【完結済】王女に夢中な婚約者様、さようなら 〜自分を取り戻したあとの学園生活は幸せです! 〜

鳴宮野々花@書籍4作品発売中

文字の大きさ
5 / 56

5. 王女と取り巻き集団

しおりを挟む
 その中央にいるのは、今まさに話題に上っていたエメライン王女その人だった。
 腰の辺りまで流れる真っ直ぐなホワイトブロンドの髪は、毛先だけをくるりと巻いてある。ノエリスと同じくらい真っ白な、陶器のように滑らかな肌。伏し目がちだから睫毛の濃さと長さがよく分かる。桃色の唇は少し口角が上がり、楚々とした優しげな雰囲気を漂わせている。まるで女神のようだ。
 そして彼女の周りを取り囲むように歩いているのは、見目麗しい十人ほどの男子生徒たち。皆すらりと背が高く、その堂々たる様子は、王女をお守りできることをこのうえなく誇らしく思っているかのようだ。その集団の中に、ルパート様の姿があった。王女の左隣のポジションを確保している。
 一体何をそんなに警戒しているのか、そこかしこで生徒たちが談笑や食事をしているだけの見晴らしのいい中庭を横切りながら、前後左右に首を動かしあたりを見回している。俺、しっかり護衛しています、と言わんばかりの様子だ。できるところを王女にアピールしているのだろうか。なんだかやけに滑稽に見える。

「はぁ。今日も大人数侍らせてるわねぇ。阿呆らしい。ここは学園よ。何しに来てるのかしらね、王女殿下は。男漁りと思われても仕方のない振る舞いだわ」
「ノ、ノエリス……ッ」

 あまりに辛辣な言葉に緊張し、私は思わず彼女を咎めるような声を上げ、辺りに視線を向けた。いくらオークレイン公爵家の令嬢とはいえ、さすがに不敬ではないか。誰かに聞かれ、言いふらされでもしたら……。
 けれど、そこかしこにいる生徒たちのグループは皆、輝かしい王女とその取り巻き集団に目を奪われており、誰もこちらを気にかけていない。思わず深く息をついた。そして私も再び、中庭の中央を横切る華やかな集団に目を向ける。よく見ると、男子生徒たちのタイの色が違う。一年生だけではなく、他学年の生徒たちもいるみたいだ。
 するとその時、あたりに忙しなく視線を散らしていたルパート様が、ふいに私たちの方を見た。目が合って、思わずドキッとする。

(ルパート様……)

 ほんの少しだけ笑みを作り、目で挨拶をしてみた。けれど、その瞬間。
 ルパート様が、鋭い眼差しで私を睨みつけた。

「……っ」

 まるで、こっちを見るな、笑顔を見せるなと言わんばかりだ。
 彼はそのまま私から思い切り目を逸らすと、王女殿下の方へと顔を向け、何やら言葉を交わしはじめた。わずかに見えた横顔は、たった今私に向けたきついものとは全く違い、とても優しかった。
 王女一行は、そのまま中庭の奥へと向かう。

「……ちょっと。いくら何でもひどいんじゃないの。フラフィントン侯爵令息のあの態度は。自分の婚約者を何だと思ってるのかしら」
「……」

 ノエリスが睨み続けているので、私も遠ざかった彼らへと、再び視線を向ける。
 最奥のテーブルに座っていた女子生徒の三人グループに、王女と一緒にいた男子生徒の一人が何やら声をかけている。すると女子生徒たちは一斉に立ち上がり、テーブルの上に広げていたランチボックスや飲み物を片付けはじめた。彼女たちが立ち去ると、ルパート様が胸元からハンカチらしきものを取り出し、一つの椅子の座面をせっせと拭く。そしてそこに、王女をエスコートして座らせた。
 他の男子生徒らが、テーブルの上にクロスやランチボックスなどを広げはじめる。……まるで従者だ。生徒たちは学園に、従者や護衛、侍女らを連れてくることは禁止されている。けれど王族だけは特例で、エメライン王女にも護衛が同行を認められているらしい。少し離れたところに壮年の護衛が二人いて、さっきからずっと王女の集団を見つめている。

「ね、あそこに護衛がいるじゃないの。あれで十分でしょう? あんなにも男子生徒を侍らせる必要なんかどこにもないわよ。そもそも学園の全ての入り口には衛兵たちがいるし、見回りをしている人たちもいるのよ。あれ、絶対にただの王女のわがままだと思わない? 見目の良い男たちにちやほやされていたいだけなのよ」

 私の心の奥底に芽生えたもやもやとした悪感情を、ノエリスは躊躇なくまた口にした。この堂々としたところ、本当にすごいと思う。
 テーブル席を離れた三人の女子生徒が、ランチボックスや飲み物を手にしたまま歩き出した。胸元のリボンは青色だ。三年生らしい。明らかに困っている。周囲を見回しているけれど、もう空いている席はない。
 けれど、私たちのテーブルには空いている椅子があと三脚ある。声をかけてみましょうか? とノエリスに相談しようとした、その時。

「先輩方~! こちら空いてますよー。どうぞ、いらしてくださーい」

 ノエリスが高々と手を振りながら、彼女たちに向かって大きな声をかけた。先輩方は明らかにほっとした表情でこちらに歩いてくる。

「……ご一緒してもよろしいの?」
「ええ、もちろん。ね? ローズ」
「はいっ!」

 にこやかなノエリスに合わせ、私も満面の笑みでそう答える。先輩方は嬉しそうに席についた。五人で簡単に自己紹介をし、昼食の続きをとる。

「……えっ? じゃあ先輩も、あの王女取り巻き集団の中にご婚約者が?」
「ええ、実はそうなのよ。さっき王女殿下に席を譲れって声をかけてきたのが、私の婚約者なの」

 三人のうち、一番地味な装いをしている一人の先輩が、ノエリスの問いかけに困ったように答えた。それにしても、ノエリス……、王女取り巻き集団って……。

(普通なら処罰が怖くてそんなこと口にできないわよ。恐るべし、オークレイン公爵家のご令嬢……)

 若干ハラハラしながら会話を聞いていると、他の先輩二人が気の毒そうな顔で彼女を見て言った。

「この子ね、学園には絶対に化粧をしてきてはいけない、アクセサリーも一切着けてくるなって指示されているのよ。とても美しいハニーブロンドなのに、こんなに短く切るよう命じられて……」
「まぁ……」

 思わず声が漏れた。たしかに、彼女のとても艶やかな金髪は、肩にもつかない長さにぱつんと切り揃えられている。さらにサイドの髪をピンで止めて押さえつけていて、他の先輩方やノエリスのようにアクセサリーさえ着けていない。……妙な親近感を覚える。

「彼が言うのよ。王女殿下はとても繊細なお方で、今は婚約解消なさったことで自信を失くしておいでだって。華やかな婚約者がいる男子生徒はそばに置きたくないとお思いだから、お前は王女殿下のためにもずっと地味にして、学園内では自分に近付いてくるなって」

(……ルパート様と全く同じことを言っているのね)

 先輩の話を聞いているノエリスは納得できないらしく、眉間に皺を寄せている。私はつい、王女の集団にまた視線を向けてしまう。
 男子生徒たちは甲斐甲斐しく王女のお世話をしている。飲み物をついだり、サンドイッチを手渡したり。日差しや風を避けるためなのか、わざわざパラソルを持って王女の隣に立っている人まで。もはや滑稽だ。なぜそこまでする必要があるのだろうか。皆必死になって王女の機嫌をとろうとしているように見える。



 なんとなく暗い気持ちのまま午後の授業を受け、その後馬車に乗り、タウンハウスへと帰宅した。
 馬車から降り、とぼとぼと歩いて玄関前に辿り着くと、待機していたフットマンが扉を開けてくれた。
 そして。
 屋敷の中に足を踏み入れた、その瞬間。私は「ひっ!!」と情けない声を上げた。

 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄されたので北の港を発展させたら

ふわふわ
恋愛
王立学園の卒業舞踏会。 公爵令嬢アリアベルは、王太子カルディオンから突然の婚約破棄を告げられる。 「真実の愛を見つけた」 そう言って王太子が選んだのは、涙を流す義妹ヴィオレッタだった。 王都から追い出され、すべてを失った―― はずだった。 アリアベルが向かったのは、王国の北にある小さな港町。 しかし彼女の手腕によって港は急速に発展し、やがて王国最大の交易港へと変わっていく。 一方その頃、王太子と義妹は王都で好き勝手に振る舞っていたが―― やがてすべてが崩れ始める。 王太子は国外追放。 義妹は社交界から追放され修道院送り。 そして気づいた頃には、北の港こそが王国の中心になっていた。 「私はもう誰のものでもありません」 これは、婚約破棄された令嬢が自分の人生を取り戻し、 王国の未来を変えていく物語。 そして―― 彼女の隣には、いつしか新しい王太子の姿があった。 婚約破棄から始まる、逆転ざまぁロマンス。✨

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

七年目の裏切り 〜赴任先の夫から届く愛の手紙は、愛人の代筆でした〜

恋せよ恋
恋愛
「君は僕の最愛だ。もう二度と、君を危険に晒したくない」 命懸けの出産後、涙を流して私を抱きしめた夫ジュリアン。 その言葉通り、彼は「私を大切にするため」に夜の営みを断った。 私は、女としての寂しさを「愛されている誇り」に変え、 隣国へ赴任した夫を信じて二人の子供と家を守り続けていた。 毎週届く、情熱的な愛の手紙。タイプライターで綴られた その愛の言葉を、私は宝物のように抱きしめていた。 ……しかし、その手紙は「裏切り」だった。 夫が異国の地で、愛人と肌を重ねながら綴らせていた「偽りの愛」。 身分を隠して夫の赴任先の隣国へと向かった私が見たのは……。 果たして、貞淑な妻・メラニアが選んだ結論は……。 子供たちのため結婚生活の継続か、それとも……。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

婚約破棄されたので頑張るのをやめました 〜昼寝と紅茶だけの公爵令嬢なのに、なぜか全部うまくいきます〜あ

鍛高譚
恋愛
王太子から婚約破棄された衝撃で階段から落ちた公爵令嬢シャル・ド・ネ・アルベール。 目覚めた彼女は、なんと前世の記憶——ブラック企業で働き詰めだったOL・佐伯ゆかりとしての人生を思い出してしまう。 無理して働いた末に過労死した前世の反省から、シャルは決意する。 「もう頑張らない。今度の人生は“好き”と“昼寝”だけで満たしますわ!」 貴族としての特権をフル活用し、ワイン造りやスイーツ作りなど“趣味”の延長でゆるゆる領地改革。 気づけば国王にも称賛され、周囲の評価はうなぎのぼり!? 一方、彼女を見下していた王太子と“真実の愛()”の令嬢は社交界で大炎上。 誰もざまぁされろなんて言ってないのに……勝手に転がり落ちていく元関係者たち。 本人はただ紅茶とスコーンを楽しんでいるだけなのに―― そんな“努力しない系”令嬢が、理想の白い結婚相手と出会い、 甘くてふわふわ、そしてちょっぴり痛快な自由ライフを満喫する ざまぁ(他力本願)×スローライフ×ちょっと恋愛な物語です♪

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

婚約を奪った義妹は王太子妃になりましたが、王子が廃嫡され“廃嫡王子の妻”になりました

鷹 綾
恋愛
「お姉様には、こちらの方がお似合いですわ」 そう言って私の婚約者を奪ったのは、可憐で愛らしい義妹でした。 王子に見初められ、王太子妃となり、誰もが彼女の勝利を疑わなかった――あの日までは。 私は“代わり”の婚約者を押し付けられ、笑いものにされ、社交界の端に追いやられました。 けれど、選ばれなかったことは、終わりではありませんでした。 華やかな王宮。 厳しい王妃許育。 揺らぐ王家の威信。 そして――王子の重大な過ち。 王太子の座は失われ、運命は静かに反転していく。 離縁を望んでも叶わない義妹。 肩書きを失ってなお歩き直す王子。 そして、奪われたはずの私が最後に選び取った人生。 ざまあは、怒鳴り声ではなく、選択の積み重ねで訪れる。 婚約を奪われた姉が、静かに価値を積み上げていく王宮逆転劇。

処理中です...