SPIRITS TIMES ARMS

西順

文字の大きさ
76 / 103

口下手の言い訳

しおりを挟む
「雨が強くなってきましたね」

「そうですね」

 朝から降り続いている雨足が強くなっているのが車の中からでも分かる。そんな会話をインシグニア嬢と交わしているうちに、車は王立魔法学校の裏門に着いた。

 車の中から昨日と同じ門兵と事務員に軽く頭を下げながら、駐車場に乗り込み、車が停止すると、少しして運転手により後部座席のドアが開けられた。

 運転手から差し出された傘を侍女二人が受け取るより早く俺が受け取ると、

「ありがとうございます」

 と運転手に礼を述べて、傘を開いて外に出る。

 それからインシグニア嬢が雨に濡れないように、傘を車に沿わせるように覆い、インシグニア嬢を俺の傘の下に呼び込む。

 インシグニアと相合傘で、雨に濡れないように素早く裏口まで行くと、ひさしの下で傘を閉じる。

「あれ? ストラップのIDカードなしで、裏口開けられるんですか?」

 侍女二人も傘を閉じる中、三人に尋ねるが、三人から首を横に振られてしまった。ではどうやって? と思っているうちに、侍女の一人がIDカードを翳す場所のインターホンを押す。あ、そんなのあったんだ。

 インターホンを押すと、すぐに見知った顔が内側からドアを開けてくれた。王城で会った、毛先が薄紫の白髪の令嬢だ。その後ろでは赤茶色の髪に黄緑の瞳をした少年が、優雅にこちらへ一礼した。

「ようこそお越し下さいました」

 令嬢の声にはホッとしている様子が滲んでいる。王城で色々あったのを知っているのだ、そんな声音にもなるだろう。

「済みません、私まで付いて来てしまって」

「いえ、セガン監督官から話は伺っておりますから」

 どこまで話が通っているのか知らないが、声が弾んでいる。俺がマエストロ・ウェルソンの弟子と言うのは聞き及んでいるのかも知れない。しかし、一歩引いた場所にいる少年の方は胡乱な目をこちらへ向けていた。まあ、ぽっと出の俺なんて信用ならないよね。

 ✕✕✕✕✕

「やあ、フェイルーラ君、良く来たね」

 四階の、千人は入れるだろう上にも横にも広い伽藍堂がらんどうな部屋に通されると、音楽倶楽部の面々とセガン陛下、いや、セガン監督官が待っていた。

「お待たせしましたか?」

「いやいや、合同練習にはまだ三十分あるから、そんな事ないよ。単に僕の気が逸って、早く来ちゃっただけだから、気にしないで」

「そうでしたか」

 セガン監督官は、こう言う事で細かく愚痴愚痴言う方でないので助かる。

「それにしても……」

 音楽倶楽部の面々に目を向けても既に勢揃いのようだ。八十人くらいいる。大聖堂の聖歌隊より多いな。

「彼らはインシグニア嬢が来るより前に自主練をするのが習慣になっているから」

 セガン監督官の言葉に納得する。インシグニア嬢と一緒に歌奏をするなら、そりゃあ先に来て自主練するよな。そして制服の色がバラバラだ。正確には五色だ。これは寮の違いだろう。夏の草木のような深緑が俺やインシグニア嬢が入寮するヴァストドラゴン寮で、深い海のような深青がオブリウスのいるタイフーンタイクン寮、琥珀のような濃黄色のギガントシブリングス寮、水銀由来を想起させる朱色のグリフォンデン寮、そして研究生と思われる白色の制服の者たち。それぞれの寮に特色がある。

「さて、インシグニア嬢も来たので、合同練習を始めましょう」

 そう音楽倶楽部の面々に声を掛ける先程の令嬢。俺たちを迎えてくれたこの令嬢は、どうやらこの音楽倶楽部の部長だったらしく、名をイッシャーナ・シュールズ嬢と言うそうだ。ムジカット共和国出身で、何とエムエム君の従姉妹だとか。同じく迎えてくれた少年の方は、クルザール・ギープ君。イッシャーナ嬢の制服は青で、クルザール君の制服は黄色だ。

「さて、僕たちは座って見学しようか」

 部屋の隅、出入り口の近くには椅子とテーブルが用意されており、既にセガン監督官が座っている。その側に侍るリガス卿たち三人の側近。まあ、ボーッと立っているのもあれだし、俺も座るか。ついでにあれも用意しよう。

「その前に宜しいでしょうか?」

 俺がテーブルの方へ向かおうとしたところで、クルザール君が声を上げた。振り返ると、クルザール君が、いや、それ以外にもそれなりの音楽倶楽部の面々も、こちらを胡乱な目で見詰めている。

「フェイルーラ君は王城で女王陛下の前で暴れたそうですね。更には己をマエストロ・ウェルソンの弟子などと詐称したとか。そんな人物にこの神聖な場に同席して欲しくないのですが? セガン監督官のお言葉を疑うのも申し訳ありませんが、シキイ様を招聘出来ると言うのも疑わしい」

 ふむ。クルザール君の言だけ鵜呑みにすれば納得だな。どこ情報なんだそれ? 情報源が分からず、インシグニア嬢へ視線を向ける。

「新聞の情報かと。フェイルーラ様の名前は伏せられていましたが、各紙で一昨日と昨日の件の情報が取り上げられていましたから」

「新聞の?」

 う~ん。ヴァストドラゴン領の分館にも新聞は各紙届けられているが、こっちに来てから忙しくて、読めていなかったな。それでもグーシーから新聞の内容は聞いていたが、グーシーが俺に対して情報統制していた可能性があるな。う~ん、俺を思っての事だろうけれど、情報は正確に俺に届けて欲しい。帰ったらそこら辺擦り合わせておこう。でもまあ、クルザール君たちが俺に懐疑的な視線を向けている理由は分かった。

「実際、ガイシア陛下の前で暴れたのは事実だけど、ウェルソンの弟子を詐称はなあ。あいつの弟子を騙るのも阿呆らしい」

「何だと!?」

 クルザール君たちの視線が更に厳しくなった。こっちの方が地雷だったらしい。

「マエストロ・ウェルソンの弟子を詐称する事自体が烏滸がましいと言うのに、それさえ阿呆らしいとは、傲慢が過ぎるぞ!」

 傲慢か。そう言う意味で言ったんじゃないんだけどなあ。

「お気を害したのなら済みません。ウェルソンが、私を弟子と喧伝したとは、多分どの記事にも書かれていない、でしょう?」

 インシグニア嬢に視線を送ると首肯を返してくれた。

「なら、それだけが事実で、私が経歴を詐称しただの何だのは、新聞社が盛った事だと受け取って下さい。ウェルソンが私を弟子だと認めた事実が出てくるまで、私は私をあいつの弟子と語るつもりはありません」

 そのように説明するも、俺に対して何やら敵対心でもあるのか、こちらへの視線は依然厳しいままだ。クルザール君がギガントシブリングス寮だからかな?

「何か、一曲披露すれば、それだけでここの全員を納得させる事が出来ると思うけど?」

 そこへセガン監督官がそう口添えしてきた。これに半眼になりながら、インシグニア嬢の方へ視線を向けると、彼女も同意見なのか、首肯を返してくる。う~ん。

「やめておきます。この音楽倶楽部のレベルも分かりませんし、私が曲を披露したところで、私への偏見が拭えるとは思いませんし」

「そうかなあ?」

 俺の言に首を傾げるセガン監督官。そしてまた俺への視線が厳しくなる音楽倶楽部の面々。う~ん、俺って口下手だなあ。何か事の真意が伝わっていない気がする。

 そんな事を思いながら、俺はテーブルを挟んでセガン監督官の隣りに座り、一つの魔導具を取り出すと、それをテーブルの上に置くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

黄金の魔導書使い  -でも、騒動は来ないで欲しいー

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。 そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。 ‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!! これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。 「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。

悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。 処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。 まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。 私一人処刑すれば済む話なのに。 それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。 目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。 私はただ、 貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。 貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、 ただ護りたかっただけ…。 だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。  ❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...