SPIRITS TIMES ARMS

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合流/同行

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「さ、それなら移動しましょうか。ここでこれ以上迷惑掛けたら、出禁にされてしまいますからね。そうなったら、王家に貸しを作る事になりますから。それは本意じゃないでしょう?」


 手を叩きながら撤収を指示すれば、ジュウベエ君とマドカ嬢も武器と警戒心を収めてくれる。ふう。こんなところでやり合って店を滅茶苦茶にして、王家に貸しを作るとか、馬鹿過ぎるもんね。


「ジュウベエ君たちは、この店には、どのような手段で来たんですか?」


 階段を下りながら、ジュウベエ君に尋ねる。俺たちみたいにバスかな? それとも俺たちよりも人数が少ないから専用車?


「路面列車と歩きだが?」


「はい?」


 思わず変な声が出てしまった。


「弟が、街を見て回りたいからって」


 後ろから付いてくるマドカ嬢も、別にそれを不思議に思っていないような発言だ。


「だ、大胆ですね」


「そうか?」


 着物の集団がこの王都を歩き回っていたのは、かなり目立っていたと思うが、奇異な視線は気にならないたちなのかな。


「まあ、なら、我々はバス移動なので、我々のバスに合流して貰えますか?」


「おう。良いぞ」


「お世話になります」


 そんな訳で、ニドゥーク組もバス移動となった。


 ✕✕✕✕✕


「お騒がせして済みませんでした」


「ええ!? いえいえいえ! そんな滅相もない!」


 一階で店長さんに詫びつつ、金一封で勘弁して貰おうと思ったら、凄く畏まられた。あれ? 領都では普通だったんだけど、こっちでは違うのかな? 王室御用達だし、変な噂が立ったら、信用問題だと思うんだけど?


「どうも、ありがとうございました。またのご利用、お待ちしています」


 わざわざ外まで店長さんが見送りに来てくれた。その笑顔の裏で何を考えているのか分からず、ちょっと怖いが、インシグニア嬢もここのチョコ菓子が好きなようだし、それなりの頻度で取り寄せる事になるのは、目に見えているんだよなあ。


「ではまた」


 軽く挨拶して、俺待ちだったバスの方へ移動する。


「済みません、お待たせしましたか?」


「いえいえ、そんな事は」


 バスの運転席からチョコレートの匂いが漂っているので、差し入れのチョコ菓子を食べてくれたのだろう。


「行き先は部下から聞いていると思いますけど……」


「了解しています」


 ちゃんと伝わっているようで何より。


「止まるなよ」


「はいはい」


 俺の後ろから、ジュウベエ君が先を促す。確かにここで立ち話は邪魔だよなあ。と俺はバスの中を最後尾二つ手前の席まで進む。


「お? 最後尾開けてくれるの?」


「お好きにどうぞ」


 ジュウベエ君は最後尾の横長シートが好きみたいだけど、俺は後ろの窓から狙われそうで嫌なんだよねえ。ジュウベエ君は配下四人全員と最後尾だ。勿論ジュウベエ君が真ん中だ。


 俺が窓際に座ると、インシグニア嬢がその横に、そして通路を挟んでマドカ嬢が座る。これに苦笑いとなるインシグニア嬢の侍女二人。


「グーシー、ブルブル、前開けてあげて」


「はい」


 いつもなら俺の前はグーシーとブルブル、後ろをアーネスシスが押さえるが、ここは臨機応変で。グーシーがアーネスシスと後ろに座り、ブルブルはマドカ嬢の横に座らせて貰った。


「あのデカい塔で戦闘か。ふふふ、今からワクワクするぜ!」


 最後尾のジュウベエ君はそんな事を口にしているが、


「これから私たちが行くのは楽器店だよ」


「はあっ!?」


 俺が行き先を説明すると、最後尾から奇声が聞こえてきた。


「インシグニア嬢の要望でね。先にそちらに向かうから」


「何だと!?」


「黙りなさい」


 後ろからジュウベエ君の怒声に近い声が響くも、マドカ嬢が黙らせる。インシグニア嬢が楽器店に行く。それだけでマドカ嬢からしたら垂涎ものなのだろう。


「では、発車致します」


 運転手から声が掛かり、バスがゆっくりと動き出した。


「じゃあ、先に対策問題集渡しておくね。グーシー、アーネスシス」


 ゆっくり動くバスの中で、グーシーが前列のインシグニア嬢の侍女の下へ、アーネスシスが最後尾に移動して、対策問題集をそれぞれに渡す。前後からパラパラと紙をめくる音が聞こえ、


「た、単位が違う!」


 すぐにジュウベエ君が悲鳴を上げた。


「ああ、度量衡? そうだね。この国では長さはメータ、重さはグランが基本だからねえ」


「魔法陣の設問の解にもろ影響するじゃねえか!」


 そうだねえ。正確な魔法陣でなければ、魔法は発動しないからねえ。魔法は、基本的に個人の魔力依存の第一魔法と、魔法陣や詠唱による第二魔法に分類される。守護精霊を使役しての魔法は、第一魔法の分類だ。


「おい、この国の歴史とか知らんぞ」


「ああ、確か留学生は歴史の問題は免除だったはず」


「本当か?」


「本格的な奴はねえ。流石にこの国の現在の国王の名前とか、制度なんかは頭に入れておいた方が良いと思うけど」


「…………おお」


 さっきまで勝負が出来るってワクワクしていたのに、最後尾が押し黙っちゃったな。まあ、静かなのは嫌いじゃないが。


 ✕✕✕✕✕


『おお!』


「い、いらっしゃいませ!」


 ところ狭しと様々な楽器が並ぶ店内に入るなり、インシグニア嬢に気付いた店長らしきふくよかな男性が、慌ててこちらにやって来た。


「突然訪れて、お邪魔じゃありませんでしたか?」


「そんなそんな! インシグニア様のご来店なら、いつでも大歓迎ですよ!」


 手揉みしながらニコニコな店長。畏まってはいるが、本当に嬉しいのであろう事が窺える。そんな店長がニコニコと細くなった目を、一瞬俺に向けた。その視線は俺を値踏みするようだ。


「初めまして。今度改めてインシグニア嬢の婚約者となりました、フェイルーラ・ヴァストドラゴンと申します」


「あ、はい」


 俺に対してもニコニコしているが、目の奥が笑ってないな、これ。


「どうやらもう、私たちの噂は出回っているようですね。流石は商売人。情報にさとい」


 俺が笑顔を返すと、ギクッとしたような態度となるが、それも一瞬の事で、すぐにニコニコ笑顔に戻った。商売人の胆力恐るべし。


「店長さん、注文していたエラト、もう出来ていると聞いて来たのですが?」


「はい。今ご用意しますので、座ってお待ち下さい」


 店長はそう返すと、インシグニア嬢に椅子を勧め、すぐに店の奥へと引っ込んでいった。インシグニア嬢には本当の笑顔なんだよなあ。


「ジュウベエ君たちは何か楽器できるの?」


「は? まあ、三味線なら?」


 シャミセン? 聞いた事ない楽器名だ。


「あれですよ」


 俺が首を傾げていると、マドカ嬢が壁に飾ってあった現物を指差して教えてくれた。弦三本の弦楽器か。しかし流石は王都だな。異国の楽器も売られているのか。


「何でそんな事聞くんだよ?」


 怪訝な声で聞き返すジュウベエ君。


「受験に礼儀作法もあるからね。その時に、楽器や歌、ダンスなんかが出来ると、加点が入るんだよ」


「何だよその仕組み?」


「私に言われてもねえ。この国の社交場では、伝統的に音楽が尊ばれているんだ」


「まあ、音楽があった方が宴会が盛り上がるのは分かるが」


 まあねえ。貴族の受験生になると必須項目なのがネックだよなあ。魔法学校でも必須授業らしいけれど。


「お待たせ致しました」


 然程待たず、店長がケースを大事そうに抱えながら奥から戻ってきた。そして対面出来る程度のちょっとしたスペースのテーブルにそれを置くと、ケースを開ける。


 中から現れたのは、表面に見事な螺鈿細工で意匠を施された、弦のエラトだ。


「うわあ……」


 思わず変な声が出て、ちらちら俺に視線が集まる中、インシグニア嬢の視線はその八弦のエラトに釘付けで、目がとっても輝いている。


「琵琶に似ているな」


 ジュウベエ君がぼそりとそんな事を口にする中、


「早速弾かせて頂いても、宜しいでしょうか?」


 インシグニア嬢からの言葉に、店長は飛び上がりそうな程喜びの顔で何度も頷き、その横ではマドカ嬢が口に手を当てて、「こんな場所でインシグニア様の生演奏!?」って心の声が漏れている。


「フェイルーラ様も、ご一緒なさいませんか?」


「ふえっ!?」


 インシグニア嬢からの思わぬ提言に、声が裏返る。そして店長とマドカ嬢の怪訝な顔。うん。お前がデュエット? ってなるよねえ。インシグニア嬢の顔から、本心なのは分かるが、流石にこれだけの人数を前に、『歌姫』とデュエットは……、


「……今は、遠慮させて貰おう、かな?」


 我ながら声を絞り出して、わざとらしく目を反らしてしまった。あ、あっちにオルガンがある。あんなに小型に出来るのか? 領都の聖堂のオルガンを思い出すなあ。

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