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羽ばたきの前
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「はっ!」
剣と銃を合体させたような武器である鈍色のガンブレードを、剣のように振るう。振るう時に引き金を引くのがコツだ。これによって、回転式弾倉の魔弾を一つ消費することで、剣の斬撃を強化して、斬撃の威力が上がる。俺の前に佇んでいた魔法で生成された影人形は、右上から左下へと綺麗に断絶された。
更に二体の影人形も斬り捨てると、それを横目に確認しながら、ガンブレードのセレクターを剣から銃に変えつつ、俺は中距離先にある的に向かってガンブレードの銃口を向け、引き金を引く。ダダダンッ! と三つの的の中央に魔弾は見事命中し、シリンダー内の魔弾の薬莢は空となった。
影人形から跳ねるように距離を取りながら、シリンダーを横にずらし、リロードの為にガンブレードを振って精霊石製の空薬莢を排出、素早く次弾装填出来るように、スピードローダーと呼ばれる、六つの魔弾が円筒形の器具に保持されたもので次弾を詰める。
「ふう……」
ここまでは全て上手くいった。と一息吐きながら、近くのベンチからタオルを取り、汗を拭っていると、拍手が聞こえ、そちらへ視線を送ると、燕尾服に身を包み、ロマンスグレーの髪をワックスできっちり固めた、茶色の瞳をした老年の男性が拍手をしていた。
「お見事です、フェイルーラ様」
「嫌味かい? ゴーンド。このくらい、兄上たちやエスペーシは、十代になる前に出来るようになっている事だよ」
そう、四大領主貴族の一角であるヴァストドラゴン家に生まれながら、俺の魔力は、それに相応しいものではない。長兄であり嫡男のジェンタールや、長姉であるアドラ、末妹であるフィアーナとも、勿論双子の片割れであるエスペーシと比べても低い。領地の各地を守護している一般的な騎士貴族の子と比べても低いくらいだ。
「そう悲観なされまするな。ヴァストドラゴン家は代々ドラゴンを守護精霊としている一族です。王立魔法学校で『契約召喚の儀』をすれば、きっとドラゴンと契約が出来る事でしょう」
ゴーンドのせめてもの慰めの言葉に、溜息しか出ない。確かに家名にドラゴンと名乗っている我が一族は、強力なドラゴンの守護精霊と契約する事で、代々領主貴族として、このヴァストドラゴン領を治めてきたが、ヴァストドラゴン家の者だからと言って、必ずしもドラゴンと契約出来るとは限らない。実際、過去に嫡子として生まれながら、ドラゴンと契約出来ず、その座を弟妹に譲った者も輩出している。恐らく俺はそっちだろう。いや、元々嫡男じゃないけど。
「んで? そんなおべんちゃらを言う為に、わざわざこんな城宮の外れまできたのか?」
「そうでした。サロード様がお呼びです」
「父上が?」
にっこりと笑みを浮かべながら、恭しく頭を下げてそう伝えてくるゴーンド。全く、こんな出来損ないにも礼節を持って接するのだから、我が家の執事長は偉いねえ。他の執事や女中、城宮仕えの文官などは、俺がいるのを分かっていて、わざわざ聞こえるように嫌味やら哀れみを囁き合っていると言うのに。
しかし父上が俺に? 父上は俺なんかに興味がない。嫡男であるジェンタール兄上と比べても遜色ない、いや、潜在能力はそれ以上と噂されている俺の片割れ、エスペーシにお熱だ。もしかしたらエスペーシが次代の領主となるかも知れない。と城宮では噂になっている。お家騒動なんてなれば、こっちにまでとばっちりが来るだろう。勘弁して欲しい。
✕✕✕✕✕
燕尾服の執事の後を、上下ジャージの俺が続く。城宮の外れにある訓練場から表通りまで来たところで、バイクと装甲車、トラックの集団が、エントランス前に止まっている。それぞれ鷲や豹、狼など強そうな己の守護精霊と戯れていた。
(第二周遊旅団の奴ら、帰ってきていたのか)
周遊旅団は、この広いヴァストドラゴン領の各地を周り、その地を守護する騎士貴族たちとともに、魔属精霊や賊などの討伐を行う遊撃部隊だ。その構成員は騎士貴族の次男次女以降など、家を継げない子女たちなどが主で、ここでの活躍如何では、騎士貴族として土地の運営を任せられるようになったりするので、士気は高い。まあ、中には騎士貴族にはならず、一生を周遊旅団に捧げる人もいるが。
「おお! 坊じゃないですか!」
エントランスから出てきた、緑の隊服がパツパツになる程のゴツい体格に、栗毛の短髪、エメラルドのような碧の瞳の壮年の男が、俺に気付いて手を振ってくる。その声に、エントランス前で気を抜いていた周遊旅団の面々が、慌ててビシッと直立する。
「お疲れ~、ジョルトリッチ。どうだった?」
笑顔で俺に近付いてきたジョルトリッチと、その後ろに控えていた艶のある黒髪長髪を首の後ろで纏めた、臙脂色と呼ぶのか、暗い赤色をした瞳の女性、副官のガーネアが顔を見合わせ、互いに苦い顔になる。
「坊の予想は当たっていましたね。魔属精霊が各地で増えているようです」
やはり、か。ここ数年、ヴァストドラゴン領では、旱や大雨など、自然災害が増え続けている。俺はこれが魔属精霊の増加の可能性と考えていたのだが、当たってしまったらしい。
「他の領はどう?」
周遊旅団は、領の隅々まで移動するので、必然的に他領との境界まで行く事が多い。なのでそこで他領の騎士貴族や周遊旅団などと情報交換をするのも珍しくない。
しかし俺の問いに対して、顎に手を当てるジョルトリッチ。脳筋の如くいつも即答するジョルトリッチが、何と答えれば良いのか考えあぐねている。
「ガーネア」
考えあぐねた挙げ句、副官に投げやがった。ガーネアは諦めたような顔をしながら、俺に報告してくれる。
「他領にも探りを入れましたが、答えてくれた領もあれば、話題を反らした領もありました。恐らくは、どこの領もここヴァストドラゴン領と変わらないかと」
「答えなかったのは、メンツか?」
「恐らく。自領が魔属精霊のせいで荒れている事を恥と考え、他領にそれがバレるのを嫌ったのでしょう」
ガーネアの報告に、嘆息を漏らすしかない。今はまだ食料生産などが少し減ってきている程度だが、今のうちに対策を講じておかないと、困窮するのは目に見えている。そうなってからでは遅い。
これくらいから食料や精霊石の備蓄を始めておかないと、いつ魔属精霊が領内に氾濫して、天災の如く襲い掛かってくるか分からないと言うのに。
それとも今回の魔属精霊の増加は一時的なもので、勝手に減っていくとでも思っているのだろうか? ……まさかな。魔属精霊は間引かないと減らないのを知らない訳がない。
「サロード様には今報告してきました。こちらを」
ガーネアが渡してくれた用紙には、自領での魔属精霊が関与していると思われる田畑や家畜の被害。それと他領でも、情報を交換してくれた領からの報告がびっしり書かれていた。
「ありがとう」
「いえ。仕事しただけですので」
「それでも、魔属精霊や賊の相手もあるだろうに、こんなに詳細な資料を作ってくれた事はありがたいよ」
俺が礼を言えば、ガーネアは恭しく頭を下げてくれた。こんな俺にも礼に礼で返すとか、律儀だねえ。
「坊って本当に人誑しですよね。サロード様なんて、報告して当然。って顔で受け取ってましたよ」
そんな言葉が俺の頭の上から降ってくる。他でもないジョルトリッチだ。
「お前ねえ」
ジト目を返すも、口笛なんて吹きやがる。一応俺も領主貴族の息子なんだけどなあ。まあ、良い。俺はジョルトリッチを無視して、さっきからじっと直立している周遊旅団の方へ身体を向ける。
「諸君! 今回の周遊もご苦労だった! 魔属精霊の件はまだ終息していないので、休息は短いものとなってしまうが、それぞれ身体を休め、次の周遊に備えてくれ!」
『はい!!』
うん。煩いくらい大きな声が返ってきたなあ。うちの周遊旅団は意気軒昂でありがたい。領地の騎士貴族たちとも、協力して貰うようにゴーンドから手を回して貰って、魔属精霊の討伐を早めたいところだ。
「ジョルトリッチも、久々の我が家なんだ。奥さんと子供に優しくしてやれよ?」
「分かってますよ!」
顔真っ赤だな。ふふふ。意趣返しは出来たかな。
「んじゃあ、俺も父上に呼ばれているんでな」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ」
ジョルトリッチが首を傾げるくらいには珍しいのだ。はあ、今から胃が痛い。
✕✕✕✕✕
「は? グリフォンデン領のフレミア嬢と、俺が婚約?」
執務机を挟み、俺とエスペーシが父上であるサロードの前に立つ。淡い空色の髪に深い金眼の、年を経てなお整った顔が苦く歪んでいる。そんな父上からの言葉に俺は耳を疑った。勿論、横のエスペーシもそうだろう。父上と同じ、勿論俺とも同じ淡い空色の髪をセンター分けにし、金眼を覆う瞼がひくひくしている。それはそうだろう。何故なら、フレミア嬢はエスペーシの婚約者だからだ。
「意味が分からないのですが? エスペーシ、何かフレミア嬢の気に障る事でもしたのか?」
「する訳ないだろ」
だよなあ。横のエスペーシはかなり動揺している。これまで、遠目で二人の様子を観察する事はあったが、幼少より両家により婚約が取り決められていた二人は、そんな事関係ないくらいに仲睦まじかった。
「王領で強大な魔属精霊が現れてな。その討伐の援軍に向かったフレミア嬢の兄で嫡男であったイグニウス卿が、その魔属精霊に殺されたのだ」
言葉を濁す事なく、ただ事実だけを口にする父上。つまり、兄であるイグニウス卿が死亡したので、妹であるフレミア嬢に次期領主貴族となるお鉢が回ってきたのだ。いやいやいや、
「それで何でエスペーシとの婚約が解消されて、俺との婚約になるんですか?」
俺の問いに沈黙を貫く父上。俺はそれで何となく察してしまった。エスペーシは優秀だ。いや、優秀過ぎた。だから父上はこのヴァストドラゴン領から、他領に譲りたくないのだろう。嫡男であるジェンタール兄上に何かあった場合の保険か、もしくは本当にジェンタール兄上ではなく、エスペーシを次期領主にするつもりなのかも知れない。だが、グリフォンデン領との繋がりは無視出来ない。ここで破談にして、他の領の者と結婚されるくらいなら、俺を差し出そうと言う魂胆なのだ。浅はかだ。
「状況が変わったのは分かりましたが、俺で満足すると本気でお思いですか?」
「向こうも、国内で我がヴァストドラゴン家がどれだけの地位にあるかは分かっている。この婚約変更を断れば……」
「グリフォンデン家だって四大貴族です。格で劣っている訳じゃありませんよ?」
俺の一言に眉をぴくりとさせる父上。
「もうすぐ王立魔法学校入学だ。グリフォンデン領の話は他の領にも広まり、フレミア嬢に接触してくる者も増えるだろう。どうにかしてフレミア嬢の気持ちを勝ち取れ」
「勝ち取れ、と言われましても、エスペーシを今まで通りフレミア嬢と婚約させたままにしておく方が百倍、いや、千倍安泰だと思いますけど?」
「フレミア嬢の気持ちを勝ち取れ!」
無茶苦茶だあ!
剣と銃を合体させたような武器である鈍色のガンブレードを、剣のように振るう。振るう時に引き金を引くのがコツだ。これによって、回転式弾倉の魔弾を一つ消費することで、剣の斬撃を強化して、斬撃の威力が上がる。俺の前に佇んでいた魔法で生成された影人形は、右上から左下へと綺麗に断絶された。
更に二体の影人形も斬り捨てると、それを横目に確認しながら、ガンブレードのセレクターを剣から銃に変えつつ、俺は中距離先にある的に向かってガンブレードの銃口を向け、引き金を引く。ダダダンッ! と三つの的の中央に魔弾は見事命中し、シリンダー内の魔弾の薬莢は空となった。
影人形から跳ねるように距離を取りながら、シリンダーを横にずらし、リロードの為にガンブレードを振って精霊石製の空薬莢を排出、素早く次弾装填出来るように、スピードローダーと呼ばれる、六つの魔弾が円筒形の器具に保持されたもので次弾を詰める。
「ふう……」
ここまでは全て上手くいった。と一息吐きながら、近くのベンチからタオルを取り、汗を拭っていると、拍手が聞こえ、そちらへ視線を送ると、燕尾服に身を包み、ロマンスグレーの髪をワックスできっちり固めた、茶色の瞳をした老年の男性が拍手をしていた。
「お見事です、フェイルーラ様」
「嫌味かい? ゴーンド。このくらい、兄上たちやエスペーシは、十代になる前に出来るようになっている事だよ」
そう、四大領主貴族の一角であるヴァストドラゴン家に生まれながら、俺の魔力は、それに相応しいものではない。長兄であり嫡男のジェンタールや、長姉であるアドラ、末妹であるフィアーナとも、勿論双子の片割れであるエスペーシと比べても低い。領地の各地を守護している一般的な騎士貴族の子と比べても低いくらいだ。
「そう悲観なされまするな。ヴァストドラゴン家は代々ドラゴンを守護精霊としている一族です。王立魔法学校で『契約召喚の儀』をすれば、きっとドラゴンと契約が出来る事でしょう」
ゴーンドのせめてもの慰めの言葉に、溜息しか出ない。確かに家名にドラゴンと名乗っている我が一族は、強力なドラゴンの守護精霊と契約する事で、代々領主貴族として、このヴァストドラゴン領を治めてきたが、ヴァストドラゴン家の者だからと言って、必ずしもドラゴンと契約出来るとは限らない。実際、過去に嫡子として生まれながら、ドラゴンと契約出来ず、その座を弟妹に譲った者も輩出している。恐らく俺はそっちだろう。いや、元々嫡男じゃないけど。
「んで? そんなおべんちゃらを言う為に、わざわざこんな城宮の外れまできたのか?」
「そうでした。サロード様がお呼びです」
「父上が?」
にっこりと笑みを浮かべながら、恭しく頭を下げてそう伝えてくるゴーンド。全く、こんな出来損ないにも礼節を持って接するのだから、我が家の執事長は偉いねえ。他の執事や女中、城宮仕えの文官などは、俺がいるのを分かっていて、わざわざ聞こえるように嫌味やら哀れみを囁き合っていると言うのに。
しかし父上が俺に? 父上は俺なんかに興味がない。嫡男であるジェンタール兄上と比べても遜色ない、いや、潜在能力はそれ以上と噂されている俺の片割れ、エスペーシにお熱だ。もしかしたらエスペーシが次代の領主となるかも知れない。と城宮では噂になっている。お家騒動なんてなれば、こっちにまでとばっちりが来るだろう。勘弁して欲しい。
✕✕✕✕✕
燕尾服の執事の後を、上下ジャージの俺が続く。城宮の外れにある訓練場から表通りまで来たところで、バイクと装甲車、トラックの集団が、エントランス前に止まっている。それぞれ鷲や豹、狼など強そうな己の守護精霊と戯れていた。
(第二周遊旅団の奴ら、帰ってきていたのか)
周遊旅団は、この広いヴァストドラゴン領の各地を周り、その地を守護する騎士貴族たちとともに、魔属精霊や賊などの討伐を行う遊撃部隊だ。その構成員は騎士貴族の次男次女以降など、家を継げない子女たちなどが主で、ここでの活躍如何では、騎士貴族として土地の運営を任せられるようになったりするので、士気は高い。まあ、中には騎士貴族にはならず、一生を周遊旅団に捧げる人もいるが。
「おお! 坊じゃないですか!」
エントランスから出てきた、緑の隊服がパツパツになる程のゴツい体格に、栗毛の短髪、エメラルドのような碧の瞳の壮年の男が、俺に気付いて手を振ってくる。その声に、エントランス前で気を抜いていた周遊旅団の面々が、慌ててビシッと直立する。
「お疲れ~、ジョルトリッチ。どうだった?」
笑顔で俺に近付いてきたジョルトリッチと、その後ろに控えていた艶のある黒髪長髪を首の後ろで纏めた、臙脂色と呼ぶのか、暗い赤色をした瞳の女性、副官のガーネアが顔を見合わせ、互いに苦い顔になる。
「坊の予想は当たっていましたね。魔属精霊が各地で増えているようです」
やはり、か。ここ数年、ヴァストドラゴン領では、旱や大雨など、自然災害が増え続けている。俺はこれが魔属精霊の増加の可能性と考えていたのだが、当たってしまったらしい。
「他の領はどう?」
周遊旅団は、領の隅々まで移動するので、必然的に他領との境界まで行く事が多い。なのでそこで他領の騎士貴族や周遊旅団などと情報交換をするのも珍しくない。
しかし俺の問いに対して、顎に手を当てるジョルトリッチ。脳筋の如くいつも即答するジョルトリッチが、何と答えれば良いのか考えあぐねている。
「ガーネア」
考えあぐねた挙げ句、副官に投げやがった。ガーネアは諦めたような顔をしながら、俺に報告してくれる。
「他領にも探りを入れましたが、答えてくれた領もあれば、話題を反らした領もありました。恐らくは、どこの領もここヴァストドラゴン領と変わらないかと」
「答えなかったのは、メンツか?」
「恐らく。自領が魔属精霊のせいで荒れている事を恥と考え、他領にそれがバレるのを嫌ったのでしょう」
ガーネアの報告に、嘆息を漏らすしかない。今はまだ食料生産などが少し減ってきている程度だが、今のうちに対策を講じておかないと、困窮するのは目に見えている。そうなってからでは遅い。
これくらいから食料や精霊石の備蓄を始めておかないと、いつ魔属精霊が領内に氾濫して、天災の如く襲い掛かってくるか分からないと言うのに。
それとも今回の魔属精霊の増加は一時的なもので、勝手に減っていくとでも思っているのだろうか? ……まさかな。魔属精霊は間引かないと減らないのを知らない訳がない。
「サロード様には今報告してきました。こちらを」
ガーネアが渡してくれた用紙には、自領での魔属精霊が関与していると思われる田畑や家畜の被害。それと他領でも、情報を交換してくれた領からの報告がびっしり書かれていた。
「ありがとう」
「いえ。仕事しただけですので」
「それでも、魔属精霊や賊の相手もあるだろうに、こんなに詳細な資料を作ってくれた事はありがたいよ」
俺が礼を言えば、ガーネアは恭しく頭を下げてくれた。こんな俺にも礼に礼で返すとか、律儀だねえ。
「坊って本当に人誑しですよね。サロード様なんて、報告して当然。って顔で受け取ってましたよ」
そんな言葉が俺の頭の上から降ってくる。他でもないジョルトリッチだ。
「お前ねえ」
ジト目を返すも、口笛なんて吹きやがる。一応俺も領主貴族の息子なんだけどなあ。まあ、良い。俺はジョルトリッチを無視して、さっきからじっと直立している周遊旅団の方へ身体を向ける。
「諸君! 今回の周遊もご苦労だった! 魔属精霊の件はまだ終息していないので、休息は短いものとなってしまうが、それぞれ身体を休め、次の周遊に備えてくれ!」
『はい!!』
うん。煩いくらい大きな声が返ってきたなあ。うちの周遊旅団は意気軒昂でありがたい。領地の騎士貴族たちとも、協力して貰うようにゴーンドから手を回して貰って、魔属精霊の討伐を早めたいところだ。
「ジョルトリッチも、久々の我が家なんだ。奥さんと子供に優しくしてやれよ?」
「分かってますよ!」
顔真っ赤だな。ふふふ。意趣返しは出来たかな。
「んじゃあ、俺も父上に呼ばれているんでな」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ」
ジョルトリッチが首を傾げるくらいには珍しいのだ。はあ、今から胃が痛い。
✕✕✕✕✕
「は? グリフォンデン領のフレミア嬢と、俺が婚約?」
執務机を挟み、俺とエスペーシが父上であるサロードの前に立つ。淡い空色の髪に深い金眼の、年を経てなお整った顔が苦く歪んでいる。そんな父上からの言葉に俺は耳を疑った。勿論、横のエスペーシもそうだろう。父上と同じ、勿論俺とも同じ淡い空色の髪をセンター分けにし、金眼を覆う瞼がひくひくしている。それはそうだろう。何故なら、フレミア嬢はエスペーシの婚約者だからだ。
「意味が分からないのですが? エスペーシ、何かフレミア嬢の気に障る事でもしたのか?」
「する訳ないだろ」
だよなあ。横のエスペーシはかなり動揺している。これまで、遠目で二人の様子を観察する事はあったが、幼少より両家により婚約が取り決められていた二人は、そんな事関係ないくらいに仲睦まじかった。
「王領で強大な魔属精霊が現れてな。その討伐の援軍に向かったフレミア嬢の兄で嫡男であったイグニウス卿が、その魔属精霊に殺されたのだ」
言葉を濁す事なく、ただ事実だけを口にする父上。つまり、兄であるイグニウス卿が死亡したので、妹であるフレミア嬢に次期領主貴族となるお鉢が回ってきたのだ。いやいやいや、
「それで何でエスペーシとの婚約が解消されて、俺との婚約になるんですか?」
俺の問いに沈黙を貫く父上。俺はそれで何となく察してしまった。エスペーシは優秀だ。いや、優秀過ぎた。だから父上はこのヴァストドラゴン領から、他領に譲りたくないのだろう。嫡男であるジェンタール兄上に何かあった場合の保険か、もしくは本当にジェンタール兄上ではなく、エスペーシを次期領主にするつもりなのかも知れない。だが、グリフォンデン領との繋がりは無視出来ない。ここで破談にして、他の領の者と結婚されるくらいなら、俺を差し出そうと言う魂胆なのだ。浅はかだ。
「状況が変わったのは分かりましたが、俺で満足すると本気でお思いですか?」
「向こうも、国内で我がヴァストドラゴン家がどれだけの地位にあるかは分かっている。この婚約変更を断れば……」
「グリフォンデン家だって四大貴族です。格で劣っている訳じゃありませんよ?」
俺の一言に眉をぴくりとさせる父上。
「もうすぐ王立魔法学校入学だ。グリフォンデン領の話は他の領にも広まり、フレミア嬢に接触してくる者も増えるだろう。どうにかしてフレミア嬢の気持ちを勝ち取れ」
「勝ち取れ、と言われましても、エスペーシを今まで通りフレミア嬢と婚約させたままにしておく方が百倍、いや、千倍安泰だと思いますけど?」
「フレミア嬢の気持ちを勝ち取れ!」
無茶苦茶だあ!
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