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距離感
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「そ、そんなに分かり易かったですか?」
俺が喉から声を絞り出すと、お三方生温かい視線で微笑んでいる。
「ああ、フェイルーラ君のピアノ演奏、聴きたいなあ~。出来るならウェルソンの新曲なんてものも聴いてみたいなあ~」
わざとらし過ぎるセガン陛下のお言葉だが、ここで応えないのも場の雰囲気を壊すだろう。
「じ、じゃあ、ちょっと弾かせて貰っても良いですか?」
これに満面の笑みとなるインシグニア嬢とセガン陛下。ガイシア陛下は生温かい笑顔のままだ。
「フェイルーラ様は、楽器店で初めて見たピアノを見事に弾き熟した方ですから、お二方とも驚かれますよ」
「そうなのかい?」
インシグニア嬢、ハードル上げないで下さい。
「そう言えば、ウェルソンが王都を去ってからだったな、ピアノが王都で弾かれるようになったのは」
などとガイシア陛下は独り言ちる。そうなのだろう。俺が習った楽器の中には、ピアノもシャミセンもなかったものなあ。
プライベートな部屋なので、すぐにピアノの前まで到着した俺は、まずはあの楽器店の店主の真似をして、大きな天板を開き、それから椅子に座って鍵盤の隠されたフタも開く。
「まずは指慣らしからで良いですか?」
振り返って尋ねると、
「任せる」
「好きに弾いて良いよ」
とガイシア陛下とセガン陛下から託されたので、俺は鍵盤に両指を当てると、オルガン用の練習曲を奏で始めた。これはウェルソンが魔法学校に通っていたよりも前の世代のオルガン奏者が生み出した曲で、幼い頃からウェルソンに徹底して弾かされたものだ。ウェルソン自身も、暇な時には良く弾いていたのを思い出す。
一曲弾き終わると、指の感覚も温まってきた。テーブルのお三方もウェルソンの新曲をお望みのようだし、『七曜』から一曲弾くかな? などと思っていたら、いきなり拍手が飛んできた。
何事!? と振り返ると、お三方がこちらへ拍手をしている。セガン陛下など目が潤んでいるくらいだ。何故?
「あの、練習曲を弾いただけなんですけど?」
「そうであったな。いや、見事な演奏であったのでな、思わず拍手をせずにはいられなかったのだ」
ガイシア陛下から真面目な顔してそんな事を言われると、照れる。
「それは仕方ないよ。まさか初手であのカールバンの練習曲第5番をお出しされるとは思わなかったもの」
セガン陛下の言葉に、インシグニア嬢が同意するように何度も頷いている。意味が分からん。
「練習曲なんですから、弾けて当たり前ですよ」
これに目を丸くするセガン陛下。
「いやいやいや、カールバンの曲はどれも難曲で、その中でも練習曲はカールバン自身が最高の演奏が出来るようになる為に生み出した難曲中の難曲。全部で五曲あるその練習曲のうち、第5番まで弾き熟せたのは、僕が知る限りでは、カールバン本人とウェルソンだけだよ」
………ウェルソン!! お前! これが出来るのは当たり前。そこからがオルガン奏者としての第一歩とか言っていたじゃないか! 全然言われた事と違うんだけど!?
「はあ……」
「どうかしたのかい?」
褒められたのに嘆息を漏らした俺に対して、セガン陛下が首を傾げる。
「いえ、考えてみれば、音楽の師がウェルソンしかいなかったので、自分の音楽のベースが、ウェルソン基準になっていたのか、とこれを喜べば良いやら悲しめば良いやら」
「それは歌奏者としては茨の道だな」
「ですよねえ」
ガイシア陛下の至極真っ当な答えに、自分の派閥の面々にも相応の音楽スキルを要求していた事に思い至り、心の内で罪悪感がチクチクしている。
いや、ここで塞ぎ込むのは駄目だ。気持ちを切り替えよう。
「では、ウェルソンの新曲から一曲、『七曜』より、『光の日』」
俺は椅子に座り直してピアノに向かい合うと、交響曲の『七曜』をピアノアレンジで弾き始めた。交響曲である事もあるが、ウェルソンが暇な神官時代に暇にかまけて作り上げた曲なので、一曲一曲が長いのが難点だな。本格的な演奏会じゃないし、それなりのところで切り上げよう。
✕✕✕✕✕
『光の日』を途中まで弾くと、フェードアウトするように尻すぼみに音を小さくしていきながら、『光の日』を弾き終わると、お三方だけでなく、リガス卿や女性騎士まで、この部屋にいる全員からスタンディングオベーションを貰ってしまった。なんじゃこりゃ? これでは本格的な演奏会のようだ。が、こちらも何かリアクションしなければならないので、立ち上がってそれっぽく左手を胸に当ててお辞儀をする。
「凄い! 凄いよ!」
セガン陛下がガン泣きしているんですけど? ガイシア陛下の後ろの女性騎士も、指で涙を拭っている。ガイシア陛下もインシグニア嬢もリガス卿も、手が痛い程拍手している。あれえ? 俺の中の俺の楽才に対する認識が崩壊していく感覚がある。もしかして、俺って楽才があったのか? そんな事を思う度に俺の脳裏に激怒しているウェルソンが現れ、指揮棒で叩いてくる。はあ、謙虚でいよう。
「では次は、軽く、民謡にでもしましょうか」
俺の提案に異論のある人間はここにはいないようで、俺は椅子に座り直すと、『雨上がり』をピアノで弾き始めた。
「昨日の雨はもういない♪、朝から燦々お日様が♪、大人たちに働けと♪、心の奥に火を灯す♪、大人たちは畑へ向かい♪、子供たちは祠堂で♪、未来の為にお勉強♪、いつもと変わらぬ今日はご馳走♪、神様へ感謝の祈りを捧げ♪、お日様の下でみんな笑って笑って♪、互いの頑張り褒め合い頒つ♪」
うんうん。民謡って楽しげで俺は好きだなあ。ほんわり温かくなる。まあ、また後ろから盛大な拍手が起こっているんだけど。
「凄い! 凄いよ!」
セガン陛下、それさっきも聞きました。
「フェイルーラ様は歌もお上手でしたのね! 何故これまで歌でもデュエットして下さらなかったのですか!?」
おっと、インシグニア嬢からはまさかの不満の声を頂いてしまった。
「いや、『歌姫』と敬わられるインシグニア嬢とご一緒に歌うのは、私にも流石に勇気が要りまして」
俺は振り返って眉尻を下げながら釈明するが、インシグニア嬢は頬を膨らませている。
「フェイルーラ様は、もっと私と距離を近付けるべきだと思います」
「距離、ですか?」
「はい。私たちはいずれ夫婦となって、領を盛り立てていくのですから、その『私』と言う他人行儀は止めて下さい。本来なら『俺』でしょう? 闘技場でジュウベエ君相手にや、謁見の間でタフレングス卿相手に使っているのを耳にしました。そちらが本来であるなら、今後、私に対しても『俺』で通して下さい」
流石はインシグニア嬢。こう言うのを耳聡いと、言うのか? 何て言うんだ? 注意深い?
「はあ。分かりました。と言うよりも、今後魔法学校に入学後は、寮内では『俺』を使うようにするような方針だったんです。いつかどこかでボロを出すと思っていたので」
「そうでしたか、そうとは知らず、勇み足でしたね」
「いえいえ、それだけ心を許して下さって頂けていたとは、こちらも嬉しかったですよ。なので、ガイシア陛下、その生温かい笑顔は一旦引っ込めて頂けると嬉しいのですが?」
「若いのう」
「ですか」
生温かい笑顔は引っ込めないのね。
「それより、今のがウェルソンが作った民謡なんだね!」
セガン陛下もブレないなあ。
「はい。『雨上がり』と言う民謡です」
「確かに、雨上がりの町や村の様子が思い浮かんだよ。それにしても、ウェルソンらしからぬ、ちゃんとした民謡だねえ。セイキュア殿が注文したのかな?」
「いえ、最初に作った曲が難し過ぎて庶民では歌えないので、俺がリテイク出しました」
マエストロにリテイクを出した事に、両陛下も苦笑いだ。だがその中に不思議と温かさを感じる笑顔だが。
「良かったら、セガン陛下もご一緒に弾きますか?」
「ええっ!? いや、昨日も言ったけれど、僕は音楽は好きだけど、音痴で……」
「大丈夫です。指二本しか使わないで結構ですから」
これに首を傾げるセガン陛下に、くすりと笑ってしまう。
「ボールス卿も、音楽が得意な訳じゃなかったじゃないですか。でも、あの方もたまには聴くだけでなく、自分でも弾いてみたいとお思いになりましてね。そこで考えた案なんです」
「成程! 本当に指二本だけなら、僕でもすぐに弾けるね!」
「はい。リズムを取って両手の人差し指でトントンと鳴らしていけば良いだけですから」
俺がそんな説明をしている間にやる気になったセガン陛下がピアノの方へやって来る。俺は足らなくなった椅子をテーブルの方から持ってきてそれに腰掛けると、セガン陛下に「こことここを」と指示を出す。
「では」
俺がそのように促すと、セガン陛下は恐る恐る人差し指でピアノを弾き始める。ピアノは正確に音を奏で始め、俺はそんなセガン陛下のリズムに合わせて、『雨上がり』を重ねていく。
「おお! 凄い! 何だろう!? 自分が凄く上手い人間になれたような気になってくる!」
ふふ。領の子供たちを思い出す。やっぱり最初はこれくらいからが良いんだよ。ウェルソンがおかしいんだ。領の子たち大丈夫かなあ。
などと思いながら『雨上がり』を弾いていると、そこへ被せるようにエラトの音色が部屋に反響してきた。振り返らずとも分かる。インシグニア嬢だ。一度披露しただけで、エラト用にアレンジして弾き熟してしまうのだから、流石としか言えない。
「凄い! 凄いよ! ガイシア! 今僕、ウェルソンのお弟子さんと、『歌姫』インシグニア嬢とアンサンブルしているよ! 凄い! まるで夢みたいだ! 人生最高の日だ!」
こんな簡単な曲なのに、セガン陛下大興奮だな。喜んで貰えたならこちらも提示した甲斐があったと言うものだ。
「ああ、ああ、本当に、今日は人生最高の日だな」
興奮しているセガン陛下とは対照的に、後方のガイシア陛下の口から漏れた声は、すすり泣くように揺れていた。
俺が喉から声を絞り出すと、お三方生温かい視線で微笑んでいる。
「ああ、フェイルーラ君のピアノ演奏、聴きたいなあ~。出来るならウェルソンの新曲なんてものも聴いてみたいなあ~」
わざとらし過ぎるセガン陛下のお言葉だが、ここで応えないのも場の雰囲気を壊すだろう。
「じ、じゃあ、ちょっと弾かせて貰っても良いですか?」
これに満面の笑みとなるインシグニア嬢とセガン陛下。ガイシア陛下は生温かい笑顔のままだ。
「フェイルーラ様は、楽器店で初めて見たピアノを見事に弾き熟した方ですから、お二方とも驚かれますよ」
「そうなのかい?」
インシグニア嬢、ハードル上げないで下さい。
「そう言えば、ウェルソンが王都を去ってからだったな、ピアノが王都で弾かれるようになったのは」
などとガイシア陛下は独り言ちる。そうなのだろう。俺が習った楽器の中には、ピアノもシャミセンもなかったものなあ。
プライベートな部屋なので、すぐにピアノの前まで到着した俺は、まずはあの楽器店の店主の真似をして、大きな天板を開き、それから椅子に座って鍵盤の隠されたフタも開く。
「まずは指慣らしからで良いですか?」
振り返って尋ねると、
「任せる」
「好きに弾いて良いよ」
とガイシア陛下とセガン陛下から託されたので、俺は鍵盤に両指を当てると、オルガン用の練習曲を奏で始めた。これはウェルソンが魔法学校に通っていたよりも前の世代のオルガン奏者が生み出した曲で、幼い頃からウェルソンに徹底して弾かされたものだ。ウェルソン自身も、暇な時には良く弾いていたのを思い出す。
一曲弾き終わると、指の感覚も温まってきた。テーブルのお三方もウェルソンの新曲をお望みのようだし、『七曜』から一曲弾くかな? などと思っていたら、いきなり拍手が飛んできた。
何事!? と振り返ると、お三方がこちらへ拍手をしている。セガン陛下など目が潤んでいるくらいだ。何故?
「あの、練習曲を弾いただけなんですけど?」
「そうであったな。いや、見事な演奏であったのでな、思わず拍手をせずにはいられなかったのだ」
ガイシア陛下から真面目な顔してそんな事を言われると、照れる。
「それは仕方ないよ。まさか初手であのカールバンの練習曲第5番をお出しされるとは思わなかったもの」
セガン陛下の言葉に、インシグニア嬢が同意するように何度も頷いている。意味が分からん。
「練習曲なんですから、弾けて当たり前ですよ」
これに目を丸くするセガン陛下。
「いやいやいや、カールバンの曲はどれも難曲で、その中でも練習曲はカールバン自身が最高の演奏が出来るようになる為に生み出した難曲中の難曲。全部で五曲あるその練習曲のうち、第5番まで弾き熟せたのは、僕が知る限りでは、カールバン本人とウェルソンだけだよ」
………ウェルソン!! お前! これが出来るのは当たり前。そこからがオルガン奏者としての第一歩とか言っていたじゃないか! 全然言われた事と違うんだけど!?
「はあ……」
「どうかしたのかい?」
褒められたのに嘆息を漏らした俺に対して、セガン陛下が首を傾げる。
「いえ、考えてみれば、音楽の師がウェルソンしかいなかったので、自分の音楽のベースが、ウェルソン基準になっていたのか、とこれを喜べば良いやら悲しめば良いやら」
「それは歌奏者としては茨の道だな」
「ですよねえ」
ガイシア陛下の至極真っ当な答えに、自分の派閥の面々にも相応の音楽スキルを要求していた事に思い至り、心の内で罪悪感がチクチクしている。
いや、ここで塞ぎ込むのは駄目だ。気持ちを切り替えよう。
「では、ウェルソンの新曲から一曲、『七曜』より、『光の日』」
俺は椅子に座り直してピアノに向かい合うと、交響曲の『七曜』をピアノアレンジで弾き始めた。交響曲である事もあるが、ウェルソンが暇な神官時代に暇にかまけて作り上げた曲なので、一曲一曲が長いのが難点だな。本格的な演奏会じゃないし、それなりのところで切り上げよう。
✕✕✕✕✕
『光の日』を途中まで弾くと、フェードアウトするように尻すぼみに音を小さくしていきながら、『光の日』を弾き終わると、お三方だけでなく、リガス卿や女性騎士まで、この部屋にいる全員からスタンディングオベーションを貰ってしまった。なんじゃこりゃ? これでは本格的な演奏会のようだ。が、こちらも何かリアクションしなければならないので、立ち上がってそれっぽく左手を胸に当ててお辞儀をする。
「凄い! 凄いよ!」
セガン陛下がガン泣きしているんですけど? ガイシア陛下の後ろの女性騎士も、指で涙を拭っている。ガイシア陛下もインシグニア嬢もリガス卿も、手が痛い程拍手している。あれえ? 俺の中の俺の楽才に対する認識が崩壊していく感覚がある。もしかして、俺って楽才があったのか? そんな事を思う度に俺の脳裏に激怒しているウェルソンが現れ、指揮棒で叩いてくる。はあ、謙虚でいよう。
「では次は、軽く、民謡にでもしましょうか」
俺の提案に異論のある人間はここにはいないようで、俺は椅子に座り直すと、『雨上がり』をピアノで弾き始めた。
「昨日の雨はもういない♪、朝から燦々お日様が♪、大人たちに働けと♪、心の奥に火を灯す♪、大人たちは畑へ向かい♪、子供たちは祠堂で♪、未来の為にお勉強♪、いつもと変わらぬ今日はご馳走♪、神様へ感謝の祈りを捧げ♪、お日様の下でみんな笑って笑って♪、互いの頑張り褒め合い頒つ♪」
うんうん。民謡って楽しげで俺は好きだなあ。ほんわり温かくなる。まあ、また後ろから盛大な拍手が起こっているんだけど。
「凄い! 凄いよ!」
セガン陛下、それさっきも聞きました。
「フェイルーラ様は歌もお上手でしたのね! 何故これまで歌でもデュエットして下さらなかったのですか!?」
おっと、インシグニア嬢からはまさかの不満の声を頂いてしまった。
「いや、『歌姫』と敬わられるインシグニア嬢とご一緒に歌うのは、私にも流石に勇気が要りまして」
俺は振り返って眉尻を下げながら釈明するが、インシグニア嬢は頬を膨らませている。
「フェイルーラ様は、もっと私と距離を近付けるべきだと思います」
「距離、ですか?」
「はい。私たちはいずれ夫婦となって、領を盛り立てていくのですから、その『私』と言う他人行儀は止めて下さい。本来なら『俺』でしょう? 闘技場でジュウベエ君相手にや、謁見の間でタフレングス卿相手に使っているのを耳にしました。そちらが本来であるなら、今後、私に対しても『俺』で通して下さい」
流石はインシグニア嬢。こう言うのを耳聡いと、言うのか? 何て言うんだ? 注意深い?
「はあ。分かりました。と言うよりも、今後魔法学校に入学後は、寮内では『俺』を使うようにするような方針だったんです。いつかどこかでボロを出すと思っていたので」
「そうでしたか、そうとは知らず、勇み足でしたね」
「いえいえ、それだけ心を許して下さって頂けていたとは、こちらも嬉しかったですよ。なので、ガイシア陛下、その生温かい笑顔は一旦引っ込めて頂けると嬉しいのですが?」
「若いのう」
「ですか」
生温かい笑顔は引っ込めないのね。
「それより、今のがウェルソンが作った民謡なんだね!」
セガン陛下もブレないなあ。
「はい。『雨上がり』と言う民謡です」
「確かに、雨上がりの町や村の様子が思い浮かんだよ。それにしても、ウェルソンらしからぬ、ちゃんとした民謡だねえ。セイキュア殿が注文したのかな?」
「いえ、最初に作った曲が難し過ぎて庶民では歌えないので、俺がリテイク出しました」
マエストロにリテイクを出した事に、両陛下も苦笑いだ。だがその中に不思議と温かさを感じる笑顔だが。
「良かったら、セガン陛下もご一緒に弾きますか?」
「ええっ!? いや、昨日も言ったけれど、僕は音楽は好きだけど、音痴で……」
「大丈夫です。指二本しか使わないで結構ですから」
これに首を傾げるセガン陛下に、くすりと笑ってしまう。
「ボールス卿も、音楽が得意な訳じゃなかったじゃないですか。でも、あの方もたまには聴くだけでなく、自分でも弾いてみたいとお思いになりましてね。そこで考えた案なんです」
「成程! 本当に指二本だけなら、僕でもすぐに弾けるね!」
「はい。リズムを取って両手の人差し指でトントンと鳴らしていけば良いだけですから」
俺がそんな説明をしている間にやる気になったセガン陛下がピアノの方へやって来る。俺は足らなくなった椅子をテーブルの方から持ってきてそれに腰掛けると、セガン陛下に「こことここを」と指示を出す。
「では」
俺がそのように促すと、セガン陛下は恐る恐る人差し指でピアノを弾き始める。ピアノは正確に音を奏で始め、俺はそんなセガン陛下のリズムに合わせて、『雨上がり』を重ねていく。
「おお! 凄い! 何だろう!? 自分が凄く上手い人間になれたような気になってくる!」
ふふ。領の子供たちを思い出す。やっぱり最初はこれくらいからが良いんだよ。ウェルソンがおかしいんだ。領の子たち大丈夫かなあ。
などと思いながら『雨上がり』を弾いていると、そこへ被せるようにエラトの音色が部屋に反響してきた。振り返らずとも分かる。インシグニア嬢だ。一度披露しただけで、エラト用にアレンジして弾き熟してしまうのだから、流石としか言えない。
「凄い! 凄いよ! ガイシア! 今僕、ウェルソンのお弟子さんと、『歌姫』インシグニア嬢とアンサンブルしているよ! 凄い! まるで夢みたいだ! 人生最高の日だ!」
こんな簡単な曲なのに、セガン陛下大興奮だな。喜んで貰えたならこちらも提示した甲斐があったと言うものだ。
「ああ、ああ、本当に、今日は人生最高の日だな」
興奮しているセガン陛下とは対照的に、後方のガイシア陛下の口から漏れた声は、すすり泣くように揺れていた。
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