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口下手の言い訳
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「雨が強くなってきましたね」
「そうですね」
朝から降り続いている雨足が強くなっているのが車の中からでも分かる。そんな会話をインシグニア嬢と交わしているうちに、車は王立魔法学校の裏門に着いた。
車の中から昨日と同じ門兵と事務員に軽く頭を下げながら、駐車場に乗り込み、車が停止すると、少しして運転手により後部座席のドアが開けられた。
運転手から差し出された傘を侍女二人が受け取るより早く俺が受け取ると、
「ありがとうございます」
と運転手に礼を述べて、傘を開いて外に出る。
それからインシグニア嬢が雨に濡れないように、傘を車に沿わせるように覆い、インシグニア嬢を俺の傘の下に呼び込む。
インシグニアと相合傘で、雨に濡れないように素早く裏口まで行くと、庇の下で傘を閉じる。
「あれ? ストラップのIDカードなしで、裏口開けられるんですか?」
侍女二人も傘を閉じる中、三人に尋ねるが、三人から首を横に振られてしまった。ではどうやって? と思っているうちに、侍女の一人がIDカードを翳す場所のインターホンを押す。あ、そんなのあったんだ。
インターホンを押すと、すぐに見知った顔が内側からドアを開けてくれた。王城で会った、毛先が薄紫の白髪の令嬢だ。その後ろでは赤茶色の髪に黄緑の瞳をした少年が、優雅にこちらへ一礼した。
「ようこそお越し下さいました」
令嬢の声にはホッとしている様子が滲んでいる。王城で色々あったのを知っているのだ、そんな声音にもなるだろう。
「済みません、私まで付いて来てしまって」
「いえ、セガン監督官から話は伺っておりますから」
どこまで話が通っているのか知らないが、声が弾んでいる。俺がマエストロ・ウェルソンの弟子と言うのは聞き及んでいるのかも知れない。しかし、一歩引いた場所にいる少年の方は胡乱な目をこちらへ向けていた。まあ、ぽっと出の俺なんて信用ならないよね。
✕✕✕✕✕
「やあ、フェイルーラ君、良く来たね」
四階の、千人は入れるだろう上にも横にも広い伽藍堂な部屋に通されると、音楽倶楽部の面々とセガン陛下、いや、セガン監督官が待っていた。
「お待たせしましたか?」
「いやいや、合同練習にはまだ三十分あるから、そんな事ないよ。単に僕の気が逸って、早く来ちゃっただけだから、気にしないで」
「そうでしたか」
セガン監督官は、こう言う事で細かく愚痴愚痴言う方でないので助かる。
「それにしても……」
音楽倶楽部の面々に目を向けても既に勢揃いのようだ。八十人くらいいる。大聖堂の聖歌隊より多いな。
「彼らはインシグニア嬢が来るより前に自主練をするのが習慣になっているから」
セガン監督官の言葉に納得する。インシグニア嬢と一緒に歌奏をするなら、そりゃあ先に来て自主練するよな。そして制服の色がバラバラだ。正確には五色だ。これは寮の違いだろう。夏の草木のような深緑が俺やインシグニア嬢が入寮するヴァストドラゴン寮で、深い海のような深青がオブリウスのいるタイフーンタイクン寮、琥珀のような濃黄色のギガントシブリングス寮、水銀由来を想起させる朱色のグリフォンデン寮、そして研究生と思われる白色の制服の者たち。それぞれの寮に特色がある。
「さて、インシグニア嬢も来たので、合同練習を始めましょう」
そう音楽倶楽部の面々に声を掛ける先程の令嬢。俺たちを迎えてくれたこの令嬢は、どうやらこの音楽倶楽部の部長だったらしく、名をイッシャーナ・シュールズ嬢と言うそうだ。ムジカット共和国出身で、何とエムエム君の従姉妹だとか。同じく迎えてくれた少年の方は、クルザール・ギープ君。イッシャーナ嬢の制服は青で、クルザール君の制服は黄色だ。
「さて、僕たちは座って見学しようか」
部屋の隅、出入り口の近くには椅子とテーブルが用意されており、既にセガン監督官が座っている。その側に侍るリガス卿たち三人の側近。まあ、ボーッと立っているのもあれだし、俺も座るか。ついでにあれも用意しよう。
「その前に宜しいでしょうか?」
俺がテーブルの方へ向かおうとしたところで、クルザール君が声を上げた。振り返ると、クルザール君が、いや、それ以外にもそれなりの音楽倶楽部の面々も、こちらを胡乱な目で見詰めている。
「フェイルーラ君は王城で女王陛下の前で暴れたそうですね。更には己をマエストロ・ウェルソンの弟子などと詐称したとか。そんな人物にこの神聖な場に同席して欲しくないのですが? セガン監督官のお言葉を疑うのも申し訳ありませんが、シキイ様を招聘出来ると言うのも疑わしい」
ふむ。クルザール君の言だけ鵜呑みにすれば納得だな。どこ情報なんだそれ? 情報源が分からず、インシグニア嬢へ視線を向ける。
「新聞の情報かと。フェイルーラ様の名前は伏せられていましたが、各紙で一昨日と昨日の件の情報が取り上げられていましたから」
「新聞の?」
う~ん。ヴァストドラゴン領の分館にも新聞は各紙届けられているが、こっちに来てから忙しくて、読めていなかったな。それでもグーシーから新聞の内容は聞いていたが、グーシーが俺に対して情報統制していた可能性があるな。う~ん、俺を思っての事だろうけれど、情報は正確に俺に届けて欲しい。帰ったらそこら辺擦り合わせておこう。でもまあ、クルザール君たちが俺に懐疑的な視線を向けている理由は分かった。
「実際、ガイシア陛下の前で暴れたのは事実だけど、ウェルソンの弟子を詐称はなあ。あいつの弟子を騙るのも阿呆らしい」
「何だと!?」
クルザール君たちの視線が更に厳しくなった。こっちの方が地雷だったらしい。
「マエストロ・ウェルソンの弟子を詐称する事自体が烏滸がましいと言うのに、それさえ阿呆らしいとは、傲慢が過ぎるぞ!」
傲慢か。そう言う意味で言ったんじゃないんだけどなあ。
「お気を害したのなら済みません。ウェルソンが、私を弟子と喧伝したとは、多分どの記事にも書かれていない、でしょう?」
インシグニア嬢に視線を送ると首肯を返してくれた。
「なら、それだけが事実で、私が経歴を詐称しただの何だのは、新聞社が盛った事だと受け取って下さい。ウェルソンが私を弟子だと認めた事実が出てくるまで、私は私をあいつの弟子と語るつもりはありません」
そのように説明するも、俺に対して何やら敵対心でもあるのか、こちらへの視線は依然厳しいままだ。クルザール君がギガントシブリングス寮だからかな?
「何か、一曲披露すれば、それだけでここの全員を納得させる事が出来ると思うけど?」
そこへセガン監督官がそう口添えしてきた。これに半眼になりながら、インシグニア嬢の方へ視線を向けると、彼女も同意見なのか、首肯を返してくる。う~ん。
「やめておきます。この音楽倶楽部のレベルも分かりませんし、私が曲を披露したところで、私への偏見が拭えるとは思いませんし」
「そうかなあ?」
俺の言に首を傾げるセガン監督官。そしてまた俺への視線が厳しくなる音楽倶楽部の面々。う~ん、俺って口下手だなあ。何か事の真意が伝わっていない気がする。
そんな事を思いながら、俺はテーブルを挟んでセガン監督官の隣りに座り、一つの魔導具を取り出すと、それをテーブルの上に置くのだった。
「そうですね」
朝から降り続いている雨足が強くなっているのが車の中からでも分かる。そんな会話をインシグニア嬢と交わしているうちに、車は王立魔法学校の裏門に着いた。
車の中から昨日と同じ門兵と事務員に軽く頭を下げながら、駐車場に乗り込み、車が停止すると、少しして運転手により後部座席のドアが開けられた。
運転手から差し出された傘を侍女二人が受け取るより早く俺が受け取ると、
「ありがとうございます」
と運転手に礼を述べて、傘を開いて外に出る。
それからインシグニア嬢が雨に濡れないように、傘を車に沿わせるように覆い、インシグニア嬢を俺の傘の下に呼び込む。
インシグニアと相合傘で、雨に濡れないように素早く裏口まで行くと、庇の下で傘を閉じる。
「あれ? ストラップのIDカードなしで、裏口開けられるんですか?」
侍女二人も傘を閉じる中、三人に尋ねるが、三人から首を横に振られてしまった。ではどうやって? と思っているうちに、侍女の一人がIDカードを翳す場所のインターホンを押す。あ、そんなのあったんだ。
インターホンを押すと、すぐに見知った顔が内側からドアを開けてくれた。王城で会った、毛先が薄紫の白髪の令嬢だ。その後ろでは赤茶色の髪に黄緑の瞳をした少年が、優雅にこちらへ一礼した。
「ようこそお越し下さいました」
令嬢の声にはホッとしている様子が滲んでいる。王城で色々あったのを知っているのだ、そんな声音にもなるだろう。
「済みません、私まで付いて来てしまって」
「いえ、セガン監督官から話は伺っておりますから」
どこまで話が通っているのか知らないが、声が弾んでいる。俺がマエストロ・ウェルソンの弟子と言うのは聞き及んでいるのかも知れない。しかし、一歩引いた場所にいる少年の方は胡乱な目をこちらへ向けていた。まあ、ぽっと出の俺なんて信用ならないよね。
✕✕✕✕✕
「やあ、フェイルーラ君、良く来たね」
四階の、千人は入れるだろう上にも横にも広い伽藍堂な部屋に通されると、音楽倶楽部の面々とセガン陛下、いや、セガン監督官が待っていた。
「お待たせしましたか?」
「いやいや、合同練習にはまだ三十分あるから、そんな事ないよ。単に僕の気が逸って、早く来ちゃっただけだから、気にしないで」
「そうでしたか」
セガン監督官は、こう言う事で細かく愚痴愚痴言う方でないので助かる。
「それにしても……」
音楽倶楽部の面々に目を向けても既に勢揃いのようだ。八十人くらいいる。大聖堂の聖歌隊より多いな。
「彼らはインシグニア嬢が来るより前に自主練をするのが習慣になっているから」
セガン監督官の言葉に納得する。インシグニア嬢と一緒に歌奏をするなら、そりゃあ先に来て自主練するよな。そして制服の色がバラバラだ。正確には五色だ。これは寮の違いだろう。夏の草木のような深緑が俺やインシグニア嬢が入寮するヴァストドラゴン寮で、深い海のような深青がオブリウスのいるタイフーンタイクン寮、琥珀のような濃黄色のギガントシブリングス寮、水銀由来を想起させる朱色のグリフォンデン寮、そして研究生と思われる白色の制服の者たち。それぞれの寮に特色がある。
「さて、インシグニア嬢も来たので、合同練習を始めましょう」
そう音楽倶楽部の面々に声を掛ける先程の令嬢。俺たちを迎えてくれたこの令嬢は、どうやらこの音楽倶楽部の部長だったらしく、名をイッシャーナ・シュールズ嬢と言うそうだ。ムジカット共和国出身で、何とエムエム君の従姉妹だとか。同じく迎えてくれた少年の方は、クルザール・ギープ君。イッシャーナ嬢の制服は青で、クルザール君の制服は黄色だ。
「さて、僕たちは座って見学しようか」
部屋の隅、出入り口の近くには椅子とテーブルが用意されており、既にセガン監督官が座っている。その側に侍るリガス卿たち三人の側近。まあ、ボーッと立っているのもあれだし、俺も座るか。ついでにあれも用意しよう。
「その前に宜しいでしょうか?」
俺がテーブルの方へ向かおうとしたところで、クルザール君が声を上げた。振り返ると、クルザール君が、いや、それ以外にもそれなりの音楽倶楽部の面々も、こちらを胡乱な目で見詰めている。
「フェイルーラ君は王城で女王陛下の前で暴れたそうですね。更には己をマエストロ・ウェルソンの弟子などと詐称したとか。そんな人物にこの神聖な場に同席して欲しくないのですが? セガン監督官のお言葉を疑うのも申し訳ありませんが、シキイ様を招聘出来ると言うのも疑わしい」
ふむ。クルザール君の言だけ鵜呑みにすれば納得だな。どこ情報なんだそれ? 情報源が分からず、インシグニア嬢へ視線を向ける。
「新聞の情報かと。フェイルーラ様の名前は伏せられていましたが、各紙で一昨日と昨日の件の情報が取り上げられていましたから」
「新聞の?」
う~ん。ヴァストドラゴン領の分館にも新聞は各紙届けられているが、こっちに来てから忙しくて、読めていなかったな。それでもグーシーから新聞の内容は聞いていたが、グーシーが俺に対して情報統制していた可能性があるな。う~ん、俺を思っての事だろうけれど、情報は正確に俺に届けて欲しい。帰ったらそこら辺擦り合わせておこう。でもまあ、クルザール君たちが俺に懐疑的な視線を向けている理由は分かった。
「実際、ガイシア陛下の前で暴れたのは事実だけど、ウェルソンの弟子を詐称はなあ。あいつの弟子を騙るのも阿呆らしい」
「何だと!?」
クルザール君たちの視線が更に厳しくなった。こっちの方が地雷だったらしい。
「マエストロ・ウェルソンの弟子を詐称する事自体が烏滸がましいと言うのに、それさえ阿呆らしいとは、傲慢が過ぎるぞ!」
傲慢か。そう言う意味で言ったんじゃないんだけどなあ。
「お気を害したのなら済みません。ウェルソンが、私を弟子と喧伝したとは、多分どの記事にも書かれていない、でしょう?」
インシグニア嬢に視線を送ると首肯を返してくれた。
「なら、それだけが事実で、私が経歴を詐称しただの何だのは、新聞社が盛った事だと受け取って下さい。ウェルソンが私を弟子だと認めた事実が出てくるまで、私は私をあいつの弟子と語るつもりはありません」
そのように説明するも、俺に対して何やら敵対心でもあるのか、こちらへの視線は依然厳しいままだ。クルザール君がギガントシブリングス寮だからかな?
「何か、一曲披露すれば、それだけでここの全員を納得させる事が出来ると思うけど?」
そこへセガン監督官がそう口添えしてきた。これに半眼になりながら、インシグニア嬢の方へ視線を向けると、彼女も同意見なのか、首肯を返してくる。う~ん。
「やめておきます。この音楽倶楽部のレベルも分かりませんし、私が曲を披露したところで、私への偏見が拭えるとは思いませんし」
「そうかなあ?」
俺の言に首を傾げるセガン監督官。そしてまた俺への視線が厳しくなる音楽倶楽部の面々。う~ん、俺って口下手だなあ。何か事の真意が伝わっていない気がする。
そんな事を思いながら、俺はテーブルを挟んでセガン監督官の隣りに座り、一つの魔導具を取り出すと、それをテーブルの上に置くのだった。
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