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やれる事をやるだけ
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(消えたッ!?)
ジュウベエの片目からはそのように映った。実際にはフェイルーラの速度が上がっただけだが、眼前から消えて見える程に、その速度は速いものであった。が、
「こっちだろ!」
死角となる眼帯を嵌めた左側からのフェイルーラの斬撃にきっちり対応して、身体を左へ向けるよりも早く、斬撃を二刀で受け止める。とは言え、その斬撃の威力に、数メータ後退させられる事になったが。
「お前は甘いと言うが、死角の左側からの攻撃に、俺様が対策していない訳ないだろうが!」
直ぐ様左側を向くが、フェイルーラの姿は既にそこにはなかった。そしてまた左の死角からの、今度は銃撃。これを辛うじてダッキングして躱すジュウベエ。そのまま左側を向くが、やはりフェイルーラの姿はない。
(速い!)
ジュウベエは心の中で舌打ちをする。左側からの攻撃には対処出来るが、相手の位置が絶えず死角にあっては、後手に回らずにはいられないからだ。これではいつまで経ってもフェイルーラに攻撃を当てられない。
結局のところは逆時計回りで動いているだけなので、それならと、時計回りに動いてもフェイルーラは上手く死角から外れないように立ち回る。
(あり得ない……!)
それがジュウベエの見解だった。恐らくフェイルーラが身体強化の魔法で速度を上げている事は理解出来るが、それにしてもその速度が速過ぎる。ジュウベエも既に身体強化を使っているが、それに対応しているのはあり得ない事だった。フェイルーラの魔力量は、ジュウベエと比して十分の一以下だ。つまりは身体強化に魔力を割いても、その速度向上はジュウベエの十分の一であるはずだからだ。そもそも荒波祭囃子で足場が悪い。
(いや、立ち回りからして、俺よりも速い。それはつまり、フェイルーラが俺様よりも身体強化に魔力を注いでいると言う事だが……)
あり得ない。インシグニアの感想もそれであった。俯瞰から見ていても、明らかにフェイルーラの方がジュウベエよりも素早く動いている。が、それはあり得ないのだ。
人間には、一度に使える魔力に限界がある。大量に魔力を使えば、その反動が身体にフィードバックされる。それは本人の魔力総量を基準として、半分までが戦闘で一度に使える魔力量と言うのが定説であり、インシグニア自身も魔法訓練で体験している。
つまりフェイルーラはその魔力総量の半分、ジュウベエの魔力総量の二十四分の一しか魔力を身体強化の魔法に使えないはず。対してジュウベエは十二分の一も使えば余裕でフェイルーラの速度を上回れるはずであった。
実際にはまつりによる二刀と、バトルフィールドを常時海化しているので、身体強化に割くリソースはもっと少なくなるが、それでもフェイルーラの速度を上回るのには充分なはずなのだ。それなのに、ジュウベエはフェイルーラの速度に翻弄されていた。
理解が及ばず、ポカーンと口が開いたままとなってしまうインシグニア。それはマドカやジュウベエ派閥の少年たちも同じだった。何が起きているのか、理解が及ばない。しかし、それよりも理解が及ばないものを、インシグニアたちは見せ付けられる事になる。
「インシグニア様、フェイルーラ様のマジックバーをご覧下さい」
インシグニアが混乱している事を察して、グーシーが後ろからインシグニアに声を掛ける。
(マジックバー?)
訳が分からないまま、インシグニアはグーシーの言う通りに画面上部のフェイルーラのマジックバーへ視線を向けると、とんでもない事になっていた。フェイルーラのマジックバーが、全損したり全回復したりを高速で繰り返していたからだ。表示の不具合かとも思ったが、その動きが、フェイルーラの動きと同調している事に気付き、インシグニアは戦慄した。
「嘘だろ!?」
インシグニアが声を上げるよりも早く、ジュウベエ派閥の少年の一人が、悲鳴に似た驚愕の声を上げる。インシグニアも同感だった。
魔力を使うと身体に反動が起こる。それは一度に半分、五割も使えば、身体は倦怠感を感じて重怠くなる。七割使えば身体に痺れが走る。九割ともなれば全身を激痛が駆け抜け、全て使えば気絶する。
だと言うのに、フェイルーラのマジックバーは、全損したり全回復したりを繰り返していた。あり得ない挙動だ。
「どうなっているんですか? 魔力を全て使ったら、気絶するのでは?」
「そうですね」
思わず口から転びでたインシグニアの言葉を、グーシーは肯定した。それがインシグニアを更に混乱させる。そんなグーシーに続いて、アーネスシスが説明を追加した。
「あれ、魔力全部使っている訳じゃないんですよ。良く見れば分かりますけど、気絶しないように、髪の毛一本分くらい残しているんです」
アーネスシスに言われて、再度フェイルーラのマジックバーを確認すると、高速で魔力が増減しているので分かり難いが、確かに、減った時もほんの少しだけ魔力が残っているようだと分かった。
「いやいや、だからって、理解出来ない事が二つあるんですけど!?」
そう声を上げたのはマドカだ。
「あの変な全損ギリギリから全回復する挙動と、全損ギリギリまで魔力を使っても普通に動けている事の説明が付きません!」
それは本当にそうだ。とインシグニアもジュウベエ派閥の少年たちも、グーシーたちの方へ視線を向ける。グーシーはこれに苦笑を漏らしながら、説明してくれた。
「フェイルーラ様の魔力が一度に全回復するのは、フェイルーラ様の日頃の努力の賜物です。元々魔力量が騎士貴族よりも少ないので、日々幾度となく魔力増量特訓を繰り返した結果、魔力量はほぼ増えませんでしたが、魔力の回復速度だけは、尋常じゃなくなったんです」
魔力増量特訓とは、魔力を限界ギリギリまで使う事で、その反動による超回復で、魔力量を増やす特訓だ。幼少の頃は魔力量が少なかった者でも、この特訓を繰り返す事で、それなりの魔力量増量が見込める。ただし個人の資質に寄るので、増えない者も当然いる。フェイルーラはそちら側であった。だが、それでも魔力増量特訓を繰り返した結果、魔力の回復速度だけが尋常じゃなくなったのだ。
インシグニアは己の魔力増量特訓を思い出す。身体に負担を掛けないように、徐々に魔力を使い続け、ほぼ魔力がなくなった身体は、数時間もすればほぼ全回復していた。
フェイルーラは元々の魔力量が少ない。そこへ十倍以上の魔力量が数時間で回復する、いやそれ以上の回復速度が備われば、そしてそれを使い熟せれば、フェイルーラの魔力量を一瞬で回復させられるようになるのも納得ではある。しかし、
「一度に大量の魔力を使った時の反動はどのように抑えているんですか? 魔法ですか? 薬ですか?」
そう。九割以上、恐らくは99%以上を一度に使えば、身体は激痛で動けなくなるはずだ。それはどのように対処しているのか。痛覚遮断系の薬を使用したようには見えなかったので、魔法だろうか? いや、フェイルーラなら、戦闘前に痛覚遮断系の薬や魔法を事前に仕込んでいた可能性がある。
「ああ、それですか」
これにはグーシーだけでなくフェイルーラ派閥全員が苦笑する。
「どう言う仕組みだそりゃ!?」
見えない影を追うように、ジュウベエが声を張る。どうやらジュウベエも、フェイルーラが何をしているのか気付いたらしい。グループ席の全員の視線がバトルフィールドに注がれる。
「どうって?」
「何で動ける!? 何で気絶しねえ!? それだけ一度に魔力を使えば、激痛で動けないはずだ! 脳天を突き抜けるような痛みで気絶するはずだ!」
不気味な見えない影に、正体を現せとジュウベエが吼える。
「…………はん。そんなの、ド根性で耐える以外に方法があるなら、こっちが知りたいね」
「はあっ!?」
フェイルーラの簡潔な答えに、ジュウベエが、グループ席の面々が、会場がどよめいた。対してフェイルーラ派閥の面々は嘆息をこぼす。その行動が、フェイルーラの発言が本当であると、インシグニアを更に戦慄させる。
「何でも、痛覚遮断系の魔法や薬を使うと、感覚が鈍るそうで、それを嫌って、フェイルーラ様はほぼ全魔力を使う場合でも、痛覚遮断系の対処はしないそうです」
しないそうです。で片付けられる問題ではない。が、フェイルーラが身内である派閥の面々を化かすとも思えない。理由があって教えられないなら、フェイルーラなら「教えられない」とぼかさず説明するだろう。それをしないと言う事は、本当に根性で気絶しそうな激痛に耐えながら、あの高速移動攻撃をしている事になる。
(人間業じゃない……)
インシグニアは、とんでもない人を領婿に迎えてしまった。とここにきて理解した。
ジュウベエの片目からはそのように映った。実際にはフェイルーラの速度が上がっただけだが、眼前から消えて見える程に、その速度は速いものであった。が、
「こっちだろ!」
死角となる眼帯を嵌めた左側からのフェイルーラの斬撃にきっちり対応して、身体を左へ向けるよりも早く、斬撃を二刀で受け止める。とは言え、その斬撃の威力に、数メータ後退させられる事になったが。
「お前は甘いと言うが、死角の左側からの攻撃に、俺様が対策していない訳ないだろうが!」
直ぐ様左側を向くが、フェイルーラの姿は既にそこにはなかった。そしてまた左の死角からの、今度は銃撃。これを辛うじてダッキングして躱すジュウベエ。そのまま左側を向くが、やはりフェイルーラの姿はない。
(速い!)
ジュウベエは心の中で舌打ちをする。左側からの攻撃には対処出来るが、相手の位置が絶えず死角にあっては、後手に回らずにはいられないからだ。これではいつまで経ってもフェイルーラに攻撃を当てられない。
結局のところは逆時計回りで動いているだけなので、それならと、時計回りに動いてもフェイルーラは上手く死角から外れないように立ち回る。
(あり得ない……!)
それがジュウベエの見解だった。恐らくフェイルーラが身体強化の魔法で速度を上げている事は理解出来るが、それにしてもその速度が速過ぎる。ジュウベエも既に身体強化を使っているが、それに対応しているのはあり得ない事だった。フェイルーラの魔力量は、ジュウベエと比して十分の一以下だ。つまりは身体強化に魔力を割いても、その速度向上はジュウベエの十分の一であるはずだからだ。そもそも荒波祭囃子で足場が悪い。
(いや、立ち回りからして、俺よりも速い。それはつまり、フェイルーラが俺様よりも身体強化に魔力を注いでいると言う事だが……)
あり得ない。インシグニアの感想もそれであった。俯瞰から見ていても、明らかにフェイルーラの方がジュウベエよりも素早く動いている。が、それはあり得ないのだ。
人間には、一度に使える魔力に限界がある。大量に魔力を使えば、その反動が身体にフィードバックされる。それは本人の魔力総量を基準として、半分までが戦闘で一度に使える魔力量と言うのが定説であり、インシグニア自身も魔法訓練で体験している。
つまりフェイルーラはその魔力総量の半分、ジュウベエの魔力総量の二十四分の一しか魔力を身体強化の魔法に使えないはず。対してジュウベエは十二分の一も使えば余裕でフェイルーラの速度を上回れるはずであった。
実際にはまつりによる二刀と、バトルフィールドを常時海化しているので、身体強化に割くリソースはもっと少なくなるが、それでもフェイルーラの速度を上回るのには充分なはずなのだ。それなのに、ジュウベエはフェイルーラの速度に翻弄されていた。
理解が及ばず、ポカーンと口が開いたままとなってしまうインシグニア。それはマドカやジュウベエ派閥の少年たちも同じだった。何が起きているのか、理解が及ばない。しかし、それよりも理解が及ばないものを、インシグニアたちは見せ付けられる事になる。
「インシグニア様、フェイルーラ様のマジックバーをご覧下さい」
インシグニアが混乱している事を察して、グーシーが後ろからインシグニアに声を掛ける。
(マジックバー?)
訳が分からないまま、インシグニアはグーシーの言う通りに画面上部のフェイルーラのマジックバーへ視線を向けると、とんでもない事になっていた。フェイルーラのマジックバーが、全損したり全回復したりを高速で繰り返していたからだ。表示の不具合かとも思ったが、その動きが、フェイルーラの動きと同調している事に気付き、インシグニアは戦慄した。
「嘘だろ!?」
インシグニアが声を上げるよりも早く、ジュウベエ派閥の少年の一人が、悲鳴に似た驚愕の声を上げる。インシグニアも同感だった。
魔力を使うと身体に反動が起こる。それは一度に半分、五割も使えば、身体は倦怠感を感じて重怠くなる。七割使えば身体に痺れが走る。九割ともなれば全身を激痛が駆け抜け、全て使えば気絶する。
だと言うのに、フェイルーラのマジックバーは、全損したり全回復したりを繰り返していた。あり得ない挙動だ。
「どうなっているんですか? 魔力を全て使ったら、気絶するのでは?」
「そうですね」
思わず口から転びでたインシグニアの言葉を、グーシーは肯定した。それがインシグニアを更に混乱させる。そんなグーシーに続いて、アーネスシスが説明を追加した。
「あれ、魔力全部使っている訳じゃないんですよ。良く見れば分かりますけど、気絶しないように、髪の毛一本分くらい残しているんです」
アーネスシスに言われて、再度フェイルーラのマジックバーを確認すると、高速で魔力が増減しているので分かり難いが、確かに、減った時もほんの少しだけ魔力が残っているようだと分かった。
「いやいや、だからって、理解出来ない事が二つあるんですけど!?」
そう声を上げたのはマドカだ。
「あの変な全損ギリギリから全回復する挙動と、全損ギリギリまで魔力を使っても普通に動けている事の説明が付きません!」
それは本当にそうだ。とインシグニアもジュウベエ派閥の少年たちも、グーシーたちの方へ視線を向ける。グーシーはこれに苦笑を漏らしながら、説明してくれた。
「フェイルーラ様の魔力が一度に全回復するのは、フェイルーラ様の日頃の努力の賜物です。元々魔力量が騎士貴族よりも少ないので、日々幾度となく魔力増量特訓を繰り返した結果、魔力量はほぼ増えませんでしたが、魔力の回復速度だけは、尋常じゃなくなったんです」
魔力増量特訓とは、魔力を限界ギリギリまで使う事で、その反動による超回復で、魔力量を増やす特訓だ。幼少の頃は魔力量が少なかった者でも、この特訓を繰り返す事で、それなりの魔力量増量が見込める。ただし個人の資質に寄るので、増えない者も当然いる。フェイルーラはそちら側であった。だが、それでも魔力増量特訓を繰り返した結果、魔力の回復速度だけが尋常じゃなくなったのだ。
インシグニアは己の魔力増量特訓を思い出す。身体に負担を掛けないように、徐々に魔力を使い続け、ほぼ魔力がなくなった身体は、数時間もすればほぼ全回復していた。
フェイルーラは元々の魔力量が少ない。そこへ十倍以上の魔力量が数時間で回復する、いやそれ以上の回復速度が備われば、そしてそれを使い熟せれば、フェイルーラの魔力量を一瞬で回復させられるようになるのも納得ではある。しかし、
「一度に大量の魔力を使った時の反動はどのように抑えているんですか? 魔法ですか? 薬ですか?」
そう。九割以上、恐らくは99%以上を一度に使えば、身体は激痛で動けなくなるはずだ。それはどのように対処しているのか。痛覚遮断系の薬を使用したようには見えなかったので、魔法だろうか? いや、フェイルーラなら、戦闘前に痛覚遮断系の薬や魔法を事前に仕込んでいた可能性がある。
「ああ、それですか」
これにはグーシーだけでなくフェイルーラ派閥全員が苦笑する。
「どう言う仕組みだそりゃ!?」
見えない影を追うように、ジュウベエが声を張る。どうやらジュウベエも、フェイルーラが何をしているのか気付いたらしい。グループ席の全員の視線がバトルフィールドに注がれる。
「どうって?」
「何で動ける!? 何で気絶しねえ!? それだけ一度に魔力を使えば、激痛で動けないはずだ! 脳天を突き抜けるような痛みで気絶するはずだ!」
不気味な見えない影に、正体を現せとジュウベエが吼える。
「…………はん。そんなの、ド根性で耐える以外に方法があるなら、こっちが知りたいね」
「はあっ!?」
フェイルーラの簡潔な答えに、ジュウベエが、グループ席の面々が、会場がどよめいた。対してフェイルーラ派閥の面々は嘆息をこぼす。その行動が、フェイルーラの発言が本当であると、インシグニアを更に戦慄させる。
「何でも、痛覚遮断系の魔法や薬を使うと、感覚が鈍るそうで、それを嫌って、フェイルーラ様はほぼ全魔力を使う場合でも、痛覚遮断系の対処はしないそうです」
しないそうです。で片付けられる問題ではない。が、フェイルーラが身内である派閥の面々を化かすとも思えない。理由があって教えられないなら、フェイルーラなら「教えられない」とぼかさず説明するだろう。それをしないと言う事は、本当に根性で気絶しそうな激痛に耐えながら、あの高速移動攻撃をしている事になる。
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