるで……、想いを打ち明けるかのようなことを言われて、私の胸はまた激しく暴れ出す。
「……あの続きが気になるのも、相手がお前だからだよ、グレース。誰にでもじゃない。……覚えておいてくれ」
「……レ……、レイ……」
どっ、どういう意味……?どうしてそんなに真剣なのよ。
それって、まるで……。
「……本当に綺麗だよ、グレース」
私の疑問にヒントを与えてくるかのように、甘い言葉をくれるレイ。
その想いに応えるように私はレイの手を強く握り、ほんの少し、素直になった。
「……嬉しい」
一曲踊り終わってレイと繋いだ手をゆっくり離すと、私はほうっと一息ついて初めて周りを見回した。
すると、何組もの男女のカップルがいるそのホールの中央に。
「……っ?!!」
思わず目を疑うような、真っ黒い大きな塊があった。あまりの驚きに心臓が痛いほど跳ねる。え?何?妖怪?カラスのお化け?!ギラギラ光ってる……。
(……いや、あれって、もしかして……)
よくよく見ると、それはミランダ嬢だったのだ。ミランダ嬢が、この上なくド派手な漆黒のドレスを着て立っていた。床に大きく広がったドレスは迫力満点だ。カラスの羽のような飾りが何百枚とびっしりくっついている。様々な色のたくさんの宝石も。とにかく大金がかかっていることだけは分かる。
「おーっほっほほほほ!やっぱり私の読み通りねっ!絶対に皆明るくてカラフルなドレスばかり選んでくると踏んだのよ。だから私は、あえて黒を選んだの。ほぉら、結果私が抜きん出て目立っているわ!」
……ええ、間違いなく。
「よかったわね、コープランド伯爵令息!この私のファーストダンスの相手ができて。光栄だったでしょう?……さ、次は誰?!疲れちゃうからそんなに何曲も続けては無理よ!早い者勝ちだわ!」
「…………。」
得意気なミランダ嬢の横から、げっそりとしたコープランド伯爵令息がヨレヨレと離れていった。他の令息方は皆目配せをしあい、お前が行け、いやお前が行けよと、目線で押し付けあっている。
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