【完結済】母国を捨てた冷遇お飾り王子妃は、隣国で開花し凱旋します

鳴宮野々花

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20. 努力も虚しく(※sideリリエッタ)

 そしてついに迎えた、王妃陛下主催のお茶会の日。
 一度身支度を整えたあたしは、屋敷を出る直前になって急に気が変わり、ドレスとアクセサリーを全部変えることにした。お義父様のアドバイスで落ち着いたブルーのドレスに渋々決めてたんだけど、やっぱりあたしに似合うのはもっと甘い感じのものなのよ。あの人、アテにできないし。
 あたしは桃色とクリーム色を基調としたドレスをまとった。袖はふんわりと膨らんだバルーンスリーブで、レースがふんだんにあしらわれている。胸元には大きなサテンのリボン。存在感があって可愛いわ。スカートには花の刺繍がたくさん施されていて、あたしを純真無垢な愛らしい雰囲気に見せてくれている。王妃陛下もきっと庇護欲をそそられて、あたしが気になって仕方なくなるはずだわ。

(ちょっと遅くなっちゃったけど……主役は遅れて登場するものだもん。逆にインパクト抜群のはずだわ。ふふ)

 馬車で王宮に向かい、茶会の会場となるサロンに足を踏み入れる。扉が開いた瞬間、中にいる十人ほどの女性たちが一斉にこちらを見た。あたしは一際甘やかな声で挨拶をした。

「遅くなってごめんなさぁい。皆様、ごきげんよう!」

 静まり返るサロン。皆がこちらをじっと見つめている。あたしは悠々と歩き、長テーブルの最奥に座っている王妃陛下のもとへとたどり着いた。
 妃陛下は深いグリーンのドレスと、大粒のダイヤモンドのアクセサリーを身に着けていた。眉間と口の横に深い皺が刻まれ、だいぶお歳を召していらっしゃるのだとひと目で分かる。王子たちが歳をとってから生まれた子だというのは本当なのね。これはますます、早く王子妃を選ぶ必要がありそうだわ。
 しっかりと巻き上げられた白髪混じりのプラチナブロンドを見つめ、あたしはそう思った。

「ごきげんよう、王妃陛下。本日はとっても素敵なお茶会に呼んでくださってありがとうございます! 皆で楽しい時間を過ごしましょうね」

 そう言って、小首をちょこんと傾けてカーテシーを披露する。あたしの愛らしい様子に笑みの一つでも見せるかと思ったけれど、王妃陛下は気難しそうな眉間の皺をより深くし、「座りなさい、メロウ侯爵令嬢」と低い声で命じてきただけだった。

(まぁ。愛想がないんだから。ヒューゴ様とは大違いねぇ)

 そうは思いつつも、あたしは笑みを浮かべたまま胸の前で両手を組んだ。

「その前に、今日のお茶会を記念して、あたし王妃陛下に贈り物を持ってきたんです。どうぞ、受け取ってくださいませ」

 そう言って後ろの侍女たちに目配せし、顎で指図する。すると彼女たちは持参したたくさんの箱を持ち、王妃陛下のそばへと進み出た。緊張のせいかしら、全員顔が真っ白ね。

「うふふ。あとでゆっくりご覧になってくださいませね。きっと王妃陛下にお気に召していただけるものばかりですわ。若い人たちの間で流行っている恋愛詩集や小説に、若返り効果抜群だと噂の美容クリームもお持ちしましたのよ! それと、ヒューゴ様のお部屋に飾っていただけるよう、小ぶりなあたしの肖像画も描かせましたの。ヒューゴ様はいつも、あたしの顔がすごく好きだって言ってくださるから。うふふ」

 周りの令嬢たちに聞こえるよう、あえて大きめの声でそう言ってやった。もちろん牽制するつもりでよ。ヒューゴ様を狙ってこの場に集まってくるなんて、厚かましいにも程があるもの、この子たち。愛されているのはこのあたしなのに。
 案の定、ずらりと並んで着席している令嬢たちに視線を向けると、皆引きつった顔をして固まっている。
 無表情のまま贈り物の箱たちをしばらく見つめていた王妃陛下が、ゆっくりとあたしの顔を見上げた。

「……こちらの品々は、メロウ侯爵や夫人と相談の上でご準備なさったのかしら」
「いいえ! あたしが自分で考えましたの!」

 その問いに、あたしはすぐさま堂々と答えた。ふふ、気の利くところをアピールできたわね。これで皆に一点先取よ。
 けれど王妃陛下は固い表情を崩すことなく、静かな口調で語りはじめた。

「……そう。今後のためにお教えしておきましょう、メロウ侯爵令嬢。我が国では王家主催の茶会に、参加者たちが贈り物を持参する習慣はないわ。抜けがけや、王家への媚びととられても致し方ない行為よ。公式な祝賀行事の際には、その限りではないけれどね」
「……はぁ」

(ん? つまり何が言いたいのかしら。喜んでるの? 遠慮してるの? どっち??)

 意味が分からず立っていると、王妃陛下が小さくため息をついた。

「もう結構。無下にするのも憚られますから、今回はありがたく受け取ります。次回からはこのようなお気遣いは不要よ。お座りになって」

(……なぁんだ。結局受け取るんじゃないの。素直じゃないのねぇ。ひねくれてるからあんなに深い皺ができちゃうのよ。全く)

「はぁい。どういたしまして!」

 素直に「ありがとう」の一言が言えない王妃陛下にちょこっと嫌みを言ってから、あたしは空いている席に座った。末席で腹が立つ。どうしてあたしが王妃陛下から一番遠い席にいなくちゃいけないのよ。
 着座してからゆっくりと見渡すと、つい先日までうちの茶会に顔を出してあたしに媚びていた数人の令嬢もいることに気が付いた。

(ちょっと……! 何よあいつら。こないだまであたしにちやほやしてきてたくせに……裏切り者! 王子妃になったら虐めてやるんだから)

 茶会が始まると、あたしはとにかく、自分が王妃陛下の記憶に一番強く残るよう頑張った。
 王妃陛下が他の令嬢に話題を振っても無理やり自分の方に話を引き寄せ、ヒューゴ様がいかにあたしを特別に想ってくださっているかを強調した。もうすでに婚約が確定しているかのように振る舞い、他の令嬢たちを牽制し続けた。
 純真さ、無邪気さを印象付けるため、時折小首を傾げては「このケーキ美味しーい!」とはしゃいでみせたり、明るい笑い声を上げたりして、やけに粛々とした場をたっぷりと和ませた。心清らかな者こそ、王家の人間に相応しいはずだものね。
 これがあたしの「努力」の仕方よ。

 最後の最後まで何度も王妃陛下にご挨拶をし、ヒューゴ様との親密っぷりもしっかりとアピールしてから、侯爵家のタウンハウスへと帰った。
 きっと上手くいった。真面目くさった装いで地味な会話しかできない他の令嬢たちとは一線を画したはずよ。
 あたしは吉報を待ち望んだ。近いうちにきっと、王家から何らかの通達が来るはずだわ。もしくは、ヒューゴ様からの呼び出しが……。
 ところが、待てど暮らせど何の便りも来ない。苛立ったあたしは、何度も義父や母におかしいと訴えた。
 そして数週間後のある日。どこからか帰宅した母が、青筋を立てあたしの部屋へとやって来た。

「王子妃はとうに内定しているそうよ。ラモール侯爵家のエリヴィア嬢にね。もうお二人は婚約なさったと……。あなたは選ばれなかったのよ、リリエッタ! この役立たず!!」
 



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