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食い違い
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「うわっ!? 本当に泣いている!」
『雨上がり』を弾き終えて、ガイシア陛下の方へ振り返ったら、本当にガイシア陛下の瞳から涙がこぼれていた。何事!?
「ど、どうされたのでしょう?」
悲しんで泣いているんじゃないよね? 情緒不安定なのかな? 一国の王ともなれば、その責務は凄い事になるだろうし。ひょんな事で感情が揺さぶられる事もあるのかも知れない。
「済まない。変な誤解やら心配をさせてしまったな。セガンが、あんなにも楽しそうにしているのを、私が王となってから殆ど見ていなかったから、それが嬉しくてね」
ガイシア陛下は涙を拭きながら、テーブルに両手を突いてこちらへ頭を下げてくる。執務室でも見た光景だ。
「フェイルーラ君、今回の件、本当に済まなかった!」
「いえ、既に謝罪は受け入れていますし、手打ちになっていますから、ここで更に頭を下げられる必要など……」
「必要ならある!」
どうにかガイシア陛下に頭を上げて貰おうと、俺が言葉を紡げば、ガイシア陛下はその言葉尻を取って頭を上げようとしない。
「先程も言ったように、セガンには私が女王となった事で、要らぬ苦労ばかりさせて、女王となったからこそ幸せに出来た。と言う自信がなかった。それも、奇妙な縁で、フェイルーラ君と出会う事が出来て、セガンのこれからの展望にも光が見えてきた。そして、あの楽しそうな笑顔も……」
ゆっくり頭を上げたガイシア陛下の顔は涙でくしゃくしゃだった。これまでセガン陛下とともに歩んできた人生を振り返ってか、その顔には様々な感情が入り乱れていて、まだ十代の俺には、その全てを紐解ける程、表情から全ての感情を読み取る事は出来なかったが、心が温かくなったので、きっとあの表情は良い感情を含んでいるのだろう。
「全く。そんな事を考えていたのかい? 僕は王配だよ。王選の鐘が君を王位継承者と選んだ時から、添い遂げる覚悟を持って君の横にいたんだ。辛い時も、ままならない時も、子供たちが生まれた時も、あの子たちが立ち上がり、自分の道を進み始めても、僕は君の隣りで君を支えるよ」
「セガン……」
「確かに、嫌な気分になる時もあるけど、その程度で僕は君を見捨てたりしない。いつまでも、君の隣りは僕だけのものだ」
見詰め合う両陛下。ええと、何を見せられているんだ俺は? 思わずインシグニア嬢へ視線を向けると、インシグニア嬢も苦笑いしていた。
✕✕✕✕✕
両陛下に車両用出入り口まで見送りに来られて、畏まってしまう。両陛下がここまでする事など稀なのだろう。車両用出入り口の警備をしている兵士や、車両を磨いている使用人などが直立不動だ。
「送っていくよ」
セガン陛下がそんな事を口にするのだから、その場の全員の注目がどうしてもこちらへ向いてしまう。
「行き先は同じだろう?」
もうすぐ昼になるが、領主貴族の一員として、派閥のボスとして、魔法学校には顔を出しておかないといけない。それはインシグニア嬢も同じだ。
「でしたら、インシグニア嬢だけ、同乗させてあげて下さい」
まるで生贄でも差し出すかのように聞こえたのだろう。インシグニア嬢が物凄い速度でこちらを振り向いた。
「あ、いえ、この後、大聖堂によって、ウェルソンの新曲を届けないといけないので。魔法学校にはその後に」
これに納得する両陛下だが、インシグニア嬢的には納得出来なかったらしい。
「でしたら、私も大聖堂に同行します」
「え? でも楽譜を渡すだけですから。ちょっとした遠回りに付き合わせる訳には……」
「同行します」
ええ?
「諦めよ、賢竜。こやつもこれで強情だ。一度決めたなら、貫く決意のある者よ」
ガイシア陛下の言にセガン陛下もうんうん頷いている。まあ、元は自分たちの息子の婚約者だったんだし、インシグニア嬢自身、この王城で生活していたんだから、その性格も俺より理解しているか。そう言えば、
「ジェンタール兄上は仕事があっただろうけれど、フィアーナの奴、俺が死にそうな目に遭ったってのに、顔も見せなかったな」
俺の恨み節に対して、両陛下が肩を揺らす。
「それは仕方がないよ。フィアーナ嬢は、今、ヴァストドラゴン領に戻っているからね。ヴァストドラゴン家は皆行動力が凄いね」
これをセガン陛下から聞いただけで、何となく理由が察せてしまう。でも父上の剛腕でどうにか出来る問題じゃない。情報戦でグリフォンデン領と闘うのは無理だろう。
「どうしても駄目ですか?」
俺が思案していたからだろう。それをインシグニア嬢は同行に関して色々俺が頭を悩ませていると勘違いしたらしい。
「駄目、と言いますか、本当に一人で向かおうとしていたので」
俺は左手のグローブの空間魔法陣からバイクを取り出す。跨るのではなく、シートに座るタイプの小型のバイクだ。
「これでひとっ走りしてこようと思っていたので、インシグニア嬢を同行させるとなると、分館から車を呼ばないといけなくなるので……」
「可愛い!!」
言い終わる前に声を上げるインシグニア嬢。まあ、確かに戦闘用の跨るタイプのバイクと比べれば可愛いか。形としては流線型よりも更に丸いし、色もクリーム色だし?
「これで大聖堂に向かうんですか!?」
「え? 乗るつもりなんですか?」
「はい!!」
何と言うか……、『乗り気』だ。
「王都って安全ですかね?」
「アグニウス卿が官憲機構に手を加えて、憲兵の数を増やしたから、城壁の中なら比較的に安全な方かな」
俺の独り言のような呟きに、セガン陛下が答えてくれた。俺の眼前では、丸いフォルムのバイクの周囲を、ぐるぐる回りながらインシグニア嬢がワクワクしている。その後ろから、ガイシア陛下が面白そうなものを前にしたようにぐるぐるしているのは、止めなくて良いのかな?
「見た事のないタイプのバイクだな」
ガイシア陛下が一通り見終わった後、俺に質問してきた。
「あ、はい。私を見て分かるとお思いでしょうけれど、魔力量的にあまり大きなものは空間魔法で収納出来ないんです。戦闘用のバイクは、ギリギリ私が収納出来る範囲を超えており、戦闘の時には側近などから拝借して運用しているんです。これは本当に街をブラつく為に作った代物ですね」
「これをフェイルーラ様がお作りになられたのですか!?」
インシグニア嬢の声が弾んでいる。
「設計図を引いただけです。実際に製作したのは、自領の職人です」
「その権利は、その職人さんがお持ちなのですか!?」
「いえ、私の商会で製作を依頼したので、権利関係は私の商会ですね」
「ワースウィーズ商会ですね!」
「はい。……え? もしかして、量産するおつもりですか?」
「はい!! これは売れます!!」
う~ん、どうだろう?
「ワースウィーズ商会は、賢竜が後見なのか?」
今度はガイシア陛下か。と言うか陛下もワースウィーズ商会の事をご存知だったのか。
「はい。まあ、食糧庫としての務めの邪魔にならない範囲で、一般市民の生活向上を目的に」
「ああ。その理念を感じるラインナップだな」
ガイシア陛下だけでなく、セガン陛下も頷いている。マーチャル、お前凄いな!
はあ。ここにずっといると、何か出発がどんどん遅れそうだ。
「分かりました」
俺は降参とばかりに両手を上げてから、グローブからヘルメットを取り出し、インシグニア嬢の頭に被せ、顎紐に弛みがないかを確認すると、自分の分のヘルメットも取り出し被り、バイクに座る。
「後ろに座って下さい」
「はい!!」
元気な返事で応え、インシグニア嬢は横座りとなり俺の胴に両手を絡ませる。
「じゃ、軽く流す程度で走りますね」
「分かりました!!」
こうして俺とインシグニア嬢は、王城から大聖堂へ向けてバイクで走り出したのだった。
『雨上がり』を弾き終えて、ガイシア陛下の方へ振り返ったら、本当にガイシア陛下の瞳から涙がこぼれていた。何事!?
「ど、どうされたのでしょう?」
悲しんで泣いているんじゃないよね? 情緒不安定なのかな? 一国の王ともなれば、その責務は凄い事になるだろうし。ひょんな事で感情が揺さぶられる事もあるのかも知れない。
「済まない。変な誤解やら心配をさせてしまったな。セガンが、あんなにも楽しそうにしているのを、私が王となってから殆ど見ていなかったから、それが嬉しくてね」
ガイシア陛下は涙を拭きながら、テーブルに両手を突いてこちらへ頭を下げてくる。執務室でも見た光景だ。
「フェイルーラ君、今回の件、本当に済まなかった!」
「いえ、既に謝罪は受け入れていますし、手打ちになっていますから、ここで更に頭を下げられる必要など……」
「必要ならある!」
どうにかガイシア陛下に頭を上げて貰おうと、俺が言葉を紡げば、ガイシア陛下はその言葉尻を取って頭を上げようとしない。
「先程も言ったように、セガンには私が女王となった事で、要らぬ苦労ばかりさせて、女王となったからこそ幸せに出来た。と言う自信がなかった。それも、奇妙な縁で、フェイルーラ君と出会う事が出来て、セガンのこれからの展望にも光が見えてきた。そして、あの楽しそうな笑顔も……」
ゆっくり頭を上げたガイシア陛下の顔は涙でくしゃくしゃだった。これまでセガン陛下とともに歩んできた人生を振り返ってか、その顔には様々な感情が入り乱れていて、まだ十代の俺には、その全てを紐解ける程、表情から全ての感情を読み取る事は出来なかったが、心が温かくなったので、きっとあの表情は良い感情を含んでいるのだろう。
「全く。そんな事を考えていたのかい? 僕は王配だよ。王選の鐘が君を王位継承者と選んだ時から、添い遂げる覚悟を持って君の横にいたんだ。辛い時も、ままならない時も、子供たちが生まれた時も、あの子たちが立ち上がり、自分の道を進み始めても、僕は君の隣りで君を支えるよ」
「セガン……」
「確かに、嫌な気分になる時もあるけど、その程度で僕は君を見捨てたりしない。いつまでも、君の隣りは僕だけのものだ」
見詰め合う両陛下。ええと、何を見せられているんだ俺は? 思わずインシグニア嬢へ視線を向けると、インシグニア嬢も苦笑いしていた。
✕✕✕✕✕
両陛下に車両用出入り口まで見送りに来られて、畏まってしまう。両陛下がここまでする事など稀なのだろう。車両用出入り口の警備をしている兵士や、車両を磨いている使用人などが直立不動だ。
「送っていくよ」
セガン陛下がそんな事を口にするのだから、その場の全員の注目がどうしてもこちらへ向いてしまう。
「行き先は同じだろう?」
もうすぐ昼になるが、領主貴族の一員として、派閥のボスとして、魔法学校には顔を出しておかないといけない。それはインシグニア嬢も同じだ。
「でしたら、インシグニア嬢だけ、同乗させてあげて下さい」
まるで生贄でも差し出すかのように聞こえたのだろう。インシグニア嬢が物凄い速度でこちらを振り向いた。
「あ、いえ、この後、大聖堂によって、ウェルソンの新曲を届けないといけないので。魔法学校にはその後に」
これに納得する両陛下だが、インシグニア嬢的には納得出来なかったらしい。
「でしたら、私も大聖堂に同行します」
「え? でも楽譜を渡すだけですから。ちょっとした遠回りに付き合わせる訳には……」
「同行します」
ええ?
「諦めよ、賢竜。こやつもこれで強情だ。一度決めたなら、貫く決意のある者よ」
ガイシア陛下の言にセガン陛下もうんうん頷いている。まあ、元は自分たちの息子の婚約者だったんだし、インシグニア嬢自身、この王城で生活していたんだから、その性格も俺より理解しているか。そう言えば、
「ジェンタール兄上は仕事があっただろうけれど、フィアーナの奴、俺が死にそうな目に遭ったってのに、顔も見せなかったな」
俺の恨み節に対して、両陛下が肩を揺らす。
「それは仕方がないよ。フィアーナ嬢は、今、ヴァストドラゴン領に戻っているからね。ヴァストドラゴン家は皆行動力が凄いね」
これをセガン陛下から聞いただけで、何となく理由が察せてしまう。でも父上の剛腕でどうにか出来る問題じゃない。情報戦でグリフォンデン領と闘うのは無理だろう。
「どうしても駄目ですか?」
俺が思案していたからだろう。それをインシグニア嬢は同行に関して色々俺が頭を悩ませていると勘違いしたらしい。
「駄目、と言いますか、本当に一人で向かおうとしていたので」
俺は左手のグローブの空間魔法陣からバイクを取り出す。跨るのではなく、シートに座るタイプの小型のバイクだ。
「これでひとっ走りしてこようと思っていたので、インシグニア嬢を同行させるとなると、分館から車を呼ばないといけなくなるので……」
「可愛い!!」
言い終わる前に声を上げるインシグニア嬢。まあ、確かに戦闘用の跨るタイプのバイクと比べれば可愛いか。形としては流線型よりも更に丸いし、色もクリーム色だし?
「これで大聖堂に向かうんですか!?」
「え? 乗るつもりなんですか?」
「はい!!」
何と言うか……、『乗り気』だ。
「王都って安全ですかね?」
「アグニウス卿が官憲機構に手を加えて、憲兵の数を増やしたから、城壁の中なら比較的に安全な方かな」
俺の独り言のような呟きに、セガン陛下が答えてくれた。俺の眼前では、丸いフォルムのバイクの周囲を、ぐるぐる回りながらインシグニア嬢がワクワクしている。その後ろから、ガイシア陛下が面白そうなものを前にしたようにぐるぐるしているのは、止めなくて良いのかな?
「見た事のないタイプのバイクだな」
ガイシア陛下が一通り見終わった後、俺に質問してきた。
「あ、はい。私を見て分かるとお思いでしょうけれど、魔力量的にあまり大きなものは空間魔法で収納出来ないんです。戦闘用のバイクは、ギリギリ私が収納出来る範囲を超えており、戦闘の時には側近などから拝借して運用しているんです。これは本当に街をブラつく為に作った代物ですね」
「これをフェイルーラ様がお作りになられたのですか!?」
インシグニア嬢の声が弾んでいる。
「設計図を引いただけです。実際に製作したのは、自領の職人です」
「その権利は、その職人さんがお持ちなのですか!?」
「いえ、私の商会で製作を依頼したので、権利関係は私の商会ですね」
「ワースウィーズ商会ですね!」
「はい。……え? もしかして、量産するおつもりですか?」
「はい!! これは売れます!!」
う~ん、どうだろう?
「ワースウィーズ商会は、賢竜が後見なのか?」
今度はガイシア陛下か。と言うか陛下もワースウィーズ商会の事をご存知だったのか。
「はい。まあ、食糧庫としての務めの邪魔にならない範囲で、一般市民の生活向上を目的に」
「ああ。その理念を感じるラインナップだな」
ガイシア陛下だけでなく、セガン陛下も頷いている。マーチャル、お前凄いな!
はあ。ここにずっといると、何か出発がどんどん遅れそうだ。
「分かりました」
俺は降参とばかりに両手を上げてから、グローブからヘルメットを取り出し、インシグニア嬢の頭に被せ、顎紐に弛みがないかを確認すると、自分の分のヘルメットも取り出し被り、バイクに座る。
「後ろに座って下さい」
「はい!!」
元気な返事で応え、インシグニア嬢は横座りとなり俺の胴に両手を絡ませる。
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