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謎の返礼

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「しかし、謁見の間でインビジブル・バーストを出された時にはびっくりしたぞ」

 ボールスクッキーをお茶請けに、話題は変わり、謁見の間での俺と何とかさんとの一騎打ちの話となった。興奮気味に俺に顔を近付けてくるガイシア陛下。それに対して冷ややかな視線を送るセガン陛下。

 俺がインビジブル・バーストで勝ったまでは良かったが、その後、ガイシア陛下の呼び掛けに反応しなかった俺に、王の武威を放った事をまだ根に持っているようだ。これに目端で気付いて、ガイシア陛下は席に座り直して咳払いしては居住まいを正す。

「あー、何だ。あれはフェイルーラ君の母上であられるセイキュア殿から習ったのか?」

 これに口の端がピクリと反応してしまう。それを幾らか不審に思ったのか、皆が首を傾げる。これは説明くらいはしておこう。

「習ったと言うよりも、食らわされた側ですね」

 これに、両陛下は「ああ」と得心する。多分魔法学校時代に、両陛下も食らった事があるのだろう。でなければ、ガイシア陛下がこれ程食い付くとは思わない。

「あれを、ですか?」

 インシグニア嬢は、信じられない。とばかりに口元に両手を当てる。

「まあ、ええと、うちの領が武闘派なのは喋りましたっけ?」

「はい」

 どこで喋った? チョコレート店? 闘技場? 大聖堂? 謁見の間? 王都に来てから記憶が曖昧だ。

「まあ、なので、両親が戦闘訓練を付けてくれるのですが、武闘派なので、はい、手加減などする訳もなく。……いや、もしかして、あれで手加減していたのか?」

「生きているし、不治の怪我をしている訳でもないし、手加減していたんじゃないかな?」

 俺の言にセガン陛下がそのように応えれば、うんうんとガイシア陛下も頷く。そうか、手加減されていたのか。

「それで、色々食らった技の中に、インビジブル・バーストもあった訳か」

 一国の女王様が、何故かこの話題で目を輝かせているのですが?

「インビジブル・バーストを放てるようになりたいのですか?」

「うむ。あの技は魔法学校時代のセイキュア殿の代名詞のような技だったからな。食らった者、目撃した者、耳にした者、皆が再現しようとして、しかしてその下位互換であるエア・バーストしか作り出せなかった代物だ。君が完璧な再現をしているのを見て、思わずあの頃を思い出し昂ぶってしまったのだ」

 それであの失態へと繋がったと。

「その技の深奥、教えては貰えないだろうか?」

「ガイシア」

 ガイシア陛下の申し出に対して、俺が何か口にする前に、セガン陛下がこれを窘めた。

「うぐっ。しかし! あの再現不可能と言われたインビジブル・バーストの使い手がここにいるのだぞ? 国力増強の為にも、これは知っておきたいではないか!」

 爛々とした目で、ガイシア陛下はセガン陛下に訴える。

「インビジブル・バーストは近接技ですから、戦争を視野に入れるなら、別の遠距離魔法の方が有益だと思いますけど?」

「うぐっ」

 俺が思わず本音を口にしたところで、ガイシア陛下は、自分が使ってみたい。と言う、己の本音が周囲に透けて見えていた事に、頬を赤らめる。それにしても、本音を口にして怒られなくて良かった。ここがプライベート空間だからだろうか? 謁見の間だったら、首刎ねられていたかも知れない。まだ脳が本調子じゃないなあ。

「まあ、インビジブル・バーストの仕組みをお教えする事自体は別に構いませんよ」

「本当か!?」

「ガイシア!! 王だからって、何の見返りもなく強請ねだるのは駄目だよ!!」

 セガン陛下に強く出られては、昨日の今日である。ガイシア陛下もしゅんとしてしまった。ちょっと可愛らしい。

「どのようなものを差し出せば、教えて貰えるだろうか?」

 しゅんとしながらも、ガイシア陛下は縋るような視線でこちらを見てくる。何この両陛下、国の頂点なのに可愛らしい。

「どのような、ですか? 見返りなんて考えていませんでした。うちの派閥の人間なら、皆その仕組みを知っていますから」

「そうなのか!?」

 これに驚くガイシア陛下。俺の方も、まさかインビジブル・バーストが、そんな幻の技扱いされていた事に驚いたくらいだ。

「ただ、仕組みは簡単に理解出来るのですが、実践出来るかは別で、うちの派閥でも、側近の一人、アーネスシスと言う者が使えるくらいです」

「仕組みは簡単なのか? 誰も再現出来なかったのだが?」

 ガイシア陛下が困惑している。

「はい、とても簡単です。それ専用の魔導具でも作れば、誰でも使えるようになるくらい」

「誰でも、と言う事は、個人固有の第一魔法ではなく、魔法陣などを使った第二魔法の分類だったのか」

 これにはセガン陛下も驚いていた。どうやら両陛下も、母上しか使える者が現れなかった事から、インビジブル・バーストを第一魔法と分類していたらしい。

「なので、それ程凄い対価は別に……」

「いえ、誰でも再現出来るのでしたら、尚の事対価は吊り上げるべきかと。それに派閥の者たちにも、他言無用を徹底させるべきでしょう」

 ここに口を差し込んできたのはインシグニア嬢だった。そのものの価値と言うものに対して、王城暮らしだったインシグニア嬢は聡いのだろう。

「成程? では、ここでの話も他言無用として下さるなら、私はそれだけで仕組みを説明しますよ」

「本当か!?」

「ガイシア、落ち着いて」

 ふふ。仲良しだなあこのお二方。

 ✕✕✕✕✕

「成程。周囲から空気を一点に凝縮させるエア・バーストとは、全く違う方向からのアプローチだったのか」

「まあ、間違いではない、半分正解ってところですかね。どちらにしろ、間に壁でも作られたら、簡単に防がれる代物ですので、そんな幻の技じゃないんですよ」

「うう~む。興味深い。これを思い付いたセイキュア殿も、それを解明したフェイルーラ君も、良くそこに辿り着いたものだ」

「あはは、百回以上は食らいましたからねえ」

『百回!?』

 仕組みを聞いた後だと、余計に驚くのだろう。あの地獄の責め苦を百回以上だから。

「そもそも私の闘い方が、身体強化魔法と、個人の魔力量に依存しない、ガンブレードなので、周囲をうろちょろされるのをウザいと思った母上が、インビジブル・バーストを使った事が始まりでしたね」

「ほう? ガンブレードを? やはりキャロルスター・アンセムに憧れてか?」

 ニヤニヤしながら尋ねてくるガイシア陛下だったが、その視線はセガン陛下へ向けられている。

「もしかして、セガン陛下も……?」

「どうせ、最強にはなれないのだから、武器くらい好きなの使いたいじゃないか」

「分かります、その気持ち」

 セガン陛下と互いに頷き合う。そこへ、

「でもフェイルーラ様は、ニドゥーク皇国の将軍家のご子息であられるジュウベエ君にも勝ちましたし、女王陛下の近衛騎士団長であるタフレングス卿にも勝ちましたよね?」

 キョトンとこのタイミングで本当の事を言わないで欲しい。

「あの何とかさんとの一騎打ちは、こちらが条件を提示したうえですから」

「それでもガイシアの近衛筆頭に勝ったんだから凄いよ。しかもウェルソン直々に音楽を習い、その実力はマエストロ級。うう、何だが、自分の上位互換を見せられている気分だよ」

 今度はセガン陛下の方がしゅんとしてしまった。いや、魔力量なんかはセガン陛下の方が圧倒的に多いと思う。それに、

「昨日の謁見の間で、私が不利にならないように差配出来たのは、セガン陛下だからこそですから。感謝してもし切れません」

 俺が頭を下げると、インシグニア嬢も頭を下げる。インシグニア嬢は別に頭を下げなくても良いのでは?

「ははは。普段役立たずの僕が、役に立てたのなら嬉しいよ」

 謙遜しつつの乾いた笑い。いや、俺は本当にこの方に助けられたのだ。その対価は渡さなくてはならないだろう。

「それと、これを。命を救って下さったお礼の、例のものです」

 俺がウェルソンの楽譜を取り出し、セガン陛下の方へ差し出すと、目を細くするセガン陛下。

「いざウェルソンの新曲を手に入れても、僕では弾き熟せないなあ。本当に僕が貰っちゃて良いのかな?」

「まあ、確かに、俺とウェルソンの共作の楽譜はこれだけですが、ウェルソンの楽譜自体は、この世にこれ一つだけな訳ではないので。それに、この後、私の為に動いてくれた大聖堂の方にも、持って行くつもりですから」

 何故か動いてくれたし、この借りは早めに返しておきたい。

「そう、そうかい? ……共作?」

 俺の言葉を聞いて、一品物じゃないなら。とセガン陛下は改めて楽譜を受け取りつつ、疑問に思った事を口にする。

「共作と言うとマエストロに烏滸がましいですが、ウェルソンが書いた楽譜を私が読んだり弾いたりして、「この部分は同じリズムで段々と音を上げていく方が良い」とか、「いや、ここで一旦落として一拍休符で音を無くし、その後一斉に音を出すのが良い」とか、まあ、楽譜作りは殴り合いですから」

『…………』

 三人とも口あんぐりだな。

「何と言うか、あのひょろひょろのウェルソンが、子供と殴り合いしているのが目に浮かぶな」

 まず立ち直ったガイシア陛下の言葉にセガン陛下がうんうん頷いている。インシグニア嬢は、困惑したように、首を右に倒したり左に倒したりしている。

「しかし、結構な量だね」

「交響曲ともなると、担当楽器の楽譜も必要になってきますから。ええと、ここら辺の童謡とか民謡なんかは五線譜一種類ですね」

 などと説明を加えていく。

「フェイルーラ様、一曲くらい弾いてみても、バチは当たらないかと」

 セガン陛下に説明していると、インシグニア嬢からそのような申し出があった。うん? と思わず首を傾げる。

「ふふ。だって、フェイルーラ様、先程から、ちらちらピアノの方に視線が向いていますよ」

 そう指摘されて、俺の顔は一気に熱を帯びるのだった。
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