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やり取りの違い
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五日目の朝。はあ、だっる。ぼけぼけした頭と視界のまま、もぞもぞとベッドから這い出ると、浄化カードで身体を綺麗にしてから着替える。何となくカーテン越しの日差しがこれまでと違う気がしてカーテンを開けると、空は暗く雨がしとしと降っており、城壁の外では雪が降っていた。
(雪か。城壁内だと雨なのが不思議だな)
入学式は立春だから、まだ雪が降るのは分かるが、王領は一年通して余り雪が降らないらしいから、これが見納めかもなあ。しかし、常春の魔法で守られているからか、城壁内と外で天気が違うのは面白い。
(はあ。この不思議な光景を見続けるのも一興だが、今日も予定が入っているんだよなあ)
俺は部屋の机に置かれたテレフォンに手を掛け、領都ドラゴンネストの聖堂に連絡する。数刻して聖堂の神官がテレフォンに出たので、ウェルソンに繋いで貰う。
『何だ?』
テレフォンに出たウェルソンの声は明らかに嫌そうだ。だが、これがウェルソンの通常運転なので、特段気になりはしないが。
「良かったよ。まだ領都にいて」
『もうすぐ出発だ。用件があるなら手短にしろ』
周遊旅団にくっついていく為の準備をしていたから、機嫌が悪かったらしい。
「いやあ、俺の周辺も変化したのは聞いているだろ?」
『それがどうした? 俺は王都には行かんぞ?』
王都に嫌な思い出でもあるのかな?
「いや、ウェルソンじゃなく、場合によるけど、シキイにこっちに来て貰うかも知れない」
『良いんじゃないか。好きにしろ。あいつはお前に懐いているからな』
シキイを犬猫扱いか。まあ良いけど。
「まあ、場合によるよ。王立魔法学校の音楽倶楽部? って奴の専任指導者になって貰おうと思って」
『シキイで務まるのか? お前がやれ』
ウェルソンからのシキイの評価が低い。
「あれでも王都ではリリップと並んでマエストロと評されていたらしいよ?」
『王都の聴衆の質も落ちたものだな』
「いや、二人とも上手いでしょ」
『お前レベルなら、そう思うか。先に言っておくが、リリップはそっちに送らんぞ』
「分かっているよ。ウェルソン、リリップ、シキイが領都の聖堂にいるのがバレたから、そっちに迷惑掛ける可能性があるんで、それも含めてこっちも先にテレフォンした訳だし」
リリップに聖堂から抜けられては、聖堂の神官尼官たちから俺が恨まれる。
『そうか。ボールス卿に連絡しておこう』
「迷惑お掛けして済みません」
『ふん。今更だ。お前がガキの頃から現在進行形で迷惑掛けられ続けているからな』
ははは、乾いた笑いしか出ないな。
『話はそれだけか?』
「あ~、シキイをこちらに送って貰う代価として、ピアノって言う打弦楽器を贈るよ」
『ピアノ? 商人から噂くらいは聞いたな。弾いたのか?』
「うん。形としてはオルガンに似ているね」
『弦楽器なのにか?』
「うん。鍵盤を押すと、それに連動して、長さの違う弦を叩く機構になっているんだよ」
『ほう』
どうやらピアノに興味が湧いてきたようだ。
「音色的にはオルガンのような身体全体で浴びるような荘厳なものと違って、耳と心を擽るような澄清な音色だね。ウェルソンも気に入ると思う。オルガン弾ければすぐに弾けるし、俺はもう買った」
『ほう。面白そうだな』
「まあ、流石に持ち運べるレベルの大きさじゃないから、それなりに場所を取るけどね』
『お前じゃないんだ。俺なら空間魔法陣に入る』
悪かったね、魔力量が少なくて。
「今日、王立魔法学校の音楽倶楽部に行くから、シキイを連れてくるかどうかは、そこで倶楽部のレベルを測ってからかな? ああ、シキイを連れて来ない事になっても、ピアノは贈るよ。俺もウェルソンから色々楽器貰ったし」
『俺はダブったものを渡しただけだ』
まあ、それでもありがたかったのだ。楽器はどれだけ繊細に丁寧に扱おうと、壊れてしまうから。今俺が使っているのは、ウェルソンが王都にいた時代に、様々な楽器工房から贈られたものを、壊れた部分を継ぎ接ぎしたものだ。領地的特性で、金属製の楽器の部品とか手に入り辛いんだよねえ。逆に木製楽器の部品は自領で賄える。消耗品のリードとか。
「話はそれくらいかな」
『そうか。じゃあ、俺はこれからドサ回りだ。じゃあな』
言ってウェルソンの方からテレフォンを切られてしまった。相変わらず勝手な奴だ。ここは相変わらずで良かったと思うべきか。
ウェルソンとのテレフォンが終わったところで、部屋を出る。変わらずアーネスシスと派閥の男子が部屋の前に立っていた。
「おはよう」
『おはようございます』
二人の返事に頷いてから食堂に向かう。こんな待遇にこの数日でちょっと慣れてしまった自分に少しの自省を促しながら。
✕✕✕✕✕
「済みません、音楽倶楽部に行く、先か後か、時間って貰えますか?」
当たり前のように車でグリフォンデン領の分館に向かった俺は、当たり前のようにインシグニア嬢と侍女二人と、車で王立魔法学校へ向かっている。
「何かご用がありましたか?」
用があったのに音楽倶楽部の練習に俺を差し込む形になったとでも思ったのか、インシグニア嬢の声音から、俺を気遣ったものを感じた。
「いえ、ほら、シキイを迎えるに当たって、ピアノを領都の聖堂に贈るって言ったじゃないですか。だから、どこかで楽器店に寄れないかと思っただけで、今日みっちり練習するなら、こっちの用は後日で構いませんので」
「ああ。楽器の発注や発送でしたら、すぐ終わると思いますので、先に楽器店に行きましょう」
インシグニア嬢がそう口にすると、侍女の一人が運転手に行き先の変更を告げる。これは、今日は音楽倶楽部でみっちり練習するから、雑事は先に片付けておこう。と言う考えかな? まあ、大聖堂でも濃密な練習していたもんなあ。
✕✕✕✕✕
「これはこれは、またお二人でお越し下さるとは、ありがとうございます」
先日とは打って変わり、今日の楽器店の店長は俺へも敬意を持った対応をしてくれた。
「本日はどのようなご要件でしょうか?」
「ピアノをまた購入しようと思いまして」
「え? ピアノをですか?」
「? はい」
俺の言に目を見張り、困惑顔となる店長。そのままインシグニア嬢の方へ視線を向けるもインシグニア嬢は首肯を返すだけだ。
「あ、ありがとうございます。ピアノは他の楽器よりも高額ですから、貴族様でも、そうおいそれと購入なさる方はおられないのですよ」
俺の顔に「説明して」とでも書いてあったのか、店長が自身が困惑した理由を説明してくれた。成程。
「それはそうでしょうね。場所も取りますし。今回は領都の聖堂への贈答用の購入です」
「成程。そうでございましたか。フェイルーラ様は、とても敬虔なデウサリウス教の信徒なのでございますね」
そんな事はない。逆に、神に祈っても事態は好転しないと考えている方だ。自分の人生は自分で切り開かないといけない。と幼少時に既に周囲から叩き込まれたからね。
「なので、二台購入させて下さい」
「に、二台ですか!?」
これには店長だけでなく、インシグニア嬢や侍女二人も目を丸くする。今朝のウェルソンとのテレフォンで、ウェルソンがピアノを持ち運ぶのは決定っぽいからねえ。そうなると聖堂のリリップが触れる事が出来なくなる。シキイはこっちに来れば弾けるだろうから、仲間外れは可哀想だ。
店長がまたインシグニア嬢に視線を送ると、今度はインシグニア嬢も首を横に振る。何なの? さっきから。俺が訳が分からないうちに、侍女の一人がインシグニア嬢に耳打ちして、これに何やら納得するインシグニア嬢。
「フェイルーラ様は、ワースウィーズ商会の運営者ですので、代金の問題はないかと」
これを聞いて納得する店長。ああ、払えないとか、踏み倒すとか思われていたのか。そんな事はしない。
「分かりました。では、ピアノ二台でございますね」
「ああ、それとシャミセン? ってまだありますよね?」
「? はい、ございますが?」
「なら、それもあるだけ全部下さい」
「あるだけ、ですか?」
「はい。四つは聖堂へ発送して、残りは前と同様に機を見て王立魔法学校の方へ送って……、いや、一つはここで購入しちゃおうかな」
俺の言動はここではおかしく映るらしく、皆から変なものを見るような視線を向けられて、何とも居心地が悪い。
「シャミセンも購入されるのですか?」
インシグニア嬢の言に頷く。
「単純な興味です。扱った事のない楽器に触れてみたい、的な? ジュウベエ君もいるから、色々教えて貰えるでしょうし、ジュウベエ君たちの予備としても欲しいところなので」
俺が説明したら、これに納得したらしいインシグニア嬢と侍女二人。置いてきぼりは店長だ。
「まあ、楽器を始めるのなんて、親の意向でもなければ、興味が湧いた。くらいのものでしょ?」
俺が店長に説明すれば、流石は楽器店を経営しているだけあり、これには同意してくれたらしく、ピアノとシャミセンの購入、発注、発送の手続きは恙無く行われたのだった。
(雪か。城壁内だと雨なのが不思議だな)
入学式は立春だから、まだ雪が降るのは分かるが、王領は一年通して余り雪が降らないらしいから、これが見納めかもなあ。しかし、常春の魔法で守られているからか、城壁内と外で天気が違うのは面白い。
(はあ。この不思議な光景を見続けるのも一興だが、今日も予定が入っているんだよなあ)
俺は部屋の机に置かれたテレフォンに手を掛け、領都ドラゴンネストの聖堂に連絡する。数刻して聖堂の神官がテレフォンに出たので、ウェルソンに繋いで貰う。
『何だ?』
テレフォンに出たウェルソンの声は明らかに嫌そうだ。だが、これがウェルソンの通常運転なので、特段気になりはしないが。
「良かったよ。まだ領都にいて」
『もうすぐ出発だ。用件があるなら手短にしろ』
周遊旅団にくっついていく為の準備をしていたから、機嫌が悪かったらしい。
「いやあ、俺の周辺も変化したのは聞いているだろ?」
『それがどうした? 俺は王都には行かんぞ?』
王都に嫌な思い出でもあるのかな?
「いや、ウェルソンじゃなく、場合によるけど、シキイにこっちに来て貰うかも知れない」
『良いんじゃないか。好きにしろ。あいつはお前に懐いているからな』
シキイを犬猫扱いか。まあ良いけど。
「まあ、場合によるよ。王立魔法学校の音楽倶楽部? って奴の専任指導者になって貰おうと思って」
『シキイで務まるのか? お前がやれ』
ウェルソンからのシキイの評価が低い。
「あれでも王都ではリリップと並んでマエストロと評されていたらしいよ?」
『王都の聴衆の質も落ちたものだな』
「いや、二人とも上手いでしょ」
『お前レベルなら、そう思うか。先に言っておくが、リリップはそっちに送らんぞ』
「分かっているよ。ウェルソン、リリップ、シキイが領都の聖堂にいるのがバレたから、そっちに迷惑掛ける可能性があるんで、それも含めてこっちも先にテレフォンした訳だし」
リリップに聖堂から抜けられては、聖堂の神官尼官たちから俺が恨まれる。
『そうか。ボールス卿に連絡しておこう』
「迷惑お掛けして済みません」
『ふん。今更だ。お前がガキの頃から現在進行形で迷惑掛けられ続けているからな』
ははは、乾いた笑いしか出ないな。
『話はそれだけか?』
「あ~、シキイをこちらに送って貰う代価として、ピアノって言う打弦楽器を贈るよ」
『ピアノ? 商人から噂くらいは聞いたな。弾いたのか?』
「うん。形としてはオルガンに似ているね」
『弦楽器なのにか?』
「うん。鍵盤を押すと、それに連動して、長さの違う弦を叩く機構になっているんだよ」
『ほう』
どうやらピアノに興味が湧いてきたようだ。
「音色的にはオルガンのような身体全体で浴びるような荘厳なものと違って、耳と心を擽るような澄清な音色だね。ウェルソンも気に入ると思う。オルガン弾ければすぐに弾けるし、俺はもう買った」
『ほう。面白そうだな』
「まあ、流石に持ち運べるレベルの大きさじゃないから、それなりに場所を取るけどね』
『お前じゃないんだ。俺なら空間魔法陣に入る』
悪かったね、魔力量が少なくて。
「今日、王立魔法学校の音楽倶楽部に行くから、シキイを連れてくるかどうかは、そこで倶楽部のレベルを測ってからかな? ああ、シキイを連れて来ない事になっても、ピアノは贈るよ。俺もウェルソンから色々楽器貰ったし」
『俺はダブったものを渡しただけだ』
まあ、それでもありがたかったのだ。楽器はどれだけ繊細に丁寧に扱おうと、壊れてしまうから。今俺が使っているのは、ウェルソンが王都にいた時代に、様々な楽器工房から贈られたものを、壊れた部分を継ぎ接ぎしたものだ。領地的特性で、金属製の楽器の部品とか手に入り辛いんだよねえ。逆に木製楽器の部品は自領で賄える。消耗品のリードとか。
「話はそれくらいかな」
『そうか。じゃあ、俺はこれからドサ回りだ。じゃあな』
言ってウェルソンの方からテレフォンを切られてしまった。相変わらず勝手な奴だ。ここは相変わらずで良かったと思うべきか。
ウェルソンとのテレフォンが終わったところで、部屋を出る。変わらずアーネスシスと派閥の男子が部屋の前に立っていた。
「おはよう」
『おはようございます』
二人の返事に頷いてから食堂に向かう。こんな待遇にこの数日でちょっと慣れてしまった自分に少しの自省を促しながら。
✕✕✕✕✕
「済みません、音楽倶楽部に行く、先か後か、時間って貰えますか?」
当たり前のように車でグリフォンデン領の分館に向かった俺は、当たり前のようにインシグニア嬢と侍女二人と、車で王立魔法学校へ向かっている。
「何かご用がありましたか?」
用があったのに音楽倶楽部の練習に俺を差し込む形になったとでも思ったのか、インシグニア嬢の声音から、俺を気遣ったものを感じた。
「いえ、ほら、シキイを迎えるに当たって、ピアノを領都の聖堂に贈るって言ったじゃないですか。だから、どこかで楽器店に寄れないかと思っただけで、今日みっちり練習するなら、こっちの用は後日で構いませんので」
「ああ。楽器の発注や発送でしたら、すぐ終わると思いますので、先に楽器店に行きましょう」
インシグニア嬢がそう口にすると、侍女の一人が運転手に行き先の変更を告げる。これは、今日は音楽倶楽部でみっちり練習するから、雑事は先に片付けておこう。と言う考えかな? まあ、大聖堂でも濃密な練習していたもんなあ。
✕✕✕✕✕
「これはこれは、またお二人でお越し下さるとは、ありがとうございます」
先日とは打って変わり、今日の楽器店の店長は俺へも敬意を持った対応をしてくれた。
「本日はどのようなご要件でしょうか?」
「ピアノをまた購入しようと思いまして」
「え? ピアノをですか?」
「? はい」
俺の言に目を見張り、困惑顔となる店長。そのままインシグニア嬢の方へ視線を向けるもインシグニア嬢は首肯を返すだけだ。
「あ、ありがとうございます。ピアノは他の楽器よりも高額ですから、貴族様でも、そうおいそれと購入なさる方はおられないのですよ」
俺の顔に「説明して」とでも書いてあったのか、店長が自身が困惑した理由を説明してくれた。成程。
「それはそうでしょうね。場所も取りますし。今回は領都の聖堂への贈答用の購入です」
「成程。そうでございましたか。フェイルーラ様は、とても敬虔なデウサリウス教の信徒なのでございますね」
そんな事はない。逆に、神に祈っても事態は好転しないと考えている方だ。自分の人生は自分で切り開かないといけない。と幼少時に既に周囲から叩き込まれたからね。
「なので、二台購入させて下さい」
「に、二台ですか!?」
これには店長だけでなく、インシグニア嬢や侍女二人も目を丸くする。今朝のウェルソンとのテレフォンで、ウェルソンがピアノを持ち運ぶのは決定っぽいからねえ。そうなると聖堂のリリップが触れる事が出来なくなる。シキイはこっちに来れば弾けるだろうから、仲間外れは可哀想だ。
店長がまたインシグニア嬢に視線を送ると、今度はインシグニア嬢も首を横に振る。何なの? さっきから。俺が訳が分からないうちに、侍女の一人がインシグニア嬢に耳打ちして、これに何やら納得するインシグニア嬢。
「フェイルーラ様は、ワースウィーズ商会の運営者ですので、代金の問題はないかと」
これを聞いて納得する店長。ああ、払えないとか、踏み倒すとか思われていたのか。そんな事はしない。
「分かりました。では、ピアノ二台でございますね」
「ああ、それとシャミセン? ってまだありますよね?」
「? はい、ございますが?」
「なら、それもあるだけ全部下さい」
「あるだけ、ですか?」
「はい。四つは聖堂へ発送して、残りは前と同様に機を見て王立魔法学校の方へ送って……、いや、一つはここで購入しちゃおうかな」
俺の言動はここではおかしく映るらしく、皆から変なものを見るような視線を向けられて、何とも居心地が悪い。
「シャミセンも購入されるのですか?」
インシグニア嬢の言に頷く。
「単純な興味です。扱った事のない楽器に触れてみたい、的な? ジュウベエ君もいるから、色々教えて貰えるでしょうし、ジュウベエ君たちの予備としても欲しいところなので」
俺が説明したら、これに納得したらしいインシグニア嬢と侍女二人。置いてきぼりは店長だ。
「まあ、楽器を始めるのなんて、親の意向でもなければ、興味が湧いた。くらいのものでしょ?」
俺が店長に説明すれば、流石は楽器店を経営しているだけあり、これには同意してくれたらしく、ピアノとシャミセンの購入、発注、発送の手続きは恙無く行われたのだった。
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