魔女の最後の世界旅行

夜月蒼歌

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七話

地底の水先案内人

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私は街から離れて数ヶ月、森の中を中を歩いていた。
「確かここらへんだったと思ったのだけど…」
魔女の同胞に教えてもらった獣道を進みながら目的のものを探す。しばらく辺りを見渡しながら進んでいくとお目当てのものが見つかった。
「ここが『近道』ね!」
それは草木が生い茂ったなか蔦が絡まり植物と一体化したような洞窟の入り口だった。
別れる前に魔女の一人に教えてもらったのだ。
『人間の街を避けて通れるノーム達の作った道があるから困ったことがあったら使うといいわ』
そう言って旅だった彼女に改めて心の中で礼を言う。
最近神秘狩りが急速に広まりつつあり、なかには神秘の代行者であるはずが聖職者達までもが「自分たちの教義の存在以外は悪」と言い始め率先して神秘に属するもの達を狩り始めたのだ。
夜の女神の娘である魔女は聖職者の信仰する光の女神の力は天敵だ。
その神秘は触れるだけで身を焼き尽くしてしまう。
何より光の女神は夜の女神のことを毛嫌いしているのだ。
光が闇を消し去るのと同じように闇も光を覆い隠すことが出来る。光り輝く自分こそこの世で一番美しいと自負する光の女神にとってその存在を覆い隠す闇は嫌悪する対象なのだ。だから闇の女神の子供である私達にも牙を剥く。
そんな彼女を信仰する聖職者が彷徨く街には入りたくない。
そこで、教えてもらったノームの道を使って街を避けて進もうと考えたのだ。
私は早速ノームの道を通る際に使うお供えの削り花とお酒を供えて、ランタンの火を頼りに洞窟へと足を踏み入れる。
なかは涼しく時折風が通り抜けていく。削り取られた岩肌は滑らかで触れると気持ちがいい。私は迷わないように壁を触りながらゆっくりと進んでいく。そしてしばらくすると最初の分かれ道に出た。
「えっと、同胞からの地図によると…こっちね」
私は教えてもらった同胞から貰った地図を見て、再び歩き始める。
右へ左へ、左へ右へ…洞窟の中を灯りと地図を頼りにゆっくりと進んでいく。
暗い洞窟の中、地図の半分ほど進んだところで目の前に小さな複数灯りが現れた。灯りが大きくなるに連れて、灯りに照らされた髭を生やしたノーム達の顔が現れた。
「おや、こりょあ驚いた!魔女がおる!」
私に気がついたノームが夢でも見ているのかと言わんばかりに驚いて言った。
「本当だ!本当だ!魔女さんだ!」
「あんたさんがた、世界を離れたんじゃないのけ?なんでまだこんなところに?」
「んなことより、魔女ちゃん魔女ちゃん。この先の道は駄目だ。人間の無茶振りで土が汚れて毒の空気が蔓延してる。行かんほうがええ」
ノーム達が口々に言葉を口にする。私は混乱しながらも情報を整理してノーム達に事情を話した。
「私は世界に残った神秘の仲間達に花を贈る旅の途中なの。今外の世界は神秘を狩る人たちで溢れているから、次の目的地まで行くための同胞の魔女に教えてもらったこの道を通っていたの。この先は毒の空気が蔓延しているのね」
「そうだ。行かんほうがええ。あれはノームにもどうにもならん」
「魔女はどこへ行きたん?」
「私はこの洞窟を抜けた先にある港町に行きたいの」
そう言って私は地図をノーム達に見せた。
「この町かぁ…この地図ではちと難しいな」
「人間のせいで通れなくなった道がいっぱいあるもんなぁ」
「なら魔女ちゃんをこの町まで連れていちゃろう!」
「そうだな、そのほうがはぇや!」
「決まりだな!」
ノーム達は全員の意見が一致して満足げに頷く。
「いいのですか?」
私が遠慮がちに言えばノーム達は笑顔で頷いた。
「おうよ!その代わりちっとばかり頼があるんだが良いか?」
「私に出来ることなら喜んでしますが…」
「じゃ問題ねぇ!よし、お前ら行くぞー」
「おー!」
「そしたらコッチに穴掘んぞい」
「魔女こっちだぞー」
そしてノーム達の案内で私は暗闇の土の中を進んでいく。時折、岩肌を彩るように宝石の原石が顔を出す。
「綺麗ですね」
「だが、こりゃあ駄目だ」
宝石の原石を見て髭面のノームは険しい顔をして唸るように言った。私がなぜ駄目なのか聞こうとしたらのっぽのノームが教えてくれた。
「人間が土を汚し始めたせいで宝石にまで毒が回ってきてんのさぁ。おかげで唯の綺麗な石ころさぁ」
「宝石にぁ大地の力がぎゅぎゅうと詰まってるっから。だから意味があんのに、それを育む土が汚れちぃまったら台無しだ」
「そうなんですね…」
私は宝石の原石を見ながら複雑な気持ちで頷いた。
大地に足をつけ大地と生きる者はその恩恵を受け、大地と共に生死をともにする。生きとし生けるもの、神秘とて例外ではない。その事を人間もほんの少し前までわかっていたはずなのに…一年でここまで変わってしまうのか。
私は神秘達や同胞達が離れたこの世界を離れるきっかけとなった半年前の事を思い出す。
一年前、人間の王が代替わりしたのだ。
それだけならばいつもの事と放っておいた。だが、次の王は王位についた途端、人々にたいして
『神秘とはまやかしでありり滅ぼすべき悪である!彼奴らがいるから人の世は発展しないのだ。彼奴らは捕まえなければならない!』
と公言し教会に絶対的権限を与え神秘に属するもの全てを狩り尽くすように王命を発令したのだ。
確かに神秘に属する者の中には悪きもの達もいるが、それでも全ての神秘を狩り尽くすなど、世界の均衡と摂理が壊れてしまう。前王はそれをちゃんとわかっていた。それなのに…。
「魔女?どうかしたか」
その言葉にハッと思考の海から戻るとこちらを心配そうに見つめる団子鼻のノームと目が合った。
「いいえ、なんでもないわ。ただ、こんなに大地がそこまで汚れてしまっているだなんて思ってなかったから」
「無理もねぇ。ここまで悪化したのはごく最近だ。毒を含んだ汚水に遠慮なしの採掘に鉄のゴミ!」
「おまけにアイツら毒の薬も捨てやがる!これじゃ俺達が土を浄化しようとしても間に合わねぇ!」
「それどころか俺たちの方が先に死ぬねぇ。大地と一蓮托生だから仕方がねぇけど」
「そんな…」
ノーム達の言葉に私がショックを受けていると小さなノームが皺くちゃな顔に笑みを浮かべて言った。
「なぁに。そんな顔をしなくてもいいよぉ。確かに死んじまうのは避けられねぇけど、大地が息を吹き返せば俺達もまた産まれるからよぉ。だから魔女ちゃんが気にすることはないよぉ」
「ノームさん…」
「そうそう!だから気にするこたぁねぇぞ!…っと、ここだ。魔女さん、この先の道をまっすぐ行けば目的の町まで着くぜ。俺たちはこの先には行けねぇからあとは一人で行きな」
「ありがとうございますノームさん達!そういえば、頼み事というのは…」
私が改めて聞けばノーム達は口々に言った。
「この道の途中の地底湖に可哀想な竜が居るんだ」
「昔、怪我して落っこってきてなぁ。翼が駄目になってからずっとあの地底湖にいるんだ」
「地底湖の水も毒で汚れてきたからかなり弱ってて長くはもたねぇ。俺達も顔を出しに行きてぇが、そこらじゅう土が毒だらけだ。土そのものの俺達が迂闊に近づくのは避けたい」
「魔女よぉ。あの竜にも花を贈ってくれねぇか。最後が毒の汚水の色だなんて嫌すぎる」
ノーム達の言葉に私はしっかりと笑顔で頷く。
「もちろん。私はこの世界の神秘の同胞達のために花贈るために旅をしているのだから。そしてそれはノームさん達にも言えることよ」
私はそう言って両手に魔力を込める。そして人数分の小さなフロックスとアルストロメリアの花束をノーム達に手渡した。ノーム達は手渡された小さな花束を見て笑顔で飛び跳ねるように喜んだ。
「優しくて綺麗な花だぁ!ありがとなぁ!」
「それに少しは体が楽になった気がするぞ。さすが魔女のくれる花だな」
「魔女さん、アイツにもよろしく言ってくれなぁ」
「魔女ちゃんありがとぉねぇ」
「私のほうこそ、ここまで連れてきてくれてありがとうございます。それじゃ行ってきます」
私は惜しみながら笑顔でノーム達に別れを告げて洞窟の先へ足を向けた。
この先の地底湖にいる竜に少しでも早く花を贈りたくて、慎重にけれど早足で先を急ぐのだった。
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