SPIRITS TIMES ARMS

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WINNER!!

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 散弾の雨がバトルフィールドに降り注ぐ。しかしジュウベエは動かない。これだけ広範囲に魔弾と音が降ってきては、電解質輸液による神経伝達も、音による反響定位も意味をなさない。だからと言って、座して待つだけでは、フェイルーラの魔弾によって、自動展開する高振動結界を無駄に使わされて、魔力切れで闘えなくなる。


 こんな結末は許せない!


 それがジュウベエの偽りなき想いであった。こんなにも心躍る決闘の結末が、こんな物量攻撃による魔力切れなんて言う情けない結末であって良いはずがない。それならば、


(それならば、一矢報いるのみ!!)


 散弾の雨の中、フェイルーラが狙いを定めてジュウベエを撃とうとした刹那、ジュウベエが舞を踊り出した。


(またナルトランブか!)


 あれ程潤沢だったジュウベエの魔力も相当消費している中、大技である鳴門乱舞を放つのは賭けだ。それでも散弾の中で的になるくらいなら、残りの魔力を使って、攻撃してこようと言う算段と考えたフェイルーラは、まだ散弾の予備がある事を脳内で確認し、これを凌いで、また散弾の雨を降らせれば良い。と銃剣先をフィールドに突き刺す。


 が、フェイルーラは否が応でも今度の鳴門乱舞が、先程の技と若干違う事に気付かされた。味が違ったのだ。


 先程の鳴門乱舞は電解質輸液であり、口に入ったところで、水分補給になる程度の塩分濃度だったが、今度のそれは正しく海水だった。口や鼻から入ってくる塩分濃度の濃い海水は、塩っぱいと言うよりも、最早苦かった。


 この違いに、鳴門乱舞でフィールド外に流されないようにガンブレードにしがみつきながら、フェイルーラは眉をしかめる。理由が分からなかったからだ。この鳴門乱舞が本来の鳴門乱舞なのだろうが、塩分濃度を変えたからと言って、技に違いが生まれるとは思えなかったからだ。


 事実、フェイルーラは流される事なく耐えきった。眼前では大量に魔力を使用したジュウベエが肩で息をしている。立っているのもやっとなのか、二刀をフィールドに刺して堪えていた。明らかに魔力の使い過ぎだ。一発逆転を図ったのかも知れないが、そんなヤケクソがフェイルーラに通用する訳がなかった。


(これが結末か)


 フェイルーラとしても、残念な気持ちになりながら、ガンブレードを動かそうとして、身体が動かない事に気付いた。何事か!? と自分の身体を見れば、白い物でところどころ固まっている。


「……塩固勢衰えんこせいすい。海水内の塩を凝固させた。これでもう動けねえよなあ?」


(やられた!)


 フェイルーラは歯ぎしりする。凝固した塩、例えば岩塩などは鉱物としては柔らかい部類だが、鳴門乱舞の潮流に耐える為に、体力魔力を使い切ったフェイルーラには、この攻撃は覿面てきめんだった。ジュウベエもかなりの消耗を強いられたが、それでもこれを食らわせたのは大きい。


 フェイルーラの身体が動けない中、フェイルーラの姿を視認したジュウベエが、ピチャンピチャンと、もう荒波祭囃子の水も引いたバトルフィールドを、まるで幽鬼の如くゆらゆらと身体を引き摺りながらフェイルーラへ近付いていく。


 ピチャンピチャンとフェイルーラの前まで来たジュウベエは、フェイルーラにトドメを刺そうと、二刀を重怠そうに振り上げた。


「これで……、終わりだ!!」


 ガアアンッ!! 銃声が鳴り響く。しかし身体のところどころが塩で固められたフェイルーラに、ジュウベエに狙いを定めて銃を撃つ事など出来るはずがなかった。


(無駄な悪足掻きを……)


 そんな考えがジュウベエの頭を過ぎり、そして、


(そんなはずない!)


 と警戒心が働いたが、もう遅かった。ジュウベエの眼前にいたはずのフェイルーラの姿が、今の一瞬で消えていたからだ。


 ゾッとして、振り向きざまにフェイルーラの斬撃を受け止められたのは、ただの幸運だった。これまでも死角から攻撃してきたので、それに対応するように、身体が反射的に動いただけだった。


「ぐぐっ!!」


「はあっ!!」


 これまでの攻撃よりも数倍強力な斬撃にジュウベエが押し込まれる。自動発動の高振動結界が何度も壊れながら、バトルフィールドの端まで追い詰められながらも、意地で何とか堪えるジュウベエ。


「どう言う理屈だ!? ここに来て出鱈目に強くなりやがって!」


「セレクターが剣と銃だけだと誰が言った?」


 これだけでジュウベエは理解した。魔弾を使って身体強化をしたのだと。あの魔弾にはフェイルーラの五倍の魔力が込められている。それならばフェイルーラがいきなり強くなったのも合点がいく。


「だああ!! こんな土壇場でそんな奥の手使いやがって!!」


「良いからさっさと場外に消えてくれ!!」


 強くなったと言うのに、ジュウベエにはフェイルーラに余裕がないように見えた。きっと何かしらデメリットがあるから今まで使わなかったのだろう。と確信めいたものを感じ取ったジュウベエは、あと半歩でバトルフィールドから押し出されると言う立ち位置で、何とか踏ん張って堪える。


 そしてそれは当たりだった。強引にジュウベエを場外へ押し出そうとしていたフェイルーラから、フッと力が抜ける。


(時間制限付きか)


 そう思った次の瞬間、吐血してその場に崩折れるフェイルーラ。思えば当然の話だった。自身の五倍の魔力で身体を動かすのだ。それまでも身体を酷使してきたフェイルーラの身体が持ち堪えられるはずがなかったのだ。


 ジュウベエが足下にいるフェイルーラを蹴飛ばすと、思いの外軽い感触で、バトルフィールドの端から端まで転がっていく。


(最後は呆気ないものだったな)


 フェイルーラの自滅。それでも自分の十分の一以下の魔力しか持たない少年が、ここまで自分を追い詰めたのだ。ジュウベエは心の中でフェイルーラを称賛した。何なら勝った後でもフェイルーラの寮に入りたいくらいには、フェイルーラを認めていた。だが今はまだ戦闘中だ。


「さあ、この決闘も終わりとしよう」


 じりじりと、重い身体を引き摺るように、フェイルーラへ近付いていくジュウベエ。


「そうだな」


 対してフェイルーラは、ガンブレードに寄り掛かるようにして、どうにか上半身だけ起き上がる。が、それに対してジュウベエは足を止めた。フェイルーラの瞳が、まだ勝ちを諦めていなかったからだ。


(まだ、逆転の目があるのか!? いや、あいつは奥の手まで使い切った。あれはハッタリだ!)


 そう思い込もうとしても、足が動かない。今まで見せられてきたフェイルーラの技の数々が、ジュウベエにフェイルーラに近付く事を拒否させた。


「そんなところで棒立ちしていて良いのかい?」


 フェイルーラの声に、素早くその場で二刀を前に構えるジュウベエ。


「何かあるってのか?」


「ジュウベエ君、俺がこの決闘で、何発の魔弾を使ったか覚えている?」


「…………いや、正確な数なんて覚えていないな」


「俺もさ。それだけ魔弾を奮発した。……魔弾の薬莢ってさ、消耗品なんだ。満タンに魔力を込めても、その100%を魔弾として発射出来る訳じゃない。高品質なものでも、1~5%の魔力が残る。何度も使えば更に蓄積していき、残存魔力が三割を超えれば廃棄処分だ」


 何を言っているんだ? 時間稼ぎか? フェイルーラの真意が分からず、困惑するジュウベエを置いてきぼりにするように、フェイルーラは話を続ける。


「じゃあ、使い物にならなくなった魔弾の薬莢は、どうやって処分すると思う?」


「はあ? …………!」


 ここに来てジュウベエは理解した。このバトルフィールド全体に無数の魔弾の薬莢が転がっている事に。そして自分がバトルフィールドの真ん中に立っている事に。そして、薬莢の処分方法に。


「爆破処理だあッ!!」


 フェイルーラが、一番近くにあった薬莢に斬撃を与えると、その薬莢が輝きを放ち、それに連動するように、バトルフィールド中の薬莢が輝き出す。


 刹那、バトルフィールドは閃光に包まれ、それに遅れて、まるで地震でも起きたかのような振動とともに爆音が轟いた。


 グループ席でその光景を見ていたインシグニアたちは、会場全体を真っ白に包む程の閃光に目をやられ、どうにか視力が戻ったところで、バトルフィールドの状況を確認すると、バトルフィールド中央で、ジュウベエの鳩尾みぞおちに、フェイルーラのガンブレードが上向きに突き刺さっていた。フェイルーラの服と身体がところどころ焼け焦げている事から、あの爆発の中、フェイルーラが特攻した事が察せられた。


「ああ……、お見事。てめえの勝ちだ、フェイルーラ」


 ジュウベエが二刀を力なく下ろす中、フェイルーラがガンブレードを左斜め上へと振り切った。


『WINNER!! フェイルーラ・ヴァストドラゴン』


 グループ席の画面にフェイルーラが勝った事を証明するように、そんな文言がデカデカと映し出された。

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