SPIRITS TIMES ARMS

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処遇

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 ああああ~、怠い。起きるの辛い。

 重怠いまぶたを開けると、見えたのは、良く磨かれた木目の綺麗な木の板だ。その四方からカーテンが垂れているので、天蓋付きのベッドの中に自分がいるのが分かった。が、何故この天蓋付きベッドの中にいるのか理解出来ない。いや、思い出せない。と言った方が正しいか。

 昨日、何があっただろうか? 一つ一つ思い出していく。……昨日も起きるの辛かったなあ。三日連続で、寝起きが最悪だ。んで、オブリウスが来て、アウレア嬢たちと会って、大聖堂に行って、王城に行って……、いや、一日でやる仕事量を超えているだろこれ? これに付き合わされたインシグニア嬢が可哀想過ぎる。

 インシグニア嬢……、今日はゆっくりと出来ているかなあ? いや、今日は王立魔法学校の受験日だ。派閥のボスとして、相応の振る舞いは求められるか。いや、俺もだけど……。

 うん? 何か頭にもやが掛かって、何か忘れている気がする。ああ、怠いなあ。俺が、今日怠いから見送りなしね。と言っても、グーシーたちは嫌な顔もせず、受験に挑むのだろう。ジュウベエ君派閥の少年たちは大丈夫だろうか? ああ、そうだ。帰ってジュウベエ君たちの礼儀作法に立ち会わないと。うん? 何か順番があべこべか? 寝ていた。と言う事は、今日はもう受験日なんだから、そんな時間ないよな?

 うん? うん? うん? ここどこだ? 天蓋付きベッドの天蓋の板の木目模様は、分館のベッドのそれと違う。ここは分館じゃない? それとも別の部屋? 記憶が混濁している。昨日の最後の記憶は何だ? …………そうだ、インシグニア嬢が悲壮な顔で駆け寄って……、

「インシグニア嬢!!」

「うおっ!?」

 俺が色々思い出し、上半身を起こすと、どうやら部屋には誰かいたらしく、男性をその低い声で驚かせてしまった。そちらを見遣ると、熊のような大柄な男性が、本を読んでいたようだが、びっくりした様子で、顔だけこちらへ向けている。確か、セガン陛下の側近の一人、名前は……、

「り、り、り……」

「リガスだ。目が覚めたようだな」

「あ、はい。そのようです?」

 何故か疑問形になりつつ、首を傾げる俺に苦笑しながら、リガス卿はテーブルの上のテレフォンを操作し、着信音が一度なっただけで、テレフォンを切ってしまった。それだけでテレフォンの向こうには通じるのだろう。

「ええと、ここはどこでしょう?」

「王城の客室の一つだ」

「ですよねえ」

 俺の昨日の最後の記憶が、王城の謁見の間だから、王城から叩き出されていなかったなら、またはグーシーたちが迎えに来てくれなかったなら、俺は王城で一夜を過ごした事となる。

「ほら、飲めるか?」

 あれこれ思考を巡らせていると、リガス卿がハーブティーを淹れて、差し出してくれた。

「ありがとうございます」

 ソーサーごと受け取り、飲もうとして手が止まる。

「どうかしたか?」

 それを不思議に思ってか、リガス卿が尋ねてきた。

「ああ、いえ、王城で、まさか自領のハーブティーを出されるとは思っていなかったので」

「それか。セガン陛下が気を回して下さったのだ。寝起きに気が動転しているだろうから、と」

「ありがとうございます」

 お優しいセガン陛下らしい。まあ、隣りにシルキーティーリーヴス領があるから、普通にお茶飲んで過ごしてきたんだけど。ハーブティーはどちらかと言えば領外へ売り出す品だ。

(カモミールか)

 その林檎のような香りと優しい味を味わいながら、カモミールティーを飲んでいると、昨日の事が段々と鮮明になってくる。

(インシグニア嬢の処遇で一段落したら、何とかさんがいちゃもん付けてきて、一騎打ちして…………)

 俺はベッド脇の台にティーカップをそっと置くと、膝を抱える。

(あ、これ、俺死んだわ。最後の記憶、誰かに武威を放たれたから、それに対してカウンターで竜の武威を放った。あの場で俺に武威を放った人物なんて、一人しかいない。ガイシア女王陛下だ。この国の頂点に、殺気を放ったのだ。何でまだ俺の首が繋がっているのか理解出来ないくらいだ)

 どうしたものかと上を見上げても、見事な木目が顔の形に見えるくらいで、その顔も俺を憐れんでいた。

「はあ……」

 俺は何故か・・・台に置かれていたグローブを左手に付けると、空間魔法陣から、バサバサバサと紙を取り出した。

「これを、セガン陛下へ」

「ん? これは……、楽譜か?」

「はい。昨日話していた、ウェルソンの新しい楽譜です。これを差し出しますので、どうか、インシグニア嬢には害が及ばないよう、取り計らっては貰えないでしょうか?」

「んん? いや、君は何を言っているんだ?」

 困惑するリガス卿に向かって姿勢を正して頭を下げつつ、インシグニア嬢の処遇に思いを馳せる。何て事に巻き込んでしまったのか。

「貴族の処刑はギロチンでしたでしょうか? それとも処刑官による斬首でしたでしょうか?」

「本当に何を言っているんだ!?」

 困惑した声音のリガス卿。逆にこちらの方が困惑する。リガス卿の反応からすると、まるで俺は処刑されないかのように聞こえるからだ。

「フェイルーラ様!!」

「フェイルーラ君!!」

 そこへ、勢い良く扉を開いて、二人の人物が入ってきた。リガス卿へ頭を下げているので、姿は分からないが、声からすると、インシグニア嬢とセガン陛下だろう。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 重い沈黙の時間が流れる。頭を上げるのも憚られるので、俺には三人の表情は窺い知れない。

「……リガス」

「違います! 私がやらせた訳ではありません! 彼が勝手に!」

「フェイルーラ君に、リガスに向かって頭を下げる理由などないだろう」

「分かっています! だから、彼が何か勘違いをしているだけで……」

 勘違いか。確かに。インシグニア嬢の命乞いをするなら、リガス卿ではなく、直接セガン陛下へ上奏した方が良いか。と俺はセガン陛下の声がした方へ、頭を下にしたまま、身体を向ける。

「セガン陛下、この命、惜しくはありません。あの場で女王陛下へ向かって竜の武威を放ったのは、私個人のやった事です。その処遇は私のみとして下さい」

 俺が上奏すると、部屋が何とも言えない変な空気となる。

「フェイルーラ君、どうやらリガスの言葉が足らず、君に誤解を生ませてしまったようだが、君は処刑されないよ?」

「え?」

 予想外の言葉に、思わず頭を上げてしまい、セガン陛下、インシグニア嬢を見ると、困り顔だ。リガス卿の方にも視線を向けると、こちらも困り顔。んん?

「何故……、でしょう? 私はあの場でしてはならない事をしました。処刑は妥当な判断かと」

 これに眉根を寄せて嘆息するセガン陛下。

「それは、ガイシアに竜の武威を放った事かい?」

「はい」

「だがそれは、先にガイシアが王の武威を君に放ったから、それに対する防衛本能で、だろう?」

「それは、そうですが、だからと言って、一国の王に向かってやって良かった事ではありません」

 これにまたセガン陛下は嘆息をこぼす。

「そうだね。だが、禁忌を先に破ったのはこちらだ。歌奏者に対して、王の武威を放ったのだからね」

 そんなもの、俺が竜の武威を放ったと言う事実で握り潰せる。

「ガイシアを問い詰めたが、彼女はこれまでもフェイルーラ君にしたように、王の武威を使い、あのような場で自分に有利になるよう動いていたようだ。自分の方が正しくない場合であっても、ね」

 あの優しいセガン陛下の声の奥の奥に、怒りや憤りを感じさせるものが乗っている。それが、今回の事がとても許せなかったものであったと感じさせる。

「本当に、本当に済まなかった」

 セガン陛下は片膝を突いてこちらへ謝罪した。ここが公の場であったら、とんでもないゴシップとして、王都どころか、国中、いや、世界中に伝わる珍事だ。

「国務に携わらず、その責任をガイシアに押し付け、あまつさえ君を死の危険に晒すような場に置いてしまった自分が、僕は恥ずかしい。謝罪したところで許されるものではない。と分かっているが、心より謝罪させて欲しい。今回の補償は、ちゃんと形として支払う事を、ここに約束する」

 何が起きているのか分からず、インシグニア嬢とリガス卿の顔を交互に見ると、インシグニア嬢が口を開いた。

「フェイルーラ様とガイシア陛下の武威のぶつかりで、これを女王陛下への敵対行為ではなく防衛本能と認識したセガン陛下が、瞬時に声を張り上げ、その場を収めて下さったのです」

 何と! このセガン陛下が声を張り上げたなんて信じられない。これまた珍事だ。

「その後、リガス卿にフェイルーラ様を客室へと運ばせたセガン陛下は、別室にガイシア陛下と私を呼び、そこでガイシア陛下、セガン陛下の連名で、今回の一件を不問とする旨の誓約書をガイシア陛下に書かせ、後はフェイルーラ様と私がそこへサインするだけです」

 おお! ちゃんと公文書として今回の件を不問にしてくれるのか! え? 本当に? こちらが有益過ぎないか?

「え? 何故、そこまでして下さるのですか?」

「君たちを巻き込んだ張本人だからね。これで死者など出したとあっては、僕は僕自身が許せない。時間を巻き戻せるなら、君たちが謁見の間へくる前に戻って、これを阻止したいくらいだ。自分の馬鹿さ加減に反吐が出る」

 そこまでですか。やっぱりセガン陛下は優しい。そして、この優しさに付け込む者はいるだろう。今後も、国務や国政に関わらせるには危険な人物だ。う~む。

「その誓約書って、まだ正式に効力を発揮していないんですよね?」

「そうだね。まだ君もインシグニア嬢もサインしていないからね。ここに持ってきているが、内容が気に入らないなら、破棄して、ガイシアに書き直させるよ?」

 セガン陛下……。今回の件が余程トラウマとなっているのか、どこか俺に対してビクビクしているように見受けられる。

「いえ、ここにウェルソンの新曲の楽譜があるのですが、私がこれをセガン陛下に提出する事で手打ちに出来ないかと思った次第で」

「ええっ!?」

「ウェルソンのっ!?」

 インシグニア嬢も、セガン陛下も凄い驚いているな。別に、ここにしか楽譜がない訳じゃないんだけど。自領の聖堂にも当然保管されている。ウェルソンが差し出すかは微妙だが。

「今回の事で、こちら側が王家に反抗的だ。と言う噂が立つのは、こちらとしても望ましくないので、謁見の間でのこちらの無礼に対して、こちらがウェルソンの新譜を差し出す事で、王家も納得し手打ちとなった。と言う形にして貰えると、今後魔法学校でも立ち回りが少しやり易くなるかと言う打算ですが」

 これを聞いてまん丸お目々の二人が、何かここにきて面白くなってきてしまい、思わずクスッと笑ってしまった。

「どうでしょう? どちらも損はしないかと?」
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