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王配への要求

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「何があったのですか?」

 テーブルを挟んで、対面に両陛下、左隣りにインシグニア嬢がいる状況で、ガイシア陛下に尋ねるも、言葉よりも、見せた方が早いと思ったのか、ガイシア陛下は後ろを振り向き、女性騎士から一枚の便箋を貰い、それをテーブルに置いた。

 書かれている内容は、先程ガイシア陛下が仰られたのと同じだ。そこに教皇猊下のサインと朱印が押されているが、これが本物なのか俺には判断出来ないので、隣りのインシグニア嬢の方へ視線を向ける。

「私も、教皇猊下の文字の癖を覚えている訳ではないので、何とも言い兼ねますが、朱印の紋章は、確かに教皇を示すものです」

 成程。誰が書いたかは分からないが、教皇の朱印が押されているので、教会からの正式な抗議文なのは間違いなさそうだ。

「しかし、昨日の今日、それも朝一番で使者がやって来るとは」

「王城にも信徒はいるからな。昨日のセガンの処分を不服と思い、これに対抗しようと、大聖堂へ駆け込んだのだろう」

 ガイシア陛下が推察を語る。これにセガン陛下やインシグニア嬢は納得の様子だ。俺だけ置いてきぼりで分からない。

「済みません。昨日私が倒れた後、何があったのですか?」

 昨日の事が分からないと、この後の行動に支障が出るので、恥を忍んで尋ねると、セガン陛下とインシグニア嬢が何とも複雑な顔となる中、何故かガイシア陛下だけ「ふふん」とちょっと嬉しそうだ。

「まず訪ねたいのだが、賢竜は、どこまで昨日の記憶がある」

 ガイシア陛下は真面目な顔に戻り、俺に昨日の事を尋ねてくる。まあ、向こうも把握しておきたいよね。

「あの……、陛下の周りで偉そうにしていた何とかさん」

「タフレングス卿です」

 インシグニア嬢が補完してくれた。が、

「その何とかさんがしゃしゃり出てきたくらいから、ガイシア陛下との交渉やこれまでの疲れ、空腹やらで、あんまり覚えていません。竜の武威を陛下に向けて放ってしまったのも、やられたからやり返したって感じでして」

「そこからか……」

 俺の答えに、ガイシア陛下が頭を抱える。

「フェイルーラ君は、歴戦の戦士ではなく、まだグロブスと変わらない少年だからね」

 セガン陛下の言葉に深い嘆息を漏らすガイシア陛下。

「さっさと謁見の間から出たかったのに、横から何とかさんに口出しされて、疲れや空腹でイライラしていたのもあったので。こちらも済みませんでした。本来の自分なら、あのような蛮行は好むものではないのですが、思い返せば、一刻も早くあの場から立ち去りたかったのかも知れません」

「そうだね。王の武威に晒されながら、インシグニア嬢の為に交渉をするなんて、相当な重労働だったはずだ。それをやり遂げだのに、更に難癖付けられたら、誰だって怒りが湧くよ」

 セガン陛下は俺の肩を持ってくれるが、ガイシア陛下は何だかもう全身だらんと放心している。自分が仕出かして事が今になって跳ね返ってきて、グロッキーになってしまったようだ。

「あの、お疲れのところ済みませんが、それであの後何があったのでしょう?」

 俺が話にならなそうなガイシア陛下ではなく、セガン陛下に尋ねると、何故かガイシア陛下がガバッと上半身を起き上がらせた。

「それだ!」

「それ?」

「君と余の武威がぶつかり合い、天井が割れた」

 ああ、何となくそんな記憶があるかも?

「これを敵対行為と見做した騎士たちが、一斉に君に向かって攻撃をしようとした瞬間、セガンが「全員動くな!!」と命令を発したのだ!」

 おおう。俺、あの場で殺されそうだったのか。まあ、そりゃあそうだよな。国王に対して、武威(殺気)を向けたんだから。

「はあ~。あのセガンの勇姿と来たら。正に窮地に現れた勇者の如き威勢であった」

「は、はあ、そうですか」

 俺が眉間にシワを寄せて反応に困っていると、恍惚としていたガイシア陛下が、ハッと我に返って、「こほん」と咳払いしてから本題に戻った。

「それから、リガスに君を客室に連れていくように指示を出し、君を謁見の間から逃がすと、今回の件において、君が竜の武威を私に放った事を不問とする旨を出し、君から竜の武威が放たれるまで静観していた、……何もしなかった謁見の間にいた騎士やその他の者たち全てに対して、一年間の給料五割カットを申し付けたのだ」

 成程。騎士や大臣がどれだけ高給取りか知らないが、給料五割カットなんてされたら、そりゃあ文句も出てくるか。でも直接セガン陛下やガイシア陛下に上奏出来ないから、教会に泣き付いた、と。流れは分かった。何故教皇猊下が俺の味方をしてくれたのかは分からないが。いや、インシグニア嬢の味方をしてくれたのかな?

「それで、今に至る。と言う訳ですか?」

「うむ」

 その後、俺の意向に沿う。とセガン陛下の監視の下、誓約書を書かされたんだろうなあ。肉体的には大丈夫だったとしても、精神的にかなり堪えたのは入ってきた時のガイシア陛下の様子で理解出来た。

「まあ、『王配の命』により、その場は収まったようですが、色んな噂が流れそうですねえ」

「うむ」

 また眉間にシワを寄せるガイシア陛下。

「こちらとしても、王家、王族と敵対組織と認識されるのはご免ですから、やはり手打ちと言う事で」

「良いのか? こう言っては何だが、今なら私から最大限の補償をもぎ取れるし、それをすれば、魔法学校でも一目置かれる存在となれるぞ?」

「最大限の補償と言われましても。ガイシア陛下に退位して頂き、私の母を王位にすげ替えても、別にこちらに見入りはないですからねえ」

 これにはガイシア陛下も顔を引き攣らせる。

「そ、そこまでは流石に……」

「私もしませんよ。これでも四大貴族なので、お金に困っている訳でもありませんし、ヴァストドラゴン家として、王家に対して、何かしかの命令権を得る。なんて、あの父を考えたら絶対したくありませんし、やっぱり手打ちで両成敗が一番の落としどころだと思うんです。…………いや、一つ、して貰いたい事を思い付きました」

「…………う、うむ」

 補償に関して俺が口にする程、ガイシア陛下の顔色が悪くなっていく。そんな俺が、補償として提示してくるものが何か、ガイシア陛下の内心を思うと、少しばかり心が痛い。

「今回の件で、セガン陛下の価値は更に上がったと思います。この国の国王であるガイシア陛下に対してさえ、場合によれば忠言も辞さない人柄です。今後、セガン陛下を利用しようとする輩は増えるでしょう」

「…………そうだな」

 両陛下ともに難しい顔となった。今回の件は、王都どころか、数日中に王国全土に知れ渡るだろう。女王ガイシアは実は夫のセガンの傀儡。なんて風評被害も出てくるかも知れない。それは頂けない。そんな事になればセガン陛下へ多くの負担が行ってしまう。俺に最大限の便宜を図ってくれたセガン陛下の周りが、欲に塗れた輩ばかりになるなんて考えたくもない。

「なので、セガン陛下には、王配と言う地位に引き籠もるのではなく、しっかりとした役職に就いて貰い、基本的にその役職内で出来る範囲の事しか出来ないようになって貰いたいですね」

「…………いや、それで良いのか?」

「? はい」

 俺が首肯すると、何と言えば良いのか、初めて見た知恵の輪がどのように解けば良いのか分からないかのような顔となったガイシア陛下が、隣りのセガン陛下にそのまま視線を向ける。

「こう言う子なんだよ」

 諭すようにガイシア陛下へ柔らかい笑顔を向けるセガン陛下だった。
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