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皮肉

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「アダマンティアって……」

 ジュウベエ君の呟きに頷く。

「学長であり王族のお一人だよ。王位継承権はグロブス殿下よりも低いけれどね」

「そうなのか?」

「この国の王位継承権は、現国王の子供にまず継承権が与えられる。スフィアン王太子が第一位で、ついで二人いるグロブス殿下の姉君のうちの一人、ディメニア姫殿下が二位、グロブス殿下は第三位だね」

「へえ。国王の子供でも王位継承権を持たない子供も……、ああ、金眼じゃないのか」

「金眼であるかよりも、大聖堂の王選の鐘が鳴らなかった事の方が、この国では重要視されるね。第一王女であるスペーシャ王女の時には鳴らなかったんだよ」

「成程」

 これに腕組みするジュウベエ君。

「学長は鐘が鳴ったのか?」

「ああ、でも学長は現国王であるガイシア女王陛下よりも年上だから、王位継承権がグロブス殿下よりも低いんだ」

「ああ、君主制的観点から見ると、次代の国王が現国王よりも年上だと、新陳代謝が早過ぎて、世の中が乱れるか」

 ジュウベエ君は変なところで頭が冴えているな。これでうっかりがなくなれば、良い武将なり将軍なりになれるだろう。うっかりがなくなれば。

「そう言う事だね」

「成程なあ。女王よりも年上だから…………、女王よりも年上なのか!?」

 学長を名乗った灰色髪の青年? の姿に目を見開くジュウベエ君。確かに、女王陛下よりも年上には見えないよね。見た目はセガン陛下と同年代だ。

「因みに、ナーサリウス学長は、隣りのセガン陛下よりも年上、セガン陛下やガイシア女王陛下、私の両親がこの王立魔法学校に通っていた頃には、既に学長だったお方だよ」

 俺の言葉に、ジュウベエ君の顔が信じられないものを見たようなものになる。気持ちは分かる。多分魔法で若さを維持しているのだろうけれど、見た目は二十代と言われても遜色ないお兄さんくらいの印象だ。

「さて。ガイシアの時にも言ったけれど、王族の威光なんて、羽虫が群がる誘蛾灯のようなものだ。群がる羽虫を自身の支持者と勘違いしていると、痛い目を見るのは君だよ? グロブス君。もしも今後この学校で王族の威光を振り回すようなら、この学校に対して害であると断じて、退学もあり得る事を覚えておくんだね」

「た、退学!?」

 学長と知って青ざめていたグロブス殿下の顔が土気色まで変色する。まあ、王立魔法学校を退学にでもなったら、たとえ今後グロブス殿下にまで王位継承権が回ってきたとしても、一般市民からの指示は得られないだろうからなあ。

「他の領主貴族のお子たちも、そこを理解して行動するんだね。私には、それをする権限があり、そして私の目は、この学校全体に張り巡らされている。隠れてやり過ごせばバレない。なんて浅はかな考えだと、本当に退学処分にするから、肝に銘じておくように」

『はい!』

 学長の言に、領主貴族の子息令嬢たちが真面目に返事をする。王族が王族に圧を掛けるところを目の当たりにしたのだから、そうなるのも当然か。って、何故か学長からこちらに視線を向けられたんですけど?

「何か?」

「いや、今返事をしなかったと言う事は、バレないように何かやらかすのかな? と思ってね」

 おう。返事をしなかっただけで敵対行動と受け取られてしまった。

「別に私はこの場で四大貴族の威光を振り回した訳でもありませんし、今後、学校に楯突くつもりもありませんが? ああ、今の話を派閥に共有するくらいはしますかね」

 俺の返答に軽く目を見張る学長。

「………成程。セガンが肝の据わったお子だと言っていたのが分かったよ」

「いえいえ、私なんて、吹けば飛ぶような存在ですよ」

「吹いて飛んだのは、ガイシアの近衛騎士の方だろう?」

 ふむ。セガン陛下と学長との間の話で、俺の話題が出たようだ。まあ、当然か。

「あれは、先攻のハンデを貰っていましたから」

「守護特化の近衛騎士が、先攻を取られたくらいで吹き飛ばされていたら、女王の守護など務まらないよ」

 そう言われてもなあ。

「でも相手の何とかさん……」

「タフレングス卿です」

 インシグニア嬢が補足してくれたが、そのせいで周囲に要らぬ動揺が広がる。どうやらタフレングス卿は有名人だったらしい。

「そのタフ何とかさんは、私相手に剣を抜いただけで、守護精霊を呼ぶ事も、防御体勢も取らなかったんですよ?」

「それでも危急に対処出来てこその近衛騎士だよ」

「そうですね。それは私も思います。翌日にはタフ何とかさんは女王陛下の側にはおらず、女性騎士……、いや、あれは守護精霊かな? が側に侍っていました」

 あの女性騎士、今振り返ると、人間にしては実体感が希薄だったんだよなあ。女王陛下と言っても、そんなすぐに筆頭騎士をすげ替える事は出来なかったのだろう。

「ふっ。本当に王城の規律を滅茶苦茶にしてここに来たようだね」

 学長に同意するかのように、周囲の領主貴族家の子息や令嬢、グロブス殿下まで引いている。

「そうですね。王城は堅固でしたが、内部の規律は吹けば飛ぶようなものだったようです」

 俺が少し皮肉混じり発言すれば、周囲が更にざわめく。そんな中、学長だけは口角をこれ以上ないくらい上げて喜びの表情を顔に浮かべる。

「良いね。長年学校に従事していると、何年かに一人二人、君のようなそれまでの常識をぶち壊す人間が現れる。私はそれがとても痛快でね。君が、君の派閥が、君の寮が、この学校にどんな新風を齎すか、高みの見物をさせて貰おうかな」

 そりゃあ学長ですからね。一番上からの高みの見物でしょうよ。いや、王立だから、ガイシア陛下が一番上なのかな。まあどっちでも良いや。ふう。肩を竦めて心を落ち着かせる。

「そんなに期待されても、私は出来る範囲の事しか出来ませんよ。それよりも、いつまで全員この場に留まっていれば良いのか、そっちの方が、私は気になりますね」

 これには腹を抱えて笑みをこぼす学長。何がツボだったのか全く分からん。

「そうだな。皆も、ここにいても無為な時間を過ごすだけだ。下に移動しよう」

 学長の言に沿って、リガス卿がエレベーターを動かし始めたのだった。
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