19 / 53
19. 寝耳に水(※sideリリエッタ)
ヒューゴ様との結婚を少しでも早めるために、外堀から埋めていかなくちゃ。次の王子妃はリリエッタ様で間違いないわ。そんな風に噂になれば、国王陛下だって無下にはできないはずだもの。
そう考えたあたしは、今日もご令嬢たちを招いてこのメロウ侯爵邸の広間でお茶会を開いていた。
ヒューゴ様から贈られた、ミルクに苺を溶かしたようなピンク色のシルクのドレス。胸元にはたっぷりと重ねたレースとフリルが波打ち、大きな腰のリボンは歩くたびに揺れて、小鳥の羽みたいにふわふわと踊る。袖口には真珠色のビーズの刺繍がびっしりと散りばめられていて、とってもゴージャスよ。
色白で甘い雰囲気のあたしにぴったり似合うその砂糖菓子のようなドレスには、同じくヒューゴ様にねだって贈ってもらったピンクダイヤモンドのアクセサリーたちを合わせたわ。あたしが特別扱いされていることを、この令嬢たちに社交界で広めてもらわなきゃ。
「リリエッタ様、今日もとっても愛らしいお姿ですわ!」
「本当に……! 本日のドレスも、第二王子殿下が?」
「ええ、そうなの。どうしてもまた、あたしにドレスを贈りたいからって。ふふ。もう十分すぎるくらいにいただいているんだけどね。彼ってとっても甘やかしたがりなのよ。ちょっと困っちゃうくらい」
眉尻を下げ小首を傾げてみせると、令嬢たちは一斉にため息を漏らし、甲高い声を上げる。
「まぁっ! さすがはリリエッタ様!」
「第二王子殿下も首ったけでいらっしゃいますのね! 羨ましい限りですわぁ」
「リリエッタ様、どうぞご結婚後もご贔屓に……」
「我が家もどうぞ引き続きご懇意にお願いいたしますわ、リリエッタさん。最高の織物や宝飾品も準備できます。お手伝いできることがございましたら、いつでもお声をかけてくださいませ」
「うっふふふふふ。皆さんったら、んもうっ」
気分は最高潮だった。下位貴族の娘だったこのあたしが、こんな格上の家門の令嬢たちからちやほやされる日が来るだなんて。こいつらだって、内心では悔しくてたまらないはずなのは分かってるわ。メロウ侯爵令嬢になったとはいえ、出自はこの子たちより下。そのあたしがヒューゴ様のご寵愛を一身に受けていることが、歯がゆくないはずがないものね。
でもこのままいけば王族になるかもしれないあたしだもの。媚びて取り入っておくしかない。そうでしょ? せいぜいあたしに気に入られるために頑張ってちょうだい。
お母様も今、とある伯爵家のお茶会に呼ばれて出かけている。母娘で着々と根回しをしている真っ最中なのよ。お義父様は何度も国王陛下と謁見して、あたしとヒューゴ様の結婚について話してくれているみたいだし。
結果が出るのも時間の問題よね。
そんな風に考え浮足立っていたあたしだけれど、ある夜、深刻な顔をしたお義父様とお母様から、耳を疑うような話をされた。
「……は……? な、何よそれ……! ヒューゴ様の妃を選ぶためのお茶会ですって……!?」
たった今聞いたことを受け入れられず大声でわめくと、お母様が深く息をついた。
「来週王宮で行われるそうよ。王妃陛下主催のお茶会なんですって。妙齢の令嬢たちが十人ほど招かれているみたいね。目的は第二王子殿下の次の妃の選定……。我が家には何の招待も来ていなかったから、お義父様が情報を仕入れてくださって助かったわ」
「そ、それって一体どういうことですの!? お義父様!! だって……ヒューゴ様の妃はあたしのはずでしょう!?」
セレステが去ったことで空いたその椅子は、あたしのものになるはずなのに!
どうしてわざわざ王妃陛下が茶会まで開いて、他の候補者を選定しようとするわけ!?
お義父様は小さく唸ると、難しい顔をして言った。
「私も何度か国王陛下に掛け合いはした。だが、色良いお返事はいただけなかった。今王家は非常に慎重になっておられる。王太子ご一家は離宮に籠もられ、ご高齢の陛下はすでに公務をほぼ引退なさっているような状態。ヒューゴ第二王子殿下とその妃となる方が、引き続き今後の外交の顔となる。……セレステは子をなせなかったが、その方面に対しては非常に優秀であった。その不在を埋め合わせられるだけの人材でなければ、妃として認めるわけにはいかぬと」
「だっ……だから! あたしがこれから頑張って……!」
「リリエッタ。私にできたのは、その王妃陛下主催の茶会にお前を招いていただくこと。それをお願いしご承諾いただいた。ここまでだ。後はお前次第ということになる」
「な……っ!」
「優秀な令嬢は他にいくらでもいる。お前も、第二王子殿下の妃の座を得たいのならば努力をしなさい。あとたった一週間……。死にもの狂いで勉強し、少しでも良いところを妃陛下にお見せしてくるのだ」
「そ……そんな……」
お義父様の突き放したようなその言葉に、目の前が真っ暗になった。じゃあ何のためにあたしはあんなに必死になってセレステを貶め、ヒューゴ様を誑かしてきたわけ?
縋る思いでお母様を見ると、彼女もまた私を見つめていた。
「……致し方ないわ、リリエッタ。お義父様の言うことを聞いて。ヒューゴ第二王子殿下ではなく、王妃陛下を攻略しなくては」
「この一週間、やれることはたくさんあるだろう。完璧でなくてもいい。とにかく、お前が努力できる人間であることをアピールするんだ。お前の前向きな姿勢で、王妃陛下のお心を動かすことができるやもしれん。伸びしろが大きいことを分かっていただければ、このメロウ侯爵家の後ろ盾と私の後押しでどうにかできる可能性はある」
「……く……っ!」
何よ……二人して厳しいことばかり言って……!
ドレスのスカートを握りしめ、あたしは唇を噛んだ。努力、努力って、あたしは侯爵令嬢なのよ!? しかもヒューゴ様の寵愛を得ているのに! どうしてすんなり結婚にこぎつけられないの? この人、お義父様……もしかして大した権力持ってないんじゃない? 使えないわね!!
それからの一週間、私室に大量に積まれた教科書やマナーブックには目もくれず、あたしは鏡の前でひたすら笑顔の練習をした。自分が一番魅惑的に見える角度を研究し、お茶会のドレスも何度も選び直した。新しい香水をいくつも買ってこさせてはたくさん試して、王妃陛下が喜びそうな贈り物もじゃんじゃん見繕って準備した。
(勉強なんて意味がないのよ。王子妃になれば、周りの人間たちが何でもやってくれるんだから。公務をサポートできる優秀な人材なんて、王宮にたくさんいるでしょう!?)
そう思い、あたしはひたすら自分の外見を磨き続けて茶会の当日を待った。
そう考えたあたしは、今日もご令嬢たちを招いてこのメロウ侯爵邸の広間でお茶会を開いていた。
ヒューゴ様から贈られた、ミルクに苺を溶かしたようなピンク色のシルクのドレス。胸元にはたっぷりと重ねたレースとフリルが波打ち、大きな腰のリボンは歩くたびに揺れて、小鳥の羽みたいにふわふわと踊る。袖口には真珠色のビーズの刺繍がびっしりと散りばめられていて、とってもゴージャスよ。
色白で甘い雰囲気のあたしにぴったり似合うその砂糖菓子のようなドレスには、同じくヒューゴ様にねだって贈ってもらったピンクダイヤモンドのアクセサリーたちを合わせたわ。あたしが特別扱いされていることを、この令嬢たちに社交界で広めてもらわなきゃ。
「リリエッタ様、今日もとっても愛らしいお姿ですわ!」
「本当に……! 本日のドレスも、第二王子殿下が?」
「ええ、そうなの。どうしてもまた、あたしにドレスを贈りたいからって。ふふ。もう十分すぎるくらいにいただいているんだけどね。彼ってとっても甘やかしたがりなのよ。ちょっと困っちゃうくらい」
眉尻を下げ小首を傾げてみせると、令嬢たちは一斉にため息を漏らし、甲高い声を上げる。
「まぁっ! さすがはリリエッタ様!」
「第二王子殿下も首ったけでいらっしゃいますのね! 羨ましい限りですわぁ」
「リリエッタ様、どうぞご結婚後もご贔屓に……」
「我が家もどうぞ引き続きご懇意にお願いいたしますわ、リリエッタさん。最高の織物や宝飾品も準備できます。お手伝いできることがございましたら、いつでもお声をかけてくださいませ」
「うっふふふふふ。皆さんったら、んもうっ」
気分は最高潮だった。下位貴族の娘だったこのあたしが、こんな格上の家門の令嬢たちからちやほやされる日が来るだなんて。こいつらだって、内心では悔しくてたまらないはずなのは分かってるわ。メロウ侯爵令嬢になったとはいえ、出自はこの子たちより下。そのあたしがヒューゴ様のご寵愛を一身に受けていることが、歯がゆくないはずがないものね。
でもこのままいけば王族になるかもしれないあたしだもの。媚びて取り入っておくしかない。そうでしょ? せいぜいあたしに気に入られるために頑張ってちょうだい。
お母様も今、とある伯爵家のお茶会に呼ばれて出かけている。母娘で着々と根回しをしている真っ最中なのよ。お義父様は何度も国王陛下と謁見して、あたしとヒューゴ様の結婚について話してくれているみたいだし。
結果が出るのも時間の問題よね。
そんな風に考え浮足立っていたあたしだけれど、ある夜、深刻な顔をしたお義父様とお母様から、耳を疑うような話をされた。
「……は……? な、何よそれ……! ヒューゴ様の妃を選ぶためのお茶会ですって……!?」
たった今聞いたことを受け入れられず大声でわめくと、お母様が深く息をついた。
「来週王宮で行われるそうよ。王妃陛下主催のお茶会なんですって。妙齢の令嬢たちが十人ほど招かれているみたいね。目的は第二王子殿下の次の妃の選定……。我が家には何の招待も来ていなかったから、お義父様が情報を仕入れてくださって助かったわ」
「そ、それって一体どういうことですの!? お義父様!! だって……ヒューゴ様の妃はあたしのはずでしょう!?」
セレステが去ったことで空いたその椅子は、あたしのものになるはずなのに!
どうしてわざわざ王妃陛下が茶会まで開いて、他の候補者を選定しようとするわけ!?
お義父様は小さく唸ると、難しい顔をして言った。
「私も何度か国王陛下に掛け合いはした。だが、色良いお返事はいただけなかった。今王家は非常に慎重になっておられる。王太子ご一家は離宮に籠もられ、ご高齢の陛下はすでに公務をほぼ引退なさっているような状態。ヒューゴ第二王子殿下とその妃となる方が、引き続き今後の外交の顔となる。……セレステは子をなせなかったが、その方面に対しては非常に優秀であった。その不在を埋め合わせられるだけの人材でなければ、妃として認めるわけにはいかぬと」
「だっ……だから! あたしがこれから頑張って……!」
「リリエッタ。私にできたのは、その王妃陛下主催の茶会にお前を招いていただくこと。それをお願いしご承諾いただいた。ここまでだ。後はお前次第ということになる」
「な……っ!」
「優秀な令嬢は他にいくらでもいる。お前も、第二王子殿下の妃の座を得たいのならば努力をしなさい。あとたった一週間……。死にもの狂いで勉強し、少しでも良いところを妃陛下にお見せしてくるのだ」
「そ……そんな……」
お義父様の突き放したようなその言葉に、目の前が真っ暗になった。じゃあ何のためにあたしはあんなに必死になってセレステを貶め、ヒューゴ様を誑かしてきたわけ?
縋る思いでお母様を見ると、彼女もまた私を見つめていた。
「……致し方ないわ、リリエッタ。お義父様の言うことを聞いて。ヒューゴ第二王子殿下ではなく、王妃陛下を攻略しなくては」
「この一週間、やれることはたくさんあるだろう。完璧でなくてもいい。とにかく、お前が努力できる人間であることをアピールするんだ。お前の前向きな姿勢で、王妃陛下のお心を動かすことができるやもしれん。伸びしろが大きいことを分かっていただければ、このメロウ侯爵家の後ろ盾と私の後押しでどうにかできる可能性はある」
「……く……っ!」
何よ……二人して厳しいことばかり言って……!
ドレスのスカートを握りしめ、あたしは唇を噛んだ。努力、努力って、あたしは侯爵令嬢なのよ!? しかもヒューゴ様の寵愛を得ているのに! どうしてすんなり結婚にこぎつけられないの? この人、お義父様……もしかして大した権力持ってないんじゃない? 使えないわね!!
それからの一週間、私室に大量に積まれた教科書やマナーブックには目もくれず、あたしは鏡の前でひたすら笑顔の練習をした。自分が一番魅惑的に見える角度を研究し、お茶会のドレスも何度も選び直した。新しい香水をいくつも買ってこさせてはたくさん試して、王妃陛下が喜びそうな贈り物もじゃんじゃん見繕って準備した。
(勉強なんて意味がないのよ。王子妃になれば、周りの人間たちが何でもやってくれるんだから。公務をサポートできる優秀な人材なんて、王宮にたくさんいるでしょう!?)
そう思い、あたしはひたすら自分の外見を磨き続けて茶会の当日を待った。
あなたにおすすめの小説
追放された宮廷花師が辺境の荒野に花を咲かせたら、王都の庭園だけが枯れ続けているようです
歩人
ファンタジー
「花を飾るだけの令嬢は不要だ」——王城の庭園を十年守った伯爵令嬢フローラは追放された。
翌月、王城の庭園が一夜にして枯れ果てる。さらに隣国への外交花束を用意できず国際問題に——
フローラの花束に込められた花言葉が、実は外交メッセージそのものだったのだ。
一方、辺境の荒野に降り立ったフローラが地面に触れると花が芽吹き始める。
荒野を花畑に変えていくスローライフの中で、花の感情が色で見える加護が目覚めて——。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ
ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。
スピーナ子爵家の次女。
どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。
ウィオラはいつも『じゃない方』
認められない、
選ばれない…
そんなウィオラは――
中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。
よろしくお願いします。
【完結】立場を弁えぬモブ令嬢Aは、ヒロインをぶっ潰し、ついでに恋も叶えちゃいます!
MEIKO
ファンタジー
最近まで死の病に冒されていたランドン伯爵家令嬢のアリシア。十六歳になったのを機に、胸をときめかせながら帝都学園にやって来た。「病も克服したし、今日からドキドキワクワクの学園生活が始まるんだわ!」そう思いながら一歩踏み入れた瞬間浮かれ過ぎてコケた。その時、突然奇妙な記憶が呼び醒まされる。見たこともない子爵家の令嬢ルーシーが、学園に通う見目麗しい男性達との恋模様を繰り広げる乙女ゲームの場面が、次から次へと思い浮かぶ。この記憶って、もしかして前世?かつての自分は、日本人の女子高生だったことを思い出す。そして目の前で転んでしまった私を心配そうに見つめる美しい令嬢キャロラインは、断罪される側の人間なのだと気付く…。「こんな見た目も心も綺麗な方が、そんな目に遭っていいいわけ!?」おまけに婚約者までもがヒロインに懸想していて、自分に見向きもしない。そう愕然としたアリシアは、自らキャロライン嬢の取り巻きAとなり、断罪を阻止し婚約者の目を覚まさせようと暗躍することを決める。ヒロインのヤロウ…赦すまじ!
笑って泣けるコメディです。この作品のアイデアが浮かんだ時、男女の恋愛以外には考えられず、BLじゃない物語は初挑戦です。貴族的表現を取り入れていますが、あくまで違う世界です。おかしいところもあるかと思いますが、ご了承下さいね。
【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります
なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。
忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。
「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」
「白い結婚ですか?」
「実は俺には……他に愛する女性がいる」
それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。
私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた
――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。
ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。
「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」
アロルド、貴方は何を言い出すの?
なにを言っているか、分かっているの?
「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」
私の答えは決まっていた。
受け入れられるはずがない。
自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。
◇◇◇
設定はゆるめです。
とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
【完結】無関心夫の手を離した公爵夫人は、異国の地で運命の香りと出会う
佐原香奈
恋愛
建国祭の夜、冷徹な公爵セドリック・グランチェスターは、妻セレスティーヌを舞踏会に残し、早々に会場を後にした。
それが、必死に縋り付いていた妻が、手を離す決意をさせたとも知らず、夜中まで仕事のことしか考えていなかった。
セドリックが帰宅すると、屋敷に残されていたのは、一通の離縁届と脱ぎ捨てられた絹の靴。そして、彼女が置いていった嗅いだことのない白檀の香りだけだった。
すべてを捨てて貿易都市カリアへ渡った彼女は、名もなき調香師「セレス」として覚醒する。
一方、消えた妻を追うセドリックの手元に届いたのは、かつての冷たい香りとは似て非なる、温かな光を宿した白檀の香水。
「これは、彼女の復讐か、それとも再生か——」
執念に駆られ、見知らぬ地へ降り立った公爵が目にしたのは、異国の貿易王の隣で、誰よりも自由に、見たこともない笑顔で微笑む「他人」となった妻の姿だった。
誤字、修正漏れ教えてくださってありがとうございます!
誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』
富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……