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4. 数々の禁止事項
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そして迎えた初登校日。私はルパート様に命じられた通りの身支度を整えた。
女子生徒の制服は、ウエストを少し絞ったネイビーカラーのジャケットに、膝下丈のチェックのプリーツスカート。ジャケットの前や袖口には学園の紋章入りの金ボタンが輝いている。胸元の深い赤色のリボンを結ぶと、気持ちが少し高揚した。ちなみにこのリボンの色は、一年生が赤、二年生が緑、三年生が青と、学年によって分けられている。ここまでの支度を終えると、私は茶色のもじゃもじゃを手に取り、ゆっくりと頭に被せる。
「……ひどいな……」
しっかりとまとめ上げた蜂蜜色の艶やかな金髪が完全に隠れ、代わりにこのぼさっとした濃茶の三つ編みヘアになると、途端に野暮ったい雰囲気が漂う。さらに黒縁眼鏡を手に取り、おそるおそる装着した。
「……最悪だわ……」
こんなに太い黒縁の眼鏡なんて、初めて見た。さらにルパート様が持ってきたものの中にあった地味な茶色の鞄を持ち、同色の靴を履く。せっかくの可愛い制服がたちまち台無しになった。けれど、何はともあれ行くしかない。
部屋を出て階段を下り玄関ホールへと向かう。父と兄はすでに出かけていたけれど、見送りに来てくれた母の表情にはありありと憐れみの色が浮かんでいた。
こうして私の暗黒の学園生活が始まったのだった。
ルパート様から渡された一覧表には、様々な禁止事項が記されていた。それはもう、常軌を逸する内容だった。
まずは見た目に関すること。学園以外でも、外出時は例のぼさぼさ三つ編み茶髪のかつらと黒縁眼鏡は着用必須。化粧禁止。髪飾りやアクセサリーなどの装飾品禁止。明るい色のドレス、及び胸元の空いたドレスも禁止、日傘、手袋、扇子など、優雅な小物を使うこと禁止。などなど。
次に、行動に関すること。学園や茶会で目立つのは禁止、人前で笑うのも禁止。楽器の演奏、歌唱、ダンスの練習は、学園の授業以外では全て禁止。人前で読書をするのも禁止。
他にも、外国語で会話をするのも禁止。試験で王女より良い点数をとるのも禁止。自分で茶会を開くこと自体禁止。見目の良い男性や、高位貴族の子息らと会話をすることも禁止。
禁止、禁止、禁止……。その全てが、「敬愛し尊敬するエメライン王女殿下に、お心健やかにお過ごしいただくため」だそうだ。
これらの禁止事項を律儀に守り続けること数週間、ついにある一人からの鋭い突っ込みが入った。
「馬鹿馬鹿しい。そんな一方的で理不尽な言いつけ、守る必要なんかどこにもないわ」
美しいストレートロングの銀髪を優雅に手で払いながらきっぱりとそう言ったのは、友人のノエリスだ。
昼休み。「天気が良くて風が気持ちいいから中庭に出ましょうよ」と彼女に誘われ、私たちはいくつか並べられた丸テーブルの一つを陣取り、サンドイッチを食べているところだ。
ノエリス・オークレイン公爵令嬢は、同じ淑女科の一年生。しかも同じクラスで、隣の席だ。数週間遅れで登校した私を気遣った彼女が何かと声をかけてくれたことで仲良くなった。
透き通るほど白い肌に、少し吊り上がった濃いブルーの瞳。しかもこの輝く長い銀髪で、どこにいたってものすごく目立つ。そのうえこのベルミーア王国三大公爵家の一つ、オークレイン公爵家のご令嬢だ。……よくもまぁ、こんな冴えないかつらを被った私に声をかけてくれたものだ。いくら“学園では家格関係なく皆対等に過ごす”という理念があるとはいえ、今でも信じられない気持ちになる。きつめの見た目からは想像できない優しさの持ち主だ。
そのノエリスから、ついに言いにくそうに言われたのだ。「ねぇローズ、あなた、もう少しおしゃれに気を遣ってみたらどう?」と。この野暮ったさが気になっていたのだろう。私は自分の事情を彼女に打ち明けた。
「別にあなたがかつらと眼鏡をつけていないと、婚約者のフラフィントン様が力を発揮できないわけじゃないでしょう? エメライン王女殿下が本当に能力ある令息たちを学園で見出しておきたいと言うのなら、婚約者の容姿なんか関係ないわ。本人だけを見ていればいいのよ」
「そうなんだろうけど……。事情はそれだけじゃなくて、その、王女殿下の婚約解消によるお心の傷も問題みたいで……」
周囲の耳が気になり、私は近くに生徒がいないことを確認しつつ小さな声でそう答える。幸い少し離れたところにいる他の生徒たちは、誰もこちらを気にしてはいない。ノエリスはフン、と鼻を鳴らした。
「そもそもおかしな話よね。なぜ王女ご自身がわざわざ在学中に護衛騎士を探す必要があるの? 今だってたくさんの選抜された護衛がいるはずでしょう? まぁ、学園の中に入って来られる人数はかなり限られているとしてもね」
「ええ……。それは、まぁ……」
「騎士団長たちの前で、剣技、戦術、馬術なんかの実技試験を全部受けて高い実力を認められてからじゃないと、王族の護衛騎士になんかなれないわ。王女殿下も、一体何をお考えなのかしらね」
オークレイン公爵家という立場の強さからか、ノエリスの発言は強気だ。それもそのはず、彼女の父親は現国王陛下の弟君で、母親はセリュナ帝国の有力貴族家出身。恐れ多いほどに強い権力を持つ家柄だ。
ノエリスと一緒に過ごすようになってから数日間、学園ですれ違う生徒たちからはたびたび怪訝な視線を向けられていた。有名な美貌の公爵令嬢の隣に、冴えない伯爵家の娘。見た目も天と地ほどの差だ。せめてありのままの自分できちんと整えていればだいぶ印象も変わったのだろうけれど、今さらどうしようもない。
そんなことを考えながら食事を続けていると、突然周囲がざわめき、皆の視線が一斉に同じ方向に向いた。
つられてそちらを見ると、渡り廊下の方から華やかな集団が現れた。
女子生徒の制服は、ウエストを少し絞ったネイビーカラーのジャケットに、膝下丈のチェックのプリーツスカート。ジャケットの前や袖口には学園の紋章入りの金ボタンが輝いている。胸元の深い赤色のリボンを結ぶと、気持ちが少し高揚した。ちなみにこのリボンの色は、一年生が赤、二年生が緑、三年生が青と、学年によって分けられている。ここまでの支度を終えると、私は茶色のもじゃもじゃを手に取り、ゆっくりと頭に被せる。
「……ひどいな……」
しっかりとまとめ上げた蜂蜜色の艶やかな金髪が完全に隠れ、代わりにこのぼさっとした濃茶の三つ編みヘアになると、途端に野暮ったい雰囲気が漂う。さらに黒縁眼鏡を手に取り、おそるおそる装着した。
「……最悪だわ……」
こんなに太い黒縁の眼鏡なんて、初めて見た。さらにルパート様が持ってきたものの中にあった地味な茶色の鞄を持ち、同色の靴を履く。せっかくの可愛い制服がたちまち台無しになった。けれど、何はともあれ行くしかない。
部屋を出て階段を下り玄関ホールへと向かう。父と兄はすでに出かけていたけれど、見送りに来てくれた母の表情にはありありと憐れみの色が浮かんでいた。
こうして私の暗黒の学園生活が始まったのだった。
ルパート様から渡された一覧表には、様々な禁止事項が記されていた。それはもう、常軌を逸する内容だった。
まずは見た目に関すること。学園以外でも、外出時は例のぼさぼさ三つ編み茶髪のかつらと黒縁眼鏡は着用必須。化粧禁止。髪飾りやアクセサリーなどの装飾品禁止。明るい色のドレス、及び胸元の空いたドレスも禁止、日傘、手袋、扇子など、優雅な小物を使うこと禁止。などなど。
次に、行動に関すること。学園や茶会で目立つのは禁止、人前で笑うのも禁止。楽器の演奏、歌唱、ダンスの練習は、学園の授業以外では全て禁止。人前で読書をするのも禁止。
他にも、外国語で会話をするのも禁止。試験で王女より良い点数をとるのも禁止。自分で茶会を開くこと自体禁止。見目の良い男性や、高位貴族の子息らと会話をすることも禁止。
禁止、禁止、禁止……。その全てが、「敬愛し尊敬するエメライン王女殿下に、お心健やかにお過ごしいただくため」だそうだ。
これらの禁止事項を律儀に守り続けること数週間、ついにある一人からの鋭い突っ込みが入った。
「馬鹿馬鹿しい。そんな一方的で理不尽な言いつけ、守る必要なんかどこにもないわ」
美しいストレートロングの銀髪を優雅に手で払いながらきっぱりとそう言ったのは、友人のノエリスだ。
昼休み。「天気が良くて風が気持ちいいから中庭に出ましょうよ」と彼女に誘われ、私たちはいくつか並べられた丸テーブルの一つを陣取り、サンドイッチを食べているところだ。
ノエリス・オークレイン公爵令嬢は、同じ淑女科の一年生。しかも同じクラスで、隣の席だ。数週間遅れで登校した私を気遣った彼女が何かと声をかけてくれたことで仲良くなった。
透き通るほど白い肌に、少し吊り上がった濃いブルーの瞳。しかもこの輝く長い銀髪で、どこにいたってものすごく目立つ。そのうえこのベルミーア王国三大公爵家の一つ、オークレイン公爵家のご令嬢だ。……よくもまぁ、こんな冴えないかつらを被った私に声をかけてくれたものだ。いくら“学園では家格関係なく皆対等に過ごす”という理念があるとはいえ、今でも信じられない気持ちになる。きつめの見た目からは想像できない優しさの持ち主だ。
そのノエリスから、ついに言いにくそうに言われたのだ。「ねぇローズ、あなた、もう少しおしゃれに気を遣ってみたらどう?」と。この野暮ったさが気になっていたのだろう。私は自分の事情を彼女に打ち明けた。
「別にあなたがかつらと眼鏡をつけていないと、婚約者のフラフィントン様が力を発揮できないわけじゃないでしょう? エメライン王女殿下が本当に能力ある令息たちを学園で見出しておきたいと言うのなら、婚約者の容姿なんか関係ないわ。本人だけを見ていればいいのよ」
「そうなんだろうけど……。事情はそれだけじゃなくて、その、王女殿下の婚約解消によるお心の傷も問題みたいで……」
周囲の耳が気になり、私は近くに生徒がいないことを確認しつつ小さな声でそう答える。幸い少し離れたところにいる他の生徒たちは、誰もこちらを気にしてはいない。ノエリスはフン、と鼻を鳴らした。
「そもそもおかしな話よね。なぜ王女ご自身がわざわざ在学中に護衛騎士を探す必要があるの? 今だってたくさんの選抜された護衛がいるはずでしょう? まぁ、学園の中に入って来られる人数はかなり限られているとしてもね」
「ええ……。それは、まぁ……」
「騎士団長たちの前で、剣技、戦術、馬術なんかの実技試験を全部受けて高い実力を認められてからじゃないと、王族の護衛騎士になんかなれないわ。王女殿下も、一体何をお考えなのかしらね」
オークレイン公爵家という立場の強さからか、ノエリスの発言は強気だ。それもそのはず、彼女の父親は現国王陛下の弟君で、母親はセリュナ帝国の有力貴族家出身。恐れ多いほどに強い権力を持つ家柄だ。
ノエリスと一緒に過ごすようになってから数日間、学園ですれ違う生徒たちからはたびたび怪訝な視線を向けられていた。有名な美貌の公爵令嬢の隣に、冴えない伯爵家の娘。見た目も天と地ほどの差だ。せめてありのままの自分できちんと整えていればだいぶ印象も変わったのだろうけれど、今さらどうしようもない。
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