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弁明

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「ああ……、気が重い」


 父上の宣告より数日。俺は列車に乗り、アダマンティア王国の王都アダマンタイタンへ向かっていた。


領婿りょうむこなんて、名誉じゃないですか」


 俺と向かいの席に座っている騎士貴族の子の一人、黒髪黒瞳のアーネスシスがワクワクを隠そうともせず、そんな事を俺に向かって言ってくる。


「アーネスシス、そのようにフェイルーラ様の気を乱すような発言は止めなさい」


 俺の気分を察してか、俺の横に座る緩くウェーブした銀髪に、コバルトブルーの瞳をした整った顔のグーシーが忠告する。


 四人席に座っているのは、俺にグーシー、アーネスシスに、黄昏の夜空のような群青色の長髪に、山吹色の瞳をした少女のブルブルだ。


「ええ? 名誉だと思うんすけど?」


 家格で言えば一番下のアーネスシスが口を尖らせる。


「名誉だから、俺には荷が勝ち過ぎているんだよ。グリフォンデン家の次期領主の領婿として、俺が相応しいと本気で思っているのか?」


「はい」


 その瞳は真摯に俺を見詰めている。どうやら本気のようだ。だが、こんな話を馬鹿馬鹿しいと鼻で笑う声が俺の耳をくすぐる。これに対して直ぐ様立ち上がったのは、俺と同席している三人だけでなく、俺の周囲を固めていた他の騎士貴族の子女たち十人以上だ。


 ほぼ同数いる、鼻で笑った騎士貴族の子女たちに対して睨みを利かせるが、向こうはそれに対して動じる様子はない。


 この王都行きの長距離急行列車の三両は、ヴァストドラゴン家で押さえており、一両は俺の派閥の騎士貴族たちの寝台車、もう一両をエスペーシ派閥の寝台車、そしてここは寛ぐ為の一般車両だ。つまり鼻で笑ったのはエスペーシ派閥の騎士貴族の子女たちと言う事である。


「んだよ? やるのか? 田舎者共?」


 俺がグリフォンデン家の領婿に相応しいかは別として、領主直々の下知の内容に対して、一般市民がいないからと言って、鼻で笑うのは頂けない。俺の派閥の面々がイキり立つのも分かる。まあ、俺を鼻で笑うくらいは、俺に取ってはいつもの事なので気にしないが、今の発言は頂けない。


 俺は立ち上がると、俺の派閥の面々を手で制しながら、エスペーシ派閥の方へ歩いていく。


「何か御用ですかね? 捨てられ次男様?」


 俺の前に立ちはだかった少年は、領主の息子に対して敬意もなく、ニヤケ顔を晒している。これに同調するように、他のエスペーシ派閥の子女たちが、


「グリフォンデン家も可哀想に」


「幾らお家の為とはいえ、こんな出来損ないを婿に迎えないといけないなんて」


「俺の方がまだ資格があるぜ。立候補しようかな?」


 などと煽ってくるが、そんな事はどうでも良い。


「お前らが俺をどう言おうと勝手だが、俺の為に動いてくれている、ここの有志の悪口に対しては抗議させて貰おう」


『は?』


 エスペーシ派閥の面々は、俺の言葉の意味を飲み込めなかったようで、皆一様にキョトンとした顔になる。


 俺の派閥は、ヴァストドラゴン領でも地方の土地を守護する騎士貴族で構成されている。対してエスペーシ派閥は、領都ドラゴンネストで領主の下で仕事に従事していたり、領都周辺の土地の者が多い。なので地方の騎士貴族を侮る傾向があるが、だからと言って懸命に騎士貴族としての責務を果たしている家の者たちに対して、敬意ない発言をするのは、たとえ俺が弱いと言っても、派閥のボスとして、看過する事は出来ないのだ。


「俺への不敬は不問とするが、同じ領の騎士貴族出身者に対して、そのような発言をする事を俺は見過ごさない。謝らないのであれば、お前らの家に対して、正式に抗議文を送らせて貰う」


「なっ!?」


「卑怯だぞ!」


「自分に力がないからって、親の七光りかよ!」


 ギャーギャーと煩い奴らだ。


「何とでも言え。前言は撤回しない。ここで謝らないのなら、抗議文を送る」


 エスペーシ派閥の中で一番前で俺と事を構えていた少年の拳がプルプルと震え出し、俺の抗議に耐えられなくなったのか、その拳を振り上げる。


「止めろ」


 その次の瞬間には、拳を振り上げた少年に対して、グーシーの長剣が、アーネスシスの二本の隠しナイフが、ブルブルの魔導拳銃が、少年の動きを制止させていた。


「動くなよ。指一本でも動かしてみろ、どうなるか分かるな?」


 グーシーの言葉だけが車両内を流れる。三人の殺気混じりの魔力がこの一般車両を埋め尽くし、エスペーシ派閥の面々は、武器を突き付けられた少年だけでなく、その場にいる全員が、震え上がって固まっている。うん、俺もちょっと怖いくらいだ。


「何事だ?」


 そんなただならぬ雰囲気の車両に、食堂車から戻ってきたエスペーシと、その取り巻きたちが眉をひそめる。


「お、俺たちがいつも通りに和気藹々としていたら、あ、あいつらがいきなり武器で襲ってきたんです!」


 エスペーシ派閥の少年の一人が、自分たちは悪くない。と言わんばかりの言動で、エスペーシに事態の収拾を求める。それを一瞥してから、俺へ視線を向けるエスペーシ。


「本当か?」


あれ・・をいつも通りと言うなら、本当なんだろうな」


 肩を竦ませ嘆息する俺の側では、まだ三人が少年に武器を向けている。


「それで武器で攻撃してくるだと!? ふざけるなよ!」


 取り巻きの一人の少年が声を荒げる。


「ふざけているのはどっちだ! フェイルーラ様を嘲笑しやがって!」


 こちらの派閥の者たちからも抗議が上がる。これを聞いて頭を横に振るうエスペーシ。


「そんな事をしたのか?」


 エスペーシは、始めにエスペーシに事態収拾を求めた少年へ尋ねる。これに目を泳がせる少年。


「あ、え、いや、悪気があった訳では……」


 エスペーシを直視出来ず、少年はどもるが、悪口と言うものは、悪気がなければ出てこないものだ。


「フェイルーラ、済まなかったな」


 自然と謝罪の言葉を口にするエスペーシの姿に、自責の念でも湧いたのだろう。エスペーシ派閥の面々は見る見るうちにその顔色を悪くしていく。が、俺の論点はそこじゃない。


「俺の事は良い。ただ、俺の派閥の者たちを侮辱した事は、この場でこいつらに謝罪させてくれ。でなければ、俺はこいつらの親へ、抗議文を送らないと、俺に付いてくれたこいつらに申し訳が立たない」


 これにその綺麗な顔を渋面に変えるエスペーシ。エスペーシ派閥の者たちも、もう真っ青だ。


「おい」


『は、はい! 済みませんでした!』


 エスペーシが一言命令すれば、派閥全員が謝罪を述べる。それはうちの派閥に対する謝罪と言うよりも、エスペーシへ対する謝罪である事は火を見るよりも明らかだったが、ここで俺が更に追及するように我儘を通すのも、派閥間の溝を更に深く、ヴァストドラゴン領としての団結を脆くする。


「三人とも、武器を収めろ」


 俺の言葉に従うように、三人が各々の武器を仕舞う。


「エスペーシ、俺の方も悪かったな。これ以上は事を荒立てるつもりもない。つまり、そちらが何をすべきか、分かるな?」


「ああ、こちらもそうだ。魔法学校に行けば、他領の者たちとも席を横にして勉学に励まなければならない。馬鹿な讒言ざんげんや誹謗中傷など行わないよう、言い聞かせておこう」


「お互い、つまらない事に労力を割きたくないからな」


「同感だ」


 その後、エスペーシ派閥は全員エスペーシ派閥に割り当てられた寝台車へ引っ込み、エスペーシに何と言われたのか知らないが、以後、スンとなってこちらにちょっかい掛けてくる事はなくなった。

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