【完結済】王女に夢中な婚約者様、さようなら 〜自分を取り戻したあとの学園生活は幸せです! 〜

鳴宮野々花@書籍4作品発売中

文字の大きさ
15 / 56

15. クライヴ様の事情

しおりを挟む
 再会を喜び合った後、私は持参したお土産を侍女から受け取り、ノエリスに渡した。

「これね、ハートリー伯爵領の特産品なの。よかったら、ご家族で」
「まぁ、こんなにたくさん……!」
「あなたには何度も助けられたから、そのお礼の気持ちも込めて。両親ももっとたくさん持っていきなさいって言って、張り切って準備していたわ」
「そんな……。ありがとう、ローズ。ご両親にもよろしく伝えてね」

 穀倉地帯のハートリー伯爵領では、小麦や大麦、果物に乳製品、蜂蜜やハーブなど、様々なものが生産されている。それらを使った焼き菓子やジャム、コンポートにジュース、ワインなど、これでもかと持参したのだ。
 紅茶を飲み、お菓子を食べながら、しばらくは他愛もない会話を楽しむ。
 しばらく経ち、ふと話が途切れた時に、私はようやく自分の婚約について彼女に打ち明けたのだった。

「……サザーランド公爵家のクライヴ様と……!? 婚約した、ですって!?」

 ノエリスが口元を手で押さえ、目を丸くする。なんだか気恥ずかしくなった私は、彼女から目を逸らし俯いた。

「あまりの急展開に、自分でもびっくりしてるのよ。ほんの数週間前にあんな目に遭って、あなたに迷惑かけたばかりなのにね」
「迷惑だなんて少しも思っていないけれど……、そう、サザーランド公爵令息様と……」

 ノエリスは興奮した自分を落ち着かせるように紅茶に口をつけ、深く息をついた。そして私の方を見て優しく微笑む。

「サザーランド公爵家は代々国の中枢に勤める重鎮たちを輩出してきた権力の強い家だし、王家の信頼も厚いわ。加えて次男のクライヴ様といえば、非の打ち所のない貴公子よ。悪い評判は一度も聞いたことがないわ」
「そ、そうよね」
「ええ! あのご年齢でいまだに婚約者をお決めにならないことがたびたび話題に上ってはいたけれど……まさか、あなたがその座を射止めるだなんて……! おめでとう、ローズ。あなたにとってもハートリー伯爵家にとっても、最高のご縁よ」

 何年も前から顔見知りなのにまったく親しくないクライヴ様との婚約に逃げ腰になっていたけれど、ノエリスにこう言ってもらえると、なんだかとても安心する。

「……ありがとう、ノエリス。サザーランド公爵家に嫁ぐには私は未熟すぎるから、これからしっかり頑張らなきゃいけないわ」
「ふふ。困ったことがあればこの私が何でも力になるから、大丈夫よ」
「まぁ。オークレイン公爵令嬢にそう言ってもらえるなんて、心強いわ」
「そうでしょう? 任せておいて」

 二人でくすくす笑いながら、紅茶に口をつける。すっかり気持ちが落ち着いたところに、ノエリスがぽつりと言った。

「サザーランド公爵家には、クライヴ様の上にもう一人嫡男のご令息がいるけれど……体調はいかがなのかしら」
「ああ……、兄から聞いたことがあるわ。私は詳しくは知らないんだけど……」

 クライヴ様は次男だ。以前夕食の席で、家族がクライヴ様の話をしている時に、何度かその体の弱いお兄様のことを言っていた。けれど、私はその程度の情報しか知らない。
 ノエリスがお菓子に手を伸ばしながら話しはじめた。

「サザーランド公爵家の嫡男のハロルド様はね、幼い頃から慢性的な呼吸器疾患を患っていらっしゃるの。体を動かすと息苦しくなるそうで」
「……そうなのね」
「ええ。幼い頃は何度も命が危ぶまれるほどの状態になっていたとか。次男のクライヴ様は王国騎士団にも所属しているけれど、サザーランド公爵領の経営についても学んでいらっしゃるらしいから、きっと先のことを見越しておられるのでしょうね。……もしかしたら、クライヴ様が公爵を継ぐことになるのかもね」
「……そう」

 これまでクライヴ様のお兄様のことについて、あまり考えたことはなかった。ハロルド様は今もまだ、重篤な状態に陥ることがあるのだろうか。
 公爵家のご子息として生まれ、お兄様がそんな状況で……。クライヴ様は、大きな責任を背負う立場にあるわけだ。きっと精神的な負担も大きいのだろう。
 もしも、自分の立場だったら。
 あの優しい兄が生まれつき体が弱くて、何度も生死の境をさまよったりしていたら。
 私はどれほど不安でたまらない思いをしただろう。

(ご心配だろうな、クライヴ様……)

 いつも淡々としていて、無口で、ちょっぴり無愛想で。
 けれど堂々としていてたくましく、唯一無二のオーラをまとっている傑物。
 そんな彼の素顔が、少し気になった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄されたので北の港を発展させたら

ふわふわ
恋愛
王立学園の卒業舞踏会。 公爵令嬢アリアベルは、王太子カルディオンから突然の婚約破棄を告げられる。 「真実の愛を見つけた」 そう言って王太子が選んだのは、涙を流す義妹ヴィオレッタだった。 王都から追い出され、すべてを失った―― はずだった。 アリアベルが向かったのは、王国の北にある小さな港町。 しかし彼女の手腕によって港は急速に発展し、やがて王国最大の交易港へと変わっていく。 一方その頃、王太子と義妹は王都で好き勝手に振る舞っていたが―― やがてすべてが崩れ始める。 王太子は国外追放。 義妹は社交界から追放され修道院送り。 そして気づいた頃には、北の港こそが王国の中心になっていた。 「私はもう誰のものでもありません」 これは、婚約破棄された令嬢が自分の人生を取り戻し、 王国の未来を変えていく物語。 そして―― 彼女の隣には、いつしか新しい王太子の姿があった。 婚約破棄から始まる、逆転ざまぁロマンス。✨

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

七年目の裏切り 〜赴任先の夫から届く愛の手紙は、愛人の代筆でした〜

恋せよ恋
恋愛
「君は僕の最愛だ。もう二度と、君を危険に晒したくない」 命懸けの出産後、涙を流して私を抱きしめた夫ジュリアン。 その言葉通り、彼は「私を大切にするため」に夜の営みを断った。 私は、女としての寂しさを「愛されている誇り」に変え、 隣国へ赴任した夫を信じて二人の子供と家を守り続けていた。 毎週届く、情熱的な愛の手紙。タイプライターで綴られた その愛の言葉を、私は宝物のように抱きしめていた。 ……しかし、その手紙は「裏切り」だった。 夫が異国の地で、愛人と肌を重ねながら綴らせていた「偽りの愛」。 身分を隠して夫の赴任先の隣国へと向かった私が見たのは……。 果たして、貞淑な妻・メラニアが選んだ結論は……。 子供たちのため結婚生活の継続か、それとも……。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

婚約破棄されたので頑張るのをやめました 〜昼寝と紅茶だけの公爵令嬢なのに、なぜか全部うまくいきます〜あ

鍛高譚
恋愛
王太子から婚約破棄された衝撃で階段から落ちた公爵令嬢シャル・ド・ネ・アルベール。 目覚めた彼女は、なんと前世の記憶——ブラック企業で働き詰めだったOL・佐伯ゆかりとしての人生を思い出してしまう。 無理して働いた末に過労死した前世の反省から、シャルは決意する。 「もう頑張らない。今度の人生は“好き”と“昼寝”だけで満たしますわ!」 貴族としての特権をフル活用し、ワイン造りやスイーツ作りなど“趣味”の延長でゆるゆる領地改革。 気づけば国王にも称賛され、周囲の評価はうなぎのぼり!? 一方、彼女を見下していた王太子と“真実の愛()”の令嬢は社交界で大炎上。 誰もざまぁされろなんて言ってないのに……勝手に転がり落ちていく元関係者たち。 本人はただ紅茶とスコーンを楽しんでいるだけなのに―― そんな“努力しない系”令嬢が、理想の白い結婚相手と出会い、 甘くてふわふわ、そしてちょっぴり痛快な自由ライフを満喫する ざまぁ(他力本願)×スローライフ×ちょっと恋愛な物語です♪

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

婚約を奪った義妹は王太子妃になりましたが、王子が廃嫡され“廃嫡王子の妻”になりました

鷹 綾
恋愛
「お姉様には、こちらの方がお似合いですわ」 そう言って私の婚約者を奪ったのは、可憐で愛らしい義妹でした。 王子に見初められ、王太子妃となり、誰もが彼女の勝利を疑わなかった――あの日までは。 私は“代わり”の婚約者を押し付けられ、笑いものにされ、社交界の端に追いやられました。 けれど、選ばれなかったことは、終わりではありませんでした。 華やかな王宮。 厳しい王妃許育。 揺らぐ王家の威信。 そして――王子の重大な過ち。 王太子の座は失われ、運命は静かに反転していく。 離縁を望んでも叶わない義妹。 肩書きを失ってなお歩き直す王子。 そして、奪われたはずの私が最後に選び取った人生。 ざまあは、怒鳴り声ではなく、選択の積み重ねで訪れる。 婚約を奪われた姉が、静かに価値を積み上げていく王宮逆転劇。

処理中です...