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感覚と頭脳
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「あり得ねえ……」
そんな言葉が思わず口を吐く。理解の外の存在に、一瞬ボーッとなったジュウベエの隙を見逃す程、フェイルーラは甘くない。
一瞬で間合いを詰め、ジュウベエに斬撃を与えようとするが、それより刹那にジュウベエは理性を取り戻し、この斬撃に対処する。しかし体勢が悪かったのか、竜の武威の衝撃で、十メータ程弾き飛ばされたが。
「そんな事していたら、身体がぶっ壊れるぞ!」
フェイルーラを警戒しつつ、疑問をぶつけるジュウベエへの返答は、簡潔なものだった。
「殺し合いだぜ? 死ななきゃ勝ちだろ?」
死ななければ勝ち。確かに理屈はそうだが、それだけで気絶しそうな激痛に平然と耐えながら戦闘が出来る人間が、この世界に何人いる? いや、何人と言う次元ではない。眼前のフェイルーラ以外に、恐らく存在さえしない。これを認識して、ジュウベエの背筋を冷たいものが流れる。
(おかしい)
対して、フェイルーラは冷静に状況を分析していた。絶えず死角に移動する事でジュウベエからの攻撃を回避しているフェイルーラであったが、アドバンテージがあるにしても、未だジュウベエには一撃も与えられていない。速度で上回るフェイルーラに対して、ジュウベエの回避能力が高いのだ。移動の時にほぼ魔力がゼロになるフェイルーラを、ジュウベエは魔力感知以外の何かを使って、確実に捕捉し、後の先で躱され続けている。
(それでも斬撃よりも銃撃の方が躱し難そうなのは何故だ?)
そこにジュウベエの回避能力の絡繰があるとフェイルーラは考えていた。ズキズキと言うよりもピシンピシンと、一瞬でも気を抜けば身体と脳が自壊するような悲鳴を上げる中、ジュウベエの回避能力の絡繰を考える作業は、フェイルーラに更に負荷を加えるが、それでもその絡繰が分からなければ、フェイルーラに勝ち目はなかった。
フェイルーラは魔力量のほぼ全てを一度に使える。しかし上限は変わらない。ジュウベエとフェイルーラでは、上限に十二倍の差がある。それはジュウベエがその気になれば、十二倍とは言わずとも、その半分、フェイルーラの六倍の魔力量を一度に使えると言う事を意味する。そんな事をされれば、この状況は一瞬で逆転される。そんな大技を繰り出されるまでに、フェイルーラはジュウベエの絡繰を解き明かさねばならなかった。
(斬撃よりも銃撃への対処が一瞬だけ遅いのは何故だ? 銃撃が音速を超えるからか? いや、ジュウベエ君は俺が死角から攻撃するのに合わせて、すぐに構えを取る。分からないのは、それが斬撃なのか銃撃なのかと言う部分だ。まあ、死角からの攻撃なのだから当然と言えば当然だが、それにしてはその後の対処が早い)
斬撃、銃撃、斬撃、銃撃、と反時計回りに移動しながら攻撃を続けるフェイルーラ。
(銃撃への対処が遅いと言うよりも、斬撃への対処が早過ぎるのか)
繰り返し攻撃を続ける事で、何となく理解出来てきた。フェイルーラが死角に立ったところでは、ジュウベエの構えは斬撃と銃撃どちらにも対処可能な構えのままだが、斬撃の為に一歩ジュウベエに近付いた時点で、ジュウベエは直ぐ様斬撃への対処に切り替わる。それは早過ぎる。死角からの攻撃を、勘ではなく、何かしらの方法で確実に見分けている事が窺えた。
(音か? まつりちゃんは高振動を起こす。となると、鳴子と鈴による反響定位で、斬撃と銃撃を聴き分けていると考えられる。……それでも更に早い気がする)
何かを見落としている。フェイルーラはそのような違和感が拭えずにいた。恐らく反響定位は確実に使っているだろう。しかしそれだけではなく、他に何かを使っている。それが分からず、フェイルーラは確実な一手が打てずにいた。
そんなどちらも決め手に欠けるまんじりとした時間が続き、後手に回されていたジュウベエの我慢が限界に達した。
「やってられるか! そっちがそれだけしているんだ! 俺様だって、後の事を考えて動くのは止めだ! 唸れ! 鳴門乱舞!!」
「くっ!」
フェイルーラが注意していた大技が繰り出される。ジュウベエが舞うが如くくるりくるりと回転すると、ジュウベエを中心に波が渦を巻き始め、それがフェイルーラの背丈を超える高波となってフェイルーラを襲う。
これに流されれば場外敗けだ。フェイルーラに出来る事は、ガンブレードの銃剣先をフィールドに突き立て、それにしがみついて渦潮が過ぎ去るのを我慢する事だけだった。
「はあ……、はあ……、はあ……、くっ、残りやがったか」
ジュウベエは、ガンブレードにしがみついてこの渦潮を耐え抜いたフェイルーラを視界に収める。すぐにフェイルーラを追撃したいジュウベエだったが、大技を繰り出した後の魔力減少の倦怠感で、それも叶わない。フェイルーラとしても、この隙を突きたいところだが、先程の渦潮が堪えて、すぐに動く事が出来ずにいた。互いに睨み合う事しか出来ない時間が流れる。
そんな中でもフェイルーラの頭脳は働き続けていた。大水を浴びせられ、全身がびしょ濡れになった事で、口腔内にもその水が入ってきていた。その味に違和感を覚える。
(海水って思った程塩っぱくないんだな。…………いや、本当か? 靡く潮風のせいで、この場の水は海水だと思っていたが、もし違うとしたら? 海水に似た違う水……。生理食塩水? いや……)
「電解質輸液か!?」
珍しいフェイルーラの頓狂な大声に、目を丸くしてから、怪訝な視線を向けるジュウベエ。
「何だそりゃ?」
ジュウベエ自身が、自分が何を使っているのか理解していない事に、フェイルーラは思わず嘆息をこぼす。
「この水、初めは海水かと思っていたけど、実は海水よりも塩分濃度が低い水だね?」
「ほう? そこに気付いたのか。確かにな。海水も使えるが、扱うには塩っぱ過ぎるんでな。このくらいが使い易いんだ」
ジュウベエもこれは海水でないと認めた。
「理由はそれだけじゃないよね?」
「…………」
フェイルーラの指摘に黙り込むジュウベエ。
「この水は恐らく電解質輸液だ。ジュウベエ君はそれが何か知らないみたいだけど、要するに人間の体液にとても近い水だ。故に神経伝達を阻害しない。いや、神経伝達に寄与すると言った方が良い。つまりこのフィールドを覆う大量の水は、第一魔法により君の神経が張り巡らされているようなものだと推測出来る。だから、俺がどこにいるかが、この水を通して瞬時にジュウベエ君は察知出来るんだ」
勿論反響定位も同時併用する事で、相手の居場所の探知は更に正確となる。これなら斬撃と銃撃で反応に差が出るのも合点がいく。斬撃の為に大水の中を移動するなら、そちらの方が反応が良くなるのは道理だ。
「…………だったらどうした?」
ジュウベエとしてもバレたくはなかった。フェイルーラは情報を与えれば与える程、厄介になると、感覚で理解していたからだ。
「中々テクいね? でも、これなら、攻略法はなくはない」
「なくはない、か」
フェイルーラの発言に、苦々しい顔となるジュウベエ。それを見て、口角を上げるフェイルーラ。
渦潮を堪えるのに使っていた身体強化の魔力が回復したフェイルーラが走り出す。これまで同様、ジュウベエの死角となるように。ジュウベエも構える。緊張の糸がピンと張るのが自分でも分かる。攻略法を見付けたフェイルーラは、これまでの数倍厄介だ。と自分に言い聞かせながら。
しかしフェイルーラの動きに、これまでと違いが見えない。死角からの銃撃が、竜の咆哮を思わせる轟音とともにジュウベエを襲う。それはこれまでと変わらない、ルーティンのような攻撃。だからこれまでと同じように避けた。反響定位は轟音のせいで一瞬使えなくなるが、バトルフィールドを覆う大水からの神経伝達で、位置の特定には困らない。それが、フェイルーラの狙いであった。
ポチャン。そんな音が死角とは反対側、右目方向の水に反応を与えた。まさか今の一瞬でそこまで移動したのか!? と驚愕とともにジュウベエの視線がそちらへ誘導される。見た刹那、轟音とともに銃撃が死角より飛んできて、ジュウベエの頭に命中した。それはこれまでの両者の闘いで、鳴門乱舞と言う範囲攻撃を除けば、初めてのヒットであった。
銃撃を当てられたジュウベエの身体が、ボールのように弾かれて、大水の中をバチャバチャバウンドしながら、先程音がした辺りまで飛ばされた。
「……うぐっ」
それでも素早く体勢を立て直し、四つん這いでフェイルーラの方を見るジュウベエ。左こめかみから血が滴り、激痛で頭がガンガンするが、今はそんな事に気を取られている場合ではない。何が起こったのか、それを理解するのが先だ。
見れば、フェイルーラの左手には魔弾の薬莢が数個握られていた。それだけでジュウベエは理解した。そして周囲に視線を落とせば、一個の薬莢が沈んでいる。
フェイルーラがしたのはこうだ。轟音を鳴らす銃撃とともに薬莢を放り投げ、それが水に落ちるのと同時にもう一度銃撃を放っただけ。そう、それだけだ。それだけの事にジュウベエは気を取られ、攻撃の隙を与えてしまった。やはりフェイルーラに情報を渡すのは危険だと歯ぎしりするジュウベエ。
「はっ! そんな奇襲、今回限りだ! 俺を殺せなくて残念だったな!」
顎まで滴る血を拭いながら、ジュウベエは立ち上がる。ジュウベエはまつりの高振動により、攻撃が当たったら自動で高振動結界を発動する。しかしこれは発動する度に、攻撃の強さに拘らず一定の魔力を消費するので、攻撃を受け続けるのは悪手だ。なのでこのような攻撃は、今後受ける訳にはいかない。しかしフェイルーラは不適な笑みを崩さない。その姿勢が、まだ何かある。とジュウベエに警戒心を持たせる。
だが、今のフェイルーラは視界の中だ。これは攻撃の好機でもある。ジュウベエがフェイルーラへ向かって駆け出そうとした瞬間、フェイルーラは銃口を上に向けて、魔弾を射出した。これに警戒するように立ち止まるジュウベエだったが、その銃声は、これまでよりも軽い。それでも銃声なので耳に響くが。
何故ここで上に向かって魔弾を放ったのかジュウベエが理解出来ないうちに、フェイルーラは続け様に五発魔弾を上空へ撃ち上げた。何かあると確信してちらりと上を見上げて、ジュウベエの動きが固まる。バトルフィールドの上空が、キラキラした魔弾で埋められていたからだ。
(散弾か!)
いつの間にか魔弾の種類を竜の武威から散弾に変えていたフェイルーラは、時差を作りながらその散弾を上空に撃ち上げていた。そして素早くジュウベエの死角に移動する。散弾の弾が大水に着水すれば、それは即座にジュウベエにその位置を知らせる。幾つもの位置情報がジュウベエを襲い、フェイルーラの位置と散弾の位置を判別するのは困難になる。ジュウベエの情報処理能力に対する、これ以上ない攻撃だった。
フェイルーラとジュウベエの決闘は、終盤を迎える。
そんな言葉が思わず口を吐く。理解の外の存在に、一瞬ボーッとなったジュウベエの隙を見逃す程、フェイルーラは甘くない。
一瞬で間合いを詰め、ジュウベエに斬撃を与えようとするが、それより刹那にジュウベエは理性を取り戻し、この斬撃に対処する。しかし体勢が悪かったのか、竜の武威の衝撃で、十メータ程弾き飛ばされたが。
「そんな事していたら、身体がぶっ壊れるぞ!」
フェイルーラを警戒しつつ、疑問をぶつけるジュウベエへの返答は、簡潔なものだった。
「殺し合いだぜ? 死ななきゃ勝ちだろ?」
死ななければ勝ち。確かに理屈はそうだが、それだけで気絶しそうな激痛に平然と耐えながら戦闘が出来る人間が、この世界に何人いる? いや、何人と言う次元ではない。眼前のフェイルーラ以外に、恐らく存在さえしない。これを認識して、ジュウベエの背筋を冷たいものが流れる。
(おかしい)
対して、フェイルーラは冷静に状況を分析していた。絶えず死角に移動する事でジュウベエからの攻撃を回避しているフェイルーラであったが、アドバンテージがあるにしても、未だジュウベエには一撃も与えられていない。速度で上回るフェイルーラに対して、ジュウベエの回避能力が高いのだ。移動の時にほぼ魔力がゼロになるフェイルーラを、ジュウベエは魔力感知以外の何かを使って、確実に捕捉し、後の先で躱され続けている。
(それでも斬撃よりも銃撃の方が躱し難そうなのは何故だ?)
そこにジュウベエの回避能力の絡繰があるとフェイルーラは考えていた。ズキズキと言うよりもピシンピシンと、一瞬でも気を抜けば身体と脳が自壊するような悲鳴を上げる中、ジュウベエの回避能力の絡繰を考える作業は、フェイルーラに更に負荷を加えるが、それでもその絡繰が分からなければ、フェイルーラに勝ち目はなかった。
フェイルーラは魔力量のほぼ全てを一度に使える。しかし上限は変わらない。ジュウベエとフェイルーラでは、上限に十二倍の差がある。それはジュウベエがその気になれば、十二倍とは言わずとも、その半分、フェイルーラの六倍の魔力量を一度に使えると言う事を意味する。そんな事をされれば、この状況は一瞬で逆転される。そんな大技を繰り出されるまでに、フェイルーラはジュウベエの絡繰を解き明かさねばならなかった。
(斬撃よりも銃撃への対処が一瞬だけ遅いのは何故だ? 銃撃が音速を超えるからか? いや、ジュウベエ君は俺が死角から攻撃するのに合わせて、すぐに構えを取る。分からないのは、それが斬撃なのか銃撃なのかと言う部分だ。まあ、死角からの攻撃なのだから当然と言えば当然だが、それにしてはその後の対処が早い)
斬撃、銃撃、斬撃、銃撃、と反時計回りに移動しながら攻撃を続けるフェイルーラ。
(銃撃への対処が遅いと言うよりも、斬撃への対処が早過ぎるのか)
繰り返し攻撃を続ける事で、何となく理解出来てきた。フェイルーラが死角に立ったところでは、ジュウベエの構えは斬撃と銃撃どちらにも対処可能な構えのままだが、斬撃の為に一歩ジュウベエに近付いた時点で、ジュウベエは直ぐ様斬撃への対処に切り替わる。それは早過ぎる。死角からの攻撃を、勘ではなく、何かしらの方法で確実に見分けている事が窺えた。
(音か? まつりちゃんは高振動を起こす。となると、鳴子と鈴による反響定位で、斬撃と銃撃を聴き分けていると考えられる。……それでも更に早い気がする)
何かを見落としている。フェイルーラはそのような違和感が拭えずにいた。恐らく反響定位は確実に使っているだろう。しかしそれだけではなく、他に何かを使っている。それが分からず、フェイルーラは確実な一手が打てずにいた。
そんなどちらも決め手に欠けるまんじりとした時間が続き、後手に回されていたジュウベエの我慢が限界に達した。
「やってられるか! そっちがそれだけしているんだ! 俺様だって、後の事を考えて動くのは止めだ! 唸れ! 鳴門乱舞!!」
「くっ!」
フェイルーラが注意していた大技が繰り出される。ジュウベエが舞うが如くくるりくるりと回転すると、ジュウベエを中心に波が渦を巻き始め、それがフェイルーラの背丈を超える高波となってフェイルーラを襲う。
これに流されれば場外敗けだ。フェイルーラに出来る事は、ガンブレードの銃剣先をフィールドに突き立て、それにしがみついて渦潮が過ぎ去るのを我慢する事だけだった。
「はあ……、はあ……、はあ……、くっ、残りやがったか」
ジュウベエは、ガンブレードにしがみついてこの渦潮を耐え抜いたフェイルーラを視界に収める。すぐにフェイルーラを追撃したいジュウベエだったが、大技を繰り出した後の魔力減少の倦怠感で、それも叶わない。フェイルーラとしても、この隙を突きたいところだが、先程の渦潮が堪えて、すぐに動く事が出来ずにいた。互いに睨み合う事しか出来ない時間が流れる。
そんな中でもフェイルーラの頭脳は働き続けていた。大水を浴びせられ、全身がびしょ濡れになった事で、口腔内にもその水が入ってきていた。その味に違和感を覚える。
(海水って思った程塩っぱくないんだな。…………いや、本当か? 靡く潮風のせいで、この場の水は海水だと思っていたが、もし違うとしたら? 海水に似た違う水……。生理食塩水? いや……)
「電解質輸液か!?」
珍しいフェイルーラの頓狂な大声に、目を丸くしてから、怪訝な視線を向けるジュウベエ。
「何だそりゃ?」
ジュウベエ自身が、自分が何を使っているのか理解していない事に、フェイルーラは思わず嘆息をこぼす。
「この水、初めは海水かと思っていたけど、実は海水よりも塩分濃度が低い水だね?」
「ほう? そこに気付いたのか。確かにな。海水も使えるが、扱うには塩っぱ過ぎるんでな。このくらいが使い易いんだ」
ジュウベエもこれは海水でないと認めた。
「理由はそれだけじゃないよね?」
「…………」
フェイルーラの指摘に黙り込むジュウベエ。
「この水は恐らく電解質輸液だ。ジュウベエ君はそれが何か知らないみたいだけど、要するに人間の体液にとても近い水だ。故に神経伝達を阻害しない。いや、神経伝達に寄与すると言った方が良い。つまりこのフィールドを覆う大量の水は、第一魔法により君の神経が張り巡らされているようなものだと推測出来る。だから、俺がどこにいるかが、この水を通して瞬時にジュウベエ君は察知出来るんだ」
勿論反響定位も同時併用する事で、相手の居場所の探知は更に正確となる。これなら斬撃と銃撃で反応に差が出るのも合点がいく。斬撃の為に大水の中を移動するなら、そちらの方が反応が良くなるのは道理だ。
「…………だったらどうした?」
ジュウベエとしてもバレたくはなかった。フェイルーラは情報を与えれば与える程、厄介になると、感覚で理解していたからだ。
「中々テクいね? でも、これなら、攻略法はなくはない」
「なくはない、か」
フェイルーラの発言に、苦々しい顔となるジュウベエ。それを見て、口角を上げるフェイルーラ。
渦潮を堪えるのに使っていた身体強化の魔力が回復したフェイルーラが走り出す。これまで同様、ジュウベエの死角となるように。ジュウベエも構える。緊張の糸がピンと張るのが自分でも分かる。攻略法を見付けたフェイルーラは、これまでの数倍厄介だ。と自分に言い聞かせながら。
しかしフェイルーラの動きに、これまでと違いが見えない。死角からの銃撃が、竜の咆哮を思わせる轟音とともにジュウベエを襲う。それはこれまでと変わらない、ルーティンのような攻撃。だからこれまでと同じように避けた。反響定位は轟音のせいで一瞬使えなくなるが、バトルフィールドを覆う大水からの神経伝達で、位置の特定には困らない。それが、フェイルーラの狙いであった。
ポチャン。そんな音が死角とは反対側、右目方向の水に反応を与えた。まさか今の一瞬でそこまで移動したのか!? と驚愕とともにジュウベエの視線がそちらへ誘導される。見た刹那、轟音とともに銃撃が死角より飛んできて、ジュウベエの頭に命中した。それはこれまでの両者の闘いで、鳴門乱舞と言う範囲攻撃を除けば、初めてのヒットであった。
銃撃を当てられたジュウベエの身体が、ボールのように弾かれて、大水の中をバチャバチャバウンドしながら、先程音がした辺りまで飛ばされた。
「……うぐっ」
それでも素早く体勢を立て直し、四つん這いでフェイルーラの方を見るジュウベエ。左こめかみから血が滴り、激痛で頭がガンガンするが、今はそんな事に気を取られている場合ではない。何が起こったのか、それを理解するのが先だ。
見れば、フェイルーラの左手には魔弾の薬莢が数個握られていた。それだけでジュウベエは理解した。そして周囲に視線を落とせば、一個の薬莢が沈んでいる。
フェイルーラがしたのはこうだ。轟音を鳴らす銃撃とともに薬莢を放り投げ、それが水に落ちるのと同時にもう一度銃撃を放っただけ。そう、それだけだ。それだけの事にジュウベエは気を取られ、攻撃の隙を与えてしまった。やはりフェイルーラに情報を渡すのは危険だと歯ぎしりするジュウベエ。
「はっ! そんな奇襲、今回限りだ! 俺を殺せなくて残念だったな!」
顎まで滴る血を拭いながら、ジュウベエは立ち上がる。ジュウベエはまつりの高振動により、攻撃が当たったら自動で高振動結界を発動する。しかしこれは発動する度に、攻撃の強さに拘らず一定の魔力を消費するので、攻撃を受け続けるのは悪手だ。なのでこのような攻撃は、今後受ける訳にはいかない。しかしフェイルーラは不適な笑みを崩さない。その姿勢が、まだ何かある。とジュウベエに警戒心を持たせる。
だが、今のフェイルーラは視界の中だ。これは攻撃の好機でもある。ジュウベエがフェイルーラへ向かって駆け出そうとした瞬間、フェイルーラは銃口を上に向けて、魔弾を射出した。これに警戒するように立ち止まるジュウベエだったが、その銃声は、これまでよりも軽い。それでも銃声なので耳に響くが。
何故ここで上に向かって魔弾を放ったのかジュウベエが理解出来ないうちに、フェイルーラは続け様に五発魔弾を上空へ撃ち上げた。何かあると確信してちらりと上を見上げて、ジュウベエの動きが固まる。バトルフィールドの上空が、キラキラした魔弾で埋められていたからだ。
(散弾か!)
いつの間にか魔弾の種類を竜の武威から散弾に変えていたフェイルーラは、時差を作りながらその散弾を上空に撃ち上げていた。そして素早くジュウベエの死角に移動する。散弾の弾が大水に着水すれば、それは即座にジュウベエにその位置を知らせる。幾つもの位置情報がジュウベエを襲い、フェイルーラの位置と散弾の位置を判別するのは困難になる。ジュウベエの情報処理能力に対する、これ以上ない攻撃だった。
フェイルーラとジュウベエの決闘は、終盤を迎える。
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